2022/12/27

“グロース”に徹底コミットする「IGプランナー」という仕事とは?

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 数年前、電通の社長・榑谷典洋氏がこう語った。
「我々はもはや、広告会社ではない──」。
 今電通は、これまで担ってきた広告やマーケティングを遥かに飛び越えた領域へ進出している。
 その中核を担うのが、2021年の中期経営計画で打ち出した「インテグレーテッド・グロース・ソリューション」だ。
 クリエイティブ、デジタル、マーケティングなど数ある国内電通グループのケイパビリティを統合し、企業の成長のため、上流から下流までを一気通貫で伴走する。
 そして、事業全体の変革である「BX(Business Experience)」を目的に、「CX(Customer Experience Transformation)」「AX(Advertising Transformation)」、そして「DX(Digital Transformation)」まで統合的に課題解決に導く。
 そして、この次世代の電通のビジネスを担うのが「インテグレーテッド・グロース・プランナー(IGプランナー)」=「統合グロースプランナー」と呼ばれるポジションだ。
 統合グロースプランナーは、今や電通のキャリア採用において半数程度を占めるなど、戦略的に重要なポジションに位置づけられている。
 そして彼らは、電通の6,000社を超えるクライアント、特に大企業からそのケイパビリティを期待され、課題解決の手法を提示している。
 コンサル群雄割拠の時代、なぜ電通が求められるのか。次代を担う「統合グロースプランナー」の3名の話から明らかにしていく。
INDEX
  • エンゲージメントとブランディングを両立させる
  • 戦略立案から実行まで、支援する
  • 「n=1」を起点とした熱狂とインパクトを

エンゲージメントとブランディングを両立させる

──そもそも、みなさんが担う「統合グロースプランナー」が、どんなポジションかを教えてください。
矢島 データを基点に、クライアントの「グロース」に並走するパートナーのようなポジションです。
 ここでいう「グロース」とは、広告集客にとどまらない、クライアントのあらゆる事業成長全般を指します。
 時にはクライアントと事業成長の定義からご支援させていただくこともありますし、具体的な実行部分のマネジメントもする。
 ワンストップで、ゴールに向けてパートナーとして並走する職能です。
 それを、国内電通グループが保有する様々なケイパビリティを統合し、クライアントの事業成長と、社会の成長・発展への寄与をミッションとするため、「統合グロースプランナー」と呼んでいます。
小田 昨今では、新しい形のビジネスを模索されているクライアント様も多く、「そもそもグロースとは何か?」といった定義付けから並走することも多くあります。
 ビジネスの成長をどう捉え、ゴールを定量的に設定するか。そしてゴールを達成するための課題を特定し、実行し、成果をどのように測定するか。
 考えるべきところは多岐にわたりますが、我々のチームはそういった統合的な成長支援をデータドリブンで行えるのも大きな特徴ですね。
宮村 “統合”とはいえ、1人で全領域をまかなえる人はそういません(笑)。
 一方で電通には、エグゼキューションに特化した人もいれば、天才的なクリエイティビティを備える人、あるいは特定の業界に精通する人など、突き抜けた長所を持つ人材が各領域にそろっています。
 だからこそ、その長所・特技を補完し合い、チームとして、統合的にクライアントの課題に向き合い、成長を支援しています。
──実際に「統合グロースプランナー」は、どのような企業に、どんな支援を行っているのでしょうか。
小田 私たちが担当する、日本の某大手電機メーカー様の事例を挙げます。
 そのメーカーは、プロダクトのカテゴリーが多岐にわたる企業様で、それまでは各カテゴリーにおいて個別最適のマーケティングをしていました。
 ただ、技術進化を背景にしたマーケティングの高度化と、カテゴリーを横断したブランド全体の価値向上に課題感を抱えられていられた中で、ご相談を頂いたんですね。
 そこで、当社内でチームを組成し、戦略策定からマーケティングの実行までをご支援させていただくことになりました。
矢島 これまでの「広告」的アプローチでは、商品を“買ってくれそうな”人(顕在層)を見つけて、広告を当て、コンバージョンさせていくやり方を取っていました。
 しかし、クライアントが保有するデータや、電通やプラットフォーマーが保有しているデータを統合し、個人情報保護下の安全な環境で活用していくことで、潜在的な顧客にもコンバージョンが可能になる。
 顕在化している需要だけでなく、IDベースのデータ活用により、潜在的な需要を喚起できる。こういったアプローチで「需要創造型のマーケティング」を実現しています。
 たとえば、従来のデジタル広告では「テレビが欲しい人はこんな人だ」とターゲティングし、広告を配信していました。
 しかし「需要創造型のマーケティング」の場合だと、「これまでテレビは検討していないが、直近でオーディオ機器を購入しているし、アーティストのライブに行くのが好きだ」といったユーザーの嗜好を把握できる。
 潜在的なニーズを捉えられるため「あなたが好きな音楽の感動体験は、この映像があるともっと楽しめますよね」とアプローチする。
 このように、データを活用して生活者の嗜好に沿ったリコメンドを行い、「企業基点」のアプローチではなく、データを軸にした「顧客基点」のアプローチにシフトしていく。
 さらには、結果として生活者がどのように動いて、需要が満たされたかを観測し、次に活かしていきます。こういった戦略をとることで、本当の意味で企業のグロースが実現できると考えています。
 クライアントにとって“本当に実現したい”グロースを見極め、並走していくのが「統合グロースプランナー」の仕事の一つです。
小田 そうですね。矢島さんが話したように、クライアント様が保有するファーストパーティデータと、当社が保有するデータ、さらには提携するプラットフォーマーのデータなども活用しながら、どうすれば両立できるかを考え、実行できるのは我々の強み。
 実際にそのクライアント様との取り組みでは、数年かけて、顧客データベースを整備しました。
 今では顧客データを起点に打ち手を立案し、データからフィードバックを受けて戦略に反映できるサイクルが確立しつつあります。まだ道半ばですが、手応えを得ています。

