[YF]東南アジア実況中継_150216

飛行機、鉄道、バス、高速道路が結ぶドル箱路線だが…

KL−シンガポール高速鉄道構想で日中競争再燃か

2015/2/16

アセアンを代表する2つの都市が一つの経済圏を形成するきっかけとなるかもしれない。マレーシアのクアラルンプール(KL)—シンガポール間の約350キロを一時間半で結ぶ高速鉄道構想が動き出そうとしている。

2006年にもYTLコーポレーションという華人をトップとするマレーシアのコングロマリットが同様の計画を提案したが、建設費が巨大なことなどが理由になり、浮かんだ話も消えていった。2013年2月になって、ついにマレーシアのナジブ首相とシンガポールのリー・シェンロン首相が建設で正式合意した。しかし、資金調達の方法や事業会社の構造などはまだ決まっていない。

今回の予定では、今年下半期に入札・着工し、2020年までの完成を目指す。日本、中国、ヨーロッパ勢が受注に向けて動いていると報道されている。だが、日本側の関係者は「間に合うためには、今すぐにでも入札を行わないと」と語っており、計画予定内での完成を疑問視する。

日本新幹線は1000キロ圏内が優位

今年1月23日と24日、シンガポールで日本の経産省などが主催する新幹線の展示会が開かれた。会場の新幹線のシュミレーターが置かれたゾーンは、子ども連れで大盛況。また、日本の関係省庁・企業による受注獲得に向けたセミナーが開かれ、新幹線の優位性をアピールした。ただ、予定されていたシンガポール政府からの代表者によるスピーチは、調整がつかなかったためか実現しなかった。
 [YF]image-1_600px

日本側の一番の売りはその安全性だ。開業以来半世紀にわたって新幹線で死亡事故は一度も起こっていない。

一方、ライバルとされる中国の高速鉄道は、2011年に温州で起きた脱線事故で乗客40名が亡くなった。事故発生直後に車両を埋めようとするなど、安全をおろそかにし急速な路線拡大を進めた鉄道部を含めて、当局が大きな批判にさらされた。ブルームバーグは当時、「今後中国による高速鉄道輸出の可能性はゼロかもしれない」という記事を流している。

日本の新幹線は1000キロ以内では飛行機、バス、鉄道といった他の交通機関に比べて優位性を保っている。KLシンガポール間の距離は日本の東京ー名古屋間に相当し、その圏内だ。

ただ、日本と違って格安航空が席巻する東南アジアでは、毎日多くの便がこの2都市間で就航している。そのため、普段でも100シンガポールドル(約9000円)ほどで往復チケットが手に入る。

一方でマレーシアの場合、クアラルンプール国際空港から市内へ行くには電車に乗る必要があり(シンガポールは市内とは地下鉄でつながっている)、飛行機の待ち時間を含めて所要時間が4時間ほどかかる。バスも発展しており、5時間の長旅だが飛行機より安く、シートはファーストクラス並でゆったり休むことができる。その他にも、鉄道や高速道路で結ばれている。
 [YF]image_600px

ネックとなるのは資金、だが…

建設される高速鉄道は、マレーシアで7駅、シンガポール1駅の計8駅に停車する予定だ。シンガポール側は市中心部、Jurong EastとTuas Westの3カ所を駅の候補に挙げるが、中心部は大きな土地確保やトンネル建設の必要が出てくるため、リー首相は費用が高額になると懸念する。そこに日本側は国内での経験をもとに、利便性を高められることを強調し、駅周辺が開発できるとアピールしている。

ところで、両国をつなぐ高速鉄道は、日本が初めて海外へ輸出した台湾新幹線と全長、駅の数、気候、人口などの点でよく似ている。最近、その台湾新幹線が「破綻か」と話題になった。現状では、利用者が一日平均13万人で、30万という乗客予測に達していない。オペレーションレベルでは利益は出ているが、問題となったのは35年という短期のBOT方式だったことだ。3月にも経営破綻の恐れがあり、今回の案件にも間接的な影響を与えるかもしれない。

一方で、中国でも高速鉄道の海外進出についてのニュースが続いている。昨年末には、2大鉄道車両メーカーの中国南車集団と中国北車集団が2015年中に合併することが発表された。合併後は売上規模で世界最大の規模になり、積極的に国際業務拡大へ舵を取ることになる。

その国際業務拡大において、最近大きな話題になったのがメキシコ高速鉄道建設計画だ。昨年11月に中国の企業連合が同国の高速鉄道プロジェクトを落札した。しかし、その5日後にエンリケ・ペニャニエト大統領が受注の無効を発表。入札プロセスをめぐり「疑問と疑念」が生じたためだと説明した。中国国内でも、「海外市場を理解していない」「相手国の政治的、社会的、法的な問題が分かっていなかった」などと中国企業への反省を促す分析がある。

東南アジアで初めての高速鉄道はどの手に落ちるのか

中国政府は、自国主導で雲南省昆明からラオス、ベトナム、タイを経由してKL、シンガポールに抜ける高速鉄道を構想中だ。その一部にあたる今回の案件は、資金的に良い条件を出してでも手に入れたいプロジェクトだろう。

一方、今の時点で日本の関係者の多くは、今回のプロジェクト獲得は厳しいと考えている。そのうち一人は「(整備範囲が大きな)マレーシアがより大きな決定権を持っている。これは政治的な案件だ」と語る。中国の高速鉄道は日本の新幹線と比べて建設コストは半分以下だと推定される。また、中国の南車がマレーシアに車両工場を持っていることも中国に有利に働くのではという観測がある。

いずれにせよ、東南アジアで初めての高速鉄道がどう建設され、どう地域経済の統合に貢献するのか。これからの進展から目が離せない案件だ。

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。