2023/2/6

次世代マーケティングに挑む、博報堂テクノロジーズとは何者か

NewsPicks / Brand Design 編集者
 あらゆる産業でDX化が叫ばれて数年。ビジネスの現場はもちろん、私たちの日常でもデジタルツールやサービスの存在は、より必要不可欠なものとなった。
 生活者とモノがあらゆる場所でインターネットを介して繋がったことで、企業のマーケティング領域では、すべての接点が購買機会となる“生活者インターフェース市場”に注目が集まっている。
 そんな中2022年4月、博報堂DYグループ内に、ある組織が新しく生まれた。博報堂テクノロジーズだ。マーケティングとテクノロジーの力で新たな価値を創造することを目的に、博報堂DYグループのテクノロジー開発体制を集約し、設立された。
 いま市場に求められる、生活者のためのDXやマーケティングとは何か。また、同社はなぜ生まれたのか。その狙いについて、株式会社博報堂テクノロジーズ執行役員・HR戦略センター長兼マーケティングDXセンター長の福世誠氏と、株式会社博報堂執行役員の青木雅人氏に聞く。

博報堂テクノロジーズとは何者か

──近年の広告業界におけるデジタル化について、どのように見ていますか。
青木 デジタル化のフェーズが、ここ数年で大きく変わってきていると感じています。スマートフォンを中心とした「情報のデジタル化」に加え、コロナ禍に入る少し前くらいから起きているのが、「生活のデジタル化」です。
 みなさんが足を運ぶ飲食店でも、デジタル化の例をよく目にするのではないでしょうか。デジタルサイネージやクーポンアプリ、配膳ロボットなど。
 お店に限らず、車や駅でもデジタル化の流れは止まりません。こうして、街全体がデジタルの力によってスマートシティのようなかたちで発展していくと、事業者と生活者とのインターフェース(接点)が至るところで増えてきます。
 私たちはそれを「生活者インターフェース市場」と呼んでおり、それがこのコロナ禍で一気に拡大し広告業界にも新たな変化が起きていると認識しています。
──そんな中、昨年4月に博報堂DYグループに、博報堂テクノロジーズという会社が設立されました。どのような背景があるのでしょうか。
福世 博報堂テクノロジーズは、「マーケティング × テクノロジー」の組み合わせで、生活者に新しい体験価値を提供することを目的とした会社です。
 青木が申し上げたとおり、近年では生活空間の至る場所に接点が生まれるようになりました。従来のように、単一の広告でメッセージを届けるだけではなく、よりインタラクティブに生活者と双方向のコミュニケーションを行う仕組みを作ることが役割です。
 博報堂DYグループ内にはこれまでも、システム開発を活用したマーケティング施策を行う組織はいくつも存在していましたが、個別の対応にとどまっていました。これからは一つひとつの対策ではなく、グループ各社のテクノロジー人材を集約し、より大きな投資を行う必要があると判断し、設立に至りました。
──現在、社員は何名になりますか。
福世 現在、弊社には約300名が在籍しており、そのほとんどがグループ会社からのエンジニアをはじめとするテクノロジー人材の出向者で構成されています。
 目下、中途採用にも力を入れており、テクノロジー人材に特化した採用チームを立ち上げて半年間で既に30名以上の入社が決まっているところで、出身元は、SIerやコンサル、事業会社と偏りはありません。2023年も更に多くの新しい仲間を迎え入れる予定です。
 ユニークな点としては、博報堂DYグループ内各社から様々なバックグラウンドを持つ人材が集まって来ています。
 AIエンジニア、WEBアプリケーションエンジニア、データサイエンティストといった職種だけではなく、クライアント案件、サービス/プロダクト開発もしくは社内システムといった、一般的にはSI企業・ベンチャー企業・事業会社と会社自体が分かれてしまいますが、その事業自体も集結しているので、多種多様なフィールドで多種多様な職種の方々が活躍しています。
 一つの会社の中で多様なキャリアを積めるので、社内転職もリスクなく市場価値を高められる点が面白いですね。

