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3月第1週の注目ニュース(メディア・コンテンツ)

電子書籍の課題。アマゾンとのガチンコ勝負に未来はない

2015/3/3
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。

アマゾンの勢いがますます強まる、書籍マーケット。2月27日、アマゾン対抗を狙い、三省堂などのリアル店舗、楽天、凸版印刷、出版社など100社超が電子書籍分野でタッグを組むと報じられた。具体的には、電子書籍ダウンロード用のカード「BooCa(ブッカ)」を、3月よりリアル書店で販売するという。

今週のWeekly Briefingでは、書籍、特に電子書籍市場についてのニュースを中心にピックアップする。

Pick 1:電子書籍は日本に普及するのか?

電子書籍で100社連合 講談社や三省堂、共同販売 日本経済新聞(2015年2月27日)

最初に、現在の出版市場の状況をおさらいしてみよう。国内の出版物(書籍+雑誌)の市場は10年連続でマイナス成長。2014年の推定販売金額は前年比4.5%減の1兆6065億円となった。
図_出版物販売額の推移

一方、電子出版(電子書籍+電子雑誌)は急成長している。インプレスビジネスメディアの推計によると、2013年度の市場規模は、前年度比32%増の1013億円。これが2018年度には、3倍以上の3340億円に拡大すると予測されている。
図_電子書籍の市場規模

ただし、成長中とはいえ、その規模はまだまだ小さく、紙の落ち込みを補うには力不足。しかも、電子書籍の大半を占めるのはマンガであり、一般書の電子化は遅い。

そうした中で、今回の取り組みは、電子書籍をより身近にするという点で一定の効果はあるだろう。しかし、あくまで書店を訪れるユーザーがターゲットとなるため、新たな顧客層の開拓にはつながりにくい。

日本とアメリカの3つの違い

そもそも、日本で電子書籍が広がらないのには理由がある。電子シフトが急速に進むアメリカと比較すると、日本の書籍マーケットには3つの特徴がある。

(1)日本は書店が多い(米国の国土面積は日本の25倍だが、書店数は日本の3分の2)。

(2)日本は本がコンパクトで軽い。ハードとして優れている(洋書はとにかく厚くて重い)。

(3)日本は紙と電子版の価格差が小さい(米国では、紙の本の定価が高く、電子版の値引率が高い)。

こうした背景があるため、日本では、アメリカほどには電子書籍シフトは進まないだろう。しかし、工夫次第では、今より電子書籍を売ることはできるはずだ。

では、どんな工夫がありうるのか。その一つが、「電子オリジナルコンテンツの拡充」と「書籍の長さの変更」である。

紙メディアの出身者として、PC、スマホでメディアを運営して痛感したのは、デバイスにより、最適なコンテンツや長さは異なるということだ。

例えば、雑誌のコンテンツをそのままウェブに転載してもなかなか読まれない。成功しているウェブメディアは、紙のコンテンツをうまくウェブ用に編集したり、オリジナルコンテンツを創ったりしている。

この話は、電子書籍にもそっくりそのまま当てはまる。現在、マンガアプリ市場で「comico(コミコ)」が急激に成長しているが、人気の理由の一つは、スマホの特性にあったオリジナルコンテンツやインターフェースを創り上げた点にある(詳細はこちらのマンガアプリ特集を参照)。

もう一つの問題が、本の「長さ」だ。紙の書籍は、200〜300ページ、文字数で1万字程度というのが一般的だか、この長さに必然性があるわけではない。100ページで語れる内容を、無理やり200ページに引き伸ばしているような本はたくさんある。

スマホの浸透により、時間の“細切れ化”が進んだ現代において、200ページはいかにも長い。かといって、ウェブ記事や雑誌記事のように、数ページ〜20ページ程度では短すぎて、お金を払う気になりにくい。しかも、短すぎると、内容が単純になり、ストーリー性や深い分析を加えにくくなる。

お金を払うだけの価値を感じてもらうには、分野にもよるが、300〜500円ぐらいの価格で50ページ程度というのがベストではないだろうか。

Pick 2:アマゾンに挑んで、一蹴されたバーンズ&ノーブル

MICHAEL J. de la MERCED, “Barnes & Noble to Spin Off College Bookstores Unit” The New York Times(2015年2月26日)

米国において、電子書籍の分野で、王者アマゾンに挑んだプレーヤーがいる。全米最大の書籍チェーン、バーンズ&ノーブル(B&N)だ。2009年には、電子書籍端末の「NOOK(ヌーク)」を発表し、Kindleの最大のライバルの一つと称された。

