2023/4/18

【なぜ】不動産クラウドファンディングの先導者が、“米国上場”した理由

NewsPicks Brand Design editor
 今、不動産投資ビジネスが激変しようとしている。不動産とテクノロジーを組み合わせたプロップテックが広まり、スマホで少額から投資できる不動産クラウドファンディングが急成長を遂げているのだ。
 こうした中、不動産クラウドファンディング業界をリードしているのが、「世界中の不動産投資を民主化する」をミッションに掲げ、2023年3月に米国NASDAQの上場を果たした株式会社シーラテクノロジーズだ。
 2010年に創業後、投資用ワンルームマンションの開発・販売を主に展開してきたが、2021年6月に応援型不動産クラウドファンディング「利回りくん」をローンチ。プロップテック事業へと舵を切った。
 同社の代表取締役会長 グループ執行役員CEOの杉本宏之氏は、「不動産クラウドファンディングの分野でなら世界で勝負できる」と自信を見せる。上場後の勝ち筋をどのように描き、不動産投資の世界をどのように変えようとしているのか。杉本氏に聞いた。

“個のパワー”を不動産投資に呼び込む

──2023年3月に米国NASDAQに上場しました。なぜ、「米国上場」を決断したのですか?
杉本 端的にお伝えすると「競合プレイヤーとの差分」と「市場環境」、この2つの要素が、これから我々が米国の市場にチャレンジするうえで勝ち筋になると考えたからです。
 そもそも、2021年6月に応援型不動産クラウドファンディング「利回りくん」をスタートさせたときから日本国内での上場は視野に入れていましたが、資金調達の規模からアメリカに挑戦することを決めたのはその年の年末でした。
 ではなぜ、不動産クラウドファンディングだったのか。
 クラウドファンディング市場は世界的に見ても年3倍ペースで急成長しています。黎明期にあるこの分野であれば世界と戦える。10年、20年後を見据えてデジタル分野で我々が事業を展開していくうえで、クラウドファンディングを選択することは必然でした。
 これからは「個のパワー」の時代が来る。それを強く思ったのは、アメリカで個人投資家向けアプリを展開するロビンフッドがセンセーショナルに上場したときでした。
 個人投資家が集まって何千億という資金を動かし、空売りを仕掛けていたヘッジファンドを負かしたのを目にして、「個のパワー」の盛り上がりを実感しましたし、ロビンフッドのインパクトは業界全体を巻き込んで「証券取引の民主化」を推進するきっかけになりました。
 その後の顛末に関しては賛否ありますが、僕はこれが時代が変わった瞬間だと強く感じたのです。クラウドファンディングによる資金集めにも、これと同じような可能性を感じています。
 従来は富裕層が中心であった不動産投資の領域へ、個人がテクノロジーの力を使って参入するようになる。いうなれば「不動産投資の民主化」を実現するための手段として、不動産クラウドファンディングが活用されるという考え方です。
 特に不動産投資の世界では、アメリカの借入金利がここ1年で2%から7%に上昇する一方で、日本は金融緩和が続いています。
 結果として円安が進み日本の不動産価格が相対的に下がる中で、「日本にも不動産を持っておきたい」と考える機関投資家が増えているのです。
 こうした状況はしばらく続く見込みで、我々にとっては日本に軸足を置きつつ、リセッションを迎えるアメリカでビジネスを展開していくチャンスだと考えました。
 現在、当社の「利回りくん」の会員数は約25万人です。これに対し、不動産クラウドファンディングの分野でアメリカのトップを走るFundriseの会員数は約40万人、2位のRealty Mogulの会員数は約28万人です。会員数も、預かり資産も、当社とそんなに大きな差はありません。
 むしろ、世界中から投資が集まるアメリカの経済規模を考えればNASDAQで上場して勝負する価値が十分ある。
 我々のビジネスをアメリカに持っていったときに、どのくらい評価されるのか。本気で世界一を狙うことに可能性を感じました。
──実際、アメリカの投資家はどんな反応でした?
 ロードショー(上場前の投資家回り)をしているとき、50人以上のアメリカの投資家に会いました。その時、多くの投資家が「アメリカでは今不動産マーケットが停滞している。しかし、今は日本が面白い。日本発の不動産クラウドファンディングならチャンスがあるかもしれない」と興味を示してくれたんです。
 中には厳しいことを言う方もいましたが、投資家との議論はワクワクする時間でした。アメリカのマーケットの巨大さ、挑戦する人間に対する寛容さ、世界の不動産ビジネスに関するアンテナの張り巡らし方。すべてにおいて日本とは桁違いです。
 アメリカの不動産クラウドファンディング分野は日本よりも5年先を行っています。今後日本でも確実に広がっていくのは間違いありません。
 事業のアイデアをさらに磨き、テクノロジーとかけあわせて、スマホで不動産取引が完結する世界をつくる。ここにフォーカスする戦略は決して間違っていないのだと、自信を持つことができました。

