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村田マリ流教育のリスク

何歳で海外に出るのがベストなのか?

2015/1/18
NewsPicks内で前月、もっとも話題になったテーマを、「サイボウズ式」とNewsPicks編集部がピックアップ。そのテーマについて、ピッカーや外部の専門家に意見を聞き、より深く、多様な視点を提供するHot Topicsのコーナー。第3回目は「早期グローバル教育は子どもに有効か?」という議題で、日本の小学校受験にも詳しい教育コンサルタントの石井至さんと、お子さんを早期からグローバルに育て、自身も海外で学位を得たクロスカルチャー・トレーナーで異文化間教育研究者の水田園子さんに登場してもらいます。前編は こちら から。

村田マリさん的な教育はリスクが高いか

水田 園子(みずた・そのこ) 東京都出身。 東京外国語大学外国語学部 仏語科卒業。スタンフォード大学大学院修了。 ニューヨーク大学大学院博士課程を経て、日米でグローバル企業のCCT(クロスカルチャートレーニング)に携わる。 また、日本女子大学等で教鞭をとる。専門は、異文化間教育。 著書に『国際人間関係論』(共著,聖文社:日本図書協会賞受賞)、『異文化コミュニケーションへの招待』(共著,北樹出版)、編註書に『カルチャーショック』(共著,芸林書房)。2013年に日本で初めての『異文化コミュニケーション事典』(共著,春風社)。 日米で一女一男を育て、現在もNYと東京の自宅を行き来する。毎年訪れるパリを加えて、「Tokyo-Paris-NY 三都・定点観測」を39年続行中。

水田 園子(みずた・そのこ) 東京都出身。 東京外国語大学外国語学部 仏語科卒業。スタンフォード大学大学院修了。 ニューヨーク大学大学院博士課程を経て、日米でグローバル企業のCCT(クロスカルチャートレーニング)に携わる。 また、日本女子大学等で教鞭をとる。専門は、異文化間教育。 著書に『国際人間関係論』(共著,聖文社:日本図書協会賞受賞)、『異文化コミュニケーションへの招待』(共著,北樹出版)、編註書に『カルチャーショック』(共著,芸林書房)。2013年に日本で初めての『異文化コミュニケーション事典』(共著,春風社)。 日米で一女一男を育て、現在もNYと東京の自宅を行き来する。毎年訪れるパリを加えて、「Tokyo-Paris-NY 三都・定点観測」を39年続行中。

水田:教育にはいろいろなファクターが絡むので、「教育は全て個別解」と前置きした上でですが、基本的に私は、海外に出て多様な文化や人に接した方が良いという考えです。

ただし、幼少期から長く海外で子どもを育てる場合、気をつけなければならないのは、日本という社会・文化集団の中の「社会化・文化化」のプロセスから外れるということです。村田マリさんのように、独自のしっかりとした教育観をお持ちのような方は良いかもしれませんが、一般的には、ある程度、日本人として出来上がってからの方が良いかと思います。

石井:はい、村田マリさんのやり方を追う風潮は、ちょっとリスキーだと思う。

水田先ほどもお話しましたが、大人の異文化体験とは違い、人間形成期を異文化間で過ごす子どもたちには、特別な配慮が必要です。

元々はアメリカの社会学で移民の子どもたちの研究で使われていた概念なのですが、「どちらにも、どこにも自分の居場所がない」と感じ、文化的アイデンティティにゆらぎのある人たちは、「マージナルピープル(文化的境界性をもつ人)」と言われ、それは、長期海外滞在者の子どもたちにも適用されることがあります。

ただ、その上で私が再度強調したいのは、かつては「根無し草」としてネガティブに捉えられてきたマージナルな人たちの肯定的な側面です。というのも、今や、ネット等で地域の枠を超えて、世界中の「サードカルチャー・キッズ」が彼らのコミュニティーを形成し、そこに帰属意識を持てるようになった。

それはまだ on going ですけれど、新しい文化の萌芽なんだと思いますね。ダイナミックなグローバル社会で、「既存の枠組みから外れる」不確かさや心細さに対する“耐性”があるのは、彼らの強みです。

石井:ただ、on going ということは実験場ですよね。自分の子どもを使って、そんな怖いことよくするなという気はしますね。子どもの将来がかかっているのに、その予測可能性を放棄するということは、僕的に言うと親として失格。

「どうしてそういうふうに育てたのか」「どうしてその学校に行かせたのか」と、子育てが終わって、子どもが大人になってから反論を受けるケースは多いんですよ。

水田:オランダの社会学者・ホフステッドの世界規模の調査研究でも示されている通り、日本人は“予測可能性”を志向する傾向が世界でもダントツに高いですからね。そう思う親が多いのも分かります。

家族というのは運命共同体ですから、海外赴任などのケースでは、どんどんお子さんを伴って外に出てほしい。その際、マージナリティーの点には十分に配慮していただきたいですけれど。

一方、私も、「子どもを国際人に育てるために」わざわざインターナショナルスクールに入れるようなケースについては、ちょっと疑問を感じます。

最初にお話したグローバルな場で求められる能力の基盤は、国内にいても培うことができます。自分の身の周りの物事がどれほど世界と密接に繋がっているのか、自分の生活がどれほど世界システムの中にあるのかを意識するように子どもに働きかけたり、一つの出来事にさまざまな解釈があることを話し合ったりする。 そして、できるだけ多様な文化背景の人たちと交流する機会をもつようにする。やがて、本人が留学したいと希望するようになったら、そのとき、留学したら良いのではないですか?

