2023/3/6

【5分解説】今、営業職に“未経験者”が求められている理由

NewsPicks Brand Design editor
 今、世の中にもっとも求められる仕事のひとつ、「営業」──
 これまで営業といえば「飛び込み営業」や「テレアポ」のようなネガティブなイメージが強かったが、インサイドセールスやカスタマーサクセスなどの「新しい営業職」の普及やデジタルセールスが浸透したことで、若い世代がスキルアップのために選ぶ職業として話題にのぼることも多くなっている。
 そうした変化に伴い、「今や営業は『勢い』や『人間力』で勝負する古い価値観では生産性が上がらなくなっており、むしろそれに染まっていないことがアドバンテージになる時代です」と指摘するのは、『無敗営業』の著者であり、営業強化支援事業を手がけるTORiX代表取締役 高橋浩一氏だ。
 では、これからの時代に求められる営業職の新しい価値観とはどんなものか。そして未経験からの営業職転職を成功させ、その先、キャリアアップするために必要なこととは。
 営業職の転職事情に詳しいパーソルキャリア執行役員の喜多恭子氏と高橋氏の会話からあきらかにしていく。

短期間で市場価値を上げたいなら“営業”を選べ

──営業というと一昔前まで「飛び込み営業」とか「テレアポ」のようなネガティブな印象がありました。
高橋 一部の企業ではそうした側面がまだ残っている可能性がありますが、正直そのイメージはもう古いです。
 実は今、インターンでスタートアップの営業職の人気が高まっています。
 特に、最近では「The Model型(※)」の営業組織を採用する企業が増加しており、これまでアポ取りからアフターサポートまで一人の営業がこなしていた工程を複数人で分業し、デジタルツールを使って情報共有しながら営業活動を進めることが多くなってきました。
※営業組織形態のひとつ。営業プロセスをマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスで分業し、営業効率の向上や売上増大を狙う。
 そうした背景もあり、一昔前までの営業職のインターンといえば「とにかくテレアポ」だったのが、例えばインサイドセールスでインターンをする場合、大学生であってもデジタルツールを駆使して大量のデータを扱いながらKPIを見てPDCAを回し、社内と連携するような仕事を任せてもらえることが多い。
 そんな環境で試行錯誤するのは知的な面白さがありますし、自然と仕事ができるようになりますよね。
 近年はウェビナーやSNSを通して営業として成果を上げるノウハウを得やすくなりました。やる気がある人にとっては未経験でも短期間でスキルアップできる環境が整ってきたといえるでしょう。
 人と関わりながら難しいことをやり遂げて成果を出す営業職は、若い人たちにとって自分の市場価値を高めるのに魅力的なルートだと認識されはじめているのでしょう。
喜多 求人自体は2019年がピークで、コロナ禍でぐっと下がり、2021年以降少しずつ戻ってきました。2023年の現状ではもうコロナ以前にほぼ戻っていて、あらゆる業界で営業職の求人が出ている状況です。
 背景としては、コロナ禍で募集を停止してため、必要な人員が十分確保できていないことが挙げられます。
 中には、SaaS系のベンチャー企業様で「未経験可、300名募集」のような求人もあります。広く門戸が開かれていて選択肢も多く、外部環境としても未経験の方が挑戦しやすい状況が整ってきたといえます。

