2023/4/13

【文章構造シート】カタログの紹介文を、的確に伝える方法

編集オフィスPLUGGED
オウンドメディア、SNS、企画書……。これまで以上に企業内部で外に向けた文章を作る必要が増えてきました。

しかし、企業ごと、場面ごとに、必要な文章力は変わります。さらに、サイト上で、文章作成の経験が乏しい書き手が企業のメッセージやトーンに合わせた文体を目指すとなると、難度は一気に上がります。

レジャーやグルメ、スポーツなどの体験コースをギフトにするビジネスモデルを展開するソウ・エクスペリエンスでは、カタログに掲載する体験の紹介記事を体験コースを作成した社員がまとめ、サイト上にアップしています。

よりわかりやすく、伝わる記事になるように取り入れたのが「文章構造シート」でした。これにより誰でも一定のレベルと内容を保った文章を書けるようになったのです。

シート開発の裏側から、多くの企業でまねできる活用方法までをレポートします。(前編)
INDEX
  • そのサイトに必要な文章って?
  • 構造シートでクオリティと文体を担保
  • 企業にとって必要な文章と文体を模索
ソウ・エクスペリエンスの「文章構造シート」
ソウ・エクスペリエンスは「体験」をカタログにして贈るというビジネスを展開しています。その体験をサイト上に紹介する文章を書いているのは、主に加盟店と共に体験コースを作成した営業担当や、顧客担当の社員やスタッフです。

開発者の視点と情熱で書き出すと、どうしても情報が偏りがちな紹介文を、どれもわかりやすく同じ温度で伝えるために開発されたのが「文章構造シート」です。

そのサイトに必要な文章って?

「体験をギフトにしてプレゼントする」というビジネスを展開するソウ・エクスペリエンス。体験を検索できるWebサイトには、当然ながら、たくさんの体験コースがカタログ的に紹介されており、それぞれの内容が写真と共に説明されています。
2005年に事業が立ち上がったときから、事業形態はほぼ今の形と同じ。当初は関わる人数も少ないことから、コースを作成して説明文をつけるという作業にも全員の意識統一ができていて課題になることはなかったといいますが、会社が成長しスタッフが増えると状況は変わってきたそうです。
事業開発チーム・制作チームの関口昌弘さんに伺いました。
関口昌弘さん。ソウ・エクスペリエンス株式会社事業開発チーム
関口「互いにいつも話ができていればブレがない状態を保つことができますが、加盟店営業をする人が増えてくると、書く人とチェックする人が異なり、説明文をチェックして修正箇所を戻して、という往復が増えてきます」
「修正してくれる人がいるのは便利でしょうが、なぜそのような修正を入れているのかが理解できないままだと、『関口が直したのは良くて、そうじゃないのは悪い』というような理解になってしまい、基準というよりはただの偏見になります。書き手の納得感も重要なので、担当者にただ修正依頼をするのではなく『何が良くて、何が良くないのか』を明確にする必要がありました」
関口さんが気をつけていたのは、ソウ・エクスペリエンスのサイトは記事を読ませるWebメディアではないという点でした。関口さんは、以前出版社で編集者として働いていた経験もありましたが、そうしたメディアとして記事を読ませるものはソウ・エクスペリエンスが必要な文章とは一線を画していると気づいていました。
ソウ・エクスペリエンスのサイト
関口「メディアであればテキストのクオリティに徹底的に力を注ぐ必要があります。しかし、『体験』を商品にしている我々にとって重要なのは、購入者が、贈る相手の顔を思い浮かべて購入してくれることにあります」
「個別の体験につけられた文章のクオリティを高めたからといって、購入されるわけではない。だから、この執筆に何時間もかける必要はないんです。ただ、気をつけなくてはならないのは、似たような文章になってはならず、宣伝媒体に見えてはならないという点でした」
「お得」「今だけ」と書けば売り込みや勧誘に見えてしまい、プレゼントを受け取った人が気持ちよく体験を選ぶことができず、「極上の」「至福の」が続けば稚拙になってしまう――。
「体験」を明確に語りながらも、売り込みにならない文章を短時間でまとめていくこと。客観的に「体験」の魅力を伝えつつも、企画者が感じている主観的な良さも伝わるようにすること。これが、ソウ・エクスペリエンスのサイトに必要な文章でした。
「レストラン」や「アフタヌーンティー」など様々なテーマ別に体験をプレゼントできるソウのカタログ