戦略立案から実行まで、支援する

──クライアントは「統合グロースプランナー」に何を期待し、どんな部分を評価しているのでしょうか。他社にはない強みを教えてください。
矢島 大きく4つの強みがあると考えています。
 1つ目は、やはり具体的な打ち手を持っていることです。戦略を描いて終わりではなく、具体的な手法までを提案でき、実行を支援できる。
 戦略策定や、CVRのための効率化であれば、それぞれ得意とするコンサルティング企業や専門代理店がいますが、両方をうまくブリッジするのは難しい。
 全体最適の中で成長に寄与できるのは、電通ならではのケイパビリティなのかなと。
 2つ目は、戦略立案においてアイデアベースで、夢や理想を描けることです。
 我々もコンサルティングの研修を受けるのですが、勉強になる一方で、クライアントの課題を解決するには、最適化や効率化だけでは難しいと日々感じています。
 やはり、人がワクワクするような創造性やアイデアがなければ、企業も生活者も一歩目が出ません。
 その点電通は、クリエイティブジャンプを生み出す人材や土壌においては、一日の長があると自負しています。
──「戦略策定からエグゼキューション」「クリエイティブ」が強みということですね。では、3つ目と4つ目は。
矢島 3つ目は、豊富なデータソースです。一般的にコンサルティング企業は、業界レポートやヒヤリングデータなどの活用が多いと思いますが、当社には広告会社ならではのデータが蓄積されています。
 たとえばテレビ視聴ログ、位置情報、購買データ、アンケートデータなどなど……。そういったデータが、プランニングをするうえで重要な武器となります。
 そして4つ目が、生活者のプロフェッショナルである点。電通は、創業以来生活者に向き合ってきた会社でもあり、その知見は豊富にあります。
 だからこそ、クライアントの顧客、つまりは生活者がどう情報を受け止めるのかを定性的・定量的に伝えられますし、その視点から立案や分析を行えます。
 統合グロースプランナーは、IDベースの豊富なデータソースと、クリエイティブジャンプをかけ合わせ、生活者や社会を基点に、企業の事業成長の営みを上流から下流まで支援できる。
 個人的には、とてもエキサイティングな仕事だと思っています。
宮村 コンサルティングという仕事は、必然的にクライアントと向き合いますが、「統合グロースプランナー」の場合、“クライアントに利益をもたらす生活者”に対するコミュニケーション戦略にフォーカスします。
 つまり「toB(クライアント企業のグロース)」と「toC(生活者のインサイト)」両方の視点を持ったうえで、戦略と実行プランを考える必要があるのですが、それがこの仕事の難しい点でもあり、面白い点でもありますね。

