2023/4/19

リリースから4年、3700社導入。起業家と投資家をつなぐ急成長プラットフォームの正体

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
いまかつてないほどにスタートアップへの期待値が高まっている。
国内スタートアップへの投資額は2022年に8774億円を突破するなど、8年間で約6倍に増加。
出所:INITIAL「Japan Startup Finance」2023年1月時点のデータ
スタートアップ育成5か年計画では、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模までに拡大。スタートアップを10万社、そのなかからユニコーン企業を100社創出することを目指す。
スタートアップ育成5か年計画の目標
①ユニコーン企業 6社(2022年時点)→100社
②スタートアップ 1万社(2020年時点)→10万社
③投資額 8000億円規模(2020年時点)→10兆円規模
そんななか、日本のスタートアップエコシステムの発展のカギを握るのがスマートラウンドだ。スマートラウンドが提供する「smartround」は、スタートアップと投資家がクラウド上でデータを共有できるプラットフォーム。
起業家は、本来なら事業成長やプロダクト開発に集中する必要があるものの、現実は多くの時間を投資書類の整備など事務作業に浪費している。
また投資家側も、投資先やファンドの管理などをスプレッドシートで行うなど、これまで起業家と投資家をつなぐプラットフォームが日本には存在しなかった。
そうした起業家と投資家、両者の課題を解決するために生まれたのがsmartround。スタートアップは資本政策や株主総会などの管理業務を効率化できるほか、投資家も投資先やファンドの管理などを簡単に行えるサービスだ。
サービス開始から4年で、スタートアップは3700社、ベンチャーキャピタルや個人投資家などのパートナー企業は250社以上と多くのユーザーに支持されている。
なぜsmartroundはサービスリリースから4年で、3700社以上のスタートアップに支持されるまでに成長したのか。また前例のないマーケットを切り拓く難しさと面白さとは。
起業家、VC、エンジェル投資家、スタートアップ協会 代表理事など、さまざまな側面からスタートアップの可能性を探求してきた砂川氏に話を聞いた。

