2023/7/18

【未来予測】地球の課題を解決するのは「人流ビッグデータ」だ

NewsPicks Studios Director
 需要予測や在庫管理、トラフィック制御にマーケティングの最適化。ビジネスのデジタル化が進展する中、「データ」は価値創造の源として、欠かせない存在となっている。
 中でも注目を集めるのが、「人流データ」と「位置データ」だ。
 今を動かす知と出会う『NewSession』。今回は、人流データと位置データ活用の未来を探索するため、プレゼンの神様・澤円氏をはじめとする論客に加え、異分野のビジネスパーソン4人を招聘。
 人流データと位置データを活用した新規ビジネスアイデアのプレゼンを通して、白熱の議論が繰り広げられた。本記事では、番組の様子をダイジェストでお送りする。

1日10億を超える人流・位置データで未来を予測する

瀧口 今回は「【地球御中】データで未来を『プレゼン』せよ」と銘打ち、ゲストの皆さんにプレゼン形式でアイデアを持ってきていただいております。
瀧口友里奈 経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード/新生銀行 社外取締役/株式会社グローブエイト代表取締役。幼少期に米国に滞在。東京大学卒。100分de名著(NHK)/モーニングサテライト(テレビ東京)/CNNサタデーナイト(BS朝日)/経済専門ch「日経CNBC」番組メインキャスターなど、多数番組でMC•キャスターを務め、ForbesJAPANエディターとして取材•記事執筆も行う。経済分野、特にイノベーション・スタートアップ・テクノロジー領域を中心に、多くの経営者やトップランナーを取材。
改めて秋本さんから、今回の企画についてプレゼン形式でご説明いただけますか。
秋本 はい。まずは、企画の前提となる弊社ジオテクノロジーズ株式会社の事業について説明させてください。
 弊社には、1日に10億を超える人流データと8億を超える位置データが集まります。
・データ元は、運営するインストール数1400万を超えるポイ活アプリ『トリマ』
・『トリマ』搭載のアンケート機能で、位置情報と紐付いた定性情報を集めることができる
・人流データと位置データに加え、人の心の情報を掛け合わせることで、未来を予測する
 これらのデータを活用し、他分野の方々と新しい価値を生み出すための企画が、「人流データと位置データで『地球』の課題に挑む」をコンセプトとしたジオ・オリエンです。
 ゲストの方々には「こんな社会課題に対して」×「人流と位置データを活用して」=「こんな未来を実現したい」というフォーマットを使ってプレゼンを行っていただきます。
 そして、提案いただいたアイデアをもとに、人流と位置データの可能性について有識者のお二人とディスカッションさせていただければと考えています。
瀧口 プレゼン後には、プレゼンの神様・澤さん、株式会社POTETO Media代表の古井さんにフィードバックを行っていただきます。
 そして最後に、提案されたアイデアが地球の未来を変える可能性があるかどうか、YES・NOの札で秋本さんに判定していただきたいと思います。

「Vanlife to Earn」が観光DXの突破口だ

宮下 私からは、日本全国を旅しながら稼げるX to Earn、「Vanlife to Earn」をご提案させていただきます。
 われわれCarstay株式会社では、キャンピングカーや車中泊できるような車を通じて、バンライフと言われるカルチャーを日本で広めていきたいと考え、キャンピングカーのカーシェアや滞在場所のシェアを提供する予約サービスを提供しています。
・バンライフとは、キャンピングカーや車中泊を通じた自由な旅や働き方をする文化

