2023/6/6

【人的資本経営】「知」の循環が日本成長のカギとなる

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 近年、DX推進や社会課題の複雑化などによって、専門家の高度な「知」が求められる場面がより増加している。大手コンサルティングファームが採用を強化するなど、ハイエンド人材の獲得合戦は激化。

 一方で、働き方が多様化し、国をあげた副業推進や独立を目指す人が増えるなど、ハイエンド人材も社会の変化に合わせて自由な環境を求める人も少なくない。

 人材不足が確実な日本の未来を左右する、人的資本のシェアリングの価値とは。

「人が活きる、人を活かす。」を軸にコンサルティング領域の人材紹介事業で着実に成長を続け、正社員採用だけでなくフリーコンサル、スポットコンサルなど複合的なサービスを展開するアクシスコンサルティング代表取締役社長・山尾幸弘氏と、国内外の企業の経営戦略やイノベーション創造に知見が深い、早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄氏が、日本の課題解決に必要な「人」の価値を語り合った。

アクシスコンサルティングとは何者か

入山 はじめまして。2023年3月28日、東京証券取引所グロース市場へ上場されたのですね。おめでとうございます。
 私が教授を務める早稲田大学ビジネススクールのメイン受講生は大手企業に勤める30代半ばのビジネスパーソンですが、次のキャリア意向を聞くと「コンサルタントになりたい」という声がかなり多い。
 “コンサル”という漠然とした職業への憧れもあるのでしょうが、最も成長できる仕事としてコンサルタントを捉えているようです。
 アクシスコンサルティングの創業は2002年とうかがっていますが、どんな経緯でコンサルティング領域に特化した事業を始められたのですか。
山尾 ありがとうございます。私は90年代初めから人材業界に入り、コンサルティング領域での起業を考え始めたのは2000年頃でした。
 当時は、ERPソフトの導入など業務プロセス改善のニーズが、製造業やサービス業で高まっていました。
 業務効率化に向けたIT化が進み、専門的能力を有したコンサルタントが必要だという声が出始めていたのです。
 また、終身雇用は崩れ、少子高齢化で労働人口不足になる未来は確実にやってくる。
 そうすると、コンサルタントのようなハイエンド人材の需要は今後、確実に高まるだろうと考えました。
 加えて、人材紹介業の「求人を紹介したら終わり」という業界慣習に疑問を抱いた背景もあります。
 私はメーカー出身のため、商品やサービスを提供したお客様へフォローアップやアフターメンテナンスを行うのが当然だと考えていました。
「中長期でキャリアをフォローしないのはなぜ?」と、当時の業界内では“異端児”のように見られながらも、転職支援後もスキルアップやキャリアアップをフォローし、ライフタイムに伴走していきたいと動いてきました。
 当時はまだ「就社主義」が色濃く残っていましたが、人口減少で大転職時代がやってくるだろう、と。
 その時代では、中長期で伴走するやり方が求められるだろうし、誰もやっていないからこそ追求したかったんです。
入山 市場の流れと業界課題を捉え、新しいチャンスを見いだしての創業だったんですね。
山尾 おかげさまで、創業から20年間で約8万人のキャリアを支援してきました。
 アクシスコンサルティングの平均転職支援期間は3年です。本人のキャリアプランに照らし合わせ、「今は転職する時期ではない」と判断した場合は、無理に転職を勧めることはありません。
 今では大手コンサルティングファームに在籍する現役コンサルタントの4人に1人が登録いただいております。
 また、コンサルタントから事業会社のCxOや経営企画、マネジメントへの転職を支援する「ケンブリッジ・リサーチ研究所」もグループ会社として有しています。

