2022/12/27

CASEがもたらす“破壊的変革”。モビリティの未来はこう変わる

NewsPicks Brand Design シニアエディター
「自動車業界は100年に1度の大変革時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保証はどこにもない」──。
 2017年11月、トヨタ自動車の豊田章男社長が発した危機感に満ちた言葉は、自動車業界で不可逆のパラダイムシフトが進行していることを端的に示すものでした。
 100年に1度の変化を象徴するのが、2016年に独ダイムラー社(現メルセデス・ベンツ社)が提唱した「CASE」
 自動車の技術革新を指す言葉で、技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏は「従来のクルマの価値観を全否定する概念」と説明します。
 本稿では鶴原氏が、CASEの本質やMaaSとの関係、自動車業界を「大変革」する理由などについてQ&A形式でわかりやすく解説します。
※当記事は素材メーカーAGCのスポンサードコンテンツです。本文では同社の自動車事業への取り組みも紹介します。
1985年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、新素材技術の専門情報誌、機械技術の専門情報誌の編集に携わったのち、2004年に自動車技術の専門情報誌「日経Automotive Technology」の創刊を担当。編集長として約10年にわたって、同誌の編集に従事。2014年4月に独立、クルマの技術・産業に関するコンテンツ編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。

正反対の価値観? CASE vs. 従来のクルマ

 CASE とは、Connected(コネクテッド:通信機能)、Autonomous(オートノマス:自動運転)、Shared & Services(シェア&サービス)、Electric(エレクトリック:電動化)の頭文字を並べたキーワードのこと。
 近年の自動車業界の新しい試みや新機能は、CASEに含まれるものばかりです。
 CASEの特徴は、自動車メーカーが従来追求してきた価値を転換するところにあります。
 通信機能によってクルマと外の世界がつながるコネクテッドは、閉鎖的空間から得られる乗員同士の親密感などを追求してきた従来の発想とはベクトルが異なります。
 オートノマスも、「ドライバーが運転しないクルマ」を意味することから、「運転する喜び」を目指してきた自動車メーカーの姿勢とは必ずしも一致しません。
 シェア&サービスは、「必要なときだけクルマを利用する」という点に着目すれば、「クルマを所有する」という価値とは正反対。
 そしてエレクトリックの電動化を進めた先には、エンジン(内燃機関)が不要の世界が待っています。
 こうした新たな価値観の登場とともに、「100年に一度の大変革の時代」と言われる激動期に突入した自動車業界は、IT企業やエレクトロニクス関連企業など新たなプレイヤーが参入し、産業構造も大きく変わろうとしています。
 ここからはCASEに関するよくある疑問や注目ポイントを見ていきましょう。
 MaaSは「Mobility as a Service」の頭文字をつなげた言葉で、大きく二つの意味があります。
 広い意味では、目的地への移動の最適化を図るために、複数の公共交通や移動サービスを組み合わせ、ルート検索や予約、決済なども一括で行えるワンストップサービスを指します。
 モデルとなっているのは、フィンランドのサービス「Whim」。
 月額固定のサブスクモデルで、バスやタクシー、自転車シェア、カーシェアなどが利用できます。言うなれば、モビリティのアグリゲーションサービス(※)です。
※複数の企業が提供するサービスを集積し、1つのサービスとして利用できるようにしたサービス形態
 他方、もう少し意味を狭めて、クルマを所有せず、必要に応じて移動ツールをサービスとして利用する考えをMaaSと呼ぶこともあります。
 それらを代表する無人タクシーやロボットタクシーはCASEの「オートノマス(=A)」そのものであり、クルマを移動ツールと見なす点で「シェア&サービス(=S)」の視点も強く反映されています。
 タクシーは営業費用に占める人件費の割合が約7割と非常に高いことから、無人化できれば、サービスが大幅に安くなる可能性があります。
 つまりCASEの発展は、便利で安く、多様なサービスの実現につながっていくと考えられます。
 マイカーの所有の是非という観点に立つと、一見、相反するように思えるかもしれませんが、CASEとMaaSは決して対立する概念ではありません。
 CASEの価値観を突き詰めた究極の状態がMaaS──。これが実際の両者の関係と考えます。
