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動画史が予測する「動画ビジネスの未来」(4)

ピッカーとともに考える、スマホ動画の「4つの仮説」

2015/1/25
デジタル化、ソーシャル化、スマホシフトなどにより、大きく変わりつつあるテレビ業界。その中でも、最大のテーマのひとつが「動画」だ。これから動画はどのように発展していくのか、勝者となるのは誰なのか。TBSテレビ編成局コンテンツ戦略部の柳内啓司氏が、動画の歴史を紐解きながら、動画の未来を予測する。
第1回:動画100年史から探る、動画ビジネスの勝者
第2回:スマホシフトで、動画コンテンツはどう変わるのか
第3回:ゲームの歴史から考える、動画コンテンツの未来

ピッカーからの鋭いコメント

本企画では、映画〜テレビ〜PC・スマホと辿ってきた動画再生デバイスの変化と、それに伴う動画の変化について、考えてきました。

本企画で指摘してきたことを簡単にまとめると、以下の4点になります。

・いつも手軽なメディアが勝ってきた。その点で、スマホ動画が存在感を増してくるだろう。

・舞台でも、映画でも、テレビでも、視聴される環境に合わせて最適化されたコンテンツがウケてきた。スマホにおいても、その視聴環境に合わせた動画作りが重要になる。

・ゲームプラットフォームがスマホに移った時に、1プレイ時間が短くなったり、課金モデルがフリーミアム化したりといった、変化が起きた。隣接市場である動画においても、そのような変化が起きる可能性がある。

・どんなデバイスで動画を楽しむにせよ、ユーザーの根源的な欲求は変わらない。泣きたいし、笑いたいし、感動したいし、分かち合いたい。スマホ動画の制作においても、その点を考慮することが何より大切だろう。

こういった指摘をしたところ、ピッカーの皆さんから、様々な切り口で鋭いコメントをいただきました。その中には、記事では触れられていない観点がいくつかありましたので、それらをまとめ、記事を補足する形で、本連載の締めくくりとしたいと思います。

1ユーザーとしてNewsPicksを使っている時、記事+ピッカーのコメント補足によって、扱うテーマに関するインサイトが深まることが、NewsPicksの良さだと感じてきました。コメントをベースに、それを記事化するというも、NewsPicksらしい取り組みかもしれません。

スマホ動画の仮説1:音なし動画マーケットができる?

堀江さんより「スマホだと音無し動画が一つ大きなマーケットとなる」というコメントがありましたが、これも注目すべき指摘だと思いました。

フェイスブックでは既にタイムライン上での「音なし自動再生」が始まっていますが、私自身、フェイスブックを使っていて、思わず面白動画によく目に止める一人です。動画をタップして、わざわざ音あり再生する機会は少ないです。これは、電車内などの公共の場で音あり動画を再生すると、周囲の迷惑になるからというのが一番大きな理由です。

屋外でのスマホ動画視聴のボリュームが増えていくことを考えてみると、音なしでも内容が伝わる動画のニーズは増えてくるでしょう。具体的に言うと、話す内容を字幕でフォローしたり、そもそも言葉を使わず、絵だけで伝わる工夫が必要になってきたりしそうです。

ちなみに、電車内では「トレインチャンネル」という、動画コンテンツが流れ始めていますが、ここで研究されているノウハウは、「スマホ向け音なし動画」において転用できる点が多いかもしれません。

スマホ動画の仮説2:シェアされると爆発的に拡散する?

RYO 108さんからは、『「いいね」や「シェア」に見られる共有、共感などの要素が入ればターゲットのポテンシャルは爆発的に広がると思います』というコメントがありました。スマホ向け動画の流入経路を考えた時、「シェアされる」ことを狙って動画を制作することはきわめて重要でしょう。

NYタイムズは、「人がコンテンツをシェアする理由」という記事で、その理由を以下の3点にまとめています。

1.他人に教えたい
 2.自分を表現したい
 3.友人との関係性を維持したい

また、シェアされるコンテンツの特徴を、ペンシルバニア大学ウォートン校のマーケティング学准教授であるJonah Berger氏は以下の6つにまとめています。

1.自分が特別であると感じさせる
 2.感情に訴える
 3.有益である
 4.人の目に触れる
 5.鍵刺激(なんらかのトリガー)で、思い出される
 6.ストーリーがある

テレビ番組においても、「翌日、学校で話題にのぼる」ということは、ヒットの必須条件です。「どうすれば人はこの動画をシェアしたくなるのか?」をゼロベースで考えていくことがスマホ動画でも大切になってくるでしょう。

スマホ動画の仮説3:有益な動画か? 暇つぶし動画か?

