2023/4/18

【チェックリスト】ビジネスを動かすコミュニティのつくり方

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
顧客と企業の関係性は、時代と共に変化し続けている。

SNSの登場で、企業は生活者にダイレクトにつながれるようになり、サブスクリプションモデルの台頭が、生活者との“継続的なつながり”を無視できないものにした。
そして今、「コミュニティ」に注目が集まっている。

商品やサービスを応援してくれる公式/非公式の集まりは、中長期的な収益のほか、広告費削減や新規顧客の獲得への寄与も見込まれる。
一方で、コミュニティの存在がどのようにビジネスへ還元されるか見えないという声も少なくない。

ニーズが拡大するコミュニティ。その運営で気をつけるべきポイントとは。そして、ビジネスを動かすコミュニティのつくり方とは。

企業や自治体など数々のコミュニティマネジメントを手掛けてきたニューピースの村上明和氏ひぐちなおや氏に聞いた。
INDEX
  • コミュニティによって広がる「消費」の定義
  • ビジネスに “都合の良いペルソナ”は幻想でしかない
  • 事業戦略とコミュニティの狭間で
  • 市場を変えるカギは、定量データだ
  • “文脈のわかるデータ”で、世の中を良くしていく

コミュニティによって広がる「消費」の定義

──ここ数年、マーケティング領域では「コミュニティ」や「ファン」に注目が集まっています。ニーズが高まっている背景について、どう分析されていますか?
ひぐち ポイントは2つあって、“パーソナライズの限界”と“可処分時間の奪い合い”だと思います。
 従来のマーケティングでは、SNSでのプロモーションやターゲティング広告など、顧客ごとにパーソナライズして訴求を図ってきました。
 ただ、こうした手法は一度“買ってもらったら終わり”で、LTV(※)の向上にはつながらない。
 特に人口が減少する時代においては、顧客に使い続けてもらう、応援し続けてもらうための取り組みが企業には不可欠です。
※ライフタイムバリュー:顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益
 たとえば化粧品は、ファンマーケティングがとても強い分野。
 データを見ても、ユーザーによるInstagramやYouTubeでの投稿をはじめ、家族や友人などの信頼できる誰かによるオススメに強く影響を受けています。
 企業からのメッセージではなく、「誰に使われているのか」「どんな人に応援されているのか」が選ぶ理由になる
 だからこそ、コミュニティの重要性が増しているのです。
──では、コミュニティが求められる背景にある“可処分時間の奪い合い”とは?
ひぐち 世の中にコンテンツがあふれても、個人が自由に使える時間は限られる。そのなかで、企業はどうにかして、自分たちに時間やお金を投じてほしいわけですよね。
 そこで、既存のコミュニティにアプローチするというトレンドが生まれています。活発なコミュニティを持つコンテンツの文脈に沿って、生活者とのコミュニケーションを図る手法です。
 これは新たにコミュニティを立ち上げるよりも、アプローチが遥かに早いのがメリット。
 有名なところだと、ゲーム「フォートナイト」のバーチャル空間で、アーティストがライブを開催したりしています。
村上 コミュニティでファン同士がおしゃべりに興じている時間もある意味、“コンテンツを消費している時間”なんですよね。
 アーティストのファンが配信された曲を買い、ライブに足を運ぶ。ここまでが従来の「消費」だとすると、コミュニティで楽しく語らうことで、消費の裾野がなだらかに広がっているんです。
 ユーザーにとってコンテンツの楽しみ方が広がるほど、企業側では可処分時間の奪い合いがさらに激しくなっていくと言えるかもしれません。
 今まだコミュニティづくりは、企業にとって“やったほうがいいもの”かもしれませんが、Webマーケティングのように、将来的には“マスト”になるでしょうね。