・キャンピングカーレンタル事業のユーザーに若い世代が多く、特に学生層がサービスを利用するには金銭面で課題がある

・一方で、日本全国の自治体と連携する中で「若者に来てほしい」という声が多い

・バンライフをすることで稼げる仕組みを作ることで、若い世代が日本のさまざまな地域を楽しみ、貢献できる構造を作りたい

・『トリマ』で行われている移動でポイントを稼げる「Move to Earn」やフォトコンテストでポイントを稼ぐ「Photo to Earn」とVanlifeを組み合わせることで、そういったエコシステムを作れるのではないか
宮下 地球の未来を作っていくのは若者だと思うんです。
 コロナ禍を経て、なかなか思い出づくりをできなかった若者たちが、このプロジェクトを通じて、思い出を作って、地球の未来を作っていける。
 そんなプロジェクトしていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
瀧口 宮下さん、ありがとうございました。
 皆さんのご感想を伺っていきたいと思います。まずはプレゼンの澤さんから、いかがでしたか。
 素晴らしいプレゼンでしたね。プレゼンにおいて一番描かなきゃいけないことは「体験」です。情報ではなく体験。宮下さんのプレゼンでは、若者の人たちがどんな体験をできるのか鮮明に描かれていました。
澤円 株式会社圓窓 代表取締役 。元・日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 武蔵野大学 専任教員 株式会社日立製作所 Lumada Innovation Evangelist SBテクノロジー株式会社 社外取締役。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年に大手外資系IT企業に転職。 情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。 最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。 2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行う。2019年10月10日より、現職。
 一つだけ改善点を言うと、聞いている人の中で部外者が生まれる構成にしないように注意するといいです。若い世代向けのサービスであっても、ことプレゼンにおいては、全世代にメッセージが伝わるように設計した方がいい。
 例えば、「実現に向けてシニアの応援や支援が必要だ」というメッセージがほんの一言加わるだけで、全員に響くプレゼンになると思います。全体のメッセージを変える必要はなく、一言でいい。
宮下 ありがとうございます。勉強になります。
瀧口 古井さん、いかがでしたか。
古井 非常に鮮明にイメージできました。僕は、政治家さんのビデオを作ることが多く、日本中に出張して、ホテルがないような地域に行くことがあるんです。
古井康介 株式会社POTETO Media代表取締役社長。慶應義塾大学経済学部卒業。2016年の米大統領選挙の取材のために渡米。帰国後POTETOを設立。若者に政治をわかりやすく届けるメディアを立ち上げ、1日2万人の若者が閲覧するメディアに。現在は主に行政や政治家のプロモーション事業を党派問わず実施。過去に、元総理大臣、元財務大臣、外務大臣、元防衛大臣、元農林水産大臣、その他国会・地方議員や知事・市長などのPRを支援。毎日新聞「政治プレミア」などで連載。一社 日本若者政策協議会 理事、朝日新聞社メディアパートナー、国際女性会議WAW!2017ユーススピーカーなどを務める。令和元年CVG経済産業省関東経済産業局長賞を受賞。
古井 少なからず不便ですが、じゃあそこにホテルを建てるかといったら、それも難しい。
 その点キャンピングカーであれば、そういった宿泊施設のない地域でも行くことができる。素晴らしいですよね。
 特にブレークスルーになりそうだと感じたのが、地域でイベントなどを開催する際のステークホルダーを取りまとめるハードルが低い点です。
 というのも、地域の観光を盛り上げるためにイベントを作ろうと思うと、自治体だけでなく、飲食店や宿泊施設、地主の方だったり、たくさんのステークホルダーを巻き込んで承認を得る必要があって、かなりの時間と労力がかかるんです。
 その点キャンピングカーを使えば、地域にかかる負荷は少ないですし、データを持って説明できれば、観光DXの突破口になるかもしれません。
秋本 「Move to Earn」って、移動して稼ぐじゃないですか。フォトコンテストって「Photo to Earn」ですよね。実際に我々もキャンペーンでフォトコンテストをやったんですよね。
 そうしたら、わずかな期間で2000人ぐらいのユーザーが参加して、7000枚ほどの写真が集まった。本当にちょっとしたインセンティブなんですけど、それで写真を送ってくれる。
 そういう社会課題の解決の仕方っていうのはやっぱりあるのかなと思いました。
瀧口 では、最後に宮下さんのジャッジタイムです。プレゼンしていただいたアイデアが地球の未来を変える可能性があるかどうか、お手元のYES・NO札を上げてください。
秋本 もちろん、YESです。ぜひ、引き続きディスカッションさせてください。

人流ビッグデータの分析から見る、都市開発の未来

嶂南 私からは、「人流ビッグデータ活用による都市のマーケティング・運営」についてお話しします。少し技術的で小難しい部分が多いので、酷評含めフィードバックいただければと思います。
 われわれは「都市を再発明する」を目標に、データドリブンな都市開発やまち作りの支援、そして観光促進事業を行っています。
・課題は、ほとんどの都市開発や都市のマーケティングがデータドリブンになっていない点

・scheme verge株式会社は、周遊パスポートなどの電子クーポンを活用し、参加者の位置情報や体験の可視化を行っている

・それにより、スポットごとの訪問数の分析や、施策の詳細な効果検証を可能としている

・特徴は「今だけ、ここだけ、あなただけ」のニーズを取り出せること。例えば巡り方から「肉好き」という仮説を出すなど、特定のターゲットに特化して分析し、精度高く示唆を出せる

