2023/4/7

【天職を掴む履歴書】マサト・ナカムラの「レジュメ・ワークショップ」

 2023年3月20日、NewsPicksトピックス「自由主義のテクノロジー」のオーナーであるニューヨーク市立大学工科校の学科長・准教授でエンジニアのマサト・ナカムラさんが、学生や社会人に向けた「レジュメ・ワークショップ(履歴書の書き方講座)」をオンライン開催しました。

もともとはナカムラさんが自身の学生に向けて英語で実施したもので、それを紹介した2019年の一連のツイートは大きな反響を呼び、現在でも広く読まれています。

 今回NewsPicksでこの「レジュメ・ワークショップ」をついに日本語で実現。
NewsPicks「GenZのたまり場」のメンバーやナカムラさんの募集を見て参加を希望した約30人の学生が日本、アメリカ、フィンランド、台湾など世界各国から参加しました。

現場で第一線で働く人は、どのような人材を欲しいのかという観点からのナカムラさんのアドバイスは、レジュメの書き方だけにとどまらず、働く上で重要なことを伝えてくれる普遍的なキャリア論となりました。その模様を一部抜粋・編集してお届けします。
【略歴】
Nakamura Masato R.

地球環境学者、エンジニアリング・サイエンティスト、工業デザイナー。ニューヨーク市立大学工科校機械工学科准教授。2020年から機械工学科学科長に就任。 より安全で持続可能な社会を実現するために、銃の本人認証や自殺防止技術、銃乱射を特定の地域で防ぐ位置認証の技術を取り込んだスマート・ガン、及びその関連インフラを含めた包括的なスマート・シティ技術の研究にも力を注いでいる。 Twitter: @MasatoNakamura , Web: マサトナカムラのNY発テック最前線
INDEX
  • 天職について考える体験
  • 相手が知りたいことを知りたい順に書く
  • 専門性を明確にする
  • 何を「達成」してきたか
  • 1枚で完結させる
  • 「募集要項」は現場の人が一生懸命書いた文章
  • 自分の言葉で愛を伝える

天職について考える体験

マサトナカムラ:僕のレクチャーやワークショップは、インタラクティブに進めていきます。日本の大学のように一方通行に話すのではなく、ディスカッションベースなんです。だからこのレジュメ・ワークショップも毎回違う内容になります。
 知識が欲しければ、検索をしたらいくらでも出てきますね。レジュメやカバーレターについて調べたら、テンプレートはいくらでもあります。今だったらChatGPTに聞いてもいいでしょう。でもこのワークショップでは、レジュメやカバーレターを通じて、あなたの天職について考える体験をしてほしいと思っています。今の20代の時点で、自分が本当にやりたいことは何なのか、真剣に考えてもらいたいんです。
 そうは言っても、知識がまったくなければ、何から手をつけたらいいのかわからないですよね。僕も学生時代、レジュメを見様見真似で書いていました。だからその書くポイントをいくつか伝えたいと思います。採用する側の視点から、どういうレジュメだと魅力的な人に見えるかを紹介します。特に企業の人事部ではなく、エンジニアの現場目線ではどういう人が欲しいのか。日本企業では人事部が力を持っていることも多いですが、アメリカでは現場の人間が一番力を持っているんです。現場の人間の判断で採用が決まることも多いんですね。
 もちろん、日本とアメリカで基準が違うこともあるかもしれません。同じアメリカでも、業界次第で異なることもあるでしょう。僕はニューヨークでエンジニアや研究者として働いている経験がベースになっている。だから僕の言っていることは自分の専門分野でも同様なのか、批判的に考えながら見てもらえたらと思っています。
(マサト・ナカムラさん)

