2023/6/8

【徹底解説】Notion AIは、私たちの仕事をこう変える

NewsPicks NewsPicks Brand Design 編集長 / NewsPicksパブリッシング 編集者
 まず、この記事本文をNotion AIで要約してみよう。
 本稿が貼り付けられたNotionのエディター上で、スペースボタンを押して、AI機能を呼び出す。プルダウンから「要約」を選択すると、ものの数秒で以下の文章が生成された。
Notionは、ドキュメントの作成と共有、メモの作成、プロジェクトとカレンダーの管理、知識の整理などをすべて一箇所で行えるコネクテッドワークスペースであり、AIアシスタントを統合しています。
Notion AIは、ドキュメントやメモ書き、プロジェクト管理、Wiki、カレンダーといった統合ワークツールのコレクションに、柔軟なAIアシスタントを統合しています。
Notion AIの機能には、仕事を早くすること、よい文章を書くこと、創造性を高めることがあります。Notion AIは、日本のユーザーにも多く利用されており、日本のビジネスを前進させることを目指しています。
 10分から15分ほどかかる、筆者のタスクが、一瞬で片付いた瞬間である。本稿を通して、LLM系AIの興隆のワケ、及びNotion AIの正体とそのTipsをお届けしたい。
 2023年2月23日、万能ツールとして話題を呼んできた「Notion」に、AIを組み込んだサービスが発表された。
 Notion AI──。
 2022年11月末、OpenAIが「ChatGPT」を発表し、広く一般に利用されるようになると、その衝撃はまたたく間に世界を駆け抜けた。画像やテキストを生成するAI(Ganerative AI)が続々と登場。生成系AIを利用したサービスは、さながら大開拓時代とも言うべき様相を帯びている。
2022年の世界の生成AI市場は106億米ドルに達した。そして、2023年から2032年にかけて、この市場は31.4%という最高のCAGR(年平均成長率)で、1,519 億米ドルに達すると予想されている。(marcket.us社の2023/4のレポートよりNewsPicks Brand Designが作成)
 そうした中、大規模言語モデルであるLLM(Large Language Model)を利用したアプリケーションAIの先駆けにして、最強のポテンシャルを秘めているツールが「Notion AI」といえる。
「スペース」ボタンひとつでAIを呼び出し、ドキュメントにレゴブロックのように自在にAI機能を組み込める。Notionで仕事をこなすビジネスパーソンにとって、そのポテンシャルは極めて高い。
 Notionは、2020年初頭にリリースし、グローバルのユーザー数は、2021年1月時点で1,000万人を超え、2023年5月現在では、3,000万人を超えている。
2020年9月より日本1号社員としてNotionに入社。現在は日本代表として、営業・マーケティング活動を始めビジネスオペレーション全般を担当。大学卒業後、シスコシステムズへ入社。セールス部門で多数の大手企業のグローバル展開プロジェクトに貢献後、社長室戦略チームにてアジア太平洋地域における事業企画や戦略策定を経験。2012年LinkedIn Japanに立ち上げメンバーとして入社後、人事向け法人営業部門を統括し、日本国内でのユーザー及び顧客層拡大に貢献。2019年WeWork Japanに入社し、営業シニアディレクターとして戦略と組織を構築。日本発の製品を開発し、事業拡大を牽引。福岡出身、オランダ・エラスムス大学ロッテルダム経営大学院にてMBA取得。
 Notion AIは、現時点で「ドキュメント管理」に特化した機能がリリースされているが、Notion Labs, Inc. ゼネラルマネージャー日本担当の西勝清氏によれば、今はまだ革命の入り口にすぎないという。
 革新的な利便性によって、あらゆるサービスをリプレイスしつつあるNotion。そのAI機能がもたらすインパクトはなにか。その内実に迫る。