コンテンツの“強さ”で投資を集める

──「利回りくん」は1口1万円から、スマホで最短10分から不動産投資ができるサービスです。改めて、従来の不動産投資との違いを教えてください。
「利回りくん」の最大の特徴は、応援したいプロジェクトに少額から投資できる点です。
 例えば、当社では堀江貴文さんが創業した北海道・大樹町にある宇宙ベンチャー企業 インターステラテクノロジズ(以下IST社)のロケット開発施設を建てるファンドを立ち上げました。
 当初、銀行から融資を断られ、政府の補助金で建てる予定だったところ、堀江さんから当社に相談があったのがきっかけでした。公募を開始すると、わずか2日後に3億円が集まりました。銀行が出資を見送ったプロジェクトとは思えない勢いです。
 最終的には4億1222万円が集まり、その後も第2弾、第3弾とプロジェクトが立ち上げられました。これこそが「個のパワー」なのかと実感しました。
 出資した方は、「堀江さんのプロジェクトだから面白そう」「宇宙ロケット事業を応援したい」「地元に貢献したい」と動機はさまざまでしたが、つまるところ「応援プロジェクトに共感できる方」という共通項がありました。
 結果として、IST社はロケット事業に注力してより大規模な資金調達を実現し、飲食店や社員寮も整備しました。そして町を訪れる人が増えたことでインフラ整備が進み、町の人口やGDPも24年ぶりに大幅な増加を実現しました。まさに、地方創生というより活性化の好事例です。
 このプロジェクトの成功が知られるようになり、JリーグやBリーグのスタジアム建設費用、ペットと共生するマンションや障害者支援施設を設立するプロジェクトなどが立ち上げられました。
 今後は自治体とも協力してプロジェクトを立ち上げていきたいと考えています。
 例えば、予算がなくて建て替えができない市営住宅の費用を「利回りくん」で募り、単身者向け、子育て世帯向けなど呼び込みたい層を意識した物件を当社で建てる。
 そうすれば修繕にかかる税金の投入を抑えることができますし、施設を有効活用できるだけでなく、自治体は貸し出すことで賃料を得ることができます。まさしく民間の資金を活用したPFI(※)をクラウドファンディングで実現しようと奔走しているのです。
※PFI「Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ」の略称で、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法のこと。
 不動産クラウドファンディングを活用して自治体の負債となっている物件を市民の資金で復活させる。
 日本が抱える構造的な問題を国民の資金で解決するわけですから、投資した人に対して、ふるさと納税のような減税措置を設けられれば、いっそう資金が集まって地域活性化につながるのではないでしょうか。
 そうしたアイデアの実現に向けて、今後も自治体と積極的に議論していきたいと思います。
──スマホで気軽に不動産投資ができるという体験も、新しいですよね。
 今までは不動産投資をするには、数千万円、数億円といったまとまった資金が必要でした。当然、投資する物件選びにも慎重になります。
 これに対し、「利回りくん」の場合はスマホですべて完結する手軽さが特徴です。
 プロジェクト紹介の動画をちらっと見て「いいな」と思ったら、スマホ上ですべての本人確認が完了し、すぐに入金できる。オンライン上ですべてが完結するので、取引にかかる所要時間は10分程度です。
 スマホで10分で完結するのなら、不動産投資に興味を持つ人は多いはずです。実際、「利回りくん」のアクティブユーザー層は20代後半〜30代がボリュームゾーンです。
 我々が不動産会社として今後生き残っていくためには、いち早くこのターゲット層の行動様式にあわせ、オンラインで最適化したプラットフォームを提供しなければなりません。
 今はZ世代やゆとり世代と言われている層も10年後には我々のメインターゲットとするお客様になります。最先端のAI技術、ビッグデータを用いてマーケットにフィットしていかなければ生き残れないと考えています。
 ただし、テクノロジー企業であっても、すべてをテクノロジーで解決できません。OMO(Online Merges with Offline)を意識し、オンラインとオフラインのバランスを取りながら適合していく。我々が成長を続けていくにはこうした戦略が必要です。

