2023/6/24

【地方スーパーの底力】顧客の心を掴む! 店舗ごとに進化する売り場

ライター・編集者
東証プライム市場上場のアクシアル リテイリング(新潟県長岡市)は、連結売上高約2550億円(2022年度)の持ち株会社。傘下にある新潟県中心の食品スーパー「原信」と「ナルス」(ともに新潟県)、群馬県中心の食品スーパー「フレッセイ」(群馬県)は、いずれも地元のユーザーに根強い支持を得ています。

全国区の大手チェーンに負けていない原信、ナルス、フレッセイの独自の工夫を探るべく、アクシアル リテイリング執行役員(CSR・広報部長)の石原照門さんにお話を伺いました。
INDEX
  • テナントと組んだネイバーフッド・ショッピング・センター
  • 買い物客が入店した瞬間に惹かれる売り場づくり
  • 大手チェーンのやり方は真似せず「原信・ナルスらしさ」に置き換えてみる
  • 各店舗が自ら売り場づくりを進化させ、環境の変化に適応している

テナントと組んだネイバーフッド・ショッピング・センター

食品スーパー「原信」紫竹山店
JR新潟駅から車で約5分、4月8日に改装開店したばかりの食品スーパー「原信」紫竹山店はお客さんで賑わっていました。
案内してくれたのは、原信をはじめとするスーパーマーケットなどを新潟県と群馬県を中心に展開するアクシアル リテイリング執行役員(CSR・広報部長)の石原照門さん。
石原「この店の売り場面積は約720坪。だいたい650坪前後を標準として展開しています。品ぞろえや通路の広さを考えると、出店にはある程度の規模・面積が必要ですね」
アクシアル リテイリングのCSR・広報部長、石原照門さん
広々とした駐車場は、お隣の大手家電量販店と24時間共用。大手ドラッグストアや大手車検専門店がその周囲に並んでいます。テナントとして入るのは、お客さんがショッピングのついでに利用できるクリーニング店などです。
石原「NSC=ネイバーフッド・ショッピング・センターと言いますが、基本的にはスーパーマーケットと来店頻度が近いテナント様とオープン型のショッピングモールを展開することで、便利さをご提供したいと考えています」
コジマxビックカメラなどと一緒にHarashin(原信)スーパーのロゴが大きな看板に映える

買い物客が入店した瞬間に惹かれる売り場づくり

原信の店舗の中に入ると、いきなり広々とした店内が目の前に広がりました。一番手前のフルーツの商品棚は、彩り鮮やか。VMD=ビジュアル・マーチャン・ダイジングを駆使し、視覚を重視した独自のデザインとディティールを追求しているそうです。
フルーツのカラフルな色合いがパッと目に入る食品売り場(写真:アクシアル リテイリング提供)
石原「商品の棚は全体的に低くして、店内の奥まで見渡せるようにしています。フルーツは色彩を考えて配列の順番を決めており、茶色系の根菜類はその裏側に並べてあります」
さらに店内を回ります。
石原「入り口近くから手前の棚(フルーツ、野菜など)が一番低くて、そこから奥に行くにしたがって棚がだんだんと高くなっていきます。ゴンドラと言われる背の高い棚でも他のスーパーマーケットチェーンのそれよりはやや低めで、棚に並べきれない商品のストックを箱入りのまま棚の上に置くことはしません。景観を損ねるし、お客様に圧迫感を与えます」
入り口左手の総菜売り場からガラス越しに見える調理場の中は、白い帽子・白衣に紺のエプロン姿のスタッフたちが忙しく動き回っています。商品の棚と棚の間の通路も、都市部のスーパーの店舗と比べると格段に広くなっています。
総菜売り場の奥には明るく広い調理場が見え、どのように調理しているのか見える安心感がある
石原「窓ガラスを大きくして、調理場の中をじかにご覧いただくことが、“ここのお総菜はこうやって作っているのか”というお客様の安心感につながると考えています。通路はカート約3台分、両側に人がいても真ん中を通れるくらいに幅を取っています」
店内に入ってきたときに“いいな”と思ってもらえる売り場づくりが強みだと語る石原さん。
石原「買い物していて楽しくなるような品ぞろえ、買いやすさをアピールできればと考えています」

