外交関係修復で合意 中国など仲介、大使館再開へ―サウジ・イラン
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注目のコメント
Bitter Rivalsとも称される両国の関係が正常化されるとのこと。外交文書上だけでなく、実際の外交活動においてもどの程度まで本当にそうなるのかは、注視せねばなりません。
特に注目して深掘りしたいのは中国の調停活動。今後国力が縮むことが予想される日本では使える外交アセットが少なくなる中で、このような紛争調停などは有力な手段の一つとなり得ます。活発に調停活動を行ってプレゼンスを示す中小国もあるので、日本政府にはプロの調停者(mediator)を組織的に養成することを期待しています。中東の国際関係は複雑なので、簡潔に表すと、
まず、イラン vs. イスラエル
という対立軸があります。
イラン: 地下施設で核開発を推進中。
イラクやシリア、レバノンに影響を持つ。
後ろ盾にあたる同盟国はロシアと中国
イスラエル: イランの核兵器取得を絶対に阻止する方針。
後ろ盾の同盟国は米国
サウディアラビアは、イランとイスラエルに挟まれる位置にあり、基本的には米国の同盟国です。近年、イスラエルとの関係強化を進めています。
ただし、原油の生産調整ではロシアとも組みます。
サウディアラビアは、米国と中国・ロシアを天秤にかけるような真似をしており、米国に対しては、
・NATO加盟国並みの安全保障条約
・サウディアラビアによる核開発への支援
を求めていました。
米国としては、これらは過大で、のめない要求です。
https://www.wsj.com/articles/saudi-arabia-seeks-u-s-security-pledges-nuclear-help-for-peace-with-israel-cd47baaf?st=e135o2o96lln91z
サウディアラビアは、米国が要求をのまないので、天秤のもう一方、中国に傾きました。
中国は、イランの後ろ盾として、サウディアラビアがイランへの脅威とならないようにする外交上の動機があります。
イスラエルとしては、中国の介入により、サウディアラビアがイランとの対決に協力してくれない、というかたちになっています。
ただ、サウディアラビアというのは、膨大な軍事費は使っていても、実際の戦争では物の役に立たない国です。世界最貧国の隣国、イエメンに攻めこんで、10年以上多大な損害を受けるだけで、何の成果も挙げられずにいます。
イスラエルは結局、自分の力しか当てにしません。
イランの核兵器獲得はあらゆる手段で阻止するでしょうが、その際、出撃拠点とするために関係を構築しているのは、イラン北方の隣国、アゼルバイジャンです。
サウディアラビアは、おとなしく何もしなければイスラエルとしては構わないでしょう。
サウディアラビアはサウディアラビアで、イランからイスラエルの手先と見られて報復攻撃の対象になりたくない、というのが主な関心事項です。国際社会における中国の立ち位置を見る上で、とても象徴的だと思います。
シーア派の盟主イランとスンニ派の盟主サウジアラビアは宗派をはじめ、あらゆる面で対立し、中東で最大のライバルでした。
一方で近年の共通項は、中国との接近。イランはとにかく反米連合みたいな形でロシアや中国と仲良くしてきたこの数年でしたが、むしろサウジの転換ぶりはすごいです。去年、サウジを訪れて石油増産を懇願したバイデンに対して皇太子はほとんど「ゼロ回答」の冷遇ぶり。その後、習近平は華々しく首都リヤドに迎え入れました。
中国と中東の関係でいうと、個人的にどうしても思い出すのが2015年のイラン核合意(JCPOA)です。イランの核問題をどうするかという話し合いの場で、安保理メンバーである中国もその一員でした。しかし終始交渉への参加は消極的で最終的な合意局面でも「お客さん」のような浮きぶり、主体性の無さでした。「自国から離れたところで起きる出来事には興味ない」といった感覚を覚えました。しかし今や、中東で最大の対立を調停するまでに躍り出ています。アメリカ不在の中で、中国の存在感ばかりが目立ちます。
…されども、サウジは安全保障の面ではアメリカの兵器や軍に頼り切りというのが実情でもあります。こうした状況でどこまで中国に接近できるのか。米中対立の中に身を置くのか。サウジーイランのみならず、中東全体での動きに注目です。