「n=1」を起点とした熱狂とインパクトを

──「統合グロースプランナー」には、電通の土壌である「クリエイティブ」だけでなく、データドリブンな「サイエンス」の力も必要だと。ただ、よくアートとサイエンスは相性が悪いと言われますよね……。
宮村 そんなことはありませんよ(笑)。クリエイティブ制作に関わるメンバーも、コミュニケーション戦略立案やデータ分析を担うメンバーも、プランニングに関わるメンバー全員がクライアントの“最終ゴール”を共有できています。
 最終ゴールとは、一つはクライアントの成長=グロースであり、もう一つは生活者にとって良いものを届けること。
 その視点が一緒だからこそ、相互補完の関係をうまく築けているのかなと。「アートとサイエンスは決して仲は悪くない」と感じます(笑)。
矢島 実際にクリエイティブのメンバーと話す機会もよくあるのですが、私たちが「データを基点にすると、こんな戦略が考えられる」と提案すると、巨匠のクリエイターであっても、真摯に耳を傾けてくれます。
 それも、根底には「クライアントや、生活者にとってよりよいものを届けたい」という共通のフィロソフィーがあるからだと思います。
小田 素晴らしいアイデアを持つクリエイターと一緒に課題に向き合い、ロジカルでありながらもワクワクする戦略を描く。
 そして、生活者や世の中が変わるところまで見られるのは、当社で仕事をする醍醐味だと思いますね。
 大量のデータや、時にはn=1の顧客の行動を見つめながら、世の中にインパクトのあるアイデアを導いていきたい。
──最後に、統合グロースプランナーとして、今後どんな存在になりたいかをお話しください。
矢島 あらためて、クライアントの成長を考えることを通して、その事業の先にいる生活者の幸せを追求する。それをデータドリブンに、そして広告に限らず実行していく。
 また、生活者基点でクライアントの事業成長を実現し、結果として世の中にインパクトをつくり、面白い仕事をする。
 将来的には、クライアントが何か困った時には「あ、電通の統合グロースプランナーに相談しよう」と、頼ってもらえる存在になりたいですね。
宮村 矢島さんの答えと近いんですけど、クライアントが売上拡大をしたい、あるいは生活者に対してよりよいコミュニケーションをしたいと思った時に、頼ってもらえる存在になりたいですね。
 私自身も、戦略立案だけして「絵に描いた餅」を提示するよりも、具体策や道筋をきちんと描いてあげられる人になりたいなと思っています。
 電通の「統合グロースプランナー」は、そういった視点で仕事ができる場所ですし、私ももっと引き出しを増やしていきたいですね。
小田 クライアント様の成長を全力でサポートさせていただくことはもちろんですが、常に新しいアプローチを模索し、チャレンジすることも大切だと考えています。
 やはり、今時代がすごいスピードで変わっているので、我々が「これが最先端の戦略と施策です」と提案しても、1年後には陳腐化している可能性もある。
 だから自分の成長はもちろん、チームのケイパビリティも高めたい。
 電通自体も「統合グロースプランナー」の採用に注力をしていますし、新しいメンバーと一緒に、インパクトを与えるような仕事がしたいですね。