マーケティング×テクノロジーの調律師

──広告会社の役割も変わってきているということでしょうか。
青木 そうですね。従来の広告会社では広告や店舗の販促など、生活者との間に存在する接点をうまく使いながら、メッセージを届けていくことが役割でした。
 しかし、生活者を取り巻く全ての環境がビジネスのきっかけとなると、広告的なメッセージを届けるだけではなく、データ等を活用した複合的なアプローチも求められてきています。
 例えば、お店のデジタル化に合わせて買い物客に店舗でどんなメッセージを打つのが最適なのか、その手前のテレビ広告のデータ活用はどうなっているのか、それと同じタイミングでセールスパーソンがデジタルツールを活用して仕入れ先と商談するには何が必要なのか、といった具合に真の意味でインタラクションなコミュニケーション戦略が重要となります。
 私たち広告会社はそうした総合的な施策、つまりマーケティングにおける”オーケストレーション”をやっていかなくてはいけないと考えています。
──オーケストラの指揮者のイメージですか。
青木 はい。デジタルを活用したソリューションだけでなく、オフラインも含めビジネス全体を管弦楽団のようにまとめていくことが重要です。
 効率性だけを追求するのではなく、生活者にとってこの商品はいいな、買い物がしやすいな、といった良い音色(本音)が生まれるような環境をつくっていく。
 良い指揮者は、感覚だけでタクトを振れるかと言えば、そうではないと思うんですよね。多くの経験(データ)があるからこそ、成果が出る。
 これを広告業界に置き換えるならば、「新聞やテレビに広告を出したら何となく効果は見込めるよね」で、従来は良かったわけですが、無数のインターフェースがある現在では、データサイエンスの仕組みや裏付けがより必要になってくるんですね。
福世 今、オーケストレーションという言葉がありましたが、それらを奏でるのは一つひとつの楽器です。せっかく良い楽器(施策)であっても、調律ができていなければ良い音は出ません。少し抽象的な言い方ですが、博報堂テクノロジーズのエンジニアリングの力が、そこで活きてきます。
 私たちが開発するシステム基盤やデータ基盤は、マーケティング×テクノロジーの施策が成果を出せるような基礎を支える部分であり、全体の具合を最適なものに調整する役割でもあるのです。
青木  棲み分けとしても、博報堂テクノロジーズがエンジニアリングを担当して、博報堂は生活者の未来を考えるといった役割が明確にあるのでは全くなく、協働しながら次世代のマーケティングを加速させていくためのミッションを持って日々試行錯誤していますね。

大企業でありながらアジャイルな組織

──協働、ということは、博報堂テクノロジーズの立ち位置はどうなのでしょうか。
福世 今時点では、博報堂テクノロジーズとしての自社サービスの展開や、生活者インターフェース市場への対応の開発など、弊社でイニシアチブをとってプロダクト開発を先行するかたちが多いですね。中長期的には、様々な形でクライアントへの展開も視野に入れています。
 現在は、生活者インターフェース市場に対応した「マーケティングDX領域」や、広告メディアビジネスの次世代型モデル『AaaS(Advertising as a Service)』を実現する「メディアDX領域」、広告領域のAIアルゴリズムの研究開発からプロダクト実装を行う「AI領域」や、グループ全体の成長を支える「情報システム」の領域があります。
 それぞれのセクションを担当する事業部が、一つの会社を作ることができるくらいの規模でビジネスを展開しています。
 とは言え、まだ生まれてから数ヶ月の組織です。事業やビジネススキームが明確に固まっているわけではなく、毎日仕事内容は変化しているため、1年後には全く違うことをやっている可能性もあるスピード感でやっています。
青木 私が担当するクライアントの個別の業務でも、福世に色々と早い段階で課題を共有することも多いんです。こんな仕事があってさ、という感じで。
 なので、要件定義をしてお願いします、といった受発注の関係ではなくフラットに意見交換をしながら、クライアントのために何ができるのかを一緒に考える仲間、という感覚が強いですね。
 博報堂DYグループに根付いている雑談文化、違う組織であっても粗い段階から課題感を共有しつつ進められるところは、珍しいポイントかもしれません。
福世 もちろんしっかりと定義しないといけないフェーズはあるのですが、初期の段階から博報堂DYグループ内で連携が取れる点は強みだと感じますね。
 極端なことを言えば、社員らが意識しているのは「生活者発想」の一点のみです。だから全員のベクトルが一致して、グループの別会社という看板を意識せず議論ができているのかもしれません。
──具体的な実績はありますか。
福世 例えば、地域の移動課題を解決するMaaS「ノッカル」というサービスを、博報堂と協働して開発しました。
MaaS「ノッカル」の仕組み
 このサービス第一弾の利用者は富山県朝日町に住む高齢者の方々なのですが、「何年かぶりに遠くに出かけられた。ありがとう」と利用者の方から言っていただいたと聞いた時は、非常に嬉しかったですね。
地域住民の足として活躍するノッカル
──ノッカルを共同開発した背景には、何があるのでしょうか。
福世 モノが売れない時代には、モノにサービスや情報的な価値を加えていき、それを一つのアプリケーションで提供していく。そんな時代に入ってきています。
 それを支える基盤として、博報堂テクノロジーズの扱うデータ基盤やプラットフォームが活きてくる。その実験的な取り組みの一つとして、人と場所、人と人を繋げる新たなインターフェースとして「ノッカル」を企画・開発しました。
 法律的な壁など、いくつもハードルはあったのですが、博報堂DYグループで培ってきた知見があったからこそリリースすることができました。
──コアドメインである広告・メディア領域についてはいかがでしょうか。
青木 広告メディアビジネスの次世代型モデルとして「AaaS(Advertising as a Service)」を提唱しています。AaaSは、従来の「広告枠」を売り物としたビジネスから、データ×システム×アルゴリズム×人による、クライアントの事業貢献である「効果」を売り物としたビジネスへと脱却することで、広告の「サービス化」を目指しています。
 例えば、これまでは広告に対するアンケート調査の結果を知るためには、1ヶ月程度必要でした。しかし、その間にもユーザーデータは溜まっているため、リアルタイムで消費者の行動を知ることが難しかったのです。
 でも、生活者のレスポンスデータをリアルタイムで絶えず取得でき、可視化することができれば……?そうした世界観を目指しています。