5年で投資額を10兆円に

──政府が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」が本格始動し、日本でもスタートアップ支援を推し進める動きが加速しています。このトレンドをどのように捉えていますか。
砂川 岸田内閣が発表した計画は、今後5年間でスタートアップへの投資額を10兆円に拡大するという前代未聞の予算規模。日本政府の本気度が伝わってきます。
 近年の米国経済は、GAFAMをはじめとする新興企業が牽引してきました。現在の米国では、1980年代以降にベンチャーキャピタルから出資を受けたスタートアップが、上場企業の時価総額のうち40%を生み出しています。
 一方で日本はといえばわずか10%程度にすぎない。つまり日本は、スタートアップという大きな成長ドライバーが欠けている状態にあるのです。
出所:スマートラウンドによる調査をもとに作成。2021年10月時点の時価総額ランキング。
 人口減少が加速し、国内マーケットの縮小が進む日本が経済成長を実現するには、世界で戦えるスタートアップを創出するしかない。
 日本全体でまずはその現状認識が進み、スタートアップを後押しする動きが増えていることはこれまでにない大きな前進だと捉えています。
──日本でも以前に比べれば起業にチャレンジするケースは増えつつありますが、米国のように短期間で規模拡大を遂げるスタートアップはなかなか出てきません。何が成長を阻んでいるのでしょうか。
 さまざまな理由が考えられますが、特に私の大きな課題意識としては、日本のスタートアップ経営者はほとんどがはじめての起業だということです。
 米国では起業を複数回経験したシリアルアントレプレナーが多く、過去の経験からどのタイミングでどんな問題が起こりやすいかがわかる。つまり、失敗する前に手を打つことができます。
 しかし日本ではそもそも起業経験者が少ない。そのため事前に防げる失敗で躓いてしまい、それを理由に事業を諦めてしまう。また新たに起業する後進にもノウハウが共有されてきませんでした。
1995年に慶應大学法学部卒業、三菱商事入社。海外向け鉄道案件を手掛ける。2001年にHarvard Business Schoolに留学。卒業後、米国独立系VCであるGlobespan Capital Partnersに入社し、ディレクターとして投資業務に携わる。同社日本代表を経て、2005年に起業。株式会社ロケーションバリューの代表取締役社長として、複数の位置情報サービスを展開し、2012年にNTTドコモに同社を売却。2年半のロックアップを経て、2015年にGoogleに入社。Googleマップの製品開発部長、Androidの事業統括部長を歴任。2018年にGoogleを離れ、株式会社スマートラウンドを起業、現在に至る。またエンジェル投資家として国内外スタートアップへの投資や政策提言などを行う一般社団法人スタートアップ協会の代表理事も務める。
──事前に防げる失敗とは?
 特に日本の起業家が躓きやすいのが、「資本政策」です。
 資本政策とは資金調達や株式公開に伴う持株比率に関する戦略を指し、スタートアップを経営するうえで非常に重要な施策です。要するに、株主構成と資金調達の適正なバランスを目指す計画になります。
 多くのスタートアップは、急成長を実現するために必要な自己資金はありません。銀行からも十分な資金を融資してもらうこともできない。
 そのため自社の株式を新たに発行し、外部株主にその株を渡すかわりに出資をしてもらいます。はじめて起業する創業者の多くは、この出資を集めるプロセスに落とし穴が潜んでいることを知らないし、教えてくれる人も少ない。
 資金を欲するがあまり、無計画に資金を集めてしまうと、経営や事業に支障をきたす可能性があります。
 では実際にどのような問題が起きるのか。
 これまでの数多くのスタートアップ支援に携わってきましたが、大きく3つの問題があげられます。
 1つ目は、そもそも「事業計画に紐付いた資本政策」を作成できていないことです。
 資金調達には、時間がかかります。資金が必要になってから慌てて動きだしても、希望通りに調達できるとは限らない。一時的に資金を集められたとしても、最善ではない条件で調達してしまう可能性があります。
 2つ目は、「資本政策の計算の誤り」です。一見、正しいように思えても、計算式が適当で、持分の合計が100%を超えているなんて例も少なくありません。
 最後に、「手続きの難しさ」です。新株や新株予約権の発行、株式の譲渡など、これらは会社法の規定に基づき正しく手続きを行う必要があります。
 しかし、資本政策上では正しく計算されていても、実際には登記されていなかったり、発行手続きに不備があって認められなかったりと、そうした事例が後を絶ちません。

投資家の頭を悩ます「3つの課題」

──スタートアップの行く手にこんな落とし穴が待ち構えているとは知りませんでした。
 スタートアップの経営者だけではありません。実はスタートアップを支援する投資家も、大きく分けて3つの課題を抱えています。
 1つ目が「業務効率」です。投資家の多くは、案件や投資先の情報をスプレッドシートで管理しています。
 スタートアップから提出される資料のフォーマットがバラバラなため、自分でExcelなどに入力し直すのですが、その際に数字を打ち間違えたり、いつの間にか複数のバージョンが存在してどれが最新版かわからなくなったりする。手間がかかるうえに、データの間違いや抜け漏れも増える悪循環に陥っています。
 2つ目が、「データの正確性」です。前述の通り、日本のスタートアップ経営者のほとんどははじめての起業で、ファイナンスにも詳しくない。だから資本政策を見よう見まねで作るのですが、たいていは不備や誤りがある。
 なかには投資家に経営陣の持株比率を誤って伝えたまま上場したケースさえ存在する可能性があります。投資家はスタートアップから提出される資本政策の内容を信用して投資戦略を立てますが、そもそもデータが間違っていたら正しい投資判断ができません。
 3点目が「情報セキュリティ」です。日本のスタートアップ界隈ではコミュニケーションツールとして主にフェイスブックメッセンジャーが使われていますが、問題はそれが個人アカウントで運用されていること。
 たとえばあるVCに所属していた投資担当者が別のVCに移った場合、前職時代にスタートアップとやりとりしていたデータを転職先へ持ち出せてしまう。これは完全なる情報漏洩です。
 このように起業家側も投資家側も多くの課題を抱えている。これが日本のスタートアップを取り巻く現状なのです。

