[上海 16日 ロイター] - 米電気自動車(EV)大手テスラは中国・上海工場の増強を目指しており、この野心的な計画の成否は、中国政府から承認が得られるかどうかにかかっている。

しかし、かつて国内EV産業の発展を後押ししようとテスラの誘致に熱心だった中国政府は、今では国内の過剰なEV生産能力への懸念から自動車メーカーの工場増強に慎重になっている。

低コストの優位性を生かして輸出拡大を図ろうと上海工場の増強を画策するテスラは、中国市場で成功して販売台数を劇的に増やしたことが、事業拡大の逆風になるという皮肉な事態に直面している。

ライバル企業の幹部やアナリストによると、中国国家発展改革委員会(発改委)は過剰生産能力とテスラが仕掛けた値下げ競争を懸念しており、どの自動車メーカーに対しても、EV工場の新規承認に慎重な姿勢だという。

コンサルタント会社オートモビリティーの創業者兼最高経営責任者(CEO)、ビル・ルッソ氏の推計によると、中国の自動車市場の過剰生産能力は年間約1000万台と、昨年の北米全生産台数の3分の2に相当する。

「テスラ側は、新製品があるのだから新しい工場が必要だと主張するだろう。だが、中国政府側は市場の供給過剰ばかりに目が向いている」という。

テスラは新型コロナウイルス対策の上海封鎖時に地元政府から提供された支援に感謝する昨年5月の熱烈な書簡で、現工場から3キロほどの場所に年間生産能力45万台の新工場を建設する計画の詳細を公表した。販売価格に基づく年間の生産額は180億ドル強。元農地の建設予定地は、今のところ雑草が伸び放題だ。

テスラのイーロン・マスクCEOや中国当局の公式発言では明らかにされなかったが、この問題に詳しい関係者によると、マスク氏の先月末の電撃的な訪中の際に、上海工場増強計画が話題に上った。

マスク氏は丁薛祥・筆頭副首相など中国の高官との会談後、テスラの少人数のスタッフに工場増強についての話し合いで「前向きな進展があった」と明かしたが、詳細な説明はなかったという。

テスラと発改委は、コメント要請に応じなかった。

ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ダン・アイブス氏は「テスラは中国での事業を倍増させている。昨年はいくつか思わぬ問題が生じたが、マスク氏の訪中で状況が落ち着き、今後数カ月内には進展について発表があるだろう」と述べた。

テスラの上海工場は、2019年の着工から1年足らずで竣工した。

<テスラ、中国は欠かせぬ存在>

米国のバイデン政権はEVの国産化支援策を打ち出しており、テスラの中国依存は米国では複雑な問題だ。

しかし、テスラの上海工場は昨年、「モデル3」と「モデルY」を合計で約71万1000台生産するとともに、最大生産能力を年間100万台強に引き上げた。この工場は競合他社に対するコスト優位性の面で極めて重要で、東南アジアとカナダへの輸出を後押ししている。

テスラは2022年に131万台だった全世界販売台数を30年までに2000万台に引き上げるとの目標を掲げており、設備投資の可能性についてインドと協議しているほか、韓国やインドネシアなどの政府からも誘致の働き掛けを受けている。

中国のEV大手、蔚来集団(NIO)によると、中国がサプライチェーン(供給網)と原材料を支配しているため、中国で生産されたEVは、他国での生産に比べてコスト面で20%も有利だ。

だが、中国政府が供給過剰への懸念を強め、テスラが上海工場の増強を計画する中、EV市場参入を目指す中国のスマートフォン大手、小米(シャオミ)は生産許可の取得が遅れている。

また、米高級EVメーカー、ルーシッド・グループも中国での自動車生産に意欲的だが、実現できる可能性は低いとの助言を受けている、と複数の業界関係者が明かした。

シャオミとルーシッドは、コメント要請に応じなかった。

テスラが当局の承認を待たされているという状況は、5年前に初めて上海工場開設の取り決めを結んだときの温かな歓迎ぶりと対照的だ。

当時、アナリストは中国はテスラを利用し、国内のEV開発に拍車をかけることができると考えていた。強力なテスラの進出で弱小メーカーは生き残りのために迅速に動かざるを得なくなるからだ。

オートモビリティーのルッソ氏は「状況は様変わりした」と話した。その上で「ただ、テスラにとって中国は欠かせない。中国進出でサプライチェーン上の利点を手に入れ、中国での競争によって世界的により競争力のある企業になれるからだ。生産能力を手に入れられなければ、機会を逸する」と上海工場増強の意義を強調した。