構造シートでクオリティと文体を担保

「書くことに慣れていないスタッフたちの文体を、うまくコントロールする術はないものだろうか」と関口さんが検討していた頃に、ライターで編集者の吉田明乎さんとの出会いがあり、文章の校正をお願いすることになりました。
関口「プロのライター・編集者さんが入ったことで、クオリティが上がるのは間違いありませんでした。しかし、そのクオリティにかける時間や労力などのコストをどう見積もるか、という課題もありました」
そんな時、ツイッターで流れてきたのが、メディアの編集長がツイートした1冊の本についての情報でした。ここで出合った『新しい文章力の教室』という本の存在と、ここに掲載されていた「構造シート」が、この後ソウ・エクスペリエンスのサイトの文章を底上げすることになります。
スタッフが使っている『新しい文章力の教室』(唐木元著・インプレス発行)には、付箋がたくさん貼られている
関口「これまでは、多くのスタッフが企画した商品に対するあふれんばかりの思いをそのままに文章を書き出していました。しかし思いが強すぎて、結局何が言いたいのか伝わっていないこともありました。この本にまとめられていた構造シートにのっとって、文章を書き始める前に主眼と骨子を固める方法にシフトしたところ、クオリティも速さも、必要な水準で担保できるようになりました」
提供する「体験」の内容を思いつくだけ書き出し、それを、順番通りに並べる。そして、それらにABC(Aは絶対に掲載すること、Bは入れても入れなくてもOK、Cは入れなくてもいいもの)で優先順位をつけていく。これだけで、全体の流れが整い、スムーズに文章が作り出せるようになっていきました。
「文章構造シート」の記入例

企業にとって必要な文章と文体を模索

文章の校正担当として入った、ライターで編集者の吉田明乎さんは携わるようになった当時と、その後の変化をこう振り返ります。
吉田明乎さん。編集者・ライター。雑誌編集者を経て2004年よりフリーランスに。ソウ・エクスペリエンスでは、週に2度、「文章構造シート」に則って書かれた原稿をチェックし、修正指示を出したり、書き手の相談に乗ったりしている
吉田「携わった当時は、加盟店営業をした人が書く、パッションが強めの文章を手直しするのが大変でした。なぜなら、書き手は、ギフトを提供してくれる加盟店さんの顔がわかっていますから、その思いが染み付いています。そうすると、その業界でしか使わない専門用語で書いてしまったり、お得さを語ろうとしてしまったり、なかなかその『体験』の魅力を俯瞰して見られなくなります。でも、いったん書く前に整理することで、俯瞰して見られるようになりました」
関口「要約ではなく切り口を考え、主題を徹底する。要約だと『コンサートが開催されました』となるところが『たった50人のプライベートコンサート』となり、より魅力を伝えることができます。『これには何の価値があるんだろう』と、一人一人が考えられるようになることが大切でした」
導入当初は、一手間余計にかかるこの「文章構造シート」の活用を、億劫に感じている様子も見て取れたといいますが、慣れてきた頃には、以前よりも明確に、スムーズに原稿が書けるようになっていきました。
関口「それぞれの企業の業態によって、必要な文章は違います。何度も言いますが、僕らはやはりメディアではない。『体験』というギフトを通じて、購入者がギフトをお渡しした方に『あなたのことが大切ですよ』という思いが伝わればいい。その積み重ねがブランドになっていくと思っています」
後編では、実際に現場で「文章構造シート」を活用している現場のスタッフの声を拾いながら、文章構成の相談・校正を担当しているライター・編集者の吉田明乎さんに、シートを活用したことでの変化、反応について伺っていきます。