 自動運転は、自家用車とモビリティサービスで分けて考える必要があります。
 両者の大きな違いは走行ルートです。自家用車は用途が多様なため、あらゆる場所に行くことが求められます。
 一方、モビリティサービスは、路線バスのように運行ルートや運行エリアを限定できることから、両者の実用化のハードルは異なります。 
 モビリティサービスの自動運転については、国土交通省と経済産業省が先進モビリティサービスの実現・普及を推進しています。
 例えば、過疎化や高齢化が加速する地域の移動手段の確保などを目的として、2030年までに全国100カ所以上で無人輸送サービスを実施することが検討されています。
 自家用車向けの自動運転は、現在のところ高速道路限定という形で開発が進められています。
 自動運転は技術到達度などに応じて5段階にレベルが分けられていますが、現時点の到達度は「レベル3」
 システムが運転困難になると、ドライバーの手動介入が発生します。そこからドライバーの介入が不要な「レベル4」に達するのは、2025年頃と言われています。
 他方、一般道での自動運転は高速道路に比べてハードルが高く、ハンズオフが可能な「レベル2」、あるいは高度な運転支援を実現する「レベル2+」に達するのは、2025年くらいになると思われます。
 技術が順調に向上すれば、近い将来、高級車から自動運転車が登場し、2030年頃から価格帯の低いクルマにも普及していくことになるでしょう。
 ちなみに自動運転は、4、5年前まで、もっと早く実用化されると言われていました。
 予測通りには進まなかった大きな要因は、安全性の確保です。
 現在、日本だけで年間30万件を超える交通事故が起きています。
 それにもかかわらず、自動運転車は事実上、事故ゼロを要求されている。あまりに高いハードルです。
「How safe is safe enough?(=どの程度の安全なら十分なのか)」という言い方があるように、無数に存在する走行環境に対し、何をどこまでやれば十分な安全性保証になるのか、様々な議論が重ねられています。
 その中で、現在は実車走行の実績評価が基本となり、各社が“何万㎞走っても事故が起きませんでした”と実績を示して、社会の反応を見ているような状況です。
 クルーズ(Cruise)やウェイモ(Waymo)など、自律走行車業界を牽引する企業の技術力は相当なレベルに達しています。
 それでも一度事故が起きると、大きな批判に晒される可能性が高い。
 そのため、先進企業であっても慎重に進めざるを得ないのが現状なのです。
 コネクテッドカーのサイバーセキュリティが注目を集めるようになったのは、2015年に起きたある“事件”がきっかけです。
 2人のコンピューターセキュリティの研究者が、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(現ステランティス)の「コネクテッドカー」システムが搭載されたジープチェロキーに遠隔攻撃を仕掛け、ハッキングに成功したことが話題になりました。
 車外からエンジンを止める、ブレーキを操作する、といったことに加え、ハンドル操作にまで干渉できたといいます。
 最近ではOTA(オーバー・ジ・エアー)と呼ばれる、無線で車載のオペレーションシステムやソフトウェアを更新する技術も自動車に採用され始めています。
 クルマがネットワークにつながると、離れた場所からでもアクセスが可能となり、サイバー攻撃を受ける危険性が高まります。
 そこで2020年6月、国連欧州経済委員会の作業部会「W29」において、自動車のサイバーセキュリティとソフトウェアアップデートの国際標準であるUN-R155、UN-R156が採択され、欧州や日本では今年7月から規制が始まっています。
 例えばUN-R155は、自動車メーカーなどに対し、サイバーセキュリティを管理するためのルールや遵守するための仕組みを設け、それに従って車両に具体的なサイバーセキュリティ対策を実装することを義務付けています。
 UN-R155とUN-R156は、いわば品質に対するお墨付き。法規の基準を満たさない車両は販売許可が下りません。
 つまりサイバーセキュリティに関しては、際限のないリスク対策において業界内で一定のラインが引かれたことになります。
 これは見方を変えると、このラインを超えていれば、仮にトラブルが起きても不可抗力と見なされる可能性が高くなる、ということでもあります。
 アンコントローラブルな事故が起きた場合、ルールを遵守していた企業に全ての責任を求めてしまうと、企業の萎縮を招き、新しい技術の導入が進まなくなるからです。
 安全基準を設けるということは、リスクが存在することを前提に、人間が出来うる最大限の努力を払いながら前進しようとする意思表示とも言えるのです。

