2023/7/21

「バイエルンvs.マンC」世界トップ対戦が、日本で実現するまで

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 マンチェスター・シティ、FCバイエルン・ミュンヘン──。
 スポーツはさほど詳しくない方も、その名はニュースなどで耳にしたことがあるのではないだろうか。イングランドのプレミアリーグ、ドイツのブンデスリーガという世界最高峰の実力・人気を誇るビッグリーグの3年連続、11年連続の覇者であり、スーパースターを多数抱える「超有名2大クラブ」だ。マンチェスター・シティは、国内外主要3冠を達成したばかり。
 7月、彼らが日本・国立競技場に立つ。「vs.日本」として対戦に挑むのは、明治安田生命J1リーグの昨年の王者であり、2023年も首位争いの激戦の渦中にいる「横浜F・マリノス」。そして、FCバイエルン・ミュンヘンvs.マンチェスター・シティという、「世界vs.世界」の夢のトップ対決も行われる。
 サッカーファンにとっては、絶対に見逃せない超ビッグマッチだが、実はこの大会が実現した裏側をひもとくと、ビジネス的に興味深い点が多数ある。
 本大会を公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(以下、Jリーグ)とともに主催するのは「NTTドコモ(以下、ドコモ)」なのだ。なぜ、ドコモがJリーグと手を組むのか。日本サッカー界に、ドコモはどんな価値を届けているのか。
 また、本大会では膨大な知識量と的確なコメントでコアなサッカーファンからも一目置かれる、日向坂46の影山優佳さんが、19日の日向坂46卒業イベント後、初となるスポーツ中継へのゲスト出演を「Lemino(レミノ)」で行う。
 ビジネス視点からもエポックメイキングな大会の見どころと、これからのエンターテイメントの可能性について、サッカーとエンタメ愛にあふれる3者が時間いっぱい語り合った。

2大スーパークラブ、来日の背景

──2019年以来の「明治安田Jリーグワールドチャレンジ」開催となります。この大会は、Jリーグとドコモによる共同主催とうかがいました。なぜ今、本大会が実現したのでしょうか。
黒鳥 1993年にJリーグが開幕し、今年、30周年になります。30周年を迎えるにあたり、新たな成長戦略を野々村(芳和)チェアマンのもとで、二つ掲げました。
 一つ目が、60クラブがそれぞれの地域で輝くこと。二つ目は、トップ層がナショナル(グローバル)コンテンツとして輝くことです。
 二つ目については、2017年からJリーグのチャンピオンと世界トップクラスのクラブが対戦する大会を行っています。実は、この大会は2年周期で実施しておりまして、2019年にも開催しましたが、2021年は残念ながらコロナ禍で見送りとなりました。
 そのため今年、7月23日に開催される「明治安田Jリーグワールドチャレンジ2023 powered by docomo」が、約4年ぶりの開催です。
 そのなかでも、今回お迎えするのはかなりのビッグクラブ。「せっかく大会をやるのなら、欧州のビッグクラブじゃないと」というチェアマンの希望もあり、欧州ナンバーワンであるマンチェスター・シティを呼ぼうとなりました。交渉は簡単ではなかったのですが……。
影山 国内外主要3冠を達成したマンチェスター・シティの試合が日本で見られるなんて、本当にすごいです!
黒鳥 この大会では、サッカー関心層の拡大や新規顧客の獲得、そして世界トップクラスのハイレベルなプレーで観衆を魅了することを目的としています。
 これがまさに、Jリーグが掲げる「グローバルコンテンツとして輝くこと」につながるのですが、この二つ目の成長戦略が、ドコモが考えていた新しいビジネスモデルと一致したんです。そこで、共同主催のお話をいただきました。
櫻井 本当に、実現してよかったです。私たちとしても、Jリーグの二大戦略に非常に共感していますし、ライト層からコア層にファンを拡大していくなかで、ドコモだからこそ力になれる部分があるんじゃないかと。
 Jリーグとは2017年からお付き合いが始まり、7年目になります。そのなかで、今回の共同主催というかたちが実現しました。
黒鳥 みなさまのご協力のおかげですね。最初に、昨年のJ1王者である横浜F・マリノスとマンチェスター・シティの対戦が決まったのですが、同時期にスカパー!がバイエルン・ミュンヘンを招聘する話が進んでいて。
 せっかくの機会なので、スカパー!と話をしてマンチェスター・シティとバイエルンの試合もしようと「Audi Football Summit powered by docomo」が決まりました。
 実は、Jリーグ主催で海外同士のクラブの試合を行うのは、今回がはじめてなんです。
 こうしたビッグクラブの試合、わくわくする舞台を子どもたちだけではなく大人にも届けたい、と。
 マンチェスター・シティを呼ぶにあたっては、さまざまな困難があったのですが、共同主催としてドコモとご一緒できたことが非常に大きかったです。
 また、2017年から本大会に特別協賛いただいている明治安田生命に今回も協賛していただきました。Jリーグは本当に大切なパートナー様たちに支えていただいているな、と改めて感じましたね。