・ただ、データを分析したり調理したりする技術はあるが、データの絶対量が不足している

・ジオテクノロジーズと手を組むことで、生活者の機微に合わせたまち作りを実現したい
 都市開発は、数百億から数千億円がかかるため、保守的になりやすいです。そこに対して、説得力のあるデータとともに示唆を出すことで、サステナブルかつ高付加価値な都市開発を実現し、最終的には地球規模での経済発展につなげたいと考えています。
瀧口 ありがとうございました。それでは澤さん、フィードバックをお願いします。
 テクニカルな部分で言うと、初めのエクスキューズはない方がいいです。
「酷評も含めて」と言われると、どこが残念なんだ?という見方をしてしまう。「技術的な内容ですが、柔らかく話します」と言えば、安心して受け止められますよね。
古井 国土交通省もスマートシティの推進に動いていますが、どのくらい進んでいるのかはいまひとつ理解できていません。具体的にどんなまちづくりが行われるのかを議論することで、解像度を上げたいのですが、いかがでしょうか。
嶂南 例えば富山市では、地元のTOYAMATOさんという会社がコンテナハウスで飲み屋街を作ったり、市としてもLRT(次世代型路面電車システム)を使って回遊できるまちづくりを行っていて、面白い事例だと思います。
 ただ、地元の会社ができる数十億円規模の開発だけでは、地価を2倍3倍に上げることは 極めて難しい。より大きなインパクトを生み出すためには、複数の開発主体が協業でシナジーを生み出すことが不可欠です。
 そして、リスクをとって攻めたまちづくりに投資するためには、エビデンスが必要です。つまり1日10億超の人流データを解析をして効果検証を行ったデータが必要なんです。
古井 明快なご説明ありがとうございます。「地価」は、店舗を出したい人や活動を行いたい人が増えることを示す指標として、地方創生において重要なキーワードですね。
また、人流データと地価の上昇は、相性がいいように感じました。
秋本 おっしゃる通りで、人流データは不動産の価値を立証するための有力なエビデンスであり、相性が非常に良いビジネスです。
 例えば、車移動ではなく、歩行者の方が多くのお金を使う傾向があるので、人流データから移動手段を判定して、不動産との関係性を参考にすることで、データに基づいた不動産の価値を判定する動きがあります。
 こういったデータの判断材料に欠かせないラストピースが「決済」なので、そことのコラボが実現できれば、より説得力を持たせることができそうですね。
瀧口 白熱の議論でしたね。それでは、秋本さんにYES・NOの札で判定していただきましょう。
秋本 もちろん、YESです。人流データのど真ん中の活用方法だと思っていますし、ビジネスパートナーとしてやっていきたいと思います。

EV車普及のカギは、データで作るエビデンスにあり

井上 私からは「EV充電器の最適配置と効率活用による、EVインフラ整備への貢献」についてお話しさせていただきます。
 現在、充電器導入の事例を積み上げている最中ですが、体系立ったデータにはできていません。
 われわれのデータに加え、詳細な人流データと位置データを活用し、どの施設のどこに、どのぐらいの人が、どのぐらい滞在しているかを分析することで、より精緻な仮説を出せると考えています。
・課題は、EVインフラ整備の要である商業施設に対して、設置メリットが不明瞭な点

・人流データと位置データと株式会社プラゴの充電関連データを組み合わせることで、施設の設置効果を証明したい

・この取り組みを通じて、エコシステムを構築し、脱炭素社会への貢献を実現したい

・国内のEV販売台数が年々増加している一方で、充電器の数は減少している

・商業施設やホテルでの設置が採算性の問題で進まなかった上に、自宅で充電ができないEVユーザーが約4割も存在する

・解決には、EVユーザーの方々の動向を踏まえた「どの施設、どの駐車場、どの車室に置いたら一番集客に繋がるか」の分析が必須
澤 ありがとうございました。プレゼンの冒頭で課題とユーザーとゴールが明確に説明されていたので、非常に理解しやすかったです。
古井 今、経産省がEV車促進のために、EV充電の設置に対して約300億円の補助金を出しています。
 それでもまだ商業施設側が受け入れられていないところを、データを使えばクリアに解決できる。そんな未来が想像できますね。採算性に関してはどのように整理されていますか。
井上 EV充電器の採算性には、直接的な採算性と付随効果の2種類があると思っています。
 直接的な採算性は、主に充電売り上げの収益配分。商業施設における付随効果は、EVユーザーの充電による来店頻度の上昇ですね。
 加えてEV車の充電には急速充電でも30〜60分、普通充電だと数時間かかるので、付随効果として、滞在中の飲食や買い物によって売り上げが上昇するんです。
 結果的に採算が合わないことはないと、データを通じて証明していきたいと考えています。
 ただ、現在は補助金ありきです。サステナブルな事業にするために、補助金がなくても成り立つ状態を目指す必要がある点は明確な課題です。
古井 ただ補助金を出すだけではなく、こういったデータの検証に補助金を出す方がいいんじゃないかと思ってしまいますね。
瀧口 では、そろそろYES・NOの時間に参ります。井上さんのプレゼン、このアイデアが地球の未来を変える可能性があるかどうか。
秋本 YESです。
 実はわれわれ、元々地図データを作っている会社でもあるので、日本全国のガソリンステーションやEVの情報を最新の状態で持っています。
 井上さんたちとコラボすることで、よりユーザーの視点を取り込んだビジネスを作れると感じました。ぜひよろしくお願いします。

