2022/12/8

【森永康平×澤上龍】あなたは株価を下げる投資家になっていないか

NewsPicks / Brand Design 編集者
 老後資金の不安やNISA・iDeCoの普及で、「貯蓄から投資へ」の風潮が加速している。
 1100兆円にものぼる家計の現預金が市場へ向かえばマーケットの活性化にはつながるものの、投資先企業に短期的な業績改善と株価上昇を求める株主の姿勢は、ときに長期的視野に立った企業価値の向上を難しくしている可能性がある。
 株式投資でリターンを獲得するために、そして日本経済を良くするために、投資家はどんな行動を選択すべきなのか。
 経済アナリストの森永康平氏と、独立系投信のパイオニアとして長期投資で現役世代の資産形成をサポートしてきたさわかみ投信の代表取締役社長 澤上龍氏が、利益を最大化しながら豊かな未来を実現する株式投資と、投資家のあり方について語り合った。

株主のプレッシャーが経営者の意思決定を妨げている

──個人の証券口座数の増加は続いており、投資のすそ野は拡大しています。株式投資を取り巻く状況をどうとらえていますか。
澤上 今の日本人の投資は、資金を投じる投資家と、投資を受ける側の企業経営者それぞれが問題を抱えており、それが投資のパフォーマンスや企業成長を阻み、市場の停滞にもつながっていると感じています。
 最も大きな問題のひとつに、日本人には「投資」と「投機」の区別がついていない層が多いことがあります。
 当社が上場企業、投資家、投資未経験者を対象に行った調査では、投資未経験者の約8割が投資と投機の区別がついておらず、投資家に対する同様の調査でも自信を持って違いを理解できている人は24.3%にとどまりました。
出所:さわかみ投信
森永 私は金融教育の会社を経営していますが、投資未経験者の人になぜ投資をしないかと聞くと、多くが「投資はギャンブルだから危ない」と答えます。
 だからといって私は、「投資はギャンブルではありません」と安易に伝えるべきではないと思っています。
 というのも、彼らにギャンブルとは何かと尋ねると、「損するかもしれないこと」という答えが多いからです。それがギャンブルの定義なのであれば、投資はギャンブル以外の何物でもない。
 まずは、投機やギャンブルそのものの定義を見直し、理解しようとしないと、いつまでたっても議論は平行線のままです。
澤上 私は、資金を投じる対象となる企業のビジョンに共感し、その成長を促し、それによって生まれた富をシェアすることを投資だと考えています。これに対し、数字の上下を追いかけるのが目的で、その先にあるものには興味を持たないのが投機です。
 投機が悪いと言いたいのではなく、本来投資をすべき層が投機的な行動をすることで自身の首を絞めていることが問題だと考えています。
 というのも、当社の調査では、上場企業経営層の6割が、こうした投機に困っており、そのうち7割が株主からのプレッシャーを感じて企業価値を向上させるための中長期的な意思決定がしにくいと回答しているんです。
出所:さわかみ投信
 当社は、こうした現状に警鐘を鳴らすべく『#投機よりも投資を プロジェクト』を発足しました。
森永 私もベンチャー企業のCFOを兼務しているので、よくわかります。
 資金調達の際に用いる算定株価が低く設定されると既存株主からの圧力は増しますし、上場企業の場合は株価が下がればウェブサイトの問い合わせフォームや代表電話に個人投資家からの問い合わせが殺到すると聞きます。
 当然、機関投資家からのプレッシャーもあります。私自身、かつてはその立場にいたので、決算やガイダンスの数値が期待に届いていなければ説明を求めましたし、こうした質問や発言は経営者に対して株価を過剰に意識させることにつながっただろうとは思います。
 最近はストックオプションを採用する企業も増えているので、従業員からも圧力がかかります。報酬の一部としてストックオプションを付与しているのに、株価が安すぎて権利行使ができないとなれば、優秀な人材が離れかねません。

