2023/6/22

現代のビジネスパーソンが身に着けるべき、「最後まで読まない」読書習慣

News Picks Brand Design Senior Editor
「ビジネスパーソンとして活躍するためには、日々のニュースを追うだけでは不十分だ」
「もっと幅広い知識や教養を身につける必要がある」
 頭ではわかっているものの、日頃の忙しさのせいで読書や自己研鑽ができていないビジネスパーソンは多い。
「本は月に1冊読むか読まないか」というビジネスパーソンでも簡単に始められるテクニックを、ビジネスパーソンのキャリアの専門家で、読書家としても知られる北野唯我さんに紹介していただいた。
 ぜひ今日から試して、スキルアップ・キャリアアップにつなげてほしい。
兵庫県出身。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で中期経営計画の策定、MA、組織改編、子会社の統廃合業務を担当。その後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画。子会社代表取締役などを経て2020年から現職。1987年生。

そもそも全部読まなくていい

──北野さんは読書を仕事にどう役立てていますか。
北野 自分は新卒で博報堂に入って、それからコンサルでキャリアを積んで、現在の会社に参画しました。
 社会人になりたての頃は、ビジネスについて知りたいことがたくさんあったので、初任給で8万円分もAmazonで本を買ってしまいました。
 当時読んだ『イノベーションのジレンマ』や『ビジョナリーカンパニー』などは、世の中の動きをビジネスの視点から見る上での基礎教養として、今でも役立っています。
 その後のキャリアの中でも、部署が変わったり、取引先の企業が変わったり、自分の役職が上がったりするたびに、その答えを本に求めてきたんですね。
 部下ができたときには中国古典のリーダー論である『貞観政要』を、失敗の原因分析の手法を学びたいと思ったときには『失敗の科学』を、理想的な組織のあり方について考えたいときには、日本軍を分析した『失敗の本質』といった具合です。
“失敗”ばかりキーワードに出してしまいましたが、自分で失敗を経験せずとも、先人の失敗や学びにタッチできることが読書の大きな価値だと思います。
──読むのに時間がかかりそうな本が多いですね。
北野 確かに全ページ読んでいたら、どの本も1ヶ月近くかかってしまいそうですね。
 ただ、書籍って最初から最後まで読む必要はないんですよ。
 読書に時間を割けていないビジネスパーソンの多くが、「本は最初から最後まで読まなければいけない」と思い込んでいる気がします。
 そのせいで「本を1冊読み終えるだけでいつも何十時間もかかってしまう。そんな時間は到底ない」と読書の入り口のところで二の足を踏んでいる状態ではないでしょうか。
──全部読む必要はないんですね。
北野 そうですね。「要点だけ読めば十分」という意識を持っておいた方がいいです。
 読書習慣がある人の多くが読んだ本の内容をスラスラと語ることができますが、彼らは全ての書籍を隅から隅まで読んでいるわけではないんですよね。
 必要な箇所だけを読んで、「言いたいことは大体掴めたな」と思ったら、そこで読むのをやめているケースも多いんじゃないでしょうか。
 私の場合、気になる本があったら、「この本を読むべきか否か」「面白そうな箇所はどこか」「エッセンスとなる知識はどこか」を意識しながら要点を絞ります。
──具体的にはどうやって要点を探すのでしょうか。
北野 まず本を購入する前に、「はじめに」と「目次」をチェックし、「この本を読むべきか否か」を判断します。
 本の書き手でもある私の意見ですが、「はじめに」と「目次」は、本を買ってもらうために、著者と編集者がもっとも気合を入れて作り込んでいる部分なんです。
 そのため、私はここを読んで面白くなかった本は、期待外れに終わることが多いので購入しません。
「はじめに」と「目次」に興味を惹かれたら、目次で「面白そう」と感じた章を重点的に読みます。
「面白そう」と感じた部分を拾い読みしているうちに、「この本の著者が言いたいことは、こういうことかな」という本のエッセンスとなる部分が見えてきます。
──最初から順番に読まないと、理解できないのではないでしょうか。
北野 それも「思い込み」です。
 1冊の本をどんなに熱心に読んでも、記憶に残るのは本のエッセンスとなる数行だけではないでしょうか。
 エッセンスとなる数行を見つけたら線を引き、その前後を繰り返し読んで自分に腹落ちさせることに時間と意識を使う。これが忙しいビジネスパーソンが身に着けるべき読書習慣だと思うんですよね。
──エッセンスを腹落ちさせることを目的にするんですね。
北野 その通りです。
 この読み方について人に紹介すると、驚かれることもあるのですが、みなさんもインターネット検索で普段から同じようなことをやっていると思うんです。
 検索でヒットした記事を最後まで読むことって稀ですよね。必要な情報を得たら、別のページに移るはずです。
 それと同じ感覚で読書をしたらいいんです。本も同じで、必ずしも全部読まなくていいんですよ。本が読めない、読む時間がないという人には、もっと気軽に考えてみてほしいですね。
──この読書方法に行き着いたきっかけはありますか。
北野 仕事柄、スピーディーに書籍から情報を取らなければいけなかったので、自然と身につきました。
 あとは、自分が本の書き手になったことも大きいですね。
 書く側に回ってから「最初から最後まで読んでほしい」というのは、書き手の身勝手なエゴだと気づいたんです。
 書き手の意図に関係なく、読者はもっと自由に、好きなように読めばいいと思えるようになりました。
ポイントを押さえた読書術
  • 本を全ページ読もうとしない。
  • 「はじめに」、「目次」を読んで、読む本を選別する。
  • 面白そうな箇所を重点的に読む。

