[東京 8日 ロイター] - 金融庁で情報開示や企業統治を担当する井上俊剛審議官(企画市場局)は、ロイターとのインタビューで、日本のコーポレートガバナンス改革は形式を整えるところから実質を求める「第2フェーズ」に移ったとの認識を示し、6月ごろまでに「アクションプログラム」を取りまとめる考えを示した。株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業が多く存在する問題についても、投資というツールを使って変える余地があると述べた。

井上審議官は、ガバナンス改革について、社外取締役の増加など形式面では整ってきているが、企業価値向上という実質的なところに十分波及していないと指摘。「実質面で改革を進めていくためにはコードの改訂という手法ではなく、問題点を特定してアクションプログラムを進めていったほうがいいのではないか、という問題意識で政策を進めている」と述べ、6月ごろまでに「アクションプログラム」を取りまとめる方針を示した。

アクションプログラムでは、投資先企業との建設的な目的を持った対話(エンゲージメント)をどう実質化していくかなどが重要な課題となるという。「企業側だけでなく、投資家からの働きかけも重要だと思う」と述べ、投資家から企業に改善を促すようなエンゲージメントがより実質的との見方を示した。

他の投資家と共同で企業に提案する行為などをめぐる規制の範囲を明確化し、より効率的な対話を可能にしたい考えだ。

一方、企業側には、より資本効率を意識した経営が求められている。執行側の意識だけでなく、社外取締役も、不採算事業からより成長性のある事業に投資の重点を移すようなアドバイスをするべきだと指摘。社外取締役の質向上に向けた研修制度の後押しなども検討する。

PBR1倍割れの企業が多数存在する問題も大きな課題の1つ。東京証券取引所は2023年春にもプライム・スタンダード市場を対象として、PBRが継続して1倍を割っている企業に改善に向けた取り組みや進捗状況の開示を要請する方針を示している。井上審議官は、PBR1倍割れ企業の多さは日本の市場の悪い特徴だとし「投資というツール、エンゲージメントで変える余地があるということ」と指摘した。

井上審議官は、1月10日からニューヨークに出張し、海外投資家に向けて、日本のガバナンス改革の説明を行った。これは、昨年9月に岸田文雄首相がニューヨーク証券取引所で「世界中の投資家から意見を聞く場を設けるなど、日本のコーポレートガバナンス改革を加速化し、さらに強化する」と述べたことを受けて実施されたもの。すでに、アジア、欧州の投資家から意見を聞いており、今回は米国の投資家との対話を行った。「われわれが投資家と話をして、投資家がそういう問題意識を持って、より広い企業とエンゲージメントをすれば、それは意味のあること。アクションプログラムをいろいろなステークホルダーの意見を聞きつつ作っていく過程自体に実質化の意味があると思っている」とし、対話のプロセス自体が重要と強調する。

井上審議官はコーポレートガバナンス改革について「終わりのない旅路。ガバナンス改革に終着点はない」と述べ、企業が存続する限り、やり続けなければならない課題だとした。

*インタビューは6日に実施しました。