2023/1/20

日本の第一人者たちの目。二次電池はどう進化するのか

NewsPicks / Brand Design 編集者
2022年11月16日から18日にかけて「関西二次電池展(関西展)」が開催された。通称「バッテリー大阪」と呼ばれるこのイベントは、EV、家庭、船舶などでの使用が増えている二次電池をテーマとした関西最大級のイベントだ。本記事では、二次電池の注目度が高まっている背景と、イベントにて行われた注目企業の講演内容を紹介する。

人と情報がリアルに交錯するイベント

二次電池展(関西展)の舞台となったインテックス大阪に、電池の研究開発、製造、販売、サービスなどあらゆる企業が集結した。
関西展は、3月に東京で開催される春展、9月に千葉で開催される秋展と合わせた「バッテリージャパン」の1つ。西日本拠点の電池関連企業には逃すことができないイベントで、毎年1万人超の人が訪れている。
バッテリージャパンが人気を集める理由は2つある。1つは“face to face”のリアルイベントであることだ。
どの業界においても、コロナ禍以降はオンラインの接点が増えた。情報交換も人脈の開拓もオンライン起点となり、それはそれで便利で効率的な面もあるが、交流が深めにくい、一歩踏み込んだ商談に発展しづらいといった課題を感じている人も多い。
その点、主催者(RX Japan)がリアル開催にこだわる二次電池展は、対話を通じてより多くの情報が得られ、出展企業の担当者から個別に説明を受けることができる。
会場を見て回る中で出展者や来場者との出会いが広がったり、ふと立ち寄ったブースで思わぬビジネス機会を得られたりするプラットフォームの役割も持つ。
とくに展示会は見本市でもあるため、モニター越しでは伝わりにくいデモ機の手触り、動き、技術の精密さといった要素が詳細に分かるため、多くの関係者が足を運ぶのだ。

EV市場とともに二次電池の需要が急成長

バッテリージャパンが人気を集める2つ目の理由は、二次電池の需要が高まっているためだ。
そもそも二次電池とは何なのか。放電しきったら捨てる(リサイクルする)使い切りタイプの電池は一次電池と呼ばれ、電池として繰り返し使うことはできない。一方、二次電池は充電して繰り返し使える蓄電池のことだ。
二次電池はスマートフォンやノートPCなどモバイル機器に使われているほか、災害の停電対策として家庭用蓄電池としても普及してきた。そして、世界的なカーボンニュートラル潮流で需要が急増しているEVも二次電池を搭載する。
電池の性能向上によってEVの航行距離が伸びるほど環境負荷は小さくなる。市場が拡大していることから、そこには無数のビジネスチャンスも生まれている。
また、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの調整にも必須なのが二次電池だ。自然エネルギーは発電量が天候によって左右されるため、需給調整のためにも大容量の蓄電設備を準備しなければならない。
つまり二次電池は、気候変動という世界共通の課題を解決する主要なアイテムの1つであり、新たなビジネス機会を生む出すアイテムでもあり、それゆえ、メーカーのみならずサービス事業者まで幅広く関心を集めているというわけだ。
バッテリージャパンでは、毎回、自動車メーカーをはじめとするリーダー企業や公的機関の登壇者が講演を行う。業界の専門家や第一人者たちから二次電池の最新動向が学べるのも電池展の魅力だ。
2022年の関西展では、3日間で90本の講演が行われた。ここでは、その中でも来場者の注目度が高かった2社の講演について、その内容を要約してお伝えする。
1社目は、EV用リチウムイオン電池を製造するパナソニックエナジー副社長、渡邊庄一郎氏の講演。テーマは「持続可能な社会に向けたパナソニックの戦略」だ。