モビリティの進化を支える、AGCのガラスアンテナ

 CASEやMaaSのキーワードとなる「コネクテッド」。
 自動運転のための情報基盤として、クルマ同士や、クルマと交通インフラが縦横無尽に“つながる”時代が目前に迫っている。
 モビリティの進化に伴い、自動車ガラスに対する要求も多様化、高度化している。以下はその一例だ。
  1.  乗員の安全性や視界を確保 
  2. 省エネに寄与できる薄板軽量ガラスや太陽電池搭載ガラスなどによる燃費・電費の向上 
  3. アンテナ、カメラ、LiDAR、センサーなど高度デバイス機能の実現 
  4. 紫外線や赤外線といった乗員の快適性を損なう波長をなるべく通さない緻密な制御 
  5. 車の内外に向けた情報表示
 クルマに360°張り巡らされた透明な窓ガラスには、これら一部矛盾する要求を同時に実現することが求められているが、それに応えるのは簡単なことではない。
 自動車用ガラス市場で世界トップレベルのシェアを有するAGCは、この高いハードルに向き合ってきた。
 その成果として、ガラスと太陽電池セルを組み合わせたソーラールーフ用ガラスや、ガラスの明るさをスイッチ一つで調整できるWONDERLITE®、紫外線を99%カットするUVベールPremium®シリーズなどの高機能製品を世に送り出している。
WONDERLITE ®
UVベール Premium Cool on ®
 これらの製品は同社が蓄積してきた技術を複合して開発したものだ。
 幅広い分野で事業を展開し、それぞれの領域で培った技術を横断的に融合させられることがAGCの強みと言える。
 2018年には、5Gコネクテッドカーの実現に向けて開発された「車両ガラス設置型アンテナ」を用いて通信実験を実施。
 約100km/hで高速走行中の車両との間で、最大8Gbpsの5G通信を世界で初めて成功させた。
 実証実験に使用したオンガラスアンテナは、外観から見えにくく、車両のデザインを損なわずに設置ができるなど、デザイン面でも同社のこだわりが発揮されている。
 ガラス事業は現在、日本・アジア、欧州、米州の3極体制をベースに30を超える国と地域で展開。
 顧客の多様なニーズに応え続けるべく、3極の技術者が常に情報交換や連携をしながら、生産技術や高機能商品の開発に邁進している。
 「ライドヘイリング」とは、ウーバー(Uber)などの事業者が運営するマッチングプラットフォームを利用して、乗客が車両を呼び出せるサービスです。
 ユーザーはアプリを見れば、自身の周辺にいる車両の数や、配車依頼をした車両が現在地に到着する時間、目的地までの所要時間、目安となる運賃などが確認できるほか、乗車後の決済やドライバーの評価などもアプリ上で行えます。
 海外では自家用車を用いた一般ドライバーによる有償運送が広がり、ライドヘイリングサービス市場はこの先大幅な成長が見込まれています。
 他方、日本ではタクシーとハイヤーのみが配車可能で、一般ドライバーによる運送は例外を除いて「白タク」(※)として禁止されており、解禁に向けた動きも活発化していません。
(※)道路運送法に基づく営業許可を受けず自家用車を用いてタクシー営業すること
 こうした違いは、日本と海外の文化の差異に起因するものと考えられます。
 例えばアメリカの場合、もともとタクシーサービスの質が高くないため、ライドヘイリングが非常に好意的に迎えられたという背景があります。
 今では誰がどのクルマを呼んだのかがわからなくなるほど混乱を招くこともあるため、アメリカの空港などでは、タクシーとは別に、ウーバーを呼ぶエリアが決まっていることもあります。
 日本の場合、タクシーサービスに対する不満がそれほど大きくありません。タクシー会社による配車サービスも広がっています。
 法の壁もある中、海外同様のライドヘイリング文化がいきなり広がっていくことはあまり想像がつきません。
 ただ、これはあくまで有人の配車サービスに限定した話。ロボットタクシーのような無人の自動運転車が実用化されれば、話は変わってきます。
 ウーバーが海外で人気を集めたのは、タクシーより安く、サービスの質も良いからです。
 ロボットタクシーはウーバーよりもさらに安くなるので、当然、ロボットタクシーの利用者が増えていくはずです。
Scharfsinn86 / istock
 この先、自動運転技術を活用したモビリティサービスが拡大していく過程で、国内におけるライドヘイリングのあり方が変わっていく可能性は十分にあります。
 特に無人自動車を活用したライドヘイリング文化であれば、日本に根付いても全く不思議ではありません。
 自動車メーカーはこれまで、完成品を売る、という極めてシンプルなビジネスをしていました。
 人間が運転することを前提に、操縦安定性や乗り心地、内装の豪華さといったハードウェアそのものに価値が置かれていたからです。
 ところが自動運転が現実となり、サイバー空間ともつながったことから、価値の生み出し方が一変しようとしています。
 そこで注目されているのが、OTAやSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)といったキーワードです。
 これらが意味するのは、車載ソフトウェアを更新することによる、パーソナライズ化されたドライビングエクスペリエンスの実現です。
 これまでユーザーは価値の定まった完成品を買っていましたが、これからはスマートフォンのごとく、購入後に自ら価値や体験をデザインしていくスタイルに変わっていく。
 つまり、ソフトウェアのアップデートを通じて、ユーザーは購入後も製品の価値を高めていくことが可能になります。
 逆に自動車メーカーは、クルマがユーザーのデジタルライフのツールとなることを前提にサービスのあり方を考えねばならなくなっています。
 デジタルサービスを活かした価値創出という点において、既存の自動車メーカーよりも、IT企業が得意なことは言うまでもありません。
 参入が囁かれているアップルは、ハードウェア開発にも尋常ではないこだわりを注ぐことで有名ですが、UI、UXといった点においても他の企業にはない強みを持っています。
 ソニーはゲームや音楽などエンタメの観点から新しい価値を設計して他社と差別化を図ってくるかもしれません。
 CASEのあらゆる領域で先進技術や斬新な発想が求められる中、ITやエレクトロニクス系の企業が参入するのは必然であり、既存の自動車メーカーはその大きな変化の流れに引っ張り込まれているのが現状です。
 2025年頃からはEV(電気自動車)の普及が大きく進むことが予想されています。
 エンジン開発という自動車業界最大の参入障壁が消えれば、異業種組はさらに増えるでしょう。
 車両製造はIT産業のビジネスと比べると利益率が低いことから、異業種組を中心に車両製造の工程を外部企業に任せようとする動きが広がっていくことも考えられます。
 結果として、従来とは異なる水平分業が広がり、産業構造も大きく変わるかもしれません。

