2023/6/24

【地方スーパーの底力】新卒社員が教え込まれる必勝サイクル

ライター・編集者
アクシアル リテイリング(新潟県長岡市)は、2006 年に新潟県を地盤とするスーパー、「原信」と「ナルス」が、さらに13年に群馬県、埼玉県など北関東を地盤とするスーパー、「フレッセイ」が順に経営統合して設立されました。

129を数えるその店舗(2022年度)一つ一つが独自の進化で時代の変化に適応するという難度の高いオペレーションの仕組みを、「原信」をルーツとする社員教育の側面から検証します。
INDEX
  • 全員が参加する組織的・継続的な経営活動
  • 一人ひとりがPDCAを自己判断で実行できる力
  • 社員各自が、それぞれの持ち場で自ら課題を解決
  • パート社員も身につける計画→実施→確認→軌道化
  • 年4回提出するPDCA活動リポートが、問題意識を“習慣”化
  • 失敗は必ず発生する、それでもPDCAで大きく的を外すことはない

全員が参加する組織的・継続的な経営活動

絶えず変化するユーザーのニーズを売り場に反映させるには、現場の従業員たちがそれをつかみ、工夫し続けることが必要です。それを自発的に行うよう促すことが、小売業の経営者の手腕といえます。
新潟や群馬県内で人気の地元密着スーパーを多数経営するアクシアルは、そこをどう行っているのでしょうか。同社執行役員・CSR・広報部長の石原照門さんはこう話します。
石原「弊社の強みの源泉は、まず規模です。原信・ナルスだけで80店舗あります。2つ目は物流機能や製造拠点、ITといった必要不可欠な機能を、すべてグループ内に自前でそろえているということです」
アクシアル リテイリング執行役員・CSR・広報部長の石原照門さん
そして石原氏が3つ目に上げたのは「人」。アクシアルは、社員教育に力を入れています。
石原「弊社の人材育成の特徴は、全社員にTQM(=Total Quality Management、総合的品質管理)を身につけさせていることです」
TQMとは、米国メーカーのトップダウン式の品質管理の手法に、ボトムアップ式で「カイゼン(改善)」し続ける日本メーカーの手法を取り入れたものです。
40年前、1983年に原信がQC(Quality Control=品質管理)を導入したのが出発点。QCから付加価値創造をも取り込んだTQMをアクシアルの社内では、「お客様のご満足を目的とした全員参加の組織的・継続的な経営活動」と定義付けています。
今や単なるビジネススキルにとどまらない同社の経営の根幹となっており、研修などを通じて経営陣・管理職を含む全社員に浸透しているそうです。
マメに売り場を回るスタッフたち

一人ひとりがPDCAを自己判断で実行できる力

石原「弊社のTQMを簡単に言うと、PDCA(Plan<計画>、Do<実施>、Check<確認>、Action<軌道化>)というサイクルを、それぞれの職場できちっと回していこう、というものです」
PDCAは、ビジネスの世界では一般的に知られているプロセスです。
ある問題・課題を解決する際にプランを立て、それを実行し、それを検証して今後の対策・改善策を検討する、これを何度も繰り返すことで、商品やサービスの質を上げていくのです。
好評の惣菜コーナーは広く、調理場も見渡せるようになっている
アクシアルでは、このPDCAのサイクルを1週間に1回のペースで回している、と石原氏は言います。
石原「ウィークリーマネジメントと呼んで、週に1回営業会議を開いています。その1週間で何が売れて何が売れなかったか、何がよかったか、他社はどんなことをしていたか、等々についての出来事やデータを共有してPDCAを回しています。もっと長いタイムスパンが必要な案件には、月次の会議でも対応しています」

社員各自が、それぞれの持ち場で自ら課題を解決

石原氏はさらに「何か問題が生じたときや解決すべき課題が見えてきたときは、このサイクルを繰り返し当てはめて解決していくのです」と語ります。
現場レベルで、「ここの動線で買い物客や従業員どうしがぶつからないためには、どうすればいいのか」「この惣菜はこう切ったらもっと均一の厚さになるのではないか」「この果物はこう並べたら、もっと売り場で映えるのではないか」といった、地味ながら極めて大切な工夫・改善を、個々の従業員がこのサイクルに則って自主的に進めていくわけです。
原信の店舗運営組織は、新潟、長岡など7つに分けたエリアごとに1人ずつ置かれているエリアマネジャーと、そのエリア内に展開する各店舗の店長、そして店舗の現場を担う従業員の3つで構成されます。各店舗の現場はレジ担当、青果、水産、精肉、ベーカリー、さらに日配品、加工食品や住居品(日用品等)などカテゴリーが細かく分かれていますが、配属されている社員は1店舗当たり20人程度です。
石原「一つの現場に割り当てられる社員数は極めて限られています。だから社員一人ひとりが、それぞれの持ち場で“パートナー”と呼ばれるパート職やアルバイトとともに自ら課題を解決していかなければなりません。そのための考え方として、最も効率的に、全体を網羅して科学的にものごとの本質を改善できるのが、このTQMでありPDCAなのです」