相手が知りたいことを知りたい順に書く

 それではまず、自分の専門分野のレジュメのテンプレートをネットで探してみましょう。ChatGPTなどのAIに聞いてみてもいいよね。Nさんはどういう分野の就職を考えていますか?
参加者Nさん:私の場合は、NPOや市・州のガバメントのアドミニストレーション、もしくはプロフィット企業のポリシーアナリストなどを考えています。
ナカムラ:ありがとう。それでは「NPO admin resume」で検索してみましょう。いっぱいレジュメが出てきましたね。どれか一つをダウンロードやスクリーンショットしてみてください。次はYさん、どういう方向性に行きたいと思っていますか?
参加者Yさん:まだ決まっていませんが、ツーリズム系の仕事を考えています。
ナカムラ:なるほどね。「tourism resume」で検索しても、たくさん出てきましたね。レジュメは業界によっても違ってきます。もし同じ業界の先輩がいたら、アドバイスをもらうのはいいと思います。「私のメンターになってください」と頼み込むくらいの積極性はあってもいいかもしれません。
 私はエンジニアのレジュメでわかりやすいものを見つけたので、これを例に使っていきましょう。上のほうから順番にお話ししていきたいと思います。もしよかったら、共有画面でノートに内容を書いていくので、みなさんもメモしてみてください。書いたほうが一緒にやっている感じがあるでしょう。
(ナカムラさんが参照したレジュメのサンプル(引用元:RESUME WORDED, ”SOFTWARE ENGINEER RESUME GUIDE”))
 まず最初に、名前を「Masato Nakamura」と書きますね。続いては連絡先ですが、レジュメは会社から連絡してもらいたいがゆえに書くものなので、最も重要なところです。電話番号、Eメールアドレスがありますね。
 ここで大事なポイントが、住所を書くことなんです。最近、僕もフルタイムのアシスタント・プロフェッサーを募集したんだけど、住所を書いていない人が多いんだよね。なぜ書いて欲しいかというと、採用することになれば、人事の人がデータを打ち込みます。そこでいちいち住所を聞く手間ができてしまう。また、他の人が住所を書いている中で、一人だけ書いていない人がいたら、書類不備だとされて端に置かれてしまうこともあるでしょう。個人情報だという考え方もわかるんだけど、ぜひ住所も書きましょう。最近はオンラインで働いても可、というところも増えています。だからこそ今はどこに住んでいるのかという情報は重要になってきます。
参加者Tさん:住所は大学の住所でもいいですか?
ナカムラ:もし寮に住んでいるんだったら、寮の住所で大丈夫です。ただ大学の住所というのはありえないですね。すぐに卒業するかもしれないし、若いエンジニアだったらテンポラリーの仕事も多いので、数年後にどこにいるかわからないですよね。
トピックス:日本の会社で働いてきた私から見ても、マサト先生のアドバイスは日本でも普遍的に使えるなと思います。住所を書かないことによって、人事の人に一手間がかかってしまう。つまり、自分ができることを伝えるだけじゃなく、採用する立場から見たときにどう思うかという観点が大事だと。それは日本の就活でもまったく一緒だと思います。
ナカムラ:ありがとうございます。日本もだんだん新卒採用や終身雇用が形骸化していく中で、欧米化されてくると思うんですよね。そうなったときに、このレジュメワークショップの知識や体験をベースにすれば、日本でもアメリカでも、ヨーロッパやアジアでも、自信を持ってやっていけるんじゃないかと思います。
 質問や意見をもらえるとすごくありがたいです。僕があまり気づかなかったことをディスカッションできるからね。僕を妨げても構わないし、他のトピックを話してもいいですよ。

