2023/2/5

オランダ「牛の数を減らせ」作戦は、世界の肉食を変えるか

今日の畜産業は、単に「牛のゲップによる温室効果ガス排出」だけではない、さまざまな問題を抱えている。
「ど~なる肉食」特集前編では、工場式畜産による安価な肉の「隠れたコスト」を解説した。
これらの問題をまとめて解決するには、「家畜の数を減らす」しかないという議論が、近年欧州を中心に高まりつつある。
この後編では、そのムーブメントの最前線に立つオランダの取り組みを、英ガーディアン紙の記事より紹介する。
この流れは、アメリカなど他の畜産大国にも波及するのだろうか? 本当に「肉が(これまでと同じようには)食べられなくなる日」がやってくるのだろうか──。
INDEX
  • オランダ政府の一大決断
  • 「テクノロジー頼み」への疑念
  • アメリカはどう出るか
  • 環境保護「規制」の限界
  • 「窒素課金制度」への期待

オランダ政府の一大決断

イングリッド・デ・サインは、最近眠れない夜を過ごしているオランダの大勢の酪農家の1人だ。
2019年、EUの自然保護法にオランダが違反しているとする判決が下って以来、オランダ北部に牛100頭を抱える彼女の農場は「違法」となった。
👉2019年のオランダの判決
2019年5月、オランダの国務院(最高裁に相当)は政府に対し、当時の窒素排出基準がEUの自然保護法に違反しているとし、同基準に基づいて許可されたプロジェクトの停止を求めた。
政府が交付する「環境許可証」(環境に重大な影響を与える可能性のある活動に対して必要となる許可証)を突如として無効にされた他の2500以上の農家と同様、デ・サインは再び合法的に農業が営める日を待ち望んでいる。
科学者たちは、世界各地の集約農業地域が近い将来、同じような事態に直面するだろうと考えている。オランダはその第一号というわけだ。
石油ピークと同じように、私たちはいま「肉のピーク」に達しているのだろうか? 
👉石油ピーク
世界の石油産出量の頂点。ピークに達したあと生産量は減少の一途をたどり、需要をまかなえなくなると考えられている。
あまりに多くの家畜が環境汚染に加担している今日、持続可能な未来のためには、家畜の数を減らすしかないのだろうか。
世界最大の牛肉生産国である米国も、まもなくこの問いに答えなければならなくなるだろう。