足元の株価を気にして将来の豊かな果実を失っていないか

澤上 こうしたプレッシャーがかかるのは、上場している以上当然ではあるのですが、それが行きすぎるのは問題です。
 企業が長期的に成長していくためには思い切った投資も必要なので、短期的に業績が悪化したり、一時的に赤字を出したりすることはあります。
 その成果が業績に表れるまでには、時間がかかることもある。その間は株価が低迷するので、それを許容できない株主の圧力が企業の取り組みを妨げてしまう事態になりかねないのです。
 せっかく長期的なビジョンを描いて社会を変えようとしている企業でも、株主のプレッシャーに負けて思い切った投資ができなくなってしまえば、成長のチャンスを自ら放棄することになります。
 これは投資家にとっても、目先の数%の株価上昇にこだわって、将来のテンバガーの機会を捨てているようなものです。投資家は自らの行動で将来の利益を失っていることを、意識しなさすぎるように思います。
出所:さわかみ投信
森永 私は個人投資家でもあるので、その視点に立つと経営者には株価をもっと意識してほしいと思います。
 それでも、矛盾するようですが、自分がCFOを務める企業の社長が株価を気にして意思決定が揺らいでいたら、目先の株価や周りの意見を過度に気にするなと言い続けています。
 直近の決算ばかり気にして事業をスケールできなければ、長期的な成長を期待して持ち続けている投資家の期待を裏切ることになるからです。
 ただその代わり、IR(投資家広報)を充実させて、投資家への十分な情報提供と対話だけはしっかりやっていくことを強く勧めます。
澤上 おっしゃる通り、自社が描くシナリオを丁寧にIRしていくことは重要ですね。
 その企業が目指そうとする姿が社会のニーズに合致しているなら、そのビジョンに共感し、期待する投資家が集まるはずだし、短期的な利益を求める層は投資すべきでないという判断ができますから。
 こうした情報を誠実に提供していくことは、経営者の責任でもあります。
 オーナー社長や創業社長はこうしたIRも臆することなく行っている傾向が強い半面、たたき上げの経営者はIRに対する姿勢が曖昧になりがちな印象です。
 あらゆる層の投資家に良い印象を持ってもらおうと八方美人的な対応に終始してしまい、結果としてあらゆる約束を果たせなくなってしまうんです。

企業の長期的な成長が阻まれると、社会の活力が失われる

森永 ただ、企業のリソースには限りがあり、IR活動の負担や上場を維持していくためのコストは決して小さくありません。
 ましてや、企業成長に必要な意思決定を妨げられる可能性があることも考えると、上場している意味を改めて見直す機会は必要だと思いますね。
澤上 その通りで、私もある上場企業の経営者から、「上場をやめるべきだろうか」という相談を受けたことがあります。
 誠実なIR活動に取り組む企業ではありましたが、本来はもっと従業員や顧客のためにリソースを割きたいのだと言います。
 そこで、「なんのために上場しているんですか?」と尋ねたところ、考え込んでしまったんです。結局、彼は上場廃止を決断し、上場しているときには手が回らなかった社内改革にも着手し、理想としていた経営に一歩近づけたと満足げでした。
 企業にとって上場を維持する負担は大きいことを、改めて感じた出来事でした。
 近年はアクティビストファンドなど「モノ言う株主」が増えています。それ自体は健全なことで、株主が経営を適切にモニターして効率的な経営を促すのは歓迎すべきことです。
 ただ、目先の利益だけを求める株主が、企業の長期的な視野に基づく意思決定を阻むようなことになれば、結果として株主も10年後20年後の利益を失うばかりか、日本経済の活力や人々の生活にも影を落としてしまうことを私たちは危惧しているんです。
──澤上社長がトップを務めるさわかみ投信では、どのような投資をし、どのような株主であろうとしているのでしょうか。
澤上 私たちの未来の生活を豊かにしてくれると信じられる企業、将来の社会に対する責任を果たし続けられる企業に投資し、長期で見守るのが私たちの姿勢です。
 こうした企業は当然、社会に必要とされ続けるので業績の安定的な伸びが期待できますし、経営がそう簡単に揺らぐことはありません。
 当社のさわかみファンドを保有する投資家は、豊かな未来と社会を築く企業を応援し、未来づくりに参加します。企業は事業リスクを、投資家は金銭リスクをとって、共により良い社会を目指す共同体なんです。
 その結果として、投資先企業が生み出すより良いモノやサービスと、運用益という2種類のリターンを得ることができます。
出所:さわかみ投信
──どの程度の期間、保有を続けるのでしょうか。
澤上 永遠です。ただ、マーケットでは企業価値とは関係なく、外部環境で株価が大きく変動することもあるので、上昇がオーバーシュートした局面では一部売却して現金を増やします。
 その現金でもって下落局面でのクッションとし、安値を丁寧に買い向かいます。全面安の局面では、当社がまとまった買いを入れても株価が上昇することが少なく有利な投資ができます。
 良い企業が良い企業であり続ける限りは保有を続けるのが原則ではありますが、結果的にはこうしたリズムを大切にして運用成績を積み上げているのです。

