[ロンドン 24日 ロイター] - 南米チリのリチウム産業国有化の動きで、自動車メーカーは電気自動車(EV)用電池の重要原料の調達リスクが一段と高まり、原料確保のための新たな調達先探しが急務となりそうだ。

チリのボリッチ大統領は20日、リチウム産業を管理する新たな国営企業の設立計画を発表した。 チリはリチウムの埋蔵量が世界最大で、世界の全生産に占める比率は30%に達する。

EV用電池は、中核部材の一部にリチウムではなくナトリウムを使う「ナトリウムイオン電池」の開発に取り組んでいる新興企業もあり、いずれ安価な代替品が出回るかもしれない。しかし自動車メーカーは、今後数年間は電池製造をリチウムに全面的に依存する見通しだ。

最大手級の自動車メーカーは2030年までに約1兆2000億ドル(約160兆円)を投じてEV数百万台を開発・生産する計画を打ち出しており、業界幹部は2020年台半ばには供給網が逼迫すると警告している。

ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの最高データ責任者、カスパー・ロールズ氏は「自動車メーカーは国有化計画がどうなるかはっきりするまで、チリからのリチウム調達に慎重になるのではないか」と述べた。「ほとんどのメーカーはいずれにせよ、国有化の前に調達地域の多様化を模索するだろう。しかし、これにより他の地域の魅力が一段と高まりそうだ」という。

鉱物資源の供給網についてアドバイスするボルタイア・ミネラルズの創業者、デービッド・ブロカス氏は、電池原料金属は国家にとって石油と同じくらい戦略的に重要な資源となりつつあり、自動車メーカーは特に「多様な調達戦略」が欠かせなくなるとみている。

大手自動車メーカーは既に欧米やアフリカで新たなリチウム調達先を探している。例えば米ゼネラル・モーターズ(GM)は1月にリチウム・アメリカズに出資しており、同社のネバダ州サッカーパスのリチウム採掘プロジェクトを支援する予定だ。

こうした調達先多様化の動きは今後加速するだろう。

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)の広報担当者は電子メールで、「当社は調達地域の分散化を含む、コモディティー(商品)のロードマップに取り組んでいる。そのため、多くの地域に目を向けている」と説明した。

ドイツのメルセデス・ベンツのマーカス・シェーファー最高技術責任者は24日、記者団に、「当社はチリからの直接的な購入に依然として前向きだが、オーストラリアやカナダといった代替案もある」と発言。世界のリチウム供給量の約半分を占め、最大の生産国であるオーストラリアのリチウム鉱山運営会社の株価は、チリの国有化計画発表後に上昇した。

<リチウム無ければEV作れず>

重要資源を巡り国家管理を厳しくする流れが世界的に起きており、チリのリチウム産業国有化はその一環。既にメキシコがリチウム産業を国有化し、ジンバブエ、ミャンマー、インドネシアが多様なコモディティーを巡り規制を打ち出している。

チリの国有化計画発表で「EVの原料確保に躍起になっている自動車メーカーは、英国や欧州向けのリチウムの調達確保を一層重視することになるだろう」と、コーニッシュ・リチウムのジェレミー・ラソール最高経営責任者(CEO)は電子メールで指摘。「リチウムがなければ電池は製造できず、EVも作れないという構図だ」

自動車業界は新型コロナウイルスのパンデミックの際には半導体不足に襲われており、リチウム以外でも今後供給リスクに直面しそうだ。

電池用シリコンアノード(負極)を開発するGDIのロブ・アンスティCEOは、電池の電極用グラファイト(黒鉛)を中国に依存している自動車業界にとって今回の動きは警鐘になると話す。「チリがリチウムを国有化すれば、オーストラリアは供給を増やすことができるし、米国や欧州も供給を増やすだろう」と予測。「しかし中国がグラファイトの輸出を制限し始めたら、電池の供給網全体に急ブレーキが掛かる」

いくつかの新興企業が、より多くのエネルギーを保持し、航続距離が長く、急速充電が可能な、シリコンベースの電極を用いたEV電池を開発しているが、今のところ全グラファイトの70%を中国産が占める。

チリの動きはリチウム供給網への参入をもくろむ国にとって追い風になりそうだ。

リチウム探査会社アテリアンはモロッコ、ルワンダなどアフリカの多くの国に採掘のチャンスがあるとみている。チャールズ・ブレイ会長は「こうした国が、これまでチリに向かっていたエネルギー転換のための投資を引き寄せることになりそうだ」と話した。

(Nick Carey記者)