AGCが実現する、燃料電池の低コスト化

 2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車産業全体でエネルギーシフトと電動化が加速する。
 欧州や中国を中心にEV(電気自動車)の品揃えが充実し、2030年には販売車数に占めるEVの割合が3割に達するという予測もある。
 その一方で、水素を燃料とするFCV(燃料電池車)の重要性も再認識され始めている。
 長時間の連続走行や短時間での燃料の充填が可能なことから、EVでは対応の難しい大型の商用車などに使えるためだ。
 AGCは燃料電池を高性能化する製品の開発に力を入れている。
 燃料電池内部の電解質膜と電極に用いられるフッ素系ポリマー溶液「FORBLUE™ iシリーズ」がそれだ。
燃料電池用電解質ポリマー溶液「FORBLUE™ iシリーズ」
 燃料電池は、電解質膜をプラスとマイナスの電極で挟む構造となっている。
 電解質膜に求められるのは、水素イオン(プロトン)は透過させつつ、ガス状の水素や酸素は通しにくい性質。一方、電極には水素イオンだけでなく、ガスも通しやすいことが必要だ。
 そのためサプライヤーには、性質の異なる二つのポリマー(樹脂)を作り分ける技術力が求められる。
 AGCは食塩電解事業で培ってきたフッ素イオン交換膜技術を活かして、その要求に応えた。
 通常80度前後で作動する燃料電池は、温度管理のために高性能な冷却装置が必要となる。
 また、電解質膜を正常に働かせるためには加湿器も欠かせない。それらの装置がコスト高を誘発し、燃料電池車の普及のハードルとなっている。
 AGCは独自の技術によって、120度で無加湿の状態でも十分な性能を発揮し、さらに劣化の進まない耐久性の高い電解質膜向けポリマーを開発した。
 他方、電極ポリマーも革新的な技術によって進化している。
 電極は触媒として用いられる白金(プラチナ)がコスト高を招いているが、電極ポリマーのガス透過性を高めることでその使用量を減らすことができる。
 AGCは、ガスが通りやすい分子構造を研究し、白金の使用量を半減させる電極ポリマーの開発にも成功した。
 本格普及に向けて研究開発が進むFCV。AGCは70年にわたって蓄積してきた電気化学技術を活かし、燃料電池システムの低コスト化や高性能化を着実に進めている。