Snapchat Raising Money That Could Value Company At Up To $19 Billion

巨額の資金調達に成功するスタートアップの「お値段」

スナップチャットの企業価値はどのくらいなのか。

「自動消滅機能付き」写真・動画共有サービスを提供するスナップチャットは現在、新たに5億ドルの資金調達を目指している。成功すれば企業評価額は190億ドルに達する見込みだ。配車サービスのUber(ウーバー)の450億ドル、スマートフォンメーカーの小米科技(シャオミ)の410億ドルに続いて、スタートアップのトップ3に入る勢いだ。

ごく簡単な話だ。投資家がある金額を払いたいと思うなら、それが企業の価値になる。それでいいではないか。

ただし、そう思わない人もいる。ニューヨーク大学スターン経営大学院のアスワス・ダモダラン教授(ファイナンス理論)は、企業価値に関する著書『Little Book of Valuation』で次のように述べている。

企業の価値は見る人によって異なり、ある金額が妥当だと思う投資家がいるなら、どんな額でも正当化されるという考え方もある。ただし、これは明らかに違う。絵画や彫刻なら、その価値には人の感覚が大きな意味を持つかもしれないが、金融資産の場合は、その資産を売却したときに受け取れるであろう金額で購入する。

だが、ほかの投資家があなたから資産を買う場合はまさに、あなたは自分が買ったときに想定した金額を受け取りたいはずだ。ダモダランなどが言うような、資産の「本質的価値」をあてにするわけではない。本質的価値は、金融市場ではなく企業の持つキャッシュフローで決まる。

将来の利益に対する評価

企業の本質的価値に基づく投資論の提唱者として知られるベンジャミン・グレアムとジョン・バー・ウィリアムズが、それぞれ名著『Security Analysis(証券分析)』と『The Theory of Investment Value(投資価値理論)』を書いたのが1930年代だったことは、偶然ではない。当時、金融市場はほぼ機能停止していた。機関投資家がいない状態で、株の価値を考えなければならなかった。

グレアムは、企業の資産と売却できるものに注目した。現金や機械、不動産など、金融資産以外で売れるものがあれば、何らかの価値を持つ。これをスナップチャットにあてはめると、これまでのラウンドで調達した資金(昨年12月だけで4億8500万ドルを調達)の残りと、ノートパソコンとデスクが数台で数億ドルになるだろうか。

つまり、スナップチャットの「企業価値」のほぼすべてが、将来の利益に対する評価ということになる。ウィリアムズの配当還元方式も同じ発想だ。株の将来の配当を予想して、現在価値の計算式から差し引き、企業評価額を算出する。

現代の企業は、配当だけでなく自社株の買い入れでも投資家に現金を払うほか、税金などの事情で現金を保有しておきたい場合もあり、配当ではなくフリーキャッシュフロー(株主への配当や金利の支払い、債務の償還などに使える原資)に基づく還元方式を採用している。

フリーキャッシュフローのからくり

スナップチャットは、現段階でフリーキャッシュフローはない。最近まで収益も出ていなかったが、1日で「消える」広告に75万ドルの単価をつけるなど、収益モデルが変わりつつある。将来の利益を想定することも、無謀とは言えないだろう。

たとえば、5年後に1億ドルのフリーキャッシュフローを生み、そこから20年間、毎年25%増えるとしよう。2040年には年間87億ドル。

2014年のグーグルには届かないが、ディズニーは超える。さらに、2040年以降は減少に転じて割引率が年5.6%(クレディスイスの最新の年次報告書によれば、1976年以降のアメリカの事業会社とサービス会社の割引率の中央値)とすると、企業価値は510億ドルになる。つまり、スナップチャットはかなりお買い得だ。

ただし、スナップチャットのように将来の見通しが不確かな事業を柱とする企業にとって、5.6%という割引率は、現実的に考えるときわめて低い。そこで2倍の11.2%で計算すると、企業価値は100億ドルまで下がる。さらに、キャッシュフローの成長率が年25%ではなく20%の場合、2040年のフリーキャッシュフローは32億ドルまで減り(現在のフェイスブックよりやや少ない)、現在の企業価値は51億ドルとなる。

言うまでもなく、これらのキャッシュフローの推算は、適当に挙げた数字を使っている。ブルームバーグ・ビューのケイティ・ベンナーは、スナップチャットの参考事例として、フェイスブックやディズニーよりマイスペース(2011年にニューズ・コーポレーションが売却したときの企業価値は約3500万ドルだった)がふさわしいだろうとみる。

FBはワッツアップを220億ドルで買収

ともあれ、ここで言いたいのは、スナップチャットのように未成熟な企業の本質的価値を算出することが、いかに難しいかということだ。昨年6月にダモダランは、直近の資金調達ラウンドで170億ドルを集めていたウーバーの本質的価値を59億ドルと計算した。

これに対しベンチャーキャピタリストのビル・ガーレーは、市場規模とウーバーのシェアを低く見積もりすぎていると反論した(ガーレーはウーバーに出資して取締役に名を連ねているため、偏りもあるだろうが、基本的に冷静な分析で知られている)。

どちらが正しいかは、まだ誰にもわからない。しかし今のところ、ガーレーが優勢なようだ。昨年12月にウーバーは新たに12億ドルを調達し、企業価値は410億ドルを超えている。

ダモダランも市場価格の重要さはわかっている。価値に感覚は関係ないと大胆に指摘する一方で、株価収益率などを使った相対的評価についても解説している。相対的評価とは、簡単に言えば、似たような条件でほかの投資家がいくらなら払うつもりかを計算することだ。

フェイスブックは昨年、スマートフォン向けメッセージングサービスのワッツアップを総額220億ドルで買収した。ワッツアップのアクティブユーザーは約4億人だ。スナップチャットのアクティブユーザーは少なくとも1億人、おそらくもっと多いだろう。

しかも、ワッツアップより収益が期待できそうな手法がたくさんある。相対的に考えれば、190億ドルという企業評価額も無茶ではない。

ただし、フェイスブックがワッツアップに払った220億ドルという金額が、妥当だった場合の話だ。先日、ベンチャーキャピタリストのポール・ケドロスキーはブルームバーグTVで、スナップチャットの企業評価の背景には、機関投資家が話題の会社を「見逃すまいとする」風潮があるのだろうと語った。

スナップチャットをポートフォリオに入れておけば、投資家にアピールして資金を集めやすい。絵画や彫刻のように見栄えのする銘柄だ。

(執筆:Justin Fox、写真:Bloomberg、翻訳:矢羽野薫)
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