100年の歴史を持つ電池事業

渡邊 パナソニックグループの電池事業は約100年の歴史を持ち、乾電池から二次電池へと商材を拡張してきました。
今ではEV用として需要が急拡大しているリチウムイオン電池の商品化は1994年です。
当社は、今ではEV用リチウムイオン電池の常識となっている数々の先進的な技術を業界に先駆けて当社が導入し、電池の性能を示すエネルギー密度は、当時の体積エネルギー密度と比べてと約3倍に伸びています。
一方で、EV用リチウムイオン電池の需要は大きく、当社を含む各国の電池メーカー各社が世界中でフル生産する規模でもEV生産の需要に対して全く足りないといわれています。
そのような環境の中で、私たちは電池技術で先頭を走り続け、国内外に展開する拠点での生産量を2028年までに3〜4倍に伸ばしていくことを基本戦略としています。

国産二次電池の成長はリソース戦略がカギ

生産量拡大に向けた課題は資源と人材などのリソース戦略です。
資源については、日本には電池製造に必要なレアメタルなどがないため、海外政府の協力によって安定調達の仕組みをつくる必要があります。
当社の取り組みとしては、米国の電池リサイクル企業であるRedwood Materials Inc.とEV用電池の材料(正極材、銅箔)の売買契約を締結しました。
また、負極材料の黒鉛についてもカナダの黒鉛製造企業であるNouveau Monde Graphite Inc.と長期供給契約に関する覚書を締結し、北米でのサプライチェーン確立と現地調達率の向上を目指します。
人材については、世界中の電池メーカーが成長していく中で人材確保が厳しくなっていくとともに、EV用電池で大きなシェアを持つ中国や韓国にはすでに電池学科を増やすなどして人材育成の仕組みを構築されつつあります。
この状況を踏まえ、日本では産官学連携の関西蓄電池人材育成コンソーシアムが設立され、電池製造で約2.2万人、材料などサプライチェーン全体で約3万人の人材を育成する目標を掲げました。

技術と生産量の掛け合わせで存在感を発揮

今後の取り組みとしては、電池技術の面では、2030年までにエネルギー密度を20%向上させる目標を掲げています。そのポイントとなるのがエネルギー密度を高めるレアメタル(コバルトやニッケルなど)です。
他社製のコバルトフリーの電池はエネルギー密度が低く、ロングレンジ走行が求められるEVには不向きです。一方、私たちはエネルギー密度を維持、向上させながらコバルトフリーにできる技術開発を完了し、次はニッケルの使用量削減に取り掛かっていきます。
並行して、規制などによるゲームチェンジにも対応していく必要があります。例えば、欧州発のカーボンフットプリント規制では、バッテリーの製造から廃棄時に排出する温室効果ガス(GHG)が一定以上の電池は製造、販売が許されなくなります。
この規制に則って電池製造事業を成長させていくためには、資源の採掘からはじまる電池製造過程の全てにおいてGHG削減に取り組む必要があり、サプライチェーンの抜本的な改革が求められます。
リソースの確保、技術開発、規制への対応といった課題はありますが、逆に言えば、それらの課題がクリアできなければ世界の中での存在感が失われます。
当社のWillに掲げた「人類として、やるしかない。」を合言葉に、電池のエネルギー密度の向上と生産量増加を実現し、持続可能な社会環境の構築をリードしていきます。
もう1社は、EV、家庭、船舶用蓄電池と超急速充電設備を製造する株式会社パワーエックス経営企画部部長、木下伸氏の講演。こちらのテーマは「再生可能エネルギーの普及を推進する蓄電池の活用」だ。

この先10年で再エネ比率は倍増

木下 PowerXは2021年3月に設立したベンチャー企業です。国内⾃社⼯場での蓄電池製品の製造と販売事業、蓄電池を利⽤したEVの超急速充電ネットワーク事業、電気運搬船事業の3つの事業を展開しています。
環境課題と自然エネルギーの観点で再生可能エネルギー(再エネ)の状況を見ると、国内で排出されているCO2のうち電力が約40%を占めています。
また、電力の電源は約70%が火力、約19%が再エネで、2030年には再エネの比率が37%くらいになる見通しです。具体的には、太陽光発電が約2倍。風力発電が約7倍。バイオマス発電が約3倍に増えると予測されています。