持続可能な地球へ。人命を守る位置データの活用法

渡部 私からは、人流と位置データと自社サービスを組み合わせたアイデアではなく、私たちが目指している「若者と組織が力を合わせ、誰もが輝けるサステナブルな未来」を実現するために、データを活用することでどういったことができるのか、ディスカッションしたいトピックを発表します。
 私が提案する事業の主軸は「人と地球を健康にすること」です。ジオテクノロジーズさんのデータを活用することによって、人・地球に負荷がかかっている部分に介入し、無駄をなくすことができるのではないかと考えます。
 具体的な課題として、人権、環境負荷、資源の利用方法に着目しました。
・人身取引の被害を防止するため、人流データを活用して異常な移動パターンを検知し、関係機関と連携を行う

・フードウェイストや資源ロスという環境負荷を減らすために、例えば街の人流データ、消費量、廃棄物のデータを比較することで、どの地域がどれぐらいのリソースを適切に利用できているのかを可視化できるのではないか

・また、それは個人レベルでも可視化することができるのではないか

・エネルギー消費の可視化によって、どれくらいのエネルギー、食品などの無駄が、自身の行動によって起こっているのか。それが地域・国家の規模になるとどれほどのインパクトを与えているのかを定量的に知ることができる
 現状からサステナブルな世界を作るためのファーストステップは、さまざまなマイナスになっている箇所をプラスにできると自覚することが必要だと考えました。
 最適化を実現する方法について、皆さんのご意見をお聞きしたいです。よろしくお願いします。
瀧口 ありがとうございました。古井さん、いかがでしたか。
古井 ある意味、今までのプレゼンを統括するようなお話だったように感じています。
 データを活用して、個別の課題解決について3人から伺って、最後に超上段から「このデータを使ってわれわれはどこに行くのか」という問いが出てきた。こういった問いから、コンセプトやパーパスと呼ばれる部分の定義ができると思います。
秋本 本当の意味で地球規模から逆算した課題設定をしていただいたので、すごく勉強になります。
 また、ご提案いただいた「安全」の観点でいうと、特に、防災や災害対策において、人流データは有用な情報源になります。
 例えば、過去の事例から学び、人流データを分析することで、特定のイベントや地域における密集度や混雑状況を把握し、事前に対策を講じることができます。
 昨年、韓国の梨泰院で雑踏事故が起きましたが、今後は事前に密集度合いとピーク時間を予測し、未然に防ぐことができると思います。
 また、人身取引に関しては、われわれが最近リリースした『みんなの歩数計』というアプリが対策になると思います。
 家族や友人と歩数を共有することができるアプリで、日々の歩数データを共有するだけで、親の健康状態や活動量がわかります。
 親子同士で安否確認ができるこのアプリは、プライバシーの問題を考慮しつつ、安心感を提供するものとして、引き続き拡大していこうと思います。
瀧口 それでは、最後のYES・NOタイムです。このアイデアが地球の未来を変える可能性があるかどうか。お答えいただきたいと思います。秋本さん、どうぞ。
秋本 YESです。最後のテーマとして、本当に地球規模の課題設定をして、持ってきてくれました。
 人命に関わるところを、人流と位置データを活用して未然に防げるんだとしたら、われわれとしても全力で取り組みたいところです。
ぜひ、パートナーを組んで、引き続きディスカッションさせていただきたいと思います。
渡部 ありがとうございます。
瀧口 渡部さん、ありがとうございました。
最後に、秋本さんから一言いただきたいと思います。
秋本 人流と位置データとアイデアを掛け合わせることで、いろいろな課題を解決できると、その可能性をたくさん見せていただいて、ものすごく勉強になりました。
 改めて、地球の未来が良くなるためにわれわれのデータを活用して、一緒にやっていきたいと思います。そして、プレゼンいただいた内容から、具体的にできることを進めていきたいと思います。ありがとうございました。
 番組では「プレゼンの神」と言われる澤円氏のプレゼンのポイントや、データ活用に関するより具体的なアイデアの議論が視聴できます。