専門性を明確にする

 それでは、次にいきましょう。連絡先のすぐ下には、一番最初に文章が書いてあるのが見えますね。「Software Engineer with over six years of experience in full-stack development and leading product cycle from conception to completion.」(「コンセプトから完成までのプロダクトサイクルをリードし、フルスタック開発で6年以上の経験を持つソフトウェアエンジニア」)とあります。この部分はよくパーパス(目的)と言いますが、僕はサマリー(要約)と呼んでいます。まず最初に、自分はどういう人間で、どういう職を探しているかを明確に書いているのは素晴らしい。
 例えば、新卒の場合は「エントリーレベルのエンジニアのポジションを探しています」。もし転職をしたいんだったら、「○年間の経験のある私がマーケティングのポジションを探しています」。そういうふうに書いたらいいと思うよ。
 その次は「PROFESSIONAL EXPERIENCE」(「実務経験」)とありますね。この表現はすごくいいですね。僕らエンジニアは「INDUSTRY EXPERIENCE」(「業界経験」)と書くこともあるんだけど、「PROFESSIONAL EXPERIENCE」のほうが広義になるのでいいと思います。ここではまず、ソフトウェアエンジニア、プロジェクトマネージャーなど、自分のポジションを書くのがならわしです。会社名も書きますが、その中で何のポジションだったかが大事。そして会社の住所はNYやTokyo, Japanなどと書くとわかりやすいでしょう。その横には「2020-2023」などと働いた期間を書きます。
参加者Mさん:日本では総合職などでポジション名がはっきりしていない場合がありますが、近い役職を書くのがいいでしょうか?
ナカムラ:なるほど。一般職や総合職などと書いても、アメリカ人はわからないと思います。日本に詳しい人だったらわかるでしょうけど。英文レジュメでそういう書き方をすると、何でも屋さんとして扱われてしまいます。会社は専門性が高い人間が欲しいんです。だから自分の専門を明確にするのがいいですね。
 はっきりとしたポジションがなくても、部署名があると思います。総務、人事、情報管理、研究開発、品質管理などでしょうか。日本語の名刺の裏に英語で書いてあることもあるじゃない? それを参考にしたらいいと思います。
 あと、僕はニューヨークの企業で働いていたとき、「ソリューションアーキテクト&エンジニア」というポジションでした。ソリューションアーキテクトは、問題解決のデザインをする中核の人。でもそれを知らない人だったら、ソリューションアーキテクトと言われると、建築士かと間違える可能性がありますよね。そういう曖昧な表現のときは、今のポジションと働きたいポジションで共通する部分を強調するといいですね。つまり、僕は実際面接のときは、システムエンジニアであることをまず伝えた上で、ソリューションアーキテクトの仕事もしていたと説明していました。