ビジネスに “都合の良いペルソナ”は幻想でしかない

──コミュニティマネジメントに携わる方は、どんな悩みを抱えているのでしょうか?
ひぐち よく聞くのは「コミュニティに対する社内の期待値が高すぎる」「会社の方針とコミュニティの方針が合わない」「中長期の施策なのに短期的な成果を求められる」といったものですね。
 いずれの悩みにも共通する課題は、コミュニティと事業の間を取り持つ人がいないということ。
「このコミュニティが何のためにあるのか」を、事業戦略と紐付けて語れる人がなかなかいない。そのため、各方面への調整コストがかかっている印象です。
 僕たちニューピースは、コミュニティづくりの失敗を分析し、「設計」「運営」「企画」「評価」という4つに課題を整理しました。
村上 4つの失敗要因のうち、特に自力での解決が難しいのが「企画」です。
 ニューピースにも「もう一段階、事業を拡大したい」という場面で、ご相談いただくことが多いですね。
 イノベーターやアーリーアダプター層はつかんだものの、なかなかメインストリームまで認知を広げられない、というのが典型例でしょう。
 これまで興味関心を持ってもらえなかった層にも振り向いてもらうには、強い企画が必要です。
──これからコミュニティ運営に乗り出す人が押さえるべきポイントは何でしょうか?
村上 まず「こういう種類の人たちがこれくらい集まって、こういうことをしてくれたらいい」と考える。ビジネスでコミュニティを始める場合、リターンを求めるのは自然な流れですから。
 でも、それは一度すべて忘れてほしいんです。
 コミュニティに集まるのは、人間です。
 人が集まって“楽しいと感じること”と、その人たちに“事業戦略上やってほしいこと”は、必ずしもイコールではありません。
 その人たちが“本当に望んでいるもの”は何か。そこにきちんと寄り添わなければ、そもそも継続的に集まってくれないでしょう。
「自分たちに都合の良い集団を考えていないか」「ペルソナではなく、1人の人間として見ているか」を、常に意識すべきだと思います。

事業戦略とコミュニティの狭間で

──ニューピースでは、これまでに自社コミュニティも複数立ち上げていますね。
村上 私たちがコミュニティづくりを始めたきっかけは、クライアントワークを通して生まれた疑問でした。
 ニューピースは日々、今の世の中の関心事項や社会課題に接続させて、ブランディングの方向性を提案しています。
 それにもかかわらず、「自分たちが当事者としてアクションした経験なしに、良い提案などできるのだろうか?」と。
 そうしてコミュニティから生まれたのが、雑誌『IWAKAN』です。
「世の中の当たり前に“違和感”を問いかける」がコンセプトの『IWAKAN』。既存のジェンダー観やセクシュアリティ、男女二元論などに違和感を抱く人たちのコミュニティでもあり、InstagramやDiscordのほか、オフラインでも接点を設けている。
ひぐち 当事者性という意味では、2021年7月に立ち上げた、コミュニティ運営を学び合う「コミュマネLAB」も同様です。
 僕たちの事業の中でコミュニティ支援すると、クライアントの担当者がたった1人で悩みを抱えるケースが少なくありません。
 そこで、彼ら彼女らが集まる場をつくり、お互いに悩み相談してもらいながら、僕たちも学ばせてもらおう、と。
 現在はDiscordに350人以上が集まり、輪読会も定期的に開催しているコミュマネLABですが、実は立ち上げ当初に一度つまずいているんです。
 いきなり100人近く集まったものの、全然アクティブにならなくて……。
 悩み相談の場を設けても、そもそも「何に悩んでいるか自分でもわからない」「自分の悩みはたいしたことない」と思う人が多くて、発言がほとんどなかった。
 そういったメンバーに、“1人の人間”として寄り添えていなかったんですね。
──明確なテーマのコミュマネLABにそんな過去があったとは意外でした。そこからどうやって立て直したのですか?
ひぐち 全員が悩みを出しやすい土台づくりを心がけました。半年ほどかけて、輪読会で共通の話題をつくったり、コアな企画をたくさん打ったりしましたね。
 結果として、僕たちもコミュマネLABメンバーもコミュニティマネジメントの経験が積めました。ただ、期待する体験を得られずに去っていかれた方には、今でも申し訳なく思います。
村上 そうやって積み重ねた知見から作成したのが、「コミュニティ現在地確認シート」です。コミュニティの運営に必要なアクションや評価軸を、全30項目にまとめました。
 今回は特別に、私たちのウェビナー限定で公開した内容をすべてお見せしましょう。
シートを作成した村上氏は「手探りになりがちなコミュニティ運営には、こうした細かな評価こそが不可欠だと感じました。」と語る。日本CTO協会の「DX Criteria(DX基準)」に着想を得たという。
 まずは、“今何ができていて、何ができていないか”を、大まかにつかんでもらうだけでも大丈夫です。
 ビジネスとしてのコミュニティであれば、全項目チェックできて当然ですが、現実には難しい。実際、過去のウェビナーに参加されたコミュニティマネージャーの平均点は、ほぼ一桁台でした。
 やはりコミュニティの運営課題には、定性的な経験も踏まえて伴走できる存在が必要。そう考えてニューピースは、コミュニティマネジメント事業を立ち上げました。