楽天との提携で会員数200万を目指す

──2021年12月から楽天と資本業務提携をしています。この狙いはなんですか? また、今後の戦略をお聞かせください。
 楽天に資本業務提携の相談を持ちかけたとき、「売上2兆円規模のうちが、200億円程度のシーラテクノロジーズと提携するメリットは何?」と三木谷さんに聞かれました。
 楽天は日本とアジア圏で約1億人のユーザーを抱えています。このうち不動産投資に興味を持つ人が1%いると仮定すると、100万人が取り込めるわけです。1人30万円の物件を買えば合計で3000億円の売上が生まれます。
 我々としてはなんとしてもこの楽天の会員基盤を活用したい。楽天会員の1%にコンバージョンできれば、大きな利益につながります。
 また、通常は不動産投資に興味を持った1人を登録させるのに平均8万円、マンションを購入してもらうのに平均150万円のマーケティング費用がかかるとされています。楽天の会員基盤を活用することで我々はマーケティング費用を約1/40に抑えることができました。
 そもそも、ポイ活をする人はお金を増やすことに興味がある人。不動産投資との親和性も高いと言えます。実際にその裏付けとして、今のところ楽天のサイトから「利回りくん」に入ってくれるコンバージョン率は高く、16%前後で推移しています。
 一方、楽天にとってのメリットは何か。「利回りくん」は現在、1日100人ペースで新規会員が増えています。この会員がログインするだけで1ポイント、誕生日100ポイント、当社の商品や会員のステータスによっては15万〜30万の楽天ポイントを進呈しています。
 会員数が増え、投資する人が増えていけば我々が楽天さんに支払う額は増えていくので、楽天さん側はキャッシュマシーンを買ったようなものです。
 加えてさらなる飛躍に向けた次の一手もすでに打っています。
 2023年5月から「利回りくん」と楽天のID連携が可能になります。これによって、楽天ポイントで投資ができるだけでなく、楽天IDを持っている人が何の登録をする必要もなく、シームレスに「利回りくん」で投資ができるようになる。
 当初は長期的に100万ユーザーを見込んでいましたが、今は200万人というKPIも射程範囲内だと思っています。

失敗に学び、“攻めの体制”を整えた

──杉本さんはシーラテクノロジーズ創業前にエスグラントコーポレーションを設立し、業界史上最年少で上場を果たしたものの、リーマンショックで破綻に追い込まれています。当時と今回の上場で、見えている景色はどのように変わっていますか?
 エスグラントコーポレーションのときは、自己資本が40億円弱で、300億円以上のビジネスを展開していました。
 当時手がけていたのは買っては売り買っては売りを繰り返す「THE・不動産事業」だったので、金融危機に見舞われたときに身動きが取れない状態になってしまいました。
 こうした失敗から学んだのは、出口を多様化し、複数のバランスシートを持つことの重要性です。
 今、我々は「利回りくん」の運用に加えて、長期保有して運用する物件を増やしています。今後はビルやファミリー向けの物件も保有していくほか、自分たちでコントロールできるファンドも動かしています。
シーラテクノロジーズが保有する物件の例
 今回の米国上場を機に、アメリカのサンディエゴに子会社をつくってリノベーション事業を展開していく予定ですし、太陽光発電やバイオマス発電といった事業にも取り組んでいきます。
 メイン事業は「利回りくんプラットフォーム」で7割を占めていますが、不動産とシナジーのある領域で多角的に事業を展開しバランス良く成長していくことを目指しています。そして、自己資本比率30%をキープし、キャッシュフローを常時販管費の2年分持つようにしています。
 以前の会社と比べると、悪く言えば、僕がおじさんになってリスクに慎重になった部分もあるかもしれません。良く言えば、健全な会社をつくり、攻めていく体制ができたということ。
 会社の土台が安定することで、はじめて本気で社会の変革に挑むことができます。余裕があることで、お客様に幸せになっていただいたうえで、会社が利益を両立させる方策を真剣に考えられるのです。
 我々は今、常に冷静に俯瞰する経営を心がけていますが、これは今回の上場審査でも役立ちました。審査官の前で気持ちが焦ることもなく、「我々の目標は上場することではなく良い会社を創ることである」という気持ちで常にいられましたから。
──不動産クラウドファンディングを広めることで、今後、業界にどのような変化を起こしていきますか?
 不動産投資において、これまで資金力の低い個人はサイレントマジョリティになっていました。しかし、不動産クラウドファンディングでスマホから気軽に投資ができるようになることで、出資したい人の裾野が大きく広がりました。
 単に資産を増やす目的だけではなく、自分が応援したい人や、地域活性化や社会貢献につながるプロジェクトに投資する。その結果として資金集めで困る人が減り、社会が良くなり、自分の将来の資産も増える。良いことづくしです。
「金融危機が起きたら危ないのでは」と思う方もいるかもしれません。リーマンショックのとき、高級物件の価格は急落しましたが、ワンルームマンションの市場では大きな変化はありませんでした。むしろ、個人投資家の中には値が下がったタイミングで購入する方もいたのです。
 不動産クラウドファンディングも同様で、1万円単位であれば、不景気になったとしても投資してくれる人は多いはず。ポイ活の延長で気軽に不動産投資ができるのであれば、なおさらです。
 何と言っても、この国には1,100兆円というとてつもない預金額があり、この1%を動かすだけでも11兆円になるわけです。欧州や米国、はたまたアジア各国と比べても圧倒的に投資ができていません。これが1人当たりのGDPでも韓国に負け、経済も一流ではないと言われてしまう所以です。
 我々はこの現状を変えたい。
 不動産投資を民主化し、テクノロジーと資産運用で多くの国民を豊かにし、不動産クラウドファンディングの力で地方創生も果たすこと。これが我々の目指すビジョンです。 
 5年後、10年後には、オンライン上で不動産投資が完結するスタイルが主流になるのは間違いありません。「個のパワー」が不動産マーケットの常識を書き換え、社会を動かす力になる。そう確信しています。