何を「達成」してきたか

 それでは次にいきましょう。「PROFESSIONAL EXPERIENCE」のところでした。ここで強調しておきたいのが、この人は「Software Engineer」というポジションの下に、箇条書きで「Created an invoicing system for subscription services」(サブスクリプションサービスの請求書作成システムの構築)、「Collaborated with internal teams」(社内のチームと協業)などと書いているでしょう。最初に「Created」(構築)や「Collaborated」(協業)という言葉を使っていますね。まさにこういうふうに書いてほしいのよ。アクティブなワードを使うということです。
(Unsplash/Mohammad Rahmani)
 日本人の場合は「この部署でこのプロジェクトをやりました」「この部署でこういう顧客がいるチームに配属されました」などと書きがちなのね。でもそうじゃなくて、何をアチーブしたのかを書くんです。その部署の中で、何を変えて、何を達成して、何の業績を残したかを聞かれているんですね。「What you have done」(「何を行ったか」)なんです。
 「やろうと思っていましたが、チームがぐちゃぐちゃになってやれませんでした」「このチームで新しいエンジンを開発しようとしましたが、予算がつかなくてできませんでした」ではダメ。そうではなく書くならせめて「ダウンサイジングで縮小しつつあるチームの中でも、プロジェクトでこういう技術を取り入れました。完成品はできなかったけど、流体力学のエンジニアチームを率いて予算をつけ実証実験までコンプリート(達成完了)させました」とかね。
 でも普通に考えてそうですよね。「オリンピック選手になって金メダル取りたい」と言われたら「すごいね、頑張ってね」となるじゃん。でも「取れませんでした」と言われても、「そっか...」と思うじゃない? それは取りたいという願望を表しているだけで、金メダル取った人のレジュメをたくさん見ている採用側から見たら、「でメダル取ったの?」って思うわけ。もちろんエントリーレベルの人はそんなオリンピックやノーベル賞級のことは書かなくてもいいんです。そこまで期待されてないからね。小さなことでもいいので、これまでアチーブしたことを探してみましょう。
 そういうふうに考えると、実際に就職してチームに配属されて働き始めたときに「自分はこのチームで一体何を成し遂げられるだろう」と思うマインドセットに変わってくるわけ。次回転職するときにレジュメで書けることも増えていくでしょう。
参加者Nさん:まだ学生だとアチーブの最中であることもあると思いますが、そこにいたる過程について書いてもいいのでしょうか?
ナカムラ:アチーブにいたる過程で、小さいアチーブをしていますよね。例えば、論文を書いて、国際会議の​​プロシーディングに出そうと思っていたけれど、結局、フルペーパーは出せなかったとします。もし、アブストラクトやドラフトだけでも書いていて、教授に高評価をもらっていたならば、それをアチーブメントとして書くわけです。
 できなかったことを書くと「残念だったね」と同情はされるんだよね。でも同じようなことをアチーブをした他の志願者がいたら、そちらが採用されるでしょう。自分が職を得るという意味では、小さいアチーブメントをたくさん書くべきなんです。
参加者Mさん:文系分野の接客に関連する仕事をしていて、大学では理系に在籍しています。特定の専門分野を持っていないと判断されてしまうでしょうか?
ナカムラ:顧客対応、アカウンティングマネージャー、セールスなどの仕事に関わっているとしますね。でもその中で、必ず理系的な要素ってあるじゃない? 例えば顧客データをExcelでまとめて統計を取ったり、マシンラーニングを使ってまとめたりするとかね。
 だから文系企業や文系のポジションでも、今勉強している理系の分野の応用を自分でやってみるんです。自分が次にステップアップしたいことがはっきりしているんだったら、世界が違って見えるんですよ。レジュメに良く書けるように仕事をする。レジュメベースなんです。レジュメは自分の足跡のようなものだから、本当にやりたいことは何かを考える事ができるんですね。理系の要素が必要であるなら、今の仕事を理系に変えちゃう。それぐらいの行動力とパッションがあったら、うまく書けるんじゃないかと思うよ。
Unsplash/Nathan McBride
 次は「EDUCATION」(「学歴」)とありますね。これは新卒の場合は一番上に書いてもいいかと思います。まだ「PROFESSIONAL EXPERIENCE」(実務経験)も少ないので、とりあえずあなたの学歴を書いておく。つまり、大学を卒業したのか、していないのか、いつ卒業予定なのか。四年制大学か、コミュニティカレッジなのか、高卒なのか、夜間の大学なのか。そういうことが採用側が知りたい情報なんです。
 ここでテクニックを伝えましょう。皆さんの場合は、日本の大学を出た場合もありますね。皆さんが行っているのは素晴らしい大学だとしても、アメリカで知名度があるわけではありません。例えば、東京の明治大学や慶應大学と書いたとしても、アメリカ人では知らないことが多いです。東京大学でもアジア人ならわかってくれるけれど、欧米では研究者以外には知られていません。特に企業の人事部は、アメリカ以外の大学はわからないわけ。だから、大学名の横に地名を「Tokyo, Japan」などと必ず書くといいですよ。僕の場合は「Hokkaido University」ですが、日本に詳しい人以外は誰も知らないんです。だからその後に「Sapporo, Japan」と書くと、それでやっと話が通じるんですね。
 私が勤務する大学の名前は「New York City College of Technology」、通称「City Tech」といいます。残念ながら、うちの大学は世界的に有名なカレッジではないから、間違われやすいんですよ。よく「NYIT(New York Institute of Technology)」という別の大学と間違われたりする。でも「CUNY(The City University of New York)」という通称を使うと、NYの人はみんな知っています。だから正式名称「New York City College of Technology」と書いた後に「CUNY」と書く。そのように相手にわかりやすい、アディショナルな情報を付け加えるといいですね。