世界がAIの「手触り」を得た瞬間

──いま世界中でLLMを利用したAIがものすごい勢いでリリースされています。この状況をどう見ていますか。
西勝清 インターネット誕生と同等とも言われるこのインパクトには、2つの理由があると思います。
 1つは、LLMによるアウトプットの劇的なクオリティアップ。もう1つは、チャットインターフェースであったこと。
 GPT-3.0のモデル自体は、2020年5月には発表されていましたが、当時、ほとんどの人にはその凄さは伝わりませんでした。「インターフェース」がなかったからです。
 一般の消費者にとっては実感が持ちづらかったAIが、誰もが使える自然言語、つまり「チャット」と掛け合わさったことで、人々がAIの凄さを「体感」できるようになりました。
──Notion AIはLLMを利用していますが、そのようなアプリケーションは誰でもつくれるのでしょうか。
 そのとおりです。アプリケーションレイヤーのAI(以下、アプリケーションAI)は、商用利用可能なLLMのAPI(アプリケーションプログラムインターフェイス)を使うことで、誰もが開発可能です。
 LLMを自社サービスに取り入れることでサービス強化することも可能なので、「自社データや機能、UIを活かせば何ができるか?」と、オリジナルの使い方を考えられるようになりました。
──それでもNotion AIの正式リリースは2023年2月とかなり速かった印象です。
 共同創業者のアイバン(アイバン・ザオ)とサイモン(サイモン・ラスト)は、AIの動向にはずっと注目していました。
「このクオリティなら、実際に人が触って有用だと感じてもらえる」というタイミングを見計らって、2022年11月16日にアルファ版をリリースしました。世界でも相当早いタイミングでした。
 アイバンとサイモンが「NotionはAIを活用するに最適なUIだ」と語っていたのをよく覚えています。
──最適なUIですか?
 そうです。Notionはチームや個人がより速く、よりスマートに働くことを支援する「コネクテッドワークスペース」を標榜しています。ドキュメントの作成と共有、メモの作成、プロジェクトとカレンダーの管理、知識の整理などをすべて一箇所で行えます。
 Notionは、「開発者だけでなく、誰もがツールメーカーになれるようにする」というミッションを掲げています。データベースを簡単に作成できる機能や、コード不要のブロック機能を備えたテキストエディタなど、習慣管理からCRMシステムまで幅広いユースケースを可能にしています。
 Notionは、Notion AIにより「AIを民主化する」と考えています。新しいエクスペリエンスでは、ドキュメントやメモ書き、プロジェクト管理、Wiki、カレンダーといった統合ワークツールのコレクションに、柔軟なAIアシスタントを統合しています。
 具体的にはAIアシスタントで、Notionをさらに便利にする。これは、Notionユーザーが最もよく使う3つのワークフロー、Wiki、プロジェクト管理、ドキュメント管理にAIを導入するものです。

LLMは「電気」になる

──Notionの各論に入る前に、もう少しAI市場について伺わせてください。LLMが実用化されたことで、アプリケーションAIは社会をどう変えていくと思いますか。
 アイバンの言葉を借りれば、LLMは「電気」になっていくと思います。
 LLMは、ウェブサービスはもちろん、ネット家電、電気自動車など、ありとあらゆるサービスを裏側から支えるインフラになっていきます。
 汎用化する中で、次第に料金は下がり、ゆくゆくはどの会社のLLMモデルを使おうと差がつかなくなるでしょう。
──では、アプリケーションAIを提供する側にとって、何が競争優位性になるのでしょうか。
 その“電気”を使って「何をするのか」です。明かりをつけることも、テレビを見ること も、自動車を運転することもできる。
 ジョナス・ラボイエ(Notion AIのプロダクト責任者)の表現で言うならば、AIは「ハンマー」であるとも言えます。
 プロダクトマネージャーは、AIという大きなハンマーを持っていますが、ハンマーが機能するには「釘」、つまりアプリケーションのニーズとなるペイン(不満)やゲイン(付加価値)が必要です。
 つまり、パワフルなハンマーだけ持っていても、釘(ユーザーニーズ)がなければ、打つものがないというわけです。

Notion AIで「できること」

──では、Notion AIの釘となるユーザーニーズはなんでしょうか?
 それこそ、デスクワークをする上で起こりうる、あらゆるニーズです。
 Notionには、大きく3つの機能があります。
・Wiki(情報管理)
・ドキュメント管理
・プロジェクト管理
 今のNotion AIは、「ドキュメント管理」についてのユーザーの困りごとを、ドンと解決しています。
──具体的に教えて下さい。
 今のNotion AIができることは主に3つです。
 1つは仕事を早くすること。2つ目はよい文章を書くこと。そして3つ目に、創造性を高めることです。
──使いこなすためのコツはありますか?
 コツをつかまずとも、体験としてとても自然に使えると思いますよ。
 Notion AIは、Notionを使っていれば、ボタン一つで、そのままシームレスにAIを利用できるのが大きな特徴です。私たち自身も、翻訳などをよく使っています。別のアプリケーションを立ち上げて連携させるといった作業が必要ないのです。
 ひとつ覚えておくと便利なのが、「カスタムAIブロック」です。
 ドキュメントに対するAIへの指示を、あらかじめブロック化して用意しておけるんです。
 実際にやってみましょうか。カスタムAIブロックの中に「議事録を300字にまとめて、次のアクションアイテムを抽出してください」という指示を入れておきます。
2万字の議事録を数秒で要約し、アクションアイテムを抽出
 あとは、応用編としては、図を自動で生成できる「マーメイド記法」なんかも便利です。フローチャートやガントチャートが作れてしまいます。
マーメイド記法で記述したフローチャート(実際に筆者がHPを見ながら数分で作成)
マーメイド記法で記述したガントチャート(実際に筆者がHPを見ながら数分で作成)