大手チェーンのやり方は真似せず「原信・ナルスらしさ」に置き換えてみる

地方では、イオンのような大型ショッピングモールに人気が集まりがちです。しかし、そうした大手に負けず、原信・ナルスのスーパーは地元の顧客の支持を集めています。
新潟に根ざすチェーンとして、全国区の大手とどう差別化を図っているのでしょうか。
石原「大手と比べてどう、という発想はあまりないですね。それよりもお客様が何を望んでいるか、ニーズがどう変化しているのか、それにどう対応していくのかということを大切にしています。もちろん大手さんがどういう販促をしているのか、どんな売り方や価格設定を行っているのかはチェックしていますし、『そういう発想があったのか』という具合に参考にはします。しかし、そのまま真似する、取り入れるというよりは、『それらを原信・ナルスらしい商品、売り場に置き換えるとどうなるだろう?』という発想で生かしています」
では、原信・ナルスらしさとは何なのでしょうか。紫竹山店の店内を巡回しながら石原氏に問いました。
石原「一言で言うのは難しいですが、“普段使い”していただけるスーパーマーケット、つまり手に取ってもらいやすい価格設定ですね。そして当たり前ですが安全、安心。さらにもう一つ、味へのこだわりはすごく強いですね。総菜なども尖った味というよりは、若干控えめな、毎日食べても飽きのこない味付けを意識しています」
原信・ナルスのオリジナル商品で、かつ重などの「だし香る」弁当シリーズがその好例。世の中の健康志向から減塩の総菜を数多く出していますが、どうしても味が物足りなくなるので、その分、だしをちゃんと利かせて味をしっかり出すことでトータルでのおいしさを目指しているといいます。
人気の「だし香る」シリーズのかつ重
味は尖らず、しかも体にいいことをアピール。現在、同シリーズは調味料やおかきなども含めて百種類を超え、今は新商品が出るごとに、途切れることなく多くの買い物客が購入するそうです。
石原「さらに意識しているのは、品ぞろえの幅の広さ。スーパーマーケットの基本であるワン・ストップ・ショッピング、つまり一カ所でさまざまな商品を買えるように極力いろんなものをそろえることを心がけています。昨今は食品の値上がりの幅が大きいので、購買頻度の高い牛乳の価格を、他なら今どき200円以上するところを168円(取材当時)に抑えてお客様の来店を促し、他の商品も併せて買っていただけるようにしています」
“あそこに行けば、欲しいものはだいたいある”という信用を得ることで、毎日のように顧客にも安定して通い続けてもらう仕組みをつくっているのです。
幅の広い通路でゆっくりと商品が選びやすいように工夫されている

各店舗が自ら売り場づくりを進化させ、環境の変化に適応している

石原「ここでは丸々ひとつ、日本ワインだけの売り場をつくりました。酒どころで知られる新潟はワイン造りも盛んで、日本での赤ワイン製造によく使われるマスカット・ベーリーAというブドウは、県内のワイナリーが開発した品種です。数多く売れるのは安価なものですが、750mlで1本2300円弱と決して安くない地場ワインもよく売れています。例えば年末にスパークリングワインや日本酒がよく売れるような、『特別な日はいいものを』というニーズはずっとありますね」
日本ワインを集めたコーナー
さらに新潟は全都道府県1、2位を争うラーメンの消費地。陳列棚の1列が、すべてカップ麺だけで埋め尽くされています。
袋麺では濃厚みそ味(新潟)、しょうがしょうゆ味(長岡)、背脂しょうゆ味(燕三条)、カレー味(三条)といったご当地モノもズラリ。
新潟では大事なラーメン売り場も地元のものをそろえた
石原「2001年以降、環境の変化に合わせて『簡単便利+もっと豊かに』をコンセプトに店づくりを行う『ニューコンセプト』、その後も進化を続け2015年以降は『豊かさ・楽しさ・便利さ』を提供する『ニューコンセプトII+』と名付けたフォーマットを進めてきました。しかし、それも店舗ごとに少しずつ、少しずつ変化していて、これがフォーマットの標準と言いきれない部分がある」
それは、商品も売り場も進化していることを示しています。
石原「例えば、今回の改装店ではコロナ禍による巣ごもり需要の増加にともなって冷凍食品の平台と呼ばれる冷凍ケースを増やしたり、日本ワインだけの売り場を導入したりしましたが、以前はこのような売り場はありませんでした。こうした工夫は、実は基本的に店舗ごとに行っています。
これまでの経験をベースに、何が売れるかについての日々の分析や、その店舗の立地の特性や売り場面積なども踏まえて総合的に判断しながら、ああでもない、こうでもないという試行錯誤を何度も繰り返しています。
店づくりのフォーマット自体はどの店舗も基本的に同じですが、結果的に店どうしで少しずつ個性の違いが生まれてくるのです」
各店舗の売り場が、トップダウンではなく自律的に進化して環境の変化に適応し続けていることに、業績好調の秘密があるようです。どうすればそれが可能なのか、そのためにどんな人材教育を行っているのか――次回でその核心に迫ります。(続く)
コロナ禍で拡大した冷凍食品コーナー