2023/7/10

攻める前に守りを固めよ。大切なお金を育てる投資の基本

NewsPicks Brand Design editor
 投資に興味はあっても、損をしてしまうかもしれないという不安が先立って、なかなか最初の一歩を踏み出せない人は多い。
 投資では、リスクを取って資産を増やすだけでなく、安全性の高い金融商品も活用しながら資産を守るという視点も必要になるのだ。
 大切なお金を守りながら、着実に増やしていくにはどんな金融商品や投資手法が適しているのか。個人の資産運用に詳しいマネーコンサルタントの頼藤太希氏に、初心者が投資で失敗しないよう、知っておくべき投資の基本を聞いた。

投資の基本は「盤石な守備」

──投資に興味はあるけれど始め方がわからない。そんな人は、まず何から考え始めるべきでしょうか。
頼藤 投資というと金融商品を買うことばかりに気が向いてしまいがちですが、その前に家計の状態を確認する必要があります。元手となる資金を用意するには、日々の家計が黒字になっていることが大前提だからです。
 家計の黒字が実現できている場合でも、それだけで投資を始めてよいわけではありません。誰しも予期せぬ病気やケガ、失業という事態に直面したり、急にお金が必要になったりすることは起こり得ます。
 ですから、3~6か月程度の生活費を生活防衛資金として用意しておくことが、投資を始める上での最低条件です。
──なるほど。ですが改めて「お金が減るかもしれない」と言われると、やはり身構えてしまいます。
 そうですよね。ただ、投資ではお金が増減する可能性(=リスク)があるからこそ、増える期待(=リターン)があるわけで、リスクとリターンは常にトレードオフの関係であることは理解しておく必要があります。
 とはいえ、無理にハイリスク/ハイリターンを狙う必要は、もちろんありません。
 お金をなるべく減らさずに堅実に増やすのに有用な投資手法もあります。それが、「コア・サテライト戦略」と呼ばれる手法です。
 投資できる資金の7割以上をリスクを抑えた守りの資産(コア資産)に振り向け、余裕があれば資産の一部をサテライト資産といわれるリスクの高い攻めの資産に投資して利益の積み増しを狙う方法です。
頼藤太希『1日1分読むだけで身につくお金大全100 改訂版』より
 この戦略は、サッカーにたとえるとわかりやすいかもしれません。
 サッカーは、守りを担う(=コア)ゴールキーパーとディフェンダーの役割が大きいため0-0や1-0といった僅差の試合になりやすく、大きな失点が少ないスポーツです。
 彼らがしっかり防御した上で、フォワード(=サテライト)が果敢に攻めて点を取りにいく。
 この「失点を抑えながら得点する」という視点が重要で、投資でもコア資産で守りを固めるからこそ、サテライト投資でリスクを取ってさらなる上乗せを狙えるのです。

投資商品は安全性、収益性、流動性をチェックせよ

──具体的には、どんな投資商品で守りを固めたらいいのでしょうか。
 コア資産は預貯金や個人向け国債など元本が守られる資産に加え、株式など市場全体に投資するインデックス投資信託(インデックス投信)や、さまざまな資産・地域に分散して投資するバランス型投資信託(バランス型投信)などをおすすめしています。
 どれも長期間にわたって続ける、または投資対象が十分に分散されているタイプの商品です。
 やはり投資の基本は、「長期」「積立」「分散」
 投資期間が長期になるほど、一度損をしても回復する可能性が高まります。積立投資ならば、投資タイミングを気にしなくて済むので気が楽です。
 商品の価格が安いときにはたくさん、高いときには少し買えばいいので、平均購入単価を下げる効果もある。
 また投資先を分散していれば、一つの商品で損をしても、他の商品の利益でカバーできる可能性が高まるのです。
──ですが、投資の中心となるコア資産の中だけでも、預貯金、国債、投資信託などたくさんの選択肢があるのですね。どうやって選べばよいでしょうか。
 投資商品を選ぶポイントは3つあります。安全性、収益性、流動性です。
 安全性は、なるべく損失を出さずに元本が返ってくることで、預貯金や個人向け国債のように元本が守られる商品は、安全性が優れているといえます。
 期待できるリターンがどれくらいあるかというのが収益性で、安全性とはトレードオフの関係にあります。たとえば、暗号資産はハイリスクハイリターンで収益性が高い反面、安全性には乏しい資産です。
 流動性は、どのぐらい簡単に換金できるかという観点です。ATMで簡単に下ろせる普通預金は最も流動性が高く、不動産のように売りたいときにすぐに売れない資産は流動性が低いということになります。
 安全性、収益性、流動性すべてに優れた資産があればいいのですが、残念ながら投資に“良い所取り”は存在しないので、自分が何を重視したいかを考えながら組み合わせていくことが重要です。
頼藤太希『1日1分読むだけで身につくお金大全100 改訂版』より
──具体的には、どの商品をどう組み合わせるのか、頼藤さんのおすすめはありますか。
 守備のコア資産の中でも、「リスクを取って増やすお金」と「安全性を重視するお金」にわけて、組み合わせるのを勧めています。
 そうすることで、「守りながら増やす」の実現に近づくことができるからです。
 まずリスクを取って増やすお金は、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)とiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)を活用するのがおすすめです。いずれも、運用中の利益に課税されずに投資を続けられる有利なしくみです。
 一方、安全性を重視するお金は、預貯金や個人向け国債を活用するのがおすすめです。