Notion×AIがもたらすインパクト

──LLM自体はあらゆるサービスが使えるなら、「Notion AI」はどこに優位性があるのでしょうか。
 これも大きく3つあります。
 まず1つは、先ほども述べたようにNotion上ですぐに使えること。チームや個人が利用しているNotionのワークスペースでそのままAIが使えます。
 特にツールの使い方を教育する必要もなければ、AIアプリケーションにスイッチする必要もないことが、「Why Notion AI?」のひとつ目のアンサーです。
 2つ目は、人やチームに紐づいた情報が活かせることです。
 Notion上でWikiやドキュメント管理をしていれば、その情報をそのまま活かせます。
 例えば、ChatGPTは自分のプロフィールを入れているわけではないので、指示している人がどんな人間なのかわかっていません。したがって、同じ質問を誰が聞いても変化はなく、プロンプトでチューニングしないと、一般的な情報が回答されます。
 一方でNotion AIは、ドキュメント上に記載している内容を理解して応答します。たとえ ば、プロフィールやプロジェクト概要を記載しておけば、そうした人物像であることを踏まえた回答を出すのです。
 3つ目は、拡張性です。今回のリリースでは主にAIによるライティングのサポートですが、今後はWikiやプロジェクト管理の機能にもAIを実装していきます。
 直近ではプロジェクト管理をサポートする機能として「AI自動入力」をリリースしました。
要約や要点抽出などの設定通りに、AI機能で自動入力の指示が可能。プロジェクトやタスク管理、議事録などに活用できる。
 タスク、プロジェクトなど、大量のデータを保存するデータベースがあるときにAIを使えば、データベースのすべての項目に対して、要約の生成やアクションアイテムの抽出などを行うことができます。
 Notionは、「コネクテッドワークスペース」として、あらゆる情報を集約するツールですから、個人はもちろん、チームにも利便性をもたらすことできます。そしてワークスペースの釘をすべて叩くことができる。
 他のサービスとは一線を画すNotion AIの真骨頂はここにあります。
──たとえば、あらゆるドキュメントをNotionに放り込んでおけば、自動でWikiを作成してくれるといったことも、将来的にありうるのでしょうか。
 現時点、お約束はできませんが、色々な可能性が考えられ楽しみですよね。
 いまドキュメントから何かを探そうとした時、キーワードを入力して「検索」すると思いますが、AIがサポートすれば、文書そのものではなく、「あなたが探している答えはこれですね」と求めていたそのものズバリの回答を、サジェストしてくれるようになるでしょう。
 さらに、こうした機能のリリースは、決して遠い「将来」の話ではありません。社内的にはすでに存在しているものもあり、これから続々と世に出ていきます。
──最後に、AI開発競争が激化する中、日本に注目が集まっている現在の状況をどう見ていますか。
 OpenAI創業者のサム・アルトマンも来日するなど、日本に注目していますが、日本人はAIに対して前向きに取り組む姿勢が各国に比べて強いように見えます。Notionは、いま世界で3000万人が利用するツールになりましたが、実はそのうち日本のユーザーはかなり多いんです。
 一般的に、新たなテクノロジーは、最初にスタートアップ、次にビッグテックなどテクノロジー大手が導入し、それらの動きを見てから最後にエンタープライズや官公庁が徐々に導入を進めていく流れが通例です。
 しかし、日本の動向を見ていると、すべてのプレイヤーが同等のスピードで導入を進めているように見えます。
 大企業でも万人規模でLLMを利用し、都をはじめとした官公庁もすでに導入の動きに入ろうとしている。通常のテクノロジーアダプションとまったく違う動きをしているのです。
 この20年、SaaSをはじめ「生産性向上」を訴える新たなソフトウェアが次々と誕生してきましたが、実際に生産性の明らかな向上を実感できたことは多くはないのではないでしょうか。
 いまAIは、30分以上かけていたことを30秒で可能にし、目に見えて生産性が上がる。それも誰が触ってもわかる。ものすごい衝撃です。
──確かに、目に見えた効果ですね。
 私自身、Notionに初めて触った時、そのポテンシャルに興奮して、夜眠れなくなるぐらい使い込んだというところから、Notionに入社しました。Notionのグローバル支社の最初が、日本であり、その1号社員が私なんです。
 Notion AIの圧倒的なポテンシャルを発揮し、世界に向けて「日本はAIをこんな風に使いこなしているのか」というモデルケースになることで、ナレッジワーカーの生産性を押し上げる。そして日本のビジネスを1歩でも2歩でも前に進め、世界に「すごい!」と言わせたいんです。
 日本にも、Notion AIにも、それだけのポテンシャルが必ずあると確信しています。これがいま最も楽しみで、非常にワクワクしていることですね。