[東京 3日 ロイター] - 任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」の村上皓亮・最高投資責任者(CIO)は、ロイターとのインタビューで、企業の挑戦を促し、新たな価値を創造していくことを目的に投資を行っていると述べた。ファミリーオフィスの特性を生かし、10年を超すような長期投資も可能だとしている。

村上CIOはYFOの投資について「やりたいのは挑戦を促して価値創造を一緒にやっていくこと。必要なリスクは、ファミリーオフィスの特性を生かして許容していく」と話す。ファミリーオフィスなので資金を外部から集めておらず、短期的なリターンのプレッシャーを受けることがない。「他の人は10年を超すようなリスクは取れなかったりするが、多少の根気を持ち、レピュテーションリスクを負ってでもしっかりやりきることができる」という。

YFOは、任天堂の中興の祖である故山内溥元社長から受け継いだ資産を投資・運用しており、資産規模は2000億円弱だという。活動の中心は、フィランソロピーと呼ばれる慈善活動と起業家の育成や新しいビジネスを支援するインキュベーション。企業への投資は、こうした活動を持続するために行われている。

「挑戦と生きていく」というファミリーオフィスの哲学が行動の指針になっており、将来的に価値創造できる企業が対象となる。ひとつは、20―30年後に世界を変えるかもしれないテクノロジー。現在、宇宙ゴミの除去技術を開発するAstroscaleや頭で考えるだけで機器を操作する技術を開発するParadromicsなどに投資している。村上氏は「この領域に運用資産の半分程度を投資していく過程にある。現在の投資先は20以上ある」と話す。

もうひとつは、潜在能力を持つ日本企業が、世界に輸出できるような技術を自ら獲得するための投資。27%の株式を取得し、株式公開買い付け(TOB)により非公開化を提案している東洋建設も、海洋回りでの新しいエネルギーサービス提供などのポテンシャルのある企業と位置付けている。

村上氏は、投資先の企業が行う事業改革については「会社の課題やどうやって成長させるかというシンプルな答えは社内の人が持っている」と述べ、投資先企業との対話の中で、一緒に成長を目指すことのできる役員や社員を探し出し、進めていく考えだ。

東洋建設については、5月24日までは株式の追加取得を行わないという約束があるが、それ以降の対応は「現時点では決めていないが、(追加取得を)全く排除するわけではない」と話し、ゴール達成に資するかどうかが判断基準になる。

YFOは東洋建設の成長を目指すことができるガバナンス態勢を構築するとし、6月の株主総会で武沢恭司社長ら3人の再任に反対する方針を表明する一方、新たな取締役選任案を提示するとしている。

YFOの買収提案を検討する特別委員会の設置を2月に発表した東洋建設は「現在までにYFOから提示を受けている企業価値向上策だけでは、公開買い付け等の提案に賛同するか否かを判断するために必要な情報が不足しているため、追加の情報提示を再三依頼しているが、遺憾ながら一切返事をいただけていない状況が続いている」としている。

※インタビューは2日に実施しました。

(清水律子 勝村麻利子 山崎牧子 編集:石田仁志)