2023/3/30

【遊園地再生】現場の声を大事に、地域経済全体を活性化へ

ライター
日本一安い遊園地「前橋市中央児童遊園るなぱあく」を赤字から黒字へ転換し、経営手腕を発揮した園長の原澤宏治さん。そのキャリアは地銀の銀行員、中小企業向け経営コンサルタントとして、「地域経済活性化」に情熱を傾けることで築いてきたものです。原澤さんがキャリアを変えながらも、自身のテーマとして地域経済活性化に取り組んできた軌跡を教えてもらいました。
INDEX
  • 現場主義と段取り力でビジネスを回す
  • 地域経済を盛り上げる勉強会で人脈を広げる
  • 地域の施設と協働して、お互いがプラスの効果を
原澤宏治 るなぱあく園長
1967年生まれ。東和銀行で法人渉外担当を経て、2002年に経営コンサルタントとして独立。2015年に前橋市が運営する児童遊園「るなぱあく」の園長に就任。赤字続きだったるなぱあくを斬新なアイデアで経営改革し、利用者数が激増、黒字化に成功させる。

現場主義と段取り力でビジネスを回す

地銀の銀行員を経て経営コンサルトとなった原澤宏治さんが、まったく畑違いの遊園地の園長をすることになったのは、「地域経済の活性化」への思いがつないだ縁でした。
高校卒業後、群馬県の地銀・東和銀行で法人営業を担当していた原澤さん。このとき培った「ビジネスの基本」こそが、るなぱあくの業績回復に大きな威力を発揮します。
少子化は地方の経済を衰退させる原因のひとつ。子どもや若者に魅力ある街と思ってもらうことが、地方の生き残りには欠かせない
原澤「とにかく現場でビジネスの種を拾うことを徹底的に叩き込まれましたね。例えば、お客さんのところに行ったら、とにかくいろんなことをチェックして、なにかビジネスの種になりそうなことをできるだけたくさんストックするんです。車に何年乗っているか見ておいて、いざ買い替えの時期になったら、すぐ業者を紹介するとか。お客さんも業者も喜ぶし、ローンを組んでもらう銀行にもメリットがありますから」
前橋市との交渉には根回しが欠かせませんが、ここでも段取りで8割、9割、ときには10割が決まるという銀行の仕事のやり方が役立っています。
原澤「段取りがないと、ものごとは進みませんから。しかも、その内容を熟知をしてる人かそうではない人かでは、話が全然違ってくる。現場を知っていて、段取りができること。それがビジネスを成功させるコツです」

地域経済を盛り上げる勉強会で人脈を広げる

一方で、原澤さんの銀行員時代は、バブル崩壊後の不良債権回収の仕事が多い時期でもありました。地元の企業の復活の可能性をなんとかサポートしたいという個人的な気持ちと、債権回収が絶対という銀行の方針の間で、忸怩(じくじ)たる思いをすることも多くありました。そして、30代なかばで銀行を辞め、経営コンサルタントとして独立。
立場は変わっても「地域経済を元気にすることに貢献したい」という思いがありました。しかし、その意気込みとは裏腹に、地方では経営コンサルタントという仕事への理解はほとんどなく、独立の難しさを痛感します。
銀行を辞めて地元の中小企業の経営コンサルタントとして独立した原澤さん(写真提供:原澤さん)
原澤「地方の中小企業の社長は、もともと人の意見を聞かない人が多いんです。加えて、取引先の銀行の担当者ならタダで経営のアドバイスをしてくれるのに、なんで経営コンサルタントにお金を払わなくちゃいけないんだという感覚も強い。そこは東京と地方では大きな差がありますね。経営コンサルタントの仕事を軌道に乗せるのにはかなり苦労しました」
そう笑う原澤さんですが、地元の中小企業に寄り添いながら、地道にネットワークを広げていきます。「地域経済を盛り上げよう」と地元企業の中小企業社長を集めた勉強会も定期的に開催。「地域経済活性化はシステム化できる」という原澤さんの持論をもとに、さまざまなアイデアの議論を重ねました。
昭和のなつかしさをそのまま残しているのがるなぱあくの魅力となっている
原澤「もちろん、地域ごとに特性に差がありますが、地域経済の活性に必要なベースの考え方は同じで、それはシステム化できると考えているんです。勉強会をやっていたのは10年前なので、まだスマートフォンを使ったアイデアではなかったんですが、メールで特定多数に情報発信して地域でポイントをためたり使ったりして回すようなビジネスを想定していました。
今では自治体ごとに地域券やポイント制がありますが、それに近い考え方です。実現直前まで何度もこぎつけたのですが、毎回、最後の最後で行政や大手企業といった高い障壁にぶつかり頓挫してしまいました」
るなぱあくを運営するオリエンタル群馬の社長とも、このときの勉強会で知り合うことになります。同社がるなぱあくの指定管理業者に応募したのも原澤さんの勧めからで、それが縁となり原澤さんに園長の話が回ってきました。