安全性を重視するお金には個人向け国債が有利

──iDeCoやNISAは最近よく耳にするキーワードですが、個人向け国債はあまりなじみがありません。
 国債は、国が発行する債券です。債券は比較的安全性の高い金融商品で、企業が発行する社債や海外の債券などもあります。
 国債は、国にお金を貸すことで利子を受け取ることができる金融商品で、プロの機関投資家である金融機関も保有しています。
 一般の人向けには個人向け国債が毎月発行されており、半年に1度利子を受け取りながら、満期になれば投資した金額の償還を受けられるしくみです。
 倒産リスクや為替リスクを気にしないで、安心して投資を始めたい人に、個人向け国債はおすすめです。
 個人向け国債のポイントは、元本割れしないこと。投資したお金が満額返ってくるという安心感が、お金を守る上での最大の利点ですね。
 また金利は最低でも年率0.05%が保証されており、10年満期の変動10年は0.28%(2023年7月募集分)と、銀行に預金するよりも金利が高いのがメリットです。
 発行体は日本の政府なので、安心感があります。
 発行後1年を経過すれば、中途換金することも可能です。満期が来る前に換金すると、すでに受け取った直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685を差し引かれてしまうのは注意点ですが、利子を返しても元本割れすることはありません。

「預貯金のみ」から卒業する一歩

 個人向け国債には満期と金利によって3つのタイプがあり、発行時に金利が固定されている固定3年、固定5年と、市場金利に合わせて半年ごとに金利が変動する変動10年があります。最も高い金利がついているのは、変動10年です。
 現在はさまざまなモノの値段が上がるインフレが起こっていますが、教科書的には物価が上昇する局面では金利も上昇していくものです。
 変動10年の個人向け国債であれば、市場金利が上がれば、その分受け取れる利子も増えますから、個人的にはおすすめしたいですね。
 一方で、「金利が必ず上がり続ける」という保証はないので、金利が下がるデフレが続くことが見込まれるタイミングなら、固定3年、固定5年の個人向け国債を購入するのも一手ですね。発行時点で受け取れる金額がわかるという利点もあります。
 これまで預貯金一辺倒だったという人は、投資を始める最初の一歩として、個人向け国債にチャレンジしてみるのもよいのではないでしょうか。
 個人向け国債は毎月発行されており、全国の郵便局のほか、多くの銀行や証券会社で1万円から購入できますよ。ネット証券や一部の銀行では、インターネットでも購入できますし、購入の際の手数料もかかりません。※1
※1 口座の開設あるいは口座の維持に手数料がかかる場合があります。インターネットでの取り扱いが無い金融機関もあるため、財務省のホームページをご確認ください。
※2 発行後1年以上経過で換金可能です。直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれます。
──なるほど。コア資産には個人向け国債以外にも、預貯金やiDeCo、NISAでの積立投資がよいとのことですが、どう配分したらいいでしょうか。
 日々の生活資金や旅行の資金など1年以内に使いたいお金は預貯金が最適ですね。
 そして住宅や車の購入資金、結婚資金や子どもの教育費など10年以内に使う予定がある資金は個人向け国債、10年以上使う予定がないお金や老後資金はiDeCoとNISAを使った長期・分散・積立投資、と配分するのがよいと思います。
 こうして「守りながら増やす投資」の基礎を築いていきましょう。

投資の基本は「焦らず、ゆっくり」

──最後に、資産運用を成功させるために必要な心構えを教えてください。
 リスクを取る投資を続けているとさまざまな局面に遭遇しますし、市場で暴落が起こって投資をやめてしまいたくなることもあるでしょう。
 しかし、長期・積立・分散投資は、リスクとうまく付き合いながら時間をかけて資産を育てていくものなので、途中でやめることなく継続することが最も重要なポイントのひとつです。
 短期の投資で利益を出すのはプロでも難しいので、時間をかけてゆっくり育てることを大切にしてください。
 そのためには自分が取れる以上のリスクを取らないことも重要です。近々使う予定のあるお金を投資に回したり、リスクの高すぎる対象に投資したりしてしまうと、日々の値動きが気になって長く持ち続けることができません。
 短期的に必要なお金は個人向け国債などの安全資産で持っておくことも、長期で投資できる心の余裕につながります。
 使う予定のあるお金を預貯金と個人向け国債に置いて、毎月の給料から自動でiDeCoやNISA口座に積み立てられるよう設定したら、あとはほったらかしで大丈夫。投資していることを忘れてしまうぐらいが、正解です。