石井:だから僕は国際人が必ずしもいいとは思わない。別に、日本の田舎で外国人に会うこともほとんどなく、日本語だけで、地元の何百人にしか会わないような生活で一生幸せに暮らすんだったら、僕はそれはそれで全然、OKだと思う。

水田:広い世界に出ていくということは、大変なことで、それだけ勇気も必要です。人間の一般的な傾向からすれば、小さな安全で安心な世界に閉じこもって、安泰に暮らす方がずっとラクだと思いますよ。でも、私は、「面白いことは外にあるんだよ」って背中を押したい。

石井:そういう人は外に出ればいいと思います。一方、どんな田舎でも、つつがなく生きられるのであれば、それは本人の選択であり、本人が快適ならそれでOKでしょう。

一方、「国際人」になることのメリットは、競争者が少ないから簡単に食っていけることです。 日本人みんなが異文化を理解する必要はありません。ただ、異文化を理解できる人の数がまだ少ないし、世界的にグローバリゼーションが進んでいるから、そういう人のほうがおそらく食うに困らない人生を選べる。

今、大学生は、女の子は海外によく行きますが、男の子は全然行かないですよね? それは日本の将来を考えるとすごく不安ですから、男の子こそ外国にもっと行けと思います。日本の片田舎で一生つつがなく過ごす人がいるのは構わないですが、そういう人があんまりにも多いと国力の低下につながる。

水田:え!? 石井さんにとって、グローバル教育の目的って「簡単に食っていける」ということなんですか?????

石井:「儲ける」ではなくて、「つつがなく生活できるかどうか」です。教育の最大の目的は「一生きちっと食べていける生活力をつける」ことだと思います。才能のある人はそれで食っていけますが、そうでない一般的な子どもが一生お金に困らないで生きていける方法として、グローバル人材になるような教育を与えることが一番、無難です。そういう意識もなく、グローバルな教育を与えようとする親には共感できない。

石井 至(いしい・いたる) 1965年北海道生まれ。東京大学医学部卒。Ph.D。小学校受験のための幼児教室アンテナ・プレスクールを運営する他、日本政府有識者(観光立国推進有識者会議委員。2013年度、2014年度)、カンボジア観光省アドバイザーなども務める。著書に「慶応幼稚舎」(幻冬舎新書)、「慶応幼稚舎と慶應横浜初等部」(朝日新書)、「グローバル資本主義を卒業した僕の選択と結論」(日経BP)、「図解リスクのしくみ」(東洋経済新報社)など多数、共著に「殿下と妃殿下のレストラン」(新潮社)などがある。

石井 至(いしい・いたる) 1965年北海道生まれ。東京大学医学部卒。Ph.D。小学校受験のための幼児教室アンテナ・プレスクールを運営する他、日本政府有識者(観光立国推進有識者会議委員。2013年度、2014年度)、カンボジア観光省アドバイザーなども務める。著書に「慶応幼稚舎」(幻冬舎新書)、「慶応幼稚舎と慶應横浜初等部」(朝日新書)、「グローバル資本主義を卒業した僕の選択と結論」(日経BP)、「図解リスクのしくみ」(東洋経済新報社)など多数、共著に「殿下と妃殿下のレストラン」(新潮社)などがある。

ハーバード卒も大したことない

——グロービスの堀義人さんが記事のコメントの中で日本の教育の強みの一つとは、しつけや規律であると指摘しています。そのあたりはいかがですか?


水田:学校は、その社会・文化集団のメンバーとしての価値観や明示されていない文化や人間関係のルールを無意識のうちに身に着ける場でもあります。堀さんは、その辺りを「しつけ」と仰っているんじゃないかな。

グローバル社会のルールは普遍性が高いから、比較的分かりやすくて、後からでも習得しやすいですけど、日本独自の暗黙の文化や人間関係のルールはもっと見えにくくデリケート。ですから、大人になってから学習するのは、結構大変だと思います。その刷り込みの段階として、特に小学校は大事だと思います。

また、先ほどからの、文化的アイデンティティの形成という点では、9歳ごろから14歳ごろが重要な時期という説もあります。文化の最小ユニットは家族ですから、家族が主たる帰属場所である9歳くらいまでは、家族の海外移動に伴っても、影響の度合いは比較的少ない。14歳くらいになると、文化的アイデンティティがある程度確立しているから、その上で、○○人として海外に出て行くことができる。

そういう観点からすると、日本の学齢でいう義務教育くらいまで終わって、本人に自覚があってぜひ海外へというような方は、どんどん出て行ったらよいと思います。ピッカーの牧浦土雅さんのような方はいい事例だと思います。

石井:僕としては中学校ぐらいまでちゃんと日本でいい教育受けて、日本人としてのアイデンティティを確立し、高校ぐらいでちょっと留学したり、大学、大学院で海外に行くのは大歓迎。多分、それが一番スムーズに行くような気がします。

水田:う~ん、私もまさにそのルートでしたが…。

石井:だから水田さんの人生は素晴らしいですよ(笑)!

——石井さんご自身は、ご自身が受けられた日本の最高峰の教育、東大医学部ですね、それを受けてよかったなと思われますか?

石井:ええ、でも僕は田舎で育って広い世界を知りませんでしたからね。高校あたりで留学してみたかったです。

でも、投資銀行でハーバード卒のバンカーがたくさんいたけれども、正直言って大したことなかった。知識や思考の単純さには逆に驚きました。東大生の方がよほど深みがある。もちろん学究的に「ハーバード生は大したことない」って言えるような検証サンプルはないですが。世間で言うほど東大生はバカじゃないですよ。

(構成:河崎環、撮影:福田 俊介) (終)