Amazonを検索エンジンとして使う

北野 自分は情報を探す際は、GoogleだけでなくAmazonもよく使っています。
 SEO(Search Engine Optimization)ならぬAEO(Amazon Engine Optimization)って呼んでいるんですけど、Amazonで検索をすると、Google検索だけでは得られない良質な情報に出会えることが多いんですよね。
 例えば、Googleで「睡眠不足」と調べると、医師が書いたものから、素人が書いたものまで、多様な記事が出てくるじゃないですか。
 この中から信頼できる情報、自分に合った情報を探すのって大変ですよね。
 でも、Amazonで「睡眠不足」と検索すれば、睡眠不足に関連する本が出てきます。専門家の監修した質の高い情報に容易にアクセスできますし、購入前にレビューや目次をチェックすれば、自分に合った書籍を購入できます。
 このAEOに電子書籍のサブスクサービスKindle Unlimitedを加えると、強力なビジネスツールになります。
 Kindle Unlimitedは200万冊以上の電子書籍が、月額980円で読み放題のサブスクサービスで、私自身、長年ヘビーユーザーです。
 ニュースやSNSでよく目にするようになったバズワードを検索(AEO)して、Kindle Unlimited対象の本を数冊ダウンロードしておき、気になるところだけを読む、という使い方をしています。僕にとっては「ビジネス用の検索エンジン」ですね。
 今なら「ChatGPT」とか、少し前なら「SDGs」などのワードがまさにそうでした。
 図が多めに入っていたり、マンガで解説している入門書を斜め読みをしたりするだけでも、理解しておくべきポイントは十分学べます。ネット記事より良質な学びが得られると思いますよ。
──サブスクって、入っても利用しなくなってしまうケースが多く、元が取れるか心配です。
北野 Kindle Unlimitedに関しては使い道も多様で、元を取りやすいサブスクだと思います。
 今だとビジネス本の値段は1500円程度が多いと思いますが、Kindle Unlimitedは月額980円なので、1冊読めば元が取れます。
 数年前までは書籍のラインナップに正直物足りなさを感じる部分があったのですが、今ではビジネス書、ハウツー本など対象書籍がかなり充実しました。また、最新の雑誌やマンガも読み放題なのもポイントで、「マンガで学ぶ」系のシリーズもよく利用します。
 岩波書店などの教養本や専門性の高いビジネス本も読めるので、かなりメリットを感じています。
 スキルアップ・キャリアアップにも役立つおすすめの本もいくつか挙げておくので、ぜひ「エッセンスを腹落ちさせる」ことを意識して読んでみてください。

北野唯我さんのKindle Unlimited おすすめ3冊

※下記書籍のKindle Unlimited対象は2023年6月時点のもの。
日本の高校を中退し、米国大学UCLA神経科学学部に入学、飛び級で卒業をした青砥瑞人さんによる最新の脳、神経科学に関する解説書です。脳の仕組みに基づいたモチベーションの上げ方、ストレス対処法、クリエイティビティ向上法などについて、イラスト入りでわかりやすく解説しています。
世界で活躍する日本初のプロ・ゲーマー梅原大吾氏が「戦うこと」「勝つこと」への向き合い方や哲学を語った一冊です。「1日ひとつだけ成長をメモする」「勝つ根拠を用意して勝負に臨む」など、ひとつひとつの「勝利」を積み上げるためのメソッドが、分解・言語化されており、ビジネスパーソンにとっても学びが多い1冊です。
貞観政要は唐の太宗の言行録で、帝王学の古典です。原典は少し読みづらかったり、中国史の知識がないと読みこなせなかったりするのですが、本書はわかりやすい現代語訳や現代人にもわかりやすい具体例が付記されています。自分もタイトルが難しそうなので、敬遠していましたが、部下が一人でもいるなら読んでほしいですね。1000年以上読み継がれてきた本には、それなりの理由があります。