2023/8/1

ビジョンから、内製化まで。「プロダクト」からDXを“一気通貫”で実現する

NewsPicks Brand Design Editor
 2021年にデジタル庁が創設され、まさに官民一体となり、業務効率化から新規事業開発まで、実にさまざまな領域で「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」が進められている。
 しかし、そのDXは本当にTransformation(事業変革)に繋がっているだろうか?
「プロダクトドリブンであることが、変革の起点になる」
 そう語るのは、デジタルプロダクトの企画開発、運用を軸にDXを推進するGNUS(ヌース)代表取締役CEOの文分邦彦氏と、三浦直也氏だ。
 なぜ、DXにおいて戦略や組織よりも、デジタルプロダクトが重要なのか。
 元ファミリーマートDX責任者で「ファミペイ」の垂直立ち上げをリードしたDX JAPAN代表 植野大輔氏とともに、プロダクト起点での企業変革の重要性、そしてそのプロダクトとは何かを明らかにしていく。

DXの一歩目は「組織変革」

──今は官民双方のさまざまな領域でDXが推進されていますよね。
植野 企業が永続的に生き残るために、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織を変革するのは当たり前になってきました。
それが「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」。DX不在の経営戦略は、ありえない時代となっています。
 デジタルは、もはや電気やガスと同じ“インフラ”です。使わなければ経営が成り立たないわけだから、DXに取り組まない理由はありません。
 ただ重要なのはDXの「X(Transformation)」である企業変革です。しかし多くの企業は未だに「D(Digital)」に目を向けている。
文分 僕は、電通出身でアメリカに出向していた時期があったのですが、彼らにはDXへの意識改革が必要ない。
骨の髄からデジタルを使うのが当たり前なので「DX、DXとやたらに多用する日本人の気持ちがわからない」と言われることもあって(笑)。
 デジタルネイティブの集団だからこそ、UberやAirbnbみたいなデジタルプロダクトが生まれて、法律を変えてしまうインパクトを与えられるのかなと。
植野 僕は変革としてのDXが進まない最大の壁は、“組織”にあると考えています。現状、特に日本の企業は各組織の縦割りが強すぎて、デジタルの横串が入らない。
 つまり、組織の在り方自体を変えなければ事業変革としてのDXは進めにくい。
 だから現在、僕は経営層向けのDXアドバイザーとして仕事をしていますが、真っ先にとりかかるのは、クライアントの経営の仕組み、意思決定システムの変革を通じた組織変革なんですよ。

DXは「まず試合をする」から始まる

──DXの意識改革、組織への横串……。実際にDXを進めるには、何から始めればいいでしょうか?
文分 本来は、植野さんが先ほどお話しされたように組織の意識改革をして、その後にデータ基盤を整備して、プロダクトをリリース……と順番に取り組みたい。
 でも、手っ取り早いのはまずやってみる。これに尽きます。僕がよくメタファーとして伝えているのは「まず試合をしてみようよ」ってことなんです。
──試合をする、ですか。
文分 たとえば、すぐにサッカーが上手くなるにはどうすればいいか。それは「経験者と一緒に試合をすること」です。
 自分たちでいくらテキストを読み、理論、戦術、テクニックを学んでも、フィールドで再現できるとは限らない。仮に自分が上手くなったとしても、試合に出なければ実践で通用するかどうかもわからない。
植野 わかります!僕は、よくそれを“通信空手講座”を比喩にして話しますね。いくら通信の教材を読んで正拳突きばかりしても、試合では勝てませんから(笑)
文分 DXも同様なんです。戦略や戦術を練るのに時間を使い過ぎるよりも、自社が提供できそうなプロダクトやデジタルサービスをとりあえず作ってリリースしてみる。
 しかし、多くの企業はまずDXの専門組織を作って、組織改革をしつつ、データ基盤を整備して、ようやくプロダクトをリリースしがちです。
 でもプロダクトは一度もマーケットで“試合”をしてないわけですから、当然勝てる可能性は低くなるし、PDCAも遅い。これでは意味がありません。
 GNUSはそういった企業に対してパートナーとして入り、スピード感をもって、プロダクトを中心にした変革を一気に進めています。
 一緒にプロダクトチームを作り、プロダクトの垂直立ち上げを行い、マーケットに対してアジャストしていく。そしてクライアントの成功体験を増やし、内製化できるレベルまで伴走します。
プロダクトチームの組成から、内製化まで一気通貫で行う。そういったニーズは大企業に限らず多いんです。
iStock / Rudzhan Nagiev
植野 僕も文分さんと同様「まずやること」が重要だと感じますが、残念ながらその視点を経営層が持っていないケースも多いんですよね。
 実際「DXを推進したい」とご要望のある企業の経営者でも、自分ではキャッシュレス決済アプリやタクシーの配車アプリを使った経験がないアナログな方もたくさんいらっしゃいます。
 そんな状況でどう変革していくか。
 核となるのが「MTP(Massive Transformative Purpose)」です。これは個人や組織が、たとえば30年以上先に実現する、現状とはまったく異なる世界観のような意味合いです。
 たとえば、オンライン会議の「Zoom」も、創業者のエリック・ユアンさんが、30年前に生み出した構想だとされています。
 この「MTP」がいかにワクワクするもので、ポジティブな変化を可能にする世界観だと、認識してもらうことが重要です。