誰もがコンサルタントを活用できる世界へ

入山 20年間事業の主軸であった人材紹介事業から、「スキルシェア事業」へも展開を広げられています。
山尾 私たちのスキルシェア事業は、企業の課題解決において、外部人材リソースを提供(シェア)することを指しています。
 コンサルティングファームのお客様の多くは上場企業などの大手です。
 全国に約350万社あると言われる中小企業でコンサルティングを利活用できているところはなかなかありません。
 中小企業のコスト的にも、コンサルタントの働き方としても、既存のビジネスモデルではマッチングさせるのが難しい。
 私は、そうした中小企業の方たちにこそ、コンサルタントの持つ力をシェアしたい。
 だからこそ、副業・兼業を含めたコンサルタントによる課題解決を推進していきたいと考えています。
※1 大手コンサルティングファームに在籍している現役コンサルタントの登録人数の割合は、Big4と呼ばれるデロイトトーマツコンサルティング合同会社、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社、KPMGコンサルティング株式会社およびPwCコンサルティング合同会社の4社を「大手コンサルティングファーム」と定義し、2022年12月時点の該当4社のホームページで確認できる人員数を合算したものを基準とし、算出時点におけるアクシスコンサルティングの人材データベースで認識した上記4社に在籍しているコンサルタント登録人数に基づき算出している
入山 その課題感は本当に重要ですね。
 今、日本中の中小企業がものすごく人材不足で、なによりも経営者不足に悩んでいます。
 コンサルタントが副業のような形で入る選択肢が広がれば、助かる企業はたくさんあるでしょう。
山尾 フリーコンサルのサービスを始めたのは2016年です。2018年に政府から副業・兼業促進のガイドラインが出て、ようやく大手企業が動き出しました。
 大手コンサルタントファームでの副業解禁がますます広がれば、戦略・DX分野などのハイエンド人材の「知」をもっと世の中に循環できるようになります。
 2022年7月からは、さらにスポット的にコンサルタントを活用できるプラットフォーム「コンパスシェア」をスタートしました。
入山 現役コンサルタントが、デジタル経営のノウハウを身につけてから外に出て、いろんな中小企業の経営に貢献できるようになる。それが理想的ですね。
「コンパスシェア」は、コンサルタントに限定した副業専用プラットフォームで、非常に独自性を感じます。
山尾 「コンパスシェア」の活用法としては、たとえば「ITベンダーの選定に困っている」「IT投資に失敗し正解の道筋がわからない」といった悩みを解消し、効率化につながる発注を叶えるべく、高い専門性と経験を持ったコンサルタントがベンダーの選定を請け負うなどしています。料金は1回3万5000円程度からです。
 サービス開始からまだ1年弱ですが、さまざまな反響をいただいており、高い可能性を感じています。
 また、スポットコンサルで課題の発見や整理を行い、もし「実行まで手伝ってほしい」となれば「フリーコンサル Biz」を活用いただき、フリーランスのコンサルタントにプロジェクト型で課題解決の伴走をしてもらう。
 さらに、ノウハウを内製化したい・人材育成をしたいといったニーズが強くなれば、正社員としてハイエンド人材を採用する選択肢もあります。
 足元の課題解決のために焦って採用するのではなく、本当に必要な人材を適切なタイミングで活用しましょうと提案し、柔軟に動いています。
入山 私もいろいろな企業の経営会議に参加する機会がありますが、「専門的な方に入ってもらって第三者視点がほしい。でも、コンサルタントにしっかりコミットしてもらうほどでもない」というニーズは確実にあると感じています。
 そのよい塩梅のところを、フリーコンサルやスポットコンサルが提供してくれるわけですね。
山尾 スキルシェア事業の主なターゲットは中堅・中小企業です。
 日本には、良い知的所有権や技術、ノウハウを持った中小企業がたくさんありますが、経営力に課題があり、廃業していく企業が後を絶ちません。継承のためには自前主義では限界があり、社会全体がもっとコンサルタントを活用すべきです。
 高い専門性を持った彼らを、1社で囲い込まずにシェアしていくことが、社会全体を発展させることにつながると思っています。
入山 私も中小企業の事業承継に強く興味があります。
 日本の企業全体の99%は中小企業で、ほぼすべてが同族経営です。
 業績は黒字なのに後継ぎがいなくて廃業していくというのは大きな課題ですし、やはり変化の激しいこの時代、経営力が求められますよね。
 経営の力を持ったコンサルタントが部分的にでも、その知見を提供することで、中小企業を救う大きな一助になり得る。
山尾 たとえば、地方銀行から 「地場産業の発展に挑んでいるが、経営課題が専門化しており対応できない」「経営コンサル人材にサポートしてもらいたい」というニーズを受け、副業人材やフリーランスのコンサルタントを紹介しました。
 ほかにも「社内リスキリングの知恵を貸してほしい」という声に対して、実行支援を行うことも。
入山 コンサルタントの定義は、これからますます多様化し、曖昧になっていくと思うんです。
 事業会社でコンサルタント的な業務を担う方もいるでしょうし、知見を持っている方もいる。そうした“ハイエンド人材”の定義はどう決めているのでしょう。
山尾 当社では、課題解決と価値創造ができる高いレベルの専門性と能力を持った人材と定義しています。
 コンサルティングファームは、あらゆる産業セクターでソリューションを提供していますが、戦略・IT・組織などの分野に細分化されているため、特定の専門性や知見を持っているコンサルタントが多い。
 そのため、相談内容に応じて、登録するコンサルタントが経験したプロジェクトやインダストリー、サービス内容を開示し、企業が「このプロジェクト経験を当社に応用してアドバイスしてほしい」と思っていただけたらマッチングする仕組みです。
入山 なるほど。コンサルタントに対するイメージって、業界内と外でかなり違いますよね。
 外からは「賢そうなことを言ってくる、いけすかない存在」と、コンサルタントの存在に抵抗感や壁を感じている人もいます。
 ひとつのプロジェクトや新規事業の立ち上げなど、小さな単位からでもコンサルタントが持つ専門性や経験に接する機会が増えれば、そのハードルが下がって「彼らが持つ、こういう知見が役立つんだ!」と実感できるようになる。
 そうすれば、コンサルタント全体へのイメージも変わっていくと思います。

