2023/5/9

【最先端】炭素ゼロ、グリーンな鉄づくりが熱い

こんにちは、NewsPicks地球支局の岡ゆづはと、後藤直義です。
シリコンバレーで勃興する気候テクノロジーの主人公から、ディープテック分野の投資家たち、新しい社会像を描くオピニオンリーダーや作家たちまで。
自分たちで見たもの、聞いたものを、テキスト、音声、動画など、あらゆるフォーマットで「地球支局」として配信します。
まずはポッドキャストの新番組『Green Impact ー地球を救う、ヤバいビジネスー』(毎週月曜、木曜配信)をお聞きください。
本記事は、ポッドキャストと連動した新連載です。毎週、もっとも旬なグリーンビジネスをこのコンビでお届けします。
米国ボストン郊外にある、ボストンメタル社を取材する後藤・岡の両記者(写真:Naoyoshi Goto)

「鉄づくり」の歴史を変える

今週は、いま注目を集めている「グリーンスチール(鉄)」のスタートアップ、ボストンメタル(Boston Metal)の本社を取材してきたお話をします。
この会社は、その名の通り米国ボストンの郊外にあります。
エンジニアリングの最高学府といわれる、MIT(マサチューセッツ工科大学)から2013年に生まれました。
やっていることは、紀元前1200年から続く「鉄づくり」に、歴史的なチェンジをもたらすテクノロジーの開発です。
わたしたちの都市をつくるビル、鉄塔、橋、線路などのインフラ。そして自動車から船舶まで、現代文明には製鉄が欠かせません。
それは巨大なグローバルビジネスでありながら、一方で世界の二酸化炭素排出量の約10%を占めるといわれ、気候危機の元凶のひとつでもあります。
その規模は、グローバルで年間20億トンにものぼります。雑なイメージだと、エッフェル塔28万5714個に匹敵するスケールです。
どうやったら、鉄づくりによる大量の温室効果ガスの排出を止められるのか──。
世界中の大企業からスタートアップが、この難問に挑んでいます。
ボストンメタルの作戦は、シンプルです。
これまでは、原料である鉄鉱石に、石炭(コークス)を加えて鉄を作っていた。効率は良いのですが、二酸化炭素を大量排出します。
その代わりにボストンメタルは、原料の鉄鉱石を、酸素のスープに入れて、電流をかけるのです。これは電気分解と呼ばれる方法の一種です。
このアプローチだと、炭素を出さずに、鉄鉱石(Fe2O3)から、Fe(鉄)とO2(酸素)を分離できるのです。
「グリーン水素を使うなど、いろんなアプローチがあるけど、このやり方がもっともシンプルだ」。会長兼CEOであるタドゥ・カルネイロさんはそう話します。

日本の鉄鋼メーカーとも「話してる」

いやいや、古くて、巨大な製鉄産業をひっくりかえすなんて、夢物語でしょう──。
そう思われるかもしれません。だからこそ、2023年1月に発表されたニュースは、話題になりました。
それは世界最大級の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルが、このボストンメタルに約4800万ドル(約65億円)を出資したというもの。企業価値も、ユニコーンレベルになりました。
欧州に本社をもつこの鉄の巨人が、なぜ大型出資をした上で、ボードメンバー(経営陣)に人を送り込んでいるのか。
その理由を、カルネイロCEOはこう語ります。
「わたしたちのグリーンスチールをつくる技術が、ものすごくユニークであり、彼らもスケールアップできると考えたからです」
ボストンメタル社のカルネイロ会長兼CEO(写真:Naoyoshi Goto)
実はボストンメタルは、みずから鉄鋼メーカーになろうとしていません。
その代わりに、自分たちにしかできない、ある重要な部材を世界中の鉄鋼メーカーに供給することで、大きな利益をあげようとしています。
それが鉄鉱石の電気分解に、どうしても必要なコア部材の「アノード(陽極)」です。
このコア部材をMITで長らく開発しており、その特許をおさえて、部材供給とテクノロジーのライセンスを計画しているのです。
彼らの装置では、高温(1500度〜1600度)に耐えながら、鉄と酸素を分離するアノード(陽極)こそが鍵になる。
その耐久性や性能を引き上げる技術が、秘伝のタレにあたる部分であり、いまも注力しているポイントです。
ボストンメタルはいま120人ほどの社員を抱えるユニコーン候補企業だ(写真:同社公式写真)
「あとは、安い再生可能エネルギーがあれば、既存の鉄づくりに価格面で勝負できるようになる」(カルネイロCEO)。
具体的には、1メガワットアワーあたりの電力コストが、30ドル〜40ドル以下になれば、コスト競争ができるとのこと。
1000年単位で続いてきた鉄づくりを、気候変動と戦うために、ひっくり返す。
そんなチャレンジをしているボストンメタルは、日本の鉄鋼メーカーとも、当然やりとりをしていると言います。
日本の炭素排出において、製鉄はもっとも大きな排出源になっていることから、今後も目が離せないスタートアップと言えそうです。

今週注目のグリーンニュース

1. 三菱商事が10億ドル「脱炭素ファンド」立ち上げ 🌿
三菱商事がEX(エネルギー転換)を加速させるため、2024年までに合計10億ドル(約1350億円)という国内最大級の脱炭素ファンドを組成する。浮体式洋上風力、再エネ、蓄電池、次世代燃料など、商業化フェーズのグリーンビジネスに投資予定。
2. YouTubeにダメ出し。気候変動の「誤情報」に広告掲載 🎥🤑
環境保護団体などが、YouTubeには気候危機のデマや誇張をあおる動画に、広告がついていると非難している。グーグルはそうしたミスリーディングな動画に、広告はつけないと発表していたが、その本気度に疑問をつきつけた。
3. 賛否両論のソリューション「ソーラージオエンジニアリング」🌋
空に化学物質をまくことで、太陽光を反射させて、気温を低下させる「ソーラージオエンジニアリング」への注目が高まっている。猛暑への有効なソリューションとして研究がされる一方で、新しい問題を生み出す恐れがあると報じられている。
4. ビル・ゲイツが「次世代原発」の建設現場へ ☢️
ビル・ゲイツが投資をする、次世代原子力発電スタートアップのテラパワー。ゲイツは次世代原発の建設地(米ワイオミング州)を訪問して、その可能性をブログにつづった。
5. 世界最大の「核融合スタートアップ」に突撃取材してみた🌅
NewsPicks地球支局の2人は、世界最大の核融合スタートアップのコモンウェルス・フュージョン・システムズを取材。クリーンエネルギーの未来を知るべく、新しい建設現場に潜入。近く、レポートを掲載します。
今週の地球支局からのレター🌏は、ここまでです。
リアルタイムでの配信や、メッセージなどのやりとりは、ぜひ後藤直義岡ゆづはまでお寄せください。 ポッドキャスト番組(毎週月曜日、木曜日)は、下記から。