市場を変えるカギは、定量データだ

──ニューピースのコミュニティマネジメント事業の特徴を教えてください。
村上 一言でいえば、端から端まで一貫した支援ができるところです。
 コミュニティマネジメントは、まだ生まれたばかりの新しい概念です。市場としても黎明期で、プレイヤーも少ない。
 まず誰かが「コミュニティマネジメント」のバリューチェーン、つまり体制構築からビジネスインパクトまでをつなげられるプロフェッショナルにならねばならないと感じます。
 コミュニティ運営に関わる全体を担えるプレイヤーこそが、経験を蓄積し、市場を拡大させていける。
 その“誰か”になれるのは、今まで自社あるいはクライアントワークとして、数々のコミュニティづくりを手掛けてきたニューピースしかないと自負しています。
 プロジェクトスコープの策定から、戦略立案、企画運営までを一貫して担えることが、ニューピースのコミュニティマネジメント事業の特徴です。
──一貫したコミュニティマネジメント支援を行う上で、培ったケイパビリティをどのように生かしているのでしょうか?
村上 ニューピースには、3つのケイパビリティがあります。
 1つ目は、企画力・表現力・制作力です。
 先ほどのお話ししたとおり、長年ブランディング支援を手掛けてきた私たちは、コミュニティづくりで企画が必要なフェーズが来たときに、期待に応えられるスキルやアセットを持っています。
 2つ目は、プロジェクトマネジメントの知見です。
 コミュニティマネジメントという概念は歴史が浅く、まだロードマップが確立されていません。「コミュニティ現在地確認シート」で示したようなニューピースの知見は、きっと助けになるはずです。
ひぐち そして、3つ目のケイパビリティがデータ取得と分析です。
 現在、ニューピースが開発したコミュニティマネージャー向けツール「comcom Analytics(コムコム アナリティクス)」を無料で提供しています。
 このツールでは、DiscordやSlack上で運営されるコミュニティのメンバー数やメンバー同士の関係性などを可視化。分析・モニタリングが可能です。
 また、こうしたcomcom Analyticsの解析データから「今はメンバー数が伸び悩む時期」といった傾向をつかんで、僕たちのクライアント支援に生かしています。
 定量データは、評価指標はもちろん、コミュニティマネージャーの安心材料にもなる。ここまでご提供できるのは、ニューピースならではだと思います。

“文脈のわかるデータ”で、世の中を良くしていく

──コミュニティの市場は、ますます広がっていく予感がします。お二人は今後をどう見ていますか?
ひぐち 企業とコミュニティは、ますます切り離せないものになっていくと感じています。
 現在進行形で、SNS分散化の流れを感じています。そのなかで、Discordサーバーなどのセミクローズドな空間でシェアされる情報が増えているんです。
 すでに、国内のラジオや海外フェス最大手の「コーチェラ」でもDiscordを活用した施策が始まっています。
 こうした情報は、アナリティクスでトラッキングができません。どこかで話題になっているけど、それがどこかわからない。
 従来の広告宣伝の効果測定では届かないところでの出来事を把握するには、既存のコミュニティとの接続や自社コミュニティの立ち上げが非常に重要になってくるはずです。
村上 この先、企業が当たり前のようにコミュニティ運営をするようになれば、今までにない“文脈のわかるデータ”が大量に生成されることになります。
 自らの意志でそこに集まり、行動したコミュニティの参加者のデータは、「何時何分何秒に、サイトのここがクリックされた」といったログよりも、圧倒的に情報としての価値が高い。
 こうしたデータの活用によって、世の中をもっと良くすること、社会に貢献することが、ニューピースの展望でもあります。
 そのためにも、まずはコミュニティマネジメントという概念を形にして、コミュニティマネージャーという職業が当たり前の世の中を目指したいですね。