地域の施設と協働して、お互いがプラスの効果を

「少子高齢化で地元が衰退していくのを黙って見ているわけにはいかない」という原澤さんにとって、地域経済の活性化は自身が働く上でのテーマ。そして今、世の中の注目を集める存在となったるなぱあくは、前橋市や群馬県の地域経済活性化のハブになれると考えています。
原澤「るなぱあくだけが人気上がればいいなんていうことは考えない。ほかの企業や施設と協力して、みんなでメリットを享受できるのが理想です。だから、そのための協業もどんどん増やしていきたいですね」
その事例のひとつが、群馬県伊勢崎市にあるAuto Mirai 華蔵寺遊園地との連携です。それぞれの施設で、お互いのリーフレットを置いて宣伝し合ったり、県も協力した連携イベントを開催。相乗効果を高めています。
小さい頃はるなぱあくで、大きくなったら同じ群馬県の別の遊園地へ。そんなコラボレーションも増やしていきたい(写真提供:AutoMirai華蔵寺遊園地)
原澤「るなぱあくは小学生以下の子どもが中心の施設とすると、その子たちが小学校高学年や中学生になったら行くのが華蔵寺遊園地です。うちだけがお客さんを囲い込むのではなく、お互いがいい関係で宣伝し合うことで、大きくなったら東京ディズニーリゾートに行くのではなく、群馬県内で楽しんでもらえるようにしたいんです」
るなぱあくには、人を呼び込む力がある──。そう自信をもって断言する原澤さんは、これからもさらにいろいろな連携を進めていくつもりです。
原澤「仲間と一緒に地域のためになることをやるのが楽しい。るなぱあくをハブにして、新しい地域づくりをしていきたいと思っています」
サッカーコート2面ほどの小さな遊園地は子どもにとっては夢の空間
また、原澤さんの中には、るなぱあくを離れた新しいビジネスのアイデアもあります。それは農業の新しいビジネスモデル構築と、プロスポーツ選手のセカンドキャリア支援です。
農業では、豊作により処分対象となった作物やB級品を加工して、格安で販売できる場をつくろうとしています。それにより農家のみなさんの収入アップ、さらには後継者不足の解決を目指すと言います。
またプロ選手のセカンドキャリア支援では、子どもたちの部活動の指導者不足と次のキャリアを模索する引退後の選手をマッチング。長い人生をより充実して過ごせる道を用意します。
原澤「みんなの役に立つビジネスを回すことで、地域を元気にして貢献していきたい。誰かに喜んでもらうために働く。それが私にとっての働く意味なんです」
誰もが不可能だと思っていた赤字の遊園地に、子どもたちのにぎやかな笑い声を取り戻し、前橋の人たちにとって大切なるなぱあくを再生させた。その自信は、原澤さんの次のチャレンジを大きく後押しすることになりそうです。