(ブルームバーグ): 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、経営危機に伴って無価値となったクレディ・スイス・グループの永久劣後債(AT1債)約950億円分を顧客に販売していたことが分かった。事情に詳しい複数の関係者が14日までに明らかにした。

関係者らによると、無価値となった時点で同証の約1500の顧客口座でクレディSのAT1債保有があった。顧客の大半が個人の富裕層で、一部法人も含まれるという。MUFGは役員を含めた対策会議を開き、実態把握や顧客に対する状況説明の進捗(しんちょく)などの確認を行っているという。

MUFGの広報担当者はブルームバーグの取材に対し事実を認め、この件で顧客に心配をかけて大変心苦しく思うとしたうえで「影響を受けた顧客には今後も継続して丁寧に説明していく」と電子メールでコメントした。

クレディSのAT1債は3月、スイスの銀行大手UBSグループによる同社の買収合意を受け、約160億スイス・フラン(約2兆3800億円)相当が無価値になった。三菱モルガンの販売分はその4%程度に当たる。

     土屋アセットマネジメントの土屋剛俊社長は「正確な数字が公表されていないことからはっきりとしたことは言えないが、AT1債というアセットクラスの大きさや、リスクウエートが高いことから販売先が限定される状況下で、単一発行体で950億円、それも総発行額の4%におよぶAT1債を国内の一つの証券会社が販売するというのは突出して多いと推測される」とコメントした。

     他の証券会社では、みずほ証券が40億円強のクレディSのAT1債を販売しており、無価値となったことを受けて顧客への説明や対応を行っている。大和証券でも顧客に販売した数億円のAT1債が無価値となった。各広報担当者が述べた。一方、野村証券の広報担当者は、日本国内でクレディSのAT1債を販売したことはないと説明。SMBC日興証券はコメントを控えた。

ブルームバーグインテリジェンス(BI)のクレジットアナリスト、ヨルーン・ユリウス氏によると、AT1債の発行条件に恒久的な元本減額を可能にする条項が含まれているのはクレディSとUBSだけで、欧州や英国の大半の銀行ではより多くの保護を提供しているという。BIのプリ・デシルバ氏によると、AT1債は利回りの相対的な高さからプライベートバンクや資産管理業界でも人気のアセットクラスだったとされ、個人への影響が注視されていた。

クレディSのAT1債無価値化を受け、国内の大手運用会社は設定・運用する公募ファンドなどに組み入れている同債の保有状況を相次ぎ開示。各ファンドへの組み入れは概ね1%以下の水準にとどまっていた。

米モルガン・スタンレーとの合弁である三菱モルガンはかねてから富裕層向け(ウェルスマネジメント)事業を強化してきた。同事業を手掛けていた三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券を2020年に合併し、グループ内の同事業を再編。小林真社長は22年6月のブルームバーグとのインタビューで、同事業について「日本のナンバーワンハウス(企業)を目指す」と意気込みを語っていた。

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--取材協力:谷口崇子.

(第6段落に証券各社のコメントを追加します)

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