2022/12/21

フォロワー数に惑わされるな。Instagramの新常識「クリエイターマーケティング」とは

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 SNSを覗いていると、「#PR」と書かれた投稿を目にすることがある。いわゆるインフルエンサーマーケティングの広告だ。

 インフルエンサーたちは企業からの発信とは異なるアプローチで、商品の魅力を訴求する。

 個人の発信力が広告の可能性を広げる一方で、知名度を利用した形ばかりのPRやステルスマーケティングなどのネガティブな側面も無視できない。

 その流れを変えるかのように、広がりつつあるのが「クリエイターマーケティング」だ。

 そのポイントについて、日本におけるデジタルPRの第一人者であり、現在はクリエイターとして活躍するミラモアジュエリーCEO 稲木ジョージ氏と、Facebook Japanの相原留衣氏に話を聞いた。
INDEX
  • “1人1台”がインフルエンサーを生んだ
  • “フォローされないインフルエンサー”の存在
  • クリエイターとブランドは両輪の関係にある
  • フォロワー数の“競争”から、価値の“共創”へ
  • 多様な“個”の共創で広がる可能性

“1人1台”がインフルエンサーを生んだ

──今では当たり前のものとなった「インフルエンサーマーケティング」ですが、日本での始まりはどのようなものだったのでしょうか?
稲木 僕が日本で「デジタルPR」を名乗り始めたのが2013年なので、もう9年前のことですね。
 すでに始まっていたInstagramは、PR業界では“子供の遊び”とさえ言われていました。
 僕が記憶している日本でのインフルエンサーマーケティングのきっかけは、あるラグジュアリーブランドの展示会に「ブロガーを連れてきてほしい」と頼まれたこと。
 インフルエンサーに代わる言葉が、当時は「ブロガー」だったんですね。
 ただ、いわゆるファッションブロガーではミスマッチな気がして、エッジが効いたおしゃれな女の子たちを集めました。
 展示会では、彼女たちが自由に写真を撮って、Instagramにアップしてくれたんです。
 今でこそインフルエンサーを展示会に招くのは常識ですが、当時はあり得ないことだったので、よく覚えています。
相原 そこからSNSマーケティングが加速したのは、スマホを1人1台持つ時代になったことが大きいでしょうね。
 デバイスを持つことによって、さまざまなことを自分で調べられるようになりました。
 一方で、あふれる情報から、信頼できるものを取捨選択せねばならなくなった
 その“信頼”の軸の1つが、自分がファンになった人の発信です。「あの人のオススメなら絶対良いもののはず」というように。
 こうして、発信で価値を生む人=インフルエンサーが現れた。そこに着目したのが、インフルエンサーマーケティングなのだと思います。
──SNSマーケティングにおいて、インフルエンサーという存在がこれほど重要になったのは、なぜなのでしょうか?
稲木 情報のファーストコンタクトとして、SNSが手軽だからではないでしょうか。
 ネットにはたくさんのWebメディアがありますが、媒体を直接見に行くことは少ないと思うんです。多くの人は、SNSのシェアから、興味がある記事だけを見ているはず。
 SNSが情報にアクセスする最も手軽な入り口として機能している以上、やはりインフルエンサーという存在は大きいのだと思います。