「Jリーグ×ドコモ」で何が変わったのか

櫻井 そう言っていただけるとうれしいですね。私たちも、2017年からJリーグのパートナーとしてお客様にどのような価値提供ができるかを考えてきました。
 たとえば、スタジアムのICT化のサポート。具体的にいうと、高密度Wi-Fiを充実させ、お客様が観戦中に撮った動画や写真をすぐ送信できる環境を作ることなどを実現しています。
 その場の熱量を別の場所にいる誰かに届ける際に、伝達のスピードはとても重要です。感動や興奮を起こせるのがスポーツの魅力であり、それを多くの人に伝えることでファンが増えていく。そういった考えのもと、ICTを充実させたい、と。
 ほかにも、デジタルマーケティングによる顧客獲得の促進でもご一緒しています。
 Jリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」や「JリーグID」と、ドコモの「dアカウント」を連携させることで、ファン・サポーターの可視化を行い、一人ひとりに合わせたコミュニケーションができるようになりました。
 チケットを買った方、実際にスタジアムに来る方、その方は何回目の観戦なのか、どういう目的で観戦に来たのか。そんな分析の部分を、ドコモが有する位置情報や決済データを活用し実現してきました。
 このあたり、少しは貢献できたかと思っているのですが、お客様が“一見さん”で終わらず、どうすればリピーターになっていただけるのかと頭を悩ませていたんです。
 デジタルでお客様をどのようにつなぎ止めるか。つまり、“LTVを上げること”と言えますが、今回のように海外のプロの選手を目の前で見られる機会や、リアルタイムで映像を見ながら感動を周りとシェアできる環境づくりが必要だな、と思ったんです。
 話が少し逸れるのですが、私は静岡出身で、日々サッカーの話が当たり前のように交わされている環境で育ちました。いたるところで草サッカーが行われていて、静岡の人たちは近くの会場をふらっと訪れて、中学生や高校生の試合を応援する生活が日常なんです。
 そんなふうに、日本全体がなっていくとすてきですよね。
黒鳥 今年からJリーグでは、『KICK OFF!○○(地域名)』というサッカー番組を全国の30地域・45都道府県で始めました。各地域の少年少女年代からJクラブの情報まで幅広く取り上げ、各地域の身近なところで活躍する選手が、プロになり世界で活躍していく姿を見られるのは、とても意味のあることだと思っています。
 今回は海外からスター選手が来日し、リアルにその姿やプレーを見られる体験で生まれる盛り上がりはとても大きいと思います。
影山 海外サッカーを見ているイチファンとしては、テレビの向こう側の世界でしかなかった選手やクラブが間近で、生で、自分の目で見られるかもしれないことが純粋にうれしいですよね。
 今、サッカーをしている子どもたちは、憧れの選手に会えることになります。本当に感動すると思いますし、私もその一人です。
 私はレポーターのお仕事をさせていただくなかで、サッカーを見ない層の方にサッカーを少しでも気にしてもらうことを意識しています。
 昨年のワールドカップが始まる前から日本代表の応援番組をやらせていただいていたのですが、どうすれば選手やチームへの興味をもっと持ってもらえるのかをずっと考えてきました。
 たとえば私は、同い年の選手が活躍する姿を見ると、すごく応援したくなります。久保建英選手(ラ・リーガ・レアル・ソシエダ所属)がまさに同い年なのですが、彼がステップアップしている姿に、自分自身も勇気づけられます。
 私は一人のファンとしてそう感じますが、他のみなさんも同じような部分があるんじゃないのかな、と。
 年齢、出身地、同じ趣味……選手のパーソナルな部分が見えてくると、サッカー選手としてだけではなく、“一人の人間”として応援したくなる。そういったプレー以外の部分でも、選手の魅力を伝えていきたいですし、多くの方に見てほしいです。

