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Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)

ネットフリックスの勢いが止まらない。日本にも上陸か

2015/1/27
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。

1月後半は、ネットフリックスがらみのニュースが目白押しだった。ネットフリックスについては、そこそこ知っているつもりだったが、あらためてIR関連資料や記事を読んでみると、多くの発見があった。

ネットフリックスはやっぱり、抜群におもしろい企業だ。

Pick1:ネットフリックスの絶妙な戦略

Netflix Q4 2014 Letter to sharefolders

Netflix Q4 2014 Earnings Interviw

James Silver “How REED HASTINGS BEAT AMAZON & YOUTUBE” WIRED UK(2015年2月15日号)

2015年1月20日、ネットフリックスが2014年の決算を発表。会員の増加数は当初予想を上回り、翌日の株価は17.3%跳ね上がった(決算の詳細は、決算アナリシスを参照)。

ネットフリックスの勢いは、以下の3つのグラフを見ればよくわかる。
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同社の主たるビジネスモデルは、人気の映画やTV番組やオリジナルコンテンツが見放題となる有料課金(月額8.99ドル)。会員数は右肩上がりで伸び、2014年末時点で、国内は3770万人、海外は1678万人に達した。それに伴い、売上高も順調に成長している。
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有料課金モデルは、いったん損益分岐点を超えると、利益率がぐんぐん上がる。事実、ネットフリックスの国内の貢献利益(売上高から各部門の原価・費用を差し引いたもの)は、13億ドルに上昇。貢献利益率(貢献利益/売上高)は、30%を超えている。会社側は、この利益率を毎年2%ずつ上げ、2020年には40%にまで引き上げると宣言している。
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海外部門は、新規投資がかさみ赤字だが、赤字額は縮小トレンド。国内のふんだんな利益、キャッシュ・フローを使って、海外に積極的に投資するという絶妙なバランスが成り立っている。

オリジナルコンテンツは効率がいい

今回、ネットフリックスが決算で強調したのは「オリジナルコンテンツの効率の良さ」だ。ケビン・スペイシー主演の「ハウス・オブ・カード」を筆頭に、オリジナルコンテンツがブランド向上と会員獲得の強力な武器となっている。

「昨年、オリジナルコンテンツは、概してもっとも効率のよいコンテンツだった。われわれの評価基準で見ると、オリジナルコンテンツは、有名スタジオから供給を受ける多くのライセンスコンテンツよりも、コストが割安だった」(株主への手紙より)

補足すると、ネットフリックスは、コンテンツの効率性を図る基準のひとつとして、「視聴1時間当たりのコスト」を採用している。言い換えると、「視聴者の1時間の視聴を得るためにいくらかかったか」によりコンテンツを評価している。そして、オリジナルコンテンツのほうが、有名映画スタジオによるコンテンツよりも、低いコストで視聴者を獲得できたのだ。

この結果を受けて、2015年にネットフリックスは、前年の3倍となる320時間分のオリジナルコンテンツを制作する予定だ(そのために、10億ドルを長期借入金で調達)。

ネットフリックスがオリジナルコンテンツを作り始めたのは2012年。当時、プラットフォーマーである同社が、自社制作に大金を投じるのは大きな賭けだった。それから2年余り経ち、その戦略の正しさが証明された。

「オリジナルコンテンツへの投資を拡大→新規会員の増加→収益の拡大→さらにオリジナルコンテンツへの投資を拡大→新規会員のさらなる増加」

上記のようなプラスのサイクルが回り始めればしめたもの。コンテンツ力(数と質)と収益は雪だるま式に膨れ上がっていく。

グローバル化を急ぐ3つの理由

オリジナルコンテンツ拡大とともに、同社が力を入れるのが、グローバル展開だ。グローバル化を推進する理由を、同社は3つ挙げている。

1つ目は、絶対的な規模の獲得。目標とする100億ドルの売上高をいち早く実現すれば、より多くのコンテンツ購入や、オリジナルコンテンツの製作が可能になる。

2つ目は、コンテンツの調達。世界へネットワークを広げれば、さまざまな国から、より多くの偉大な作品を調達することができる。

3つ目は、影響力と効率性。世界中に配信ネットワークを持つユニークなライセンサーとなることによって、世界における影響力を高めるとともに、コンテンツのコスト効率が上がる(例:ひとつのオリジナルコンテンツを、より多くの国に展開できれば、制作費を回収しやすくなる)。

余談だが、ネットフリックスのIRページのように、アナリストとのQ&Aがトランスクリプトとしてまとまっているのはありがたい。内容もさることながら、アナリストがどんな質問をするかを知る、いい勉強になる。

Pick2:ネットフリックス、ついに日本進出か?

「黒船」ネットフリックスが札束攻勢“、FACTA(2015年2月号)

月刊誌の『FACTA』が、今年2月にネットフリックスの日本法人が立ち上がる、と報じた。

正式発表ではないため、2月に上陸するかは定かではないが、今年中に参入する可能性は高いのではないだろうか。同社のIR文書には、「今年後半、複数の主要国へ参入する」旨が記されているが、同社はすでに中国に進出しているため、大きな国は日本とインドぐらいしか残っていない。

『FACTA』の記事によると、ドラマの制作費として、民放各社に「1話1億円」を提示しているという。

日本の場合、ドラマの制作費は1話当たり「数千万円代前半」が相場と言われる。それに対し、米国では、ドラマ1話当たり数億円かけるケースもザラだ。たとえば、昨年末にネットフリックスが配信した大作「マルコポーロ(全10話)」は、合計100億円を投じたと言われている。

もし民放と共同制作する場合、単純に無料放送するだけでは、収益につながらない。TVドラマとして放送すると同時にネットフリックスでも配信、もしくは、劇場映画として公開すると同時にネットフリックスでも配信、といった形をとるのではないだろうか。

私は、NHKの朝ドラと大河ドラマを除くと、ここ数年、テレビドラマをまったく視なくなってしまった。その一方で、映画と海外ドラマにはすっかりハマっている。私のような人間は必ずしも少数派ではないと思う。そんな層がしびれるようなドラマを作ってくれることを、ネットフリックスには期待したい。

Pick3:ネットフリックス作品、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門でノミネート

Natalie Jarvey、“Oscars: Netflix in the Documentary Race Again With ‘Virunga’”、The Hollywood Reporter(2015年1月15日)

ネットフリックスのオリジナルコンテンツと言うとドラマが目立つが、ドキュメンタリー分野でも存在感を高めている。

2014年11月には、レオナルド・ディカプリオが製作総指揮を務める「Virunga(ビルンガ)」を、全米公開と同時にネットフリックスで配信(予告編はこちら)。本作が、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

同作の舞台は、アフリカのコンゴにあるビルンガ国立公園。森林警備員たちが、絶滅の危機に瀕しているマウンテンゴリラを、密猟者たちから守る日常を描いたストーリーだ。

ネットフリックスのドキュメンタリー作品は、昨年もエジプト革命のその後を描いた「ザ・スクエア」が同賞の候補となっている。2年連続でのノミネートは、その力が本物であることを示している。

ちなみに、この「映画公開と同時配信」というモデルは、「Virunga」で終わりではない。今年はより大作でトライする。アカデミー賞を受賞した「グリーン・デスティニー」の続編をワインスタイン・カンパニーと共同制作。8月26日の劇場公開と同じタイミングで、ネットフリックス上で公開する。

数々のチャレンジでコンテンツ業界をゆさぶるネットフリックス。同社のオリジナルコンテンツがどれだけヒットするかに、今年も引き続き注目したい(オリジナルコンテンツのラインナップはこちら)。

※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載する予定です。