[東京 9日 ロイター] - 人事院の川本裕子総裁はロイターとのインタビューで、物価が上昇する日本経済の現状を踏まえれば「賃上げは非常に大事だ」と述べ、国家公務員の給与水準のベースとなる民間企業の取り組み拡大に期待を示した。また、応募者数の減少や若年層の退職者増加など政府の人材を巡る課題の解決に向け、引き続き処遇改善や勤務環境の整備が必要とも語った。

世界的なインフレ下、長くデフレが続いた日本でも原材料高や円安の影響で電気・ガス代や食料品価格が上昇。11月の消費者物価指数は40年ぶりの高い伸びとなった。政府は物価高騰に負けない賃上げを民間に呼びかけおり、国家公務員の給与勧告を行っている人事院の川本総裁も、「民間の皆さんには是非賃上げをしていただきたい」と語った。

国家公務員の月給やボーナス支給額を変更する場合、人事院が民間の水準を踏まえて勧告する。今年は新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ企業の給与水準が回復し、公務員を上回っているとして、人事院は8月に引き上げを勧告。政府は3年ぶりにプラス改定を決めた。

国家公務員を巡っては、民間との人材獲得競争が厳しさを増し、優秀な学生が外資のコンサルティング会社や金融機関などに就職するケースが増えている。現在の国家公務員の給与改定プロセスでは、比較対象に組み入れる調査先に中小事業者も含んでいるため、商社や外資系企業などに比べて結果的に処遇が見劣りすることになる。一方、外資系は雇用面での不安定さもあり、川本総裁は「リスクとやりがいを総合的に考えた時の処遇を考えて欲しい」と述べた。

川本総裁は、応募者数の減少や若い世代の退職者が増加する中、各府省庁が経験者を一定規模採用する動きがあるのは新しい変化だと指摘。国家公務員組織の弱体化を防ぐためには、公務から一度離れた人に戻ってきてもらったり、新たに民間人材を採用したり、人材確保の「パイプ作りが重要」との認識を示した。

川本総裁は、過去、大手経営コンサルティング会社マッキンゼーなどに勤務。2004年から21年6月の総裁就任まで早稲田大学大学院教授として金融機関の経営や企業統治などを研究してきた。「これまでの霞が関の幹部は政策づくりに関心が向かい、組織運営や部下の育成に対する目配りなどが足りていなかった」と指摘。部下のキャリアアップやロールモデルに配慮し、モチベーションが高まりやすい組織づくりの重要だと語った。

インタビューは8日に行いました

(杉山健太郎、梶本哲史 編集:久保信博)