変革には「ビジョン」の共有が必要だ

三浦 GNUSも同じ考え方を持っています。我々の場合は、「MTP」を「ビジョン」と表現しています。クライアントとご一緒するときは、ビジョンの共有も大切なポイントです。
 先ほど文分がお話ししたように、GNUSはプロジェクトが始まると、なるべく早くプロトタイプを開発し、実際に動くプロダクトをクライアントに共有して、世界観のイメージを合わせていきます。
 そしてプロトタイプを用い、PoCで事業性やUXの検証を行い、世に出すのか、あるいはクローズするのかを素早く判断する。
「GO!」の判断が出たらクライアントを巻き込み、クライアントと一緒に、リリースするまで一気に駆け抜ける。
 でも、我々がリードし過ぎると、リリース自体が目標になってしまいがちなので、内製化まで見据えたサポートをするのが重要です。
 ポイントは、プロダクトを軸にしながら「どう事業インパクトを出していくか?」といった議論が、自然と生まれる環境を醸成していくこと。
 そこで必要なのがビジョンです。
 自律した組織になるためには「10年後、会社はどう変わるべきか」「なぜ、変わらないといけないのか」と、互いにコミュニケーションをとり、ワクワクしながらも信じられるビジョンを構築していく必要がある。
 すると、社内でビジョンを信じてくれる人が増える。結果的にオーナーシップを持った社員が増え、アップデートなどの継続的なエンハンス、最終的には内製化に繋げやすくなる。
 このデジタルプロダクトのチーム組成とプロトタイピング、ビジョンの共有、プロダクトリリース、そして内製化まで一気通貫でDXを推進できるのがGNUSの最大の強みです。
──何か具体的な事例はありますか?
三浦 たとえば、スマートフォンでラジオが聴けるアプリ「ラジコ」で、コンテンツ資産を活用した顧客体験の創出と、新たな事業成長基盤の構築をご支援しました。
 「ラジコ」を提供するradikoは、スマホ黎明期からサービスを提供しており、現在ではユーザーが1000万MAU(Monthly Active Users)に迫るまでに成長しています。
 しかしローンチから年月が経ち、開発の技術的負債が大きくなってきたうえ、YouTubeやTikTokなど、動画やエンタメアプリが隆盛を極めてきたため、プロダクトのアップデートが急務の状況でした。
 そこでGNUSが入り、PoCを通じて次世代プロダクトのロードマップを立案し、フロントエンドからバックエンド、インフラの開発を行いました。
 その結果、聴取履歴などをベースにユーザーレコメンデーションの最適化や、回遊性の高い新しいUXの構築を実現。それによって、新たな収益を拡大できる基盤も構築しました。
 さらにクライアント社内でも、持続的に改善できるよう内製化構築も支援。こういった一気通貫の支援で、アプリストア評価は4.4へと上昇しました。
──植野さんもファミリーマートの「ファミペイ」では、プロダクトを起点としたDXをリードされていましたね。
植野 ファミリーマートには当時デジタル専門組織がなかったのですが、そのなかで「ファミペイ組織」の垂直立ち上げをしました。
 ファミリーマートの場合は、当時社長だった澤田貴司さんがデジタルで全社改革をするという強い意志とビジョンを持っていたので、「まずやる」という気運はありました。
 しかしコンビニサービスは、一般的なデジタルサービスとは違います。
 2019年当時、約1万6400の店舗でプログラムが正常に作動し、約30万人のアルバイトスタッフが「ファミペイ」を導入する意味を理解し、お客様に勧め、継続してご利用してもらう必要がありました。
 つまり経営者や本部社員だけでなく、アルバイトスタッフも含めた全員が「ファミペイ」がもたらす未来にワクワクしないと、DXが進まない。
 そのためには組織全体が、DXで素晴らしい世界がやってくるという“臨場感”を持つ必要があった。
 経営メンバーのミーティングを毎週しましたし、店舗でもオペレーションを担うアルバイトスタッフの方々に、デジタル化の重要性を全国行脚して徹底的に説明しました。
 GNUSさんでいうビジョン、つまりファミペイの未来をわかりやすく伝える動画も作り、組織全体にファミペイによってポジティブな未来がくるんだと、とにかく情報発信に腐心しました。
 そういった取り組みもあって、競合のコンビニチェーンが決済アプリ開発に苦戦するなか、8ヶ月という短期間でファミペイをローンチし、1年間で500万ダウンロードを達成しました。
 アプリはもちろんですが、顧客への価値提供を最大化するためのデジタル基盤構築ができたのは、非常に大きな意義があったと思います。
 また、僕が意識したのはDXのXができる人材をしっかり育てること。DXのDは短期的にプロ人材の力を借りましたが、一方でDXのX、変革の力だけは内製化しなければいけない。
 だからチームメンバーには、BCGで培った戦略コンサルの変革手法をトレーニングしながら、DXの実践を通じてスキル向上に努めてもらいましたね。