それから5年余り、「NOOK」はどうなったか。一言でいうと「惨敗」だ。

多額の投資をつぎ込んだものの、セールスは伸び悩む。2013年には、事業再建のため、マイクロソフトから6億ドルの出資を受けた。しかし、その後もセールスは右肩下がり。現在はマイクロソフトとの提携も解消し、サムスンからハードウエアの提供を受けている。

最新の四半期決算(2014年9〜11月期)の数字を見ると、「NOOK」事業の売上高は、前年同期比41.3%減の6390万ドルに急減。EBITDAベースの損失は3760万ドルに上る。もはや「NOOK」に未来はないだろう。

惨敗の理由は「タブレットの普及により、電子書籍専用端末のニーズが落ちたこと」など多くある。ただ、根本的には、ソフトウエア、ハードウエアに強みのない書店チェーンが、アマゾン、アップルに挑むこと自体が無謀だった。投資規模、人材の層、ハードの販売網という点でもあまりにも差がありすぎた。
図_B_Nの売上高推移

2月27日に同社は、唯一の成長部門である大学書籍部門を分社化すると発表。本体に残された、書店部門とNOOK部門は右肩下がりが続いており(上図)、もはや成長は望めない。今後は、全米で105億ドルに上る大学書籍マーケットをめぐって、アマゾンと再び争うことになる。

Pick 3:アマゾンが繰り出す、コミコ型サービス

Husna Haq, “Will Amazon`s Kindle Scout democratize publishing?” The Christian Science Monitor(2015年2月27日)

昨年末、アマゾンは、クラウドソースで著者を発掘する「キンドルスカウト」をスタートすると発表。3月に入り、その最初の10作品が公開された。

「キンドルスカウト」とは、いわば読者参加型の出版コンテンストだ。まずは出版を希望する書き手の原稿を募集し、その一部をサイトに公開。その中から、読者投票で人気だったものを作品化するという仕組みだ。著者には、1500ドルのアドバンス(前払金)と、50%の電子書籍の印税が支払われる。

このサービスは、実力を認められた投稿者は、公式作家として正式契約できるコミコのやり方とそっくりだ。既存の書籍業界のプレーヤーがあたふたしている間に、アマゾンは着々と新サービスを打ち出している。

Pick 4:ニューヨーク・タイムズの元編集主幹の前払金、1億円超えか

Keith J. Kelly, “Ex-Times editor Jill Abramson inks $1M book deal” New York Post(2015年2月25日)

昨年5月、全米のメディア界を賑わせたニュースがある。ニューヨーク・タイムズ(NYT)の初の女性編集主幹、ジル・エイブラムソンの電撃解雇だ。その注目の人物が、「メディアの未来」をテーマに本を出すことが発表された。

NYT移籍前には、ウォール・ストリート・ジャーナルで17年間にわたり調査報道を担当していたエイブラムソン。その取材力を生かし、伝統メディア、新興メディアの両方の視点から、未来のメディアを描いていく。

話題の著者による、話題のテーマということもあり、その出版権をめぐり、出版各社で激しいデットヒートが繰り広げられた。

最終的には、大手出版社のサイモン&シュスターが落札。その前払金は100万ドルと報じられている(NYTの記事では、会社側が「その数字は正確ではない」と否定。ただ、多額であることは間違いないだろう〈Jill Abramson, Former Top Times Editor, Signs Book Deal〉)。

日本とアメリカの書籍市場の大きな違いが、前払金の有無である。

米国の場合、ある程度、実績のある著者であれば、数百万円、数千万円、時には、数億円の前払金をもらうことができる。これだけのお金があれば、仕事を掛け持ちせず、創作に集中できる。

この制度が、米国の書籍のクオリティーの高さに貢献していることは間違いない。林真理子さんのように、複数の連載を掛け持ちしながら、それぞれで高いパフォーマンスを出せる人もいるだろうが、一つに集中したほうがいいタイプも多いと思う(NHKの「SWITCHインタビュー」で、『のぼうの城』『村上海賊の娘』の著者である和田竜さんは、作品執筆中はほかの連載は持たないと言っていた)。

この前払金制度を、日本でもうまくアレンジしたら面白いと思うが、どうだろうか。

日本の書籍市場、電子書籍市場を盛り上げるには、単に今までの繰り返しや効率化ではダメだ。アマゾンとのガチンコ勝負はもっとダメだ。アマゾンが真似できないような、流通、マーケティング、コンテンツ創り、マネタイズの新しい方法を編み出すこと――それがアマゾン対抗の唯一の策である。

※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載する予定です。