パート社員も身につける計画→実施→確認→軌道化

各店舗に勤めているパート職にも、長年続けているこのPDCAが浸透しているとか。社員と一緒に活動しながら計画し、実験し、検証し、それを現場に反映させることを繰り返しつつ、最善の手法を見つけていくわけです。
PDCAを社員一人ひとりが繰り返し、改善していく
石原「職場全員でこのPDCAを何度も繰り返すと、課題解決のための手法の進め方や、その場で使う言葉が統一されていきます。それを積み上げていくわけです。
そして成果が出た手法は、成功事例を共有する独自のシステムを通じて他の店舗にも横展開して、全体を底上げします」
その結果、基本の陳列は同じであっても店舗ごとに、違う特色が出てくるのは当然の産物なのです。
石原「その一助となるよう、売り場づくりや品ぞろえなどの実務に直結する書籍の購読を進めています。また、例えばカラフルな売り場づくりに役立つ色彩士のほか、衛生管理者・社会保険労務士・宅建・危険物取扱者といった資格の取得も奨励しています」

年4回提出するPDCA活動リポートが、問題意識を“習慣”化

このPDCAを、全社的にどうやって浸透させているのかというと、新卒の社員として入社した段階で、すでに座学の研修を通じて教わります。
新卒だけでなく、社内では様々な階層で研修が組まれているとのこと。
石原「職場単位で作られたグループごとに四半期に1回、年に4回活動リポートを提出する義務があります。例えば、自分の持ち場の商品のロス(売れ残り・破棄)率を減らそう、といった課題を自分の職場で見つけ出して、それについてPDCAを回してどんな結果が出たかをA3用紙1枚のリポートにまとめます」
視覚的にも色合いや配置が計算された売り場(写真:アクシアル リテイリング提供)
常日頃、従業員一人ひとりが働きながら主体性を持つことを習慣化して初めて、このリポート提出が可能となります。
石原「リポートの記載内容は、『なぜそれをテーマに選んだのか』『どう分析したのか』『どういう仮説を立てたのか』『どういうことをしたのか』『どんな結果が出たのか』など、項目は非常に細かく、そして全体を網羅しています」

失敗は必ず発生する、それでもPDCAで大きく的を外すことはない

しかし、そういった試みのすべてがうまくいくとは限りません。
効果が出ない、あるいは逆効果だったりした場合、そこで発生したロスはどうするのでしょうか。
歩いていてもパッと何の売り場かわかるようにイラストの大きな看板が下がっている
石原「失敗は必ず発生します。しかしそれは必要経費であり、提案した人に責任を取らせるようなことはもちろんしません。逆に言うと、TQMをベースに発想すれば、それほど的を外すようなことはありません」
原信の紫竹山店では、実際にこのPDCAを応用した実例がありました。
石原「コロナ禍の下ではいわゆる巣ごもり需要の増加で豆腐、納豆、牛乳といった“普段使い”の商品や冷凍食品が売り上げを伸ばしました。旅行に行けない分、旅行に行ったつもりになる全国各地の銘品を展開したところ好評でした。しかし、ご当地・新潟のお土産の需要は減りました」
ところが、コロナ後の売れ筋がいかなるものかは、まだ何とも言えない事態。そこで、コロナ禍の下で需要が大きく伸びた冷凍食品について、平台と呼ばれる冷凍ケースを従来の1列から2列に増やしたのです。
石原「それがここ(紫竹山店)の改装の大きなポイントの一つです。今回はこれでいったん売り場を作ってみて、どのような品ぞろえが最適か、レベルアップできるのかを検証しながら、今後どう対応するかを課題としています」
コロナ後のトレンドを、コロナ禍での傾向が続くといったん仮定して売り場を作り、「さて、どうなるか」を実験しているわけです。思わしくない結果となれば、さらに改善のアクションを検討すればよいのです。
このPDCAを繰り返し、日々進化する売り場が作られているのです。