特別な観戦体験の仕掛けも

櫻井 まさに、今の影山さんのお話に共感します。
 まず、多くの方に見ていただきたいんです。見てもらって、感動を共有したい。
 今回は、ドコモが運営する「Lemino」という新しい映像配信サービスを通して、世界トップレベルの試合が見られる機会を無料配信で提供します。無料配信にこだわったのは、やはりこのすばらしい大会を多くの方に届けたいと思ったからです。
 また、試合前にはマンチェスター・シティの選手が出演する独占インタビュー番組や、当日の試合中継もキックオフ45分前から配信し、クラブや選手の紹介をたっぷり行います。前日の公開練習や記者会見の映像のライブ配信(一部、試合中継時に配信)も。
 ほかにも、運営にあたってこだわったポイントはいくつもあります。
 まずはチケット。海外クラブの招聘は正直コストが大きいのですが、それをそのままチケット料金に反映するのは、私たちの思想とは合いません。
 はじめてサッカーを観戦する方々を増やしたい、“未来のサッカー選手”を育てたい気持ちがあり、ゴール裏席は多少お求めやすい価格でご用意いたしました。さらに、お子様向けの価格をかなり検討し、家族みんなで観戦いただけるような価格設定を意識しています。
 また、海外サッカーの本場感を出すために、とくに26日の試合に関しては海外のスタジアムで試合を見ているような雰囲気を醸成できればと考えております。なかなか海外クラブ同士の試合を日本で見る機会はないと思いますので、「海外のサッカー観戦ってこんな感じなんだ」と感じていただけるような演出を考えています。
 ほかにも「ホスピタリティ・パッケージ」として、個室やラウンジで飲食しながらの観戦や、選手と交流できるミート&グリートが盛り込まれた特別なチケットをご用意。
 いつものJリーグとはまた違うエンターテイメント体験をご用意できれば、と思っています。
 試合が終わっても、感動をみんなで共有し合って、その場でコミュニケーションが生まれ、ずっとそこにいたくなる、そんな環境づくりをしています。
 さらに、マンチェスター・シティのレジェンドOBとコミュニティコーチによるサッカー教室も7月24日に開催いたします。参加できる人数は限られてしまうのですが、観戦だけではなく、世界トップクラブの「育成ノウハウ」を体験できる機会も作れたことで、今後の日本サッカーの発展につながればと願っています。
黒鳥 スタジアムでの観戦体験って、とても特別なものだと思うんです。家を出る前から、わくわくと心が躍って、たとえば幼い頃の遠足の前日のような気持ちになる。今回は、そんな特別な感情が湧き出す大会になると思っています。
 キックオフの数時間前に会場に到着しても楽しめ、そして櫻井さんがおっしゃったように翌日に誰かに自慢したくなるような空間づくりにも力を入れています。
 試合はもちろん、その周辺の要素も含めて“作品”だと、チェアマンはよく言うのですが、今回はとくにそのあたりを楽しんでいただきたいと思います。
影山 すごく楽しみですね。私自身、サッカー観戦が「日常」になってほしいと普段から思っているのですが、当たり前の日常にしていくための過程には、今回のような“スペシャル”なイベントがある意味は大きいと思います。
「サッカーを見に行きたい」と思う瞬間、頻度が増え、だんだんと間隔が短くなって、サッカーのある生活が日常になればいいな、と。
 今回のJリーグとドコモによる、大きな取り組みは、そういった日常になるまでの過程の第一歩なんだな、と。その場に立ち会えていることが、すごくうれしいです。
 ちなみにLeminoでは、日向坂46の番組の配信もやらせていただいていて、グループとしてもすごくお世話になっているんです。さまざまなコンテンツをご一緒に作っていくなかで、サッカー文化をより盛り上げるための一員になれたことも、すごく光栄です。
※来日メンバーは未定です
櫻井 本当にありがとうございます。私も、ご一緒できたことがとてもうれしくて。 影山さんをきっかけに、サッカーを見るようになった方も、すごく多いですよね。