越境カルチャーが組織の強み

──博報堂テクノロジーズに転職する方々は、どのような意思を持っている人が多いのでしょうか。
福世 エンジニアとして自分の市場価値を客観的に見つつ、そこにもう一つ掛け合わせたいと考えている方が多い印象ですね。
 例えば、自分がつくったプロダクトのパフォーマンスが見たい、ユーザーの反応が知りたいなどの声もあれば、toCサービスにもっと携わりたい方や、BtoBtoCのような企業を通して何かに取り組みたい、といった方もいます。
 システム開発に携わるだけならば、既存の会社がいくつもあります。でもその中で、なぜ博報堂テクノロジーズで働くのかと言えば、デジタルとマーケティングの力で生活者の行動を変えられるかもしれない、そういった希望が持てる環境があるからではないでしょうか。
青木 ここで働く面白さはまさにそこにあるかもしれないですね。しかも、今は立ち上げ期。近くで見ていても本当にカオスだなと感じますが、博報堂DYグループというしっかりとした経営基盤がある状態の中で、組織やカルチャーをゼロから作っていける機会はそう多くありません。
 また、SIerや事業会社でマーケティング×テクノロジーのスキルを併せ持つ組織は稀だと思うので、エンジニアリングを実践しながらビジネススキルを身につけられる場所としても面白いですよね。
──カルチャー面での特徴はありますか。
福世 組織文化の部分もまさに今熟成中といったところなのですが、博報堂DYグループの良い部分はぜひ吸収していきたいですね。
青木 福世が、社内転職の話をしましたが、博報堂には「越境文化」の伝統があります。
 自分はこういう職種だから決められた役割以上のことは考えない、ではなく、マーケターがコピーを書いて打ち合わせに臨んだり、エンジニアじゃないのにアプリの機能について考える、など……。
 メンバーそれぞれが越境し合ってアイデアをぶつけ合いながら議論をするカルチャーが私たちにはあるので、博報堂テクノロジーズの中にもそういったDNAが受け継がれていくのではないかと非常に楽しみにしていますね。
──新たなメンバーも楽しみですね。どのようなスキルを持った仲間を増やしていきたいですか。
福世 スキルの高さや特定の職種を増やしたいというよりは、今青木が申し上げたように、色々な方と一緒に仕事をして新しい化学反応を起こしたいと思っています。
 狭い意味でのエンジニアだけでなく、テクノロジー領域全般にスキルや関心のある方なら、ぜひお話ししてみたいですね。
──今後の展望を教えてください。
青木 先ほどカッコよく、「これからはオーケストレーションだ」と言いましたが、実はこれが結構難しくて、マーケティングのシステム一つ取っても多くのツールベンダーがいますし、その数は今この瞬間も加速度的に増えておりキャッチアップするだけでもかなり苦労します。
 でも、そうした色々な要素をオーケストレーションして、全体をエンジニアリングしていかなければ、本当の意味で社会を動かしたり、生活者のための効果を作り出すことはできません。
 多様な人材を持つ博報堂テクノロジーズと一緒になれば、私たちが長らく広告分野で培ってきた生活者とのインタラクション設計に対する知見や、クリエイティビティとの掛け算により、マーケティングという分野そのものを変えられる可能性があるのではないかと考えています。
 次世代のマーケティングを作っていきたいし、その先にある人の心の動きを変えていきたい。そんな仕事の感動を共有できるような仕組みを一緒に作っていきたいですね。
福世 博報堂DYグループが一丸となってゴールに向けて一緒にやっていく、その一言に尽きますね。
 まだできたばかりの会社で、これからどんどん変わっていく部分も多いと思います。ですが、生活者のためのより良い世界をマーケティングとテクノロジーの力で実現したいという想いは変わりません。
 ジョインするには今が一番面白いタイミングだと思いますので、ぜひお気軽にご連絡ください。マーケティングの未来について一緒にお話ししましょう。