ChatGPT時代のコンサルの役割とは

山尾 今、話題を集めるChatGPTなどLLM(大規模言語モデル)を有したAIの登場によって、スポットコンサルのような「専門家の知識」も、AIで置き換えられるのでは?という見方もあると思いますが、私はそれが可能な部分と人にしかできない部分があると考えています。
 即時的な課題解決では、AI活用による自動化や効率化への流れはあるでしょう。
 一方で、人や組織の問題をどう捉え、何を内製化すべきか、どうリスキリングを進めるかといった最適化には、時間をかける必要があります。
入山 そうですね。一般的な解はChatGPTが答えてくれても、個々の企業の状況と課題を見いだしていくとなれば、専門知識を備えた「人」じゃなければ難しいでしょうね。
 コンサルの「知」がコモディティ化していくという昨今の見方や、ChatGPTが世界をどう変えるかについて、私は3つの観点があると思っています。
 ひとつは、インテリジェンス(知性)のコモディティ化が進むということ。ChatGPTのようなLLMの登場には、私個人はインターネットの登場より大きい可能性を感じています。
 インターネットの時代には知識がコモディティ化されましたが、ChatGPTはインテリジェンスをコモディティ化し、人が言うことは似通ってくる可能性があります。
 そうなると大事になるのが「誰が言ったか」。何を言ったかはコモディティ化されるのであまり重視されず、誰の発言かが、内容の価値を決めていくでしょう。
 その観点では、コンサルタントは肩書を含めた人格ですから、「あの人が言うなら納得できる」という信頼性の担保につながり得ます。
 培ってきた経験や実績、その人の持つ背景が重視されるからこそ、AI活用が広がっても、特定分野のコンサルタントのニーズは伸びていくと思っています。
 もうひとつは、肉体労働や頭脳労働の時代は終わり、これから人に求められるのは「感情労働」だということ。これは、ロイヤルホールディングス代表取締役会長の菊地唯夫さんから教えていただいた言葉です。
「あなたの会社はこうした方がいい」というアドバイスをAIに言われるのと、コンサルタントに言われるのとではまったく違う。
 人に残るのは、感情を持つという価値です。ですから、コンサルタントの仕事の重要なポイントは、知見の中身以上に、その人の“感情を動かす話しぶり”になってくると思っています。
 3つ目は、ドメインナレッジです。深い事業知識からくる知の提供は、絶対にChatGPTにはできない。
 アクシスコンサルティングには、この3つの提供が求められるのではないかと考えています。
山尾 非常に納得感があります。
 私たちのサービスをユーザー視点で考えても「誰がコンサルティングをしてくれるのか」、その人物像をどれだけわかりやすく伝えられるかが、今後のサービスのカギになると思っています。
 だからこそ、リカーリングモデルで「最初から最後まで」伴走する我々のビジネスのあり方は、人が持つ価値を活かす競争力になると自負しています。