自然条件による発電量の増減が課題

これら再エネ発電にかかるコストは、再エネの普及とともに下がっていきます。
一方で、現状は電力会社が再エネを一定価格で、一定期間買い取るFIT制度(Feed-in Tariff、固定価格買取制度)がありますが、保証される買い取り価格は年々下がっています。
簡単にいえば、再エネ関連の市場動向として発電した再エネの外販が難しくなっていくということです。
発電効率を見てみると、再エネは自然由来の変動電源で、自然条件によって発電量が大きく左右されます。そのため、同時同量の計画が非常に難しく、発電量が足りない場合には火力発電で不足分を補っています。
EVを例にすると、自動車が走行している時間帯は80%が日中で、残り20%の夜間に充電するのが一般的です。
しかし、太陽光発電は夜になると発電しません。数値を見ても、EV充電の再エネ比率は日中で25%、夜間では12%に下がります。
つまり、日中に乗って夜間に充電する一般的な使い方をした場合に、その電力はほとんど再エネでは充電できないということです。
逆に、日中の自然条件がよい日は多く発電できますが、電気は持ち運びできないため、出力が制御されます。再エネが増える2030年に向けて制御される電気の量も増えていきます。

再エネを効率よく使う仕組みが必要

この現状を変えるのが蓄電池です。
まず、再エネは日中の発電で余剰電力となることが多いため、その電気を蓄電池に貯めることにより、電力需要が高くなる夜間などに使えるようになります。EVなら、日中に貯めた電気を夜に充電することで充電の再エネ比率を高めることができます。
⽇中稼働する事業所・⼯場なども昼に再エネを蓄電池に貯め、電⼒需要のピーク時に使用することで、系統電力のピークをシフト、またはカットすることができ電⼒料⾦の削減ができるようになります。
蓄電池に貯めた電気は災害などの非常時に使ったり、BCP電源として活用することもできます。

商用車など新たな分野でも活躍機会が増えていく

自然由来の再エネはマネジメント機能を高めることによって環境負荷低減に結びつきます。
また、従来は蓄電池の価格が高いことが原因でなかなか進みませんでしたが、近年は技術革新によって低価格化が進み、私たちの試算ではピークシフト・カットの効果により、6〜7年で蓄電池導⼊コストを回収できるという結果を得ています。
蓄電池の寿命は10〜15年ほどですので、BCP電源としての保管メリットなども含めて十分なコストメリットが得られます。
今後の電池市場の動向としては、EV用電池の市場が大きく伸び続けていくと予測できます。欧州メーカー車を中心に電池が大型化される傾向にあり、短時間でフル充電できる100kW以上の超急速充電設備の需要も大きくなるでしょう。
また、EV商用車もこれから増えていきます。商用車の多くは、昼に稼働し夜に事務所などで充電しますので、その潮流においても蓄電池と超急速充電設備の需要が拡大していくと考えられます。
環境課題の解決策として再エネは重要ですが、社会全体に目を向けたエネルギーマネジメントの視点で蓄電池や充電設備を拡充させていくことで、より効果的に、効率よく電気を使えるようになります。
私たちは2030年に向けたミッションとして「自然エネルギーの爆発的普及を実現する。」ことを掲げ、エネルギーに困らない未来の実現に貢献していきたいと思います。
次回のバッテリージャパンは3月に東京ビッグサイトで開催する。洋上風力、水素エネルギー、スマートグリッドなどあらゆる新エネルギーが出展する世界最大規模の総合展 「スマートエネルギーWeek」内で開催となり、世界30カ国から1200社が出展、50,000名の来場を見込んでいるという。電池業界はもちろん、エネルギービジネスに関わるすべての人々にとって注目の展示会だ。