(ブルームバーグ): ダイキン工業など日本の空調機器メーカーが、欧州で「ヒートポンプ暖房」の販売攻勢をかけている。ガスや石油を使わず、省エネ性能に優れていることから米テスラのイーロン・マスク氏も注目している技術で、ウクライナ情勢に端を発したエネルギー価格高騰の影響を受ける現地で爆発的な普及が見込まれている。

気温が低く冬期の暖房が不可欠な欧州では従来、ガスや石油を燃やして水を温め、温水を室内に循環させて暖める燃焼暖房が中心だった。一方、ヒートポンプ暖房は室外機で外気中の熱を集め、熱を受けた冷媒を圧縮することで、室内に熱を移動させる。日本で普及しているルームエアコンと同じ原理で、空気中の熱エネルギーを活用するため電力使用量が少なく化石燃料を使わないため脱炭素化にもつながる。

欧州委員会はエネルギー価格の高騰を受けて昨年5月、ヒートポンプ暖房の導入目標を見直し、5年間で累計約1000万台を導入する方針を示した。英国やドイツなど各国は独自のインセンティブ制度を設けるなどして、燃焼暖房からのシフトを進めている。

欧州で2019年からヒートポンプ暖房市場でシェアトップのダイキンは、こうした追い風を生かして攻勢をかける。今月、ポーランドで新工場の建設に着工したほか、ベルギーやドイツ、チェコの既存工場の生産能力も増強し、25年度には生産能力を21年度比で4倍まで引き上げる。

三菱電機も欧州での需要は25年には21年比で約2倍まで伸びるとみている。パナソニックホールディングスは昨秋、チェコのヒートポンプ暖房工場の生産増強を発表。今年3月には拡大する需要に対応するため、追加投資も決め、中期的にはグローバルで年産100万台の体制を目指す。

ダイキンによると、欧州ではスウェーデンのニーベインダストリエやドイツのバイラントなど地場メーカーもヒートポンプ暖房で攻勢をかける。米国や中国、韓国メーカーも欧州のヒートポンプ暖房に参入しているが、シェアは低いという。

ブルームバーグ・インテリジェンスの北浦岳志アナリストは、現時点ではどの会社もヒートポンプ暖房の十分な生産能力を持っておらず、日系勢が海外勢より先に「十分なキャパシティーを持てばオポチュニティーがある」と指摘。販売網や施工も含めて現地業者とどううまく連携するか、燃焼暖房からヒートポンプへの置き換えにうまく対応できるかが鍵を握るとした。

ヒートポンプ暖房にはテスラのマスク氏も熱視線を送っている。電気自動車(EV)から宇宙開発まで、既成概念を打ち破る事業を展開してきた同氏は、今年3月に公表した「マスタープラン(基本計画)」のプレゼンテーションで、ヒートポンプが自宅とオフィスの暖房コストを劇的に下げる可能性があると指摘。持続可能なエネルギーへの移行で容易に達成できるものの一つだと指摘した。

マスク氏の新基本計画に失望感、テスラ次世代モデルの詳細欠く (2)

ダイキンヨーロッパの亀川隆行副社長は、マスク氏がヒートポンプ暖房に関心を持っていることについて、「これだけ伸びている市場なので、起業家として興味を持たれることはあるだろう」と指摘。マスク氏がEVに参入して自動車業界の販売のやり方を変えたことは参考になるとしながら、ヒートポンプは設置に工事が必要になるなど自社だけで完結できないため、「次元の違う話」ではないかという見方を示した。

三菱電機の広報担当者はテスラの参入の可能性について、他業種企業の参入で脅威を感じていると回答した。

北浦氏はテスラについて、「脱炭素についていろいろなことを進めており、トピックとして出てくるのは自然」とした上で、テスラは自動車向けの空調でヒートポンプ技術を使っているが、住宅とは空間のサイズが違うので、そこをどう技術的に克服し、効率的な製品が出せるのかが課題になるとの見方を示した。

More stories like this are available on bloomberg.com

©2023 Bloomberg L.P.