“フォローされないインフルエンサー”の存在

──現状のインフルエンサーマーケティングにどのような課題を感じていますか?
稲木 最も重大なのは、インフルエンサーをフォロワー数で評価してしまうことですね。
 すでに「フォロワー数が多いほど認知が広がる時代」ではありません
 たとえばInstagramの「発見」タブ(※)には、ユーザーの興味・関心に基づいてレコメンドされた投稿が並んでおり、そこにはフォロー外のアカウントも出てきます。
※ユーザーの興味・関心に基づいて、パーソナライズやキュレーションされた投稿を表示するInstagram独自の画面。
 発見タブの投稿から、購買につながるケースもありますが、必ずしもそのアカウントをフォローするわけではない。
「保存」ボタンで投稿をブックマークしたり、スクリーンショットを撮ったりして終わりなんですよ。
 僕も実際に、発見タブの投稿から買ったものはたくさんあります。でも、フォローするのは本当に付き合いたい人だけですね。
相原 最近は、SNSのハッシュタグを活用して情報収集する「タグる」という行動も増えていますよね。
 ハッシュタグをたどって、フォロー外の投稿をチェックするのは、もう普通のこと。ですから、フォロワー数を指標にするべきではないと思います。
稲木 そうですね。フォロワー数が少なくても、その商品が本当に好きで、思いを伝えている投稿なら購買数アップにつながりますから。
──では、どういった指標でインフルエンサーを評価するべきなのでしょうか?
稲木 中長期的な効果を追うことが重要だと考えています。
 ファッションブランドであれば、インフルエンサーがそのブランドのアイテムを定期的に身につけることで、初めてその人が形成するコミュニティに浸透します。
 裏を返せば、一度限りの投稿で浸透を図るのは難しい。持続的な取り組みを前提にしないと、本来のPR効果は測れないと思っています。
相原 フォロワー数や話題性だけでインフルエンサーをアサインするのは、一過性の効果しか生みません。
 中長期的なマーケティング効果を考えるなら、その人がブランドにマッチしているのか、そして、どれほど思い入れがあるかを見極めるべきでしょう。
 Instagramの場合、フィードにはその人の日常がストックされていきます。
 長い年月をかけて作られた世界観の中に、ブランドが嘘偽りなく溶け込んでいることが、ユーザーの心を動かす“共創”につながるはずです。
 従来のインフルエンサーマーケティングから進化した「クリエイターマーケティング」が目指す姿も、そうした中長期的な取り組みにあると考えています。

クリエイターとブランドは両輪の関係にある

──Instagramの考える「クリエイターマーケティング」について教えてください。
相原 ポイントは3つあります。
 大前提として、独自の発信力を持つクリエイターが、商品の魅力を本音で表現できること。もう1つが、目先の数値だけでなく、中長期的なブランドビルディングも踏まえたKPIの設定。
 そして、SNSの機能を駆使して多面的に伝えることです。Instagramであれば、フィードやリール(※)などですね。
※最大90秒の縦型ショート動画
──インフルエンサーマーケティングとはどこが違うのでしょうか?
相原 クリエイターとブランドの関係です。従来の手法を深掘りした両者の共創が、クリエイターマーケティングなのです。
 旧来のインフルエンサーマーケティングは、ブランドの意向に沿う表現で商品をPRすることが一般的でした。
 そこでは“クライアントのコンテンツ”をいかに魅力的に発信できるかが重視されます。
 一方、クリエイターマーケティングでは、クリエイターならではのコンテンツがマーケティングの軸です。
 ちなみに、ここで言うクリエイターとは、自らコンテンツを生み出し、それを自身が持つコミュニティに広げ、最終的にマネタイズにつなげている人々を指します。
 クリエイターは自らが作り出した世界観の中で、ブランドへの愛や思い入れを自分なりに表現します。
 そういった本音の投稿だからこそコミュニティに広がり、マーケティングの効果を高めるのです。
──実際に多くのクリエイターが活動するInstagramは、マーケティングの場として適しているように思います。
稲木 ブランディングの観点でSNSを選ぶなら、僕は圧倒的にInstagramですね。
 僕の手掛けるミラモアジュエリーでも、Instagramしか使っていません。複数のSNSを運用するのは、ものすごくリソースがかかりますから。
 Instagramはビジュアルが優れているのはもちろん、コンテンツ力が高いんですよね。フィードはクリエイションに、ストーリーやリールは日常系の投稿にと、それぞれ使い分けられますし。
相原 ブランドの代表として、Instagramの使い方で意識していることはありますか?
稲木 今は、あえて僕個人の露出を控えるようにしています。
「お客様とのエンゲージが大事」と言われますが、そうすると売上が僕個人の力に依存してしまう面も出てくるじゃないですか。
 ブランドを育てていくために、あくまでブランド自体のアカウントを強化する戦略をとっているんです。
相原 なるほど。今のお話は、クリエイターマーケティングにも通じると感じました。
 クリエイターからの発信だけに頼るのではなく、ブランド自体の発信も不可欠だ、と。
稲木 それは間違いありませんね。
 ブランドとクリエイターが両輪で取り組んでこそ、クリエイターマーケティングは真価を発揮すると思います。