起業家と投資家をつなぐ国内唯一のプラットフォーム

──スマートラウンドは、これらの日本のスタートアップ産業の課題をどのように解決しようとしているのですか。
 私たちが提供する「smartround」は、スタートアップと投資家間のデータ作成・管理を効率化するプラットフォーム。その最大の強みは、スタートアップと投資家間で「正しいデータを適切に共有できる」ことにあります。
 スタートアップだけ、あるいは投資家だけを支援するサービスは他にもありますが、その両者をつなぐプラットフォームは国内でsmartroundだけです。
 先ほどあげた数々の課題は、「スタートアップと投資家が正しいデータを適切に共有できないことにより発生するペイン」です。
 だからどちらか一方だけを支援しても課題は解決できない。スタートアップと投資家をつなぐsmartroundなら、統一された形式の正しいデータを一度の作業で共有できるので、データの誤りや事務作業の非効率といった課題を一挙に解決できます。
 たとえばスタートアップが資本政策表(※1)を作成する際も、スプレッドシートのように数式を自分で組む必要はない。決まったフォーマットに数字を入力すれば、時価総額や株価、持株比率などが自動計算されるので、数字のミスも防げます。
※1 資金調達に必要なデータを管理するための資料
 スタートアップが作成したデータや資料は投資家と共有できるので、投資家側の管理業務も大幅に効率化。スタートアップと投資家のやりとりもチャット機能を使えばsmartround内で完結するため、個人アカウントの使用による情報セキュリティの問題も解消されます。
smartroundの操作画面イメージ
 またsmartroundを使えば、株主総会の手続きも大幅に簡素化できます。ナビゲーションに沿ってボタンをクリックするだけで招集通知が自動作成され、投資家への送付もワンクリックで完了。委任状の回収や結果の集計も自動化できます。
 実際に私たちもsmartroundを使用して自社の定時株主総会を行っているのですが、前回は必要な手続きを終えるまで22分しかかかりませんでした。
 私が最初に起業した会社では、同じ手続きに2週間かかりましたから、いかに業務効率が高いかわかっていただけると思います。
 ある起業家ユーザーの方からも、「株主総会にかかる労働時間が100分の1になりました。smartroundの便利さに感動しています」とメッセージを頂いて、私も心から嬉しく思いました。

ユーザーの声は「宝物」

──smartroundが多くのユーザーに支持され、急成長を遂げた理由はどこにあると考えますか。
 いま改めて振り返ってみると、創業時から複数のサービスをワンパッケージで提供する戦略をとったことが大きな成長要因だったと考えています。
 これまでスタートアップは1つのビジネスやプロダクトに特化し、一点突破で成長を目指すのが王道とされていました。しかし私は、複数の関連する機能をセットで提供すべきだと考えました。
 なぜならスタートアップ関係者が抱える課題は、複雑な要因が入り組んで発生しているから。それらの要因を一度に解決できないと、ユーザーの利便性向上や本質的な業界の課題の解決にはつながらないと考えていました。
 そこで起業家側にも投資家側にも必要な機能をできるだけ詰め込み、複数のサービスを一度に提供することに起業当時からこだわった。
 最近はスタートアップの新たな成長戦略として、創業時から単一プロダクトではなく複数プロダクトを意図的に運営する「コンパウンドスタートアップ」(※2)が注目されていますが、5年前から私たちが取り組んできたことはまさにこの戦略そのものだったと捉えています。
※2 単一のプロダクトや機能ではなく、「データ」を基軸にコンパウンド(複合的)にプロダクトを提供することで成長を目指すスタートアップ/成長戦略のこと。
 加えて、やはり重要なのは「ユーザーの本音」です。
 smartroundは発展途上のサービスなので、いまでもユーザーから「この機能が使いにくい」「ここを改善してほしい」といった指摘が数多く届きます。
 こうしたユーザーの声は、私たちにとって宝物です。率直な意見をもらえるのはプロダクトの作り手として幸せなことですし、だからメンバーも真摯に受け止め、最短かつ最良の対応をするために力を尽くす。
 意見を頂いたお客様に「ご要望の機能を追加しました」と報告すると、「そんなに早くできたの」と驚かれることもしばしばです。
 あるユーザーの方は「スマートラウンドのチームは自分たちのフィードバックを受け止めて頑張ってくれたので、ぜひ感謝を伝える会を開きたい」とまで言ってくださった。
 サービスを提供する側がお客様を招いて感謝会を開くことはよくありますが、逆は聞いたことがありません。涙が出るほど嬉しかったし、お客様のご要望を爆速でサービスに反映する弊社のチームを誇らしく思いました。
同社のCTOである小山健太氏は、スタートアップCTOによるピッチコンテスト「Startup CTO of the year 2022」の優勝者でもある。