1枚で完結させる

 レジュメの次は「SKILLS & OTHERS」(「スキルなど」)とありますね。ここでは一番最後に書いてありますが、絶対一番上に書いたほうがいいです。この人はソフトウェアエンジニアでしょう。それでスキルを最後に書くというのはあり得ない。だって一番見てほしいのがスキルですから。サマリーのすぐ下に、どのようなスキルを持っているかを書くべきですね。
 ここで一点補足をすると、レジュメは1枚にまとめてほしいです。2、3枚もあったとしても、絶対読まれません。両面印刷だと裏面があるのを見逃したりします。僕も採用をするときに読みません。「長く書いてあって素敵だね」と思うことはまずない。もちろん、キャリアが長くなると、2、3枚まで書きたくなるんだけど、どうにか工夫して1枚で完結するようにしましょう。スペースやフォントなどを調整してみてください。ちなみに、アカデミックポジションを狙っている人は、レジュメじゃなくてCVですが、その場合は何十ページになっても大丈夫です。
 また、レジュメを書く上で気をつけるポイントは、募集要項(Job Description)をちゃんと読み込むことです。例えば、Indeed.comで今、ニューヨーク市内で募集しているメカニカルエンジニアのポジションを検索してみましょう。するとこのように必ず「Job Description」が詳細に書かれてあるのね。ジェネラリストになると、こういうものが曖昧になっちゃうわけね。
 今見つけた募集では「Early Career Mechanical Engineer」(若手メカニカルエンジニア)とあります。それでは「Job Description」を見てみましょう。15個ほど箇条書きで書いていますね。ここで書かれていることに対して、レジュメの中でちゃんと答えなきゃいけないの。それぞれの項目について、自分がどうぴったりであるのかを考慮して書くんです。特に「Required Qualification」(必要条件)の項目は絶対必要ということ。そして「Preferred Qualification」(歓迎される条件)は、あると好ましい内容です。
 アメリカではストレートに書くのが好まれて、物事は大事なものから順番に書くのが基本なのね。日本の文章だと、最後に重要なことを書くこともあります。ワインの魅力を語るときに、「色がいいよね」「匂いもいいよね」ときて、最後に「やっぱり味だよね」といった書き方をしたりする。でもアメリカでは、最初に「ワインの魅力は第一に味だよね」と書くんです。その文化の違いには気をつけたほうがいいでしょう。