その人だけが持つ価値をいかに社会に活かすか

入山 企業がコンサルタントに求めていることのひとつは、「言い切り」だと思うんです。
 たとえば、僕のような学者は、正確性や学術的な担保を求めるあまり、奥歯に物が挟まったような話し方をすることがよくある。これは学者としてはあるべき姿ですが、逆に、背中を押してもらいたいとか、心の救いを求めているような経営者やビジネスパーソンには歯がゆいところもあるはずです。
 彼ら彼女らはむしろ、「このやり方で大丈夫です」「ここは課題があるから直しましょう」などと明確な方向性の助言がほしい時も多い。
 言い切るとなれば、コンサルタントへの信頼性が不可欠です。
 アクシスコンサルティングでは、紹介決定後のアフターケアもされていて、その方の成長やキャリアアップを見ているので、レピュテーション(評価)の信頼性も高い。そこは間違いなく強みになるでしょうね。
山尾 そうですね。業界慣習としてアフターケアは長くて3~4か月ですが、当社は中長期にわたり、継続してフォローを行ってきました。
 今後は、もう一歩進んで、見込み顧客を顧客にしていくナーチャリングを強化していきます。候補者の養成までを打ち出していきたいと考えています。
入山 おもしろいですね。人的資本投資が進む中で、仕事のコモディティ化も加速しています。
 誰でもできるようなテンポラリージョブは、それはそれで必要な仕事ではありますが、買いたたかれて不健全な働き方になっている面も正直あります。
 やっぱり、一人ひとりが、その人格を信頼してもらって価値を提供するという仕事のマッチングが、本当は望ましいと思うんです。
山尾 おっしゃる通りで、企業側もそれを一番求めているんです。
 デジタル化が進み、コンサルティングの内容自体はコモディティ化していくとしても「当社に合う人物」に関わってもらいたい。その気持ちは確実に残ります。
入山 人的資本投資の大事なポイントは、一人ひとりがいかにハッピーに、世の中に価値を出す仕事ができるかにあります。
 その意味で、アクシスコンサルティングのサービスは、コンサルタント一人ひとりが自分のキャリアの中で、いかに価値を上げていくかということに寄り添っている。
 本当の意味での人的資本投資の考え方に叶っていますよね。
山尾 ありがとうございます。今後は、どんな実績を持つ人がどんな業務において価値提供できるのかを可視化していく必要があります。
 プロジェクト内容や品質のみならず、コンサルタントの人となりを示す評価を仕組み化することが目下の課題ですね。
入山 それができたらおもしろいし、サービスとして大きな付加価値になりますね。
 私がいろんな企業の悩みを聞く中で感じているのが、CHRO不足という課題です。人に関わる仕事なので、同じ業界でも企業によって課題が違うし、戦略も企業文化もまったく違う。
 たとえば、CFOにはファイナンスの“汎用的な知識”が共通して求められます。他方、人事には汎用的な知識が少ないので、自社にフィットするCHROを見つけるのは、とても難しいんです。
 ですから、「この方は、こういう性格で、こういう話の仕方をするから、この会社に合いますよ」といったマッチングがデータに基づいてできるとすごくいいなと、話を聞いていて思いました。
山尾 勉強になります。労働人口が減っていくのは自明の理です。
 企業はすべてを内製化できないし、する必要もないでしょう。市場も技術革新も変化が激しく、中で専門家を抱える意味もなくなっています。
 人が足りないこれからの時代において、適材適所を進めるには、正社員と外部の人的資本を活用しながら前に進むしかありません。
 効率性の観点からも、多様な組み合わせこそが企業を強くするのではないでしょうか。
入山 私が日々、相対するビジネススクールの学生の多くは、コンサルタントをキャリアの通過点に捉えています。
 コンサルタントの経験は経営を俯瞰して課題解決する勉強になるし、場数も踏めるけれど、「当事者としてやり切る」のとはまた違う。最後は、やり切る側に行きたいという声も非常に多いんです。
 その声を拾っていく上でも、コンサルタントとしてのキャリアビジョンを中長期で作っていくアクシスコンサルティングの取り組みは、とても興味深い。
 たとえば、大手コンサルファームに何年か在籍している方が、「コンパスシェア」を通じて副業をやり、気づいたら別の会社のCFOやCHROをやって事業の立て直しに貢献した。そんなケースがいくつも生まれたらすごくいいな、と。
 これからの日本には、M&Aが必要です。そのときに求められるハイエンド人材が活躍していけば、日本全体がよりよくなると思っています。
山尾 まさに、そのためのインフラを提供し、使いやすいサービスを作っていきたいと思っています。
入山 仮に知見がコモディティ化するとしても、相当時間がかかります。
 加えて、私の理解として、経営はコモディティ化しません。総合格闘技ですし、なにより会社のビジョンや意思の問題なので、何をしたいのかは会社が決めること。
 それを“やり切る”ことが経営には必要です。
 経営者の仕事も、コンサルの仕事も、やり切るためのサポートが仕事の大半を占めています。つまりそれは、私たち人間にしかできないことだと思っています。
 アクシスコンサルティングの今後の挑戦にも期待しています。