フォロワー数の“競争”から、価値の“共創”へ

──クリエイターマーケティングのポイントである“クリエイターとブランドの共創”とは、どのような状態を指すのでしょうか?
相原 クリエイターが商品を実際に体験することで、ブランド側も気づかなかった新たな価値が引き出される。言うなれば「価値共創」が起こることです。
 たとえば、コスメブランドが「発色の良さ」を押し出した商品を作ったとします。
 でも実際に使ってみると、「これ1本でマルチに使えるから時短になる」という新たな価値が見出されることがあるんです。
 利用者の視点や経験から生まれる価値は「文脈価値」と呼ばれます。
 ユーザーの文脈──つまり、使い方や捉え方次第で、商品の価値は多様化します。
 さらに、その価値を本音で表現してもらうことで、共感の渦が広がっていく。これが共創の理想型だと考えています。
──では、共創のパートナーとしてブランドが組むべきクリエイターとは?
稲木 ブランドや商品を心から愛してくれている人です。
 実はフォロワー数がミリオンに届かない一般の女の子でも、購買につながる力を持っていたりするんです。
 実際に「○○さんがミラモアを身に着けているのを見て」と問い合わせも来ますし、小さくても自分のコミュニティに絶大な影響力を持っているんです。
 パッションを秘めている人は、言葉に力があります。商品への熱量はクリエイターの絶対条件だと思いますね。
相原 PRを頼まれているわけではないのに、自発的に愛用品を熱く語るユーザーさんっていますよね。
稲木 そういう投稿って、つい見ちゃいますよね(笑)。僕もコスメやスキンケアを選ぶときに参考にしたりします。

多様な“個”の共創で広がる可能性

──Instagramのさまざまな機能のなかで、共創の効果を高めるのに役立つものを教えてください。
相原 Instagramでは、広告主とクリエイターの関係性を示す「ブランドコンテンツタグ」の利用を推奨しています。
 タイアップ投稿であることの明示によって、透明性の高いマーケティングだと、ユーザーにひと目で伝える機能です。
 この機能のもう1つのメリットとして、もともと広告ではないクリエイターのオーガニック投稿を、自社のアカウントで広告として配信可能になります。
フィードやストーリーなどのクリエイターの投稿内で、対価を支払ったブランドを紹介する公式の機能。「#PR」や「#タイアップ」といったハッシュタグは、Instagramでは非推奨となっている。
──広告だと明示すると、ユーザーが離脱してしまうのでは?
相原 まさに「広告だと打ち出すと、敬遠されるのではないか」と懸念される声を多くいただきます。
 しかし私たちの検証では、ブランドコンテンツタグを付けたほうが、マーケティング効果が高いことがわかっているんです。
稲木 僕もブランドコンテンツタグを使っていますが、便利ですよね。
相原 ありがとうございます。
 ビジネス的には間違いなくプラスの効果が出ますし、ユーザーのみなさんも安心安全に投稿に接してもらえるので、ぜひ広く使っていただきたい機能です。
稲木 タイアップをマネタイズの手段とするクリエイターの視点でも、ビジネス的な効果は重要ですね。
 クリエイターの方には、本当に自分が好きなものをとことん発信してほしい一方で、自らのアップデートも欠かさないでもらえたらと思っています。
 同じようなコンテンツばかりでは、すぐ飽きられてしまいますし、積み重ねてきた信頼も一瞬で失いかねません。
 僕自身も、クリエイターとして表現に深みを出す心がけを忘れないようにしたいですね。
相原 そういった多種多様な“個”が影響し合う世界で、また新たな価値共創の形が生まれてくるのでしょう。
 この話は決して他人事ではありません。フォロワーが数百人規模のユーザーでも、自分のコミュニティを作り上げて「マイクロインフルエンサー」となる時代ですから。
 SNSが発達していくなかで、クリエイターマーケティングは今後ますます活性化していくはずです。
 新たな可能性の芽を逃さないように、Instagramという場を活用していただけたらと思っています。