 ドコモでは、この7月に「エンターテイメントプラットフォーム部」を立ち上げました。ここではスポーツ選手やタレントのみなさんに、さらに輝いていただく機会を創出することに取り組んでいます。
 今までドコモは、川下のプラットフォーマーとして、世の中の優れたコンテンツを集め、みなさんに届けるビジネスを行ってきたのですが、それだけでは社会が変わらないだろう、と。
 タレントやアーティストの可能性をどうすればもっと広げられるか?と考えるなかで、自らコンテンツを生むことや興行にもチャレンジすると意思決定しました。今回の大会もそのひとつです。
 この先、どんな取り組みができるのか、どんなファンを増やせるか……そういったことを考えているので、ぜひ影山さんとも一緒に取り組みたいです。
影山 そうなんですね! 私自身、ゼロからイチをつくることがとても大好きで、もしアイドルにならなかったら、企画職をやりたいなと思っていたんです。新しいものづくりにすごく興味があるので、今回、Jリーグとドコモの新しいチャレンジの裏側を聞くことができて、すごく学びになりました。
 コロナ禍で離れてしまったファンの方が、どうすれば戻ってきてくれるのか? 新しいファンをどう増やすのか? そんなことを、イチファンとしても考えていたので、何か貢献したいなと。
黒鳥 本当に、Jリーグのプロモーション企画の会議に出てほしいですね。
影山 新しい取り組みには、とても興味があります。あと、国内だけじゃなく、国外のサッカーファンの方を、どう取り込んでいくのか、とか。
 たとえば、チャナティップ選手(タイ代表、北海道コンサドーレ札幌や川崎フロンターレに所属し活躍した)が、日本に来たときに、DAZNの登録者や観客数が目に見えて増加したという話がとても印象的で。
 今回のようにバイエルンやマンチェスター・シティの選手が来てくれることで新たな広がりが生まれることが、とても楽しみです。
櫻井 本当に、ここだけじゃもったいない話ですね(笑)。いろんな企画会議をみなさんでやりたいくらい。
 サッカーファンを増やすためには、データを可視化していくことがすごく重要だと思っています。可視化することにより、ファン・サポーターのみなさま、一人ひとりにどういったコミュニケーションが必要かが見えてきますので。そこに対して、どういうアプローチをしたらいいかを、まさに今Jリーグと話し合っているところですので、ぜひ影山さんにも協力してもらいたいですね。
黒鳥 今年Jリーグは30周年を迎えて新しい二つの成長戦略を立てましたが、課題に対する対策でもあるんです。それぞれの地域でもっとクラブが輝かなければいけないですし、その地域が輝くことで、トップ層がより輝く存在になっていく。
 今年は30周年事業ということで、Jリーグはターゲットを未来の子どもたちとしてメッセージを発信しているのですが、子どもたちがわくわくするような、ドキドキするような世界を作りたい。
 今、野球界では大谷翔平選手の一つひとつのプレーが話題になっていますよね。それくらい、サッカーへも興味・関心を持ってもらいたいですし、スタジアムに足を運んでもらいたい。
 また、データのところでドコモとより深くご一緒して、それを先の未来につなげられるようにしたいと考えています。
櫻井 ドコモとしては、スポーツ・エンタメ業界に参画していくことで、よい意味で業界の慣習や文化も変えながら、新しい価値を世の中に提供できればと思います。
 自らコンテンツを産み、ドコモのプラットフォームを通じて、ファン・ビジネスへ価値を提供していきたい。これまでのDX促進やマーケティング・イノベーションに加えて、今回のような世界最高峰の興行の開催を通じて、日本に幅広く存在するライト層や無関心層に、よい刺激を感じていただきたいと思っています。
 私たちとしては世の中にインパクトのあることをやっていきたい。そういった意味で、今年の大会を成功させ、また次もJリーグとサッカーの興行を行い、Jリーグファン・サポーターの拡大に貢献できればと思います。