「募集要項」は現場の人が一生懸命書いた文章

 それでは具体的に「Required Qualification」の項目を見てみましょう。最初に書いてあるのは、BA(学士)は最低限持っていて欲しいということなのね。僕がさっき学歴は最初に書いたほうがいいと言ったのもそういう理由なんです。採用する側はまず、BAの学位を持っているかどうかをはっきりさせたい。次に0〜1年ほどのインターンの経験、次はリーダーシップの経験とあります。だからインターンやリーダーシップの経験について絶対に書かないといけません。もしなかったとしたら、それに似た経験を思い出して書いてみましょう。またMicrosoft Officeのツールの経験が大事だとあったら、Microsoft Officeでこういうツールを使ったという経験を書きます。そのように、上から順番に質問だと思って一つ一つ丁寧に答えていく。
 一方でいくつも項目がある中で、最後のほうの項目は優先順位が低い。たとえば「ワークプレイスをセーフティにする」などとあるでしょう。こうしたことは人事に後から言われたから付け足しているという場合もあるんです。
 募集要項で「こういう人間が欲しい」と書いているのに、それに全然答えていないレジュメもあるんですよ。僕たち採用側がこれだけ説明しているのに、もう全く違うソフトウェアの話をしているとかね。それでは魅力的には映らないでしょう。一方で、すごく美しく素晴らしいレジュメというのは、採用する側が聞きたいと思っている質問に全部レジュメの中にビシッと答えてくれているんです。だからこの人は本当にぴったりで、ぜひインタビューに呼んでみたいと思わせる。
 先ほどのアチーブメントを書くべきだと、いうのはよく言われるんだけど、この「Job Description」に順番に答えて書いていくべきだということは、当時就職活動している僕に誰も強調して教えてくれませんでした。でもこれはものすごく大事です。
 その内容はアプライするポジションによって変わってきます。だからテンプレートをただコピーして、ちょこちょこっと書いているレジュメというのは、採用側からすると一発でわかっちゃうね。
参加者Nさん:大学の先生の名前や連絡先を一緒にレジュメに書いてもいいのでしょうか?
ナカムラ:プロフェッサー誰々の研究室で何をやったみたいなことだね。先生がその業界で有名だったらいいと思います。また、会社に卒業生がいるとかだったら書く価値はあるかもしれない。でもそうでもなければ、大学の先生の名前を使って何をしたいのかな、どういう意図があるんだろうかって逆に思っちゃうね。
 「ノーベル賞受賞者のところで研究してました」というのだったらいいかもしれません。でも僕が見る場合は、あまり誰の研究室かは見ないかな。先生の威光を借りて「僕はすごい」と書いているように見えてしまう。それ以外に書くことはないのかなと思ってしまうね。リファレンス(照会先)としてならレジュメに書いてもいいけど、僕はお勧めしない。それは面接に呼ばれたときに聞かれたら伝えればいい。

自分の言葉で愛を伝える

 そろそろ時間ですね。今回は紹介できませんでしたが、カバーレターはぜひ自分で書いてみてください。今だったらChatGPTもあるので、ドラフトを書いた上で「綺麗にまとめて」と言ったら、AIがやってくれたりするから。でも、書きたい内容やメッセージっていうのは、相手には必ず伝わるもの。幼くてもいいから、自分の力で書いたほうがいいです。
 例えば、誰かにラブレターをもらったら嬉しいじゃん。でもそれがテンプレートでできてたら、なんか悲しくない? この人は同じテンプレートで、何十人にも書いているんじゃないかと思うでしょう。でもその人自身の言葉で「あなたが好きです」と書いてくれていたら、もう涙出るほど嬉しいじゃない。人に対して何か思いを伝えるという意味では、同じだと思います。
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参加者Mさん:ネットに転がっているのをなぞるようにレジュメ作成して就活してましたが、ほとんど箸にも棒にも引っかからないのは専攻不一致もあるにしてもやっぱり「Job Description」に沿った文章作成をしてなかったからかもしれません。
ナカムラ:そうですね。「Job Description」は募集している人が一生懸命書いた文章なんです。こんな人に会えたらいいな、こんな人を採用できたらいいな、うちのチームにこういう人がいたら最強になるのにな。そういう思いで現場の人たちが書いている。
 僕も採用をするときに「Job Description」を書きます。アシスタント・プロフェッサーとして、どんな分野のどんな経験のある人が欲しいのか。例えばロボティックスの先生が引退するから、同じ分野の先生が欲しいとかね。少なくとも、ロボット工学の学位をとった人じゃないといけない、もしくはロボットの専門でなくても、プログラミングに詳しい人だったらいいかなとか。いろんな思いを持って書くんですね。だから採用する側も真剣なんです。なので学生さんたちや転職したい人たちも、すごく真剣にやったほうがいいと思う。そう考えると、テンプレートはありえない。テンプレートから出発してもいいけど、自分の経験を自分の言葉でしっかりと伝えるレジュメをぜひ書いて欲しいなと思います。
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