前例がない挑戦の難しさと面白さ

──これまで順調に成長を続けてきたように見えますが、何か大きな壁や困難はありましたか。
 もちろん辛かった時期やさまざまな苦悩がありましたが、あえて一つあげるのであればやはり前例のないマーケットを切り拓く難しさです。
 スタートアップと投資家間のデータ共有プラットフォームというビジネスモデルは国内初であり、当時はそもそもマーケット自体が存在していませんでした。
 マーケットがないので、参考にできるデータも存在しない。これが創業初期の私たちにとって、最大のハードルでした。
 よって全てが仮説からスタートするわけですが、まだユーザーがいないので仮説の検証すらできない。チームの誰かが「こうすればよいのでは?」と提案しても、裏付けがなく論理立てた説明ができないので、お互いがただ自分の考えをぶつけ合うだけという時期もありました。いま振り返っても、あの頃は本当に苦しかったですね。
 その一方で、何もないところから自分たちの力で勝ち筋を見出していく面白さも感じていました。前例があるビジネスなら他社のベンチマークもあるし、確立された成功モデルもある。
 しかし私たちにあるのは「日本の未来のためにはスタートアップの成長を支える基盤作りが絶対に必要だ」という信念だけです。
 だからスタートアップ関連のイベントなどに積極的に参加し、「なぜデータ共有が重要なのか」を伝える啓蒙活動に力を入れた。起業家にこの課題を自分ごと化してもらう取り組みを地道に続けました。
 そのうち少しずつsmartroundのユーザーが増え始め、実際にプロダクトを使っていただいてフィードバックをもらう仮説検証が可能になり、その後は開発サイクルを高速で回し続けました。
 新たなマーケットを切り拓くのは確かに難しい。でも私たちにだけは他の人には見えていない未来が見えていて、やるべきことを一つ一つ実現するたびに未来の解像度がどんどん上がっていく。目指す未来に近づいているワクワク感は、前例のないことに挑戦した者にしか味わえない醍醐味だと思っています。

smartroundを「社会インフラ」に

──スマートラウンドのミッションは「スタートアップが可能性を最大限に発揮できる世界をつくる」こと。具体的にどのような世界をイメージしているのでしょうか。
 スタートアップに関わる全ての人が複雑な事務作業から解放され、それぞれのミッションやビジョンを実現するための本質的な仕事だけに集中できる世界です。
 どのスタートアップも無限大の可能性を秘めていて、それを100%発揮できる土壌があれば、可能性はどんどん花開くはず。その土壌をスマートラウンドが作りたいと考えています。
 そして最終的には、smartroundをスタートアップや投資家にとって、なくてはならないプラットフォームにしたい。
 皆さんが個人間でコミュニケーションする時はとりあえずLINEを開くのと同じように、起業する人たちが「とりあえずsmartroundに登録しよう」と思ってくれるサービスにするのが私たちが目指す未来です。
 未来の子供のため、そして自分の子供のためにも、明るい未来を届けたい。そのために私たちは日本からスタートアップという成長エンジンをつくることで、より豊かな未来を次世代に残したいと考えています。
 そして、そうした未来を実現するためにも、私たちが目指す世界や想いに共感いただける仲間を絶賛募集しています。
 いまスマートラウンドにジョインすれば、この壮大な世界観を実現する最初のプレイヤーになれます。ぜひ一緒にそのダイナミズムを体感してもらいたいですし、力を貸してもらえると嬉しい。
 私たちが目指す究極の未来は、日本発のユニコーンを全てsmartroundのユーザーから誕生させること。国内唯一のユニークな立ち位置にいる私たちなら、決して夢ではないと確信しています。
 smartroundは日本になくてはならない社会インフラである──。そう胸を張って言える世界を、私たちと一緒に創り出していきましょう。
※本記事は、「Startup CTO of the year 2022」の景品として、NewsPicks Brand Designが無償提供したものとなります。