DXの“チーミング”を担う人材が求められる

──お二人の話をお伺いしていて、DXには「プロダクト」「ビジョン」「内製化」がキーワードになることがわかってきました。GNUSが、それらをまとめて伴走できるのはなぜでしょうか?
三浦 まず、我々は課題に対して最適なメンバーをアサインできるのが理由の一つです。
 実は、弊社にはエンジニアの社員がいないんです。ただ、約400人のデジタル人材のネットワークから、エンジニアをはじめとしたプロフェッショナルと連携しています。
 その中で、各プロジェクトに適したスキルや経験のある人材を差配し、チームを作っていく。
 DXにかかわる企業の悩みに合わせて、カスタマイズしたチームで課題解決できるのが強みです。
文分 一口にエンジニアといっても、フロントエンドとバックエンドで違うし、アプリエンジニアからAIエンジニア、UI/UXに長けたエンジニアもいる。
 今のプロジェクトで、どのタイプのエンジニアが必要なのか、どのレベルのエンジニアが必要なのかを把握したうえで、社内で採用することは難しい。
 課題に対して、能力を最大限発揮できるエンジニアに依頼できるかどうかはプロジェクトの成果にも大きな影響を与える。特にアジャイルな動きが必要なプロジェクトでは、クオリティ的にもスピード的にも、圧倒的なメリットが出ることがあります。
植野 幅広い課題があるなかで、企業がDXを一から自社で取り組むことは不可能。となると外部人材に力を借りる必要がありますが、一人でコードを書けて、データサイエンスもできて、UI/UXも作れる“ウルトラDX”人材なんていません。
 ですから、プロダクトマネージャーのように、自社が目指すビジョンや作りたいプロダクトに合った人材をチーミングできる人は重要ですよね。
文分 そうなんです。我々のもう一つの強みは、クライアントの要望に対して、プロダクト起点のDXを進めるカスタマイズチームを作れることです。
 そうして戦略から実装までしっかり伴走するだけでなく、クライアントの内製化までを一気通貫で実現していく。
 他のコンサルティング企業では、ここまでクライアントの事業課題や組織に入り込まないと思いますね。大変なので(笑)
 ただ、そういったDXにおけるコンサルティングノウハウが弊社にはある。だからこそ新しく入社したメンバーも、高いレベルのプロダクトマネジメント力を身につけられる。
 このスキルは今後、さらに市場価値が高くなるはずですし、他社では得られない経験だと自負しています。戦略性を持ちながら、手触り感のあるビジネスをしたい方には、最適なフィールドだと思いますね。
 我々のミッションは「ビジネスを動かすプロダクトを。」。
 今後も新しいメンバーを迎えつつ、力強いプロダクトを作り、企業を飛躍させる原動力となっていきたいですね。