高瀬敦也さんから、『消費者の行動原理は「必要」か「不必要」かですが、生活者の行動原理は「面倒くさい」か「面倒くさくないか」だと思っています。また、「視聴者」がいたのは動画メディアがテレビと映画しかなかった頃の話。現在は「視聴者」が「生活者」に戻っています』というコメントがありましたが、これはとても重要な指摘だと思います。

一般的に、人がPCに向かう時、「◯◯を調べたい」とか「安い買い物がしたい」といった明確な動機を持って、行動します。コメントで言うところの「消費者の行動原理」です。

一方で、スマホユーザーは「暇な時間を潰したい」という、とても受動的な態度でデバイスを触るケースが多いです。

この時、行動を決定づけるのに重要なのは「面倒くさい」か「面倒くさくないか」という、生活者の視点です。「面倒くさくなく、できればタダで、僕を楽しませて」という、いわば王様気分でユーザーはスマホを触りだすわけです。これはテレビを付ける際の態度にも極めて似たところがあります。

スマホ向け動画を制作する場合においても、有益な動画を作るべきか?暇つぶし動画を作るべきか?という観点は重要で、私はスマホ上では、両方が共存すると考えています。

例えば、「メイクのやり方」と言った、ユーザーが明確な動機を持って見たい動画を作る場合、視聴数のボリュームは限定的になってしまいますが、わざわざお金を払って見てもらえる可能性があります。テレビで言うところの、有料スポーツチャンネルのような、ユーザー課金型ビジネスの可能性が出てくるでしょう。

一方で、暇つぶしを目的とした動画を作る場合、無料で時間を潰すことができるあらゆるコンテンツがライバルになってきます。ソーシャルメディア、ニュースキュレーションアプリなど、並み居る強敵と戦わねばいけません。その代わり、スマホにおける暇つぶしニーズが相当なボリュームがあり、ここのシェアを少しでも取れれば、大きなビジネスチャンスが生まれるでしょう。

暇つぶし動画を作る際に重要となってくるのは、ビジネスモデルです。暇つぶしコンテンツは、ユーザーからお金が取れないため、別のところでお金を稼ぐ必要があります。

例えば、こちらの動画は、大手家電メーカーのLGが、84インチの薄型テレビを訴求するためにチリで実施したドッキリ企画ですが、再生回数も1700万回超え、LGはプロモーションに成功しています。このようなネイティブ広告を制作し、スポンサーからお金をもらうモデルはありえるでしょう。

また、暇つぶしとは若干毛色が異なりますが、受動的な買い物=「衝動買い」を促す動画の制作というものにも、一定のニーズが存在するように私は考えています。

ネットショッピングというのは普通、「◯◯が欲しい」という明確な目的を持って、前のめりに検索して買い物をします。しかし、「Instagramで好きなモデルが着ていた服が可愛くて買ってしまった」といったセレンディピティ(偶然の出会い)からの買い物をするというケースも、最近登場してきており、その際には感情を揺り動かすコンテンツとして、動画は有効です。

「深夜にTVショッピング見てたら、腹筋マシーンが欲しくなっちゃって、買ってしまった」なんて話がよくありますが、これがネットでも起きてくる可能性が十分あるでしょう。

スマホ動画の仮説4:スマホでは短尺動画でないと見られないのか

記事内で指摘したスマホ向け動画は短尺化するのではないか?という仮説ですが、これに関しては多くの賛同コメントが寄せられました。スマホが「スキマ時間の暇つぶしメディア」と考えると、そこにフィットする短尺動画が棚に並んでいることは重要でしょう。

ただし、これは長尺動画がスマホではありえない、というわけではありません。長編小説を、電車の移動などのスキマ時間で、ちょこちょこ読み進めて読破するという楽しみ方があるように、長編ドラマをちょこちょこ視聴していく、という視聴スタイルも存在するでしょう。

しかし、ドラマのように、高クオリティで長尺のコンテンツを視聴する目的は、感動したいとか、ハラハラ・ドキドキしたいというものなので、ブツブツと視聴を止められてはその目的を達成できません。そう考えると、やはり短尺でサクッと楽しめる動画の再生ボリュームが圧倒的になるのではないかと私は考えています。

本連載は今回で終わりになりますが、2月4日のセミナーでは、今回の議論を同世代のテレビ界のキーパーソンとともに、深く語りたいと思います。

※本連載の筆者も登壇する「5年後、テレビの制作とビジネスはどう変わるのか?」のセミナーを、SPEEDAとアカデミーヒルズのコラボで2月4日(水)に開催いたします。参加を希望される方はこちらのサイトよりお申込みください。