営業=「知的創造活動」

──デジタルツールの活用が広がる一方で、それでも「人」が求められている背景には何がありますか。
高橋 かっこよくいえば、営業が創り出す「知的価値」の需要が急激に高まっている。これが理由でしょう。
 これまでの営業職は「数字を稼いでくれればいい」というように、社内のほかの部署と連携せずとも仕事が成り立っていた側面がありました。しかし、今は営業の人がお客様と接して取ってくる「生きた情報」の価値がものすごく高まっているのです。
「メールを開封した」「資料を請求した」といったデータはデジタルマーケティングで得られますが、もっと深いところにある「なぜしたのか」、その動機はお客様に直接聞かなければわかりません。
 営業がお客様から直接聞き出した情報こそが社内のみんながもっとも知りたい情報であり、それが商品やサービスの開発・改善を加速させ、事業を回す起点となります。実際、この営業の価値にいち早く気づいたスタートアップは、営業を中心に組織を動かしているとよく耳にします。
喜多 営業のデジタル化が進んだときに、「営業職は今後必要なくなるのでは」という声が出ましたが、実は最初に営業職の求人に力を入れるようになったのはデータを駆使しているSaaS系の会社でした。
 お客様の課題解決や事業伸長に貢献したり、サービスをブラッシュアップしたりするためには、やはり営業が持っているお客様の情報が非常に重要になるでしょう。
──「デジタルツール活用×知的価値の創造」。営業においてこの2つの掛け合わせが重要になるなかで、今後、どのようなスキルが求められるでしょうか。
高橋 以前は、営業自身のキャラクターとオーラで押して売る、親しくなって契約を取ってくる、デジタルは苦手と一切触らないといった営業スタイルが許容されていましたし、それで実績を上げる営業もたくさんいました。
 しかし、「売れてさえいれば問題ない」といった旧来型の営業ではすでに生産性が上がらなくなってきています。
 それに対し、デジタルを活用する今の時代は、お客様を深く理解し、お客様と一緒に新しい可能性を考えていく「伴走力」が営業に求められています
 最近、若い営業の方と話をすると、「実は人と話すことが得意ではない」という方も多いんです。
 彼らはお客様を惹きつける魅力的なプレゼンは苦手かもしれませんが、的確な質問で課題やニーズをヒアリングして、お客様の期待に応える提案をしています。こうしたスタイルの営業が今後は活躍していくでしょう。
 また、社内で連携していくことも重要です。かつては、マネージャーに途中経過を報告せずに土壇場で数字をつくる人もいましたが、マネージャーにとっては売上の見通しを立てにくい。それよりは、プロセスを共有し、他部署も含めて連携しながら、着実に前に進めていける人が必要とされています。
 これらの点を踏まえると、実は「古い考え方に染まっていない」という点で、未経験の方はアドバンテージがあるともいえます。まっさらな状態で営業を勉強したいというやる気のある方は、それだけでポテンシャルが大きいと思います。
喜多 以前当社で、インサイドセールスとカスタマーサクセスに求めるスキルについて個人と法人を対象に調査したところ、結果にギャップがありました。
 インサイドセールスに求めるスキルとして、個人は「ヒアリングスキル」という回答が多かったのに対し、企業はそれよりも「提案スキル」を求めることがわかりました。カスタマーサクセスも同様に、個人は「タスク処理スキル」が必要という回答が多かったのに対し、企業は「顧客折衝力」という回答が一番多いという結果になりました。
 つまり、「求めるスキル」については、企業と転職希望者で認識の違いがあるということです。
 ISやCSに限らず、業態や商材ごとに求められるスキルも異なります。転職を考えている方々は、「この業界、この会社の営業にはこういうスキルが必要だ」と思い込まず、まずは求人情報をしっかり読み込み、カジュアル面談や面接を通してその会社の営業の仕事内容を十分に理解した上で、自分にあう会社を見つけることが大切です。

狙って成果を出せる「再現性」はあるか?

──未経験から営業として活躍するために、何を意識しておけばよいでしょう。
高橋 営業として成長していく過程では、「個人として成果を上げるステージ」と「その成果を再現して拡大していくステージ」の2つがあると思います。
 転職直後は個人で成果を出すことがまず求められますが、営業は数字がはっきりと出てしまう分、最初でつまずいてしまう方もいます。転職後から成果を出せる人というのは、周囲の力を借りるのがうまい人が多い。上司や連携部門のサポートを得て、チーム全体を巻き込んで取り組んでいくことが、初期の頃に成果を出すために大事だと思います。
 ある程度成果を出せるようになってくると、今度は「再現性」の獲得が求められます。「たまたま売れた」ではなく、「自分は狙って成果を出すことができる」と自信を持って言えるような再現性の高い方法を見つけられていることが、営業としてキャリアアップしていくうえで重要です。
 成果を出せている要因が、データなのか、企画なのか、チームなのか。それがわかれば、もっとレバレッジを利かせることができますし、異なる商材や業界に横展開することもできます。あるいはマネージャーとしてチームを育成することも可能です。
 再現性を獲得するための大きなファクターとなるのが、時間あたりの商談件数です。1カ月に1回しか商談がない人と10回商談を経験する人では、当然成長スピードに差が出ます。また、先輩について学ぶ期間が長ければ、自身で経験値を獲得するまでには時間がかかります。
 その意味で営業としてより早く成長したい人は、転職時の企業選びの基準として「商談を多く経験できる職場」を重視すると良いかもしれません。
 例えば、面接の際などに、一人の営業が1カ月にどのくらいの商談件数を抱えているか、先輩について学ぶ期間がどのくらいあるかなどを質問すると、入社後のリアルな仕事のイメージが湧くと思います。
istock/kazuma seki
喜多 営業職には、コミュニケーション力、交渉力、傾聴力、課題発見力、ロジカルシンキング、ストレス耐性など幅広いスキルが求められます。これらはほかの仕事においても基礎となるポータブルスキルです。
 高橋さんがおっしゃる「再現性」とは、成果を出すための行動の型とポータブルスキルを組み合わせて生み出していくものだと思います。
 これらを獲得することで、自分の強みは課題発見だから複雑な顧客課題を解決するソリューション営業を目指したい、データ分析が得意だからマーケティングに挑戦したいなど、将来のキャリア形成にもつなげられます。複数のポータブルスキルを身に着けた営業職は、その後のキャリアの選択肢も広がるでしょう。
 大事なのは、営業をやっていくなかで、「自分はどんなスキルを使って、どういう成果を出したのか」を考えながら進んでいくことだと思います。
 転職希望者の中には、「営業職は愛嬌があって印象が良いから売れる」と漠然と捉えている方もいるのですが、よくよく話を聞いてみると、ヒアリングの深掘りができていて、課題発見力や提案力が高いことが売れる理由だったりすることも多いのです。
「なんとなくうまくいった」ではなく、自分は何が得意で、どんなシチュエーションで、どんな成果を出せるのかを考え続けることが、営業として活躍するうえで大事なことだと思います。