長期的な視野を持った経営に不可欠な存在

森永 上場企業がブレることなく経営を続けていくには、まとまった額を投資する機関投資家が安定株主になることは極めて重要です。
 株価も安定するので、資金調達もしやすくなります。短期的な売買を繰り返す投機家も市場に流動性を提供する重要な存在ではあるのですが、それがすべてになってしまうと、株価の変動が激しすぎて企業は資本計画が立てられませんから。
──先ほどお話に出たアクティビストファンドが存在感を強めていますが、さわかみ投信の「信じて見守る」という姿勢は、具体的に何をするのでしょうか。
澤上 たとえるなら、投資先企業の親友のような存在と考えてもらえるとイメージしやすいと思います。
 企業を深く理解し、共感して投資した以上は信じて見守り続けますが、道を間違えていたり、信念を忘れているように見えたときは、親友だからこそ耳の痛いこともはっきりと伝え、何が起こっているかを確認します。
 市場環境が悪化して株価が下がったときに買い向かう姿勢も、投資先企業を支えるという意思表示のひとつになっていると思います。
──受益者である個人投資家とはどのようなコミュニケーションをしていますか。
澤上 当社は受益者をファンド仲間と呼んでいるのですが、毎年ファンド仲間と投資先企業がコミュニケーションできる運用報告会というイベントを実施しており、2000人以上の個人投資家が参加します。
 表向きの目的は受益者に投資先企業やその取り組みについて知ってもらうことですが、その裏にはこんなにも多くの長期投資家が支えていることを企業に知ってほしいという思いがあるんです。
森永 企業の経営層は孤独なものですが、経営方針を理解し、応援してくれる株主の存在は大きな支えになると思います。実際に顔を合わせて話す機会を持てば、ある意味アクティビスト以上の緊張感が生じるかもしれないですね。
 自分たちを信じてコツコツと収入の一部を投資してくれている個人投資家の期待を裏切ることはできないという使命感を、改めて感じる機会になると思います。
澤上 われわれも運用会社と個人投資家、そして投資先企業が適度な緊張感で結ばれていることは重要だと考えています。

停滞した社会で、株価だけが上昇することはない

──近年は銘柄選別をせず、市場全体に投資していくインデックス投資がブームになっています。
森永 コストをかけずに市場平均が取れれば十分だという人がインデックス投資を選ぶのは正解だと思いますが、アクティブファンドを一律に否定するような風潮は問題だと感じています。
 その多くは、インデックスファンドのパフォーマンスを上回るアクティブファンドは少ないというデータが根拠になっていますが、比較する期間の切り取り方でどんな結論にもなり得るので、うのみにするべきではありません。
 アクティブファンドはリスクを取って銘柄選別をしているので、指数より上振れすることもあれば下振れすることもあります。
 また、市場環境が良いときはどんな銘柄でも上昇するのでインデックス投資が強いのですが、市場環境が悪化すると限られた銘柄しか上昇しないのでアクティブファンドが本領を発揮します。
 要するに、異なる局面を含んだ長期間で比較しないと意味がないということを個人投資家に啓蒙し、理解してもらう必要があります。
澤上 アクティブファンドの最大の弱点は、絶好の買い場である相場の下落時に資金が逃げていくことです。
 暴落時はあらゆる企業の株価が下がるので良い銘柄を安く買うチャンスなのに、そのタイミングで解約が殺到すると買うどころか安値で売らされてしまう。これではどんな天才ファンドマネージャーがいても、良い成績は残せません。
 幸い、さわかみファンドの平均保有期間は10年を超えており、ファンド仲間の皆さまもこうしたことを理解してくれていることから、この20年のパフォーマンスは指数を上回っていますが、解約の多いアクティブファンドは苦しいはずです。
出所:さわかみ投信
──個人の資産を預かる投信運用会社は、機関投資家であると同時に個人投資家の意思を代弁する立場でもあります。運用会社にはどんな姿勢が求められていくでしょうか。
森永 株式投資の目的は利益をあげることであり、そのためには上昇が期待できる銘柄や割安な銘柄を買う必要がありますが、いつまでたっても割安なままという株もあります。
 いつ上昇してもおかしくない株と、この先も割安に放置され続ける株を見極めるポイントは、やはりその企業が何を目指し、社会にどんな価値を提供していけるのかという点に行き着くのではないでしょうか。
 そう考えると、さわかみ投信の投資姿勢は理想の姿であるようにも感じます。
 金融教育に携わる身としては、株式投資が社会貢献であるかのような表現は偽善的で好きになれなかったのですが、今日の議論を通じて長く保有することの意義を伝えていくことの重要性も改めて感じました。
澤上 投資はまず利益を出さないことには、意味がありません。ただ、停滞した社会で株価だけが上昇することはありえないので、利益を大きくするには社会全体を良くしていく必要があります。
 そのために求められているのは、それを実現できる企業を見極め、その企業を長期的に応援していく明確な意思です。
 利益と社会貢献は決して相反しないし、むしろゴールは同じところにある。これが一番再現性の高い投資であり、投資と投機の最大の違いでもあるのです。
<さわかみファンドのリスクおよび手数料等について>
リスク:さわかみファンドは、主に国内外の株式や債券など値動きのある有価証券等に投資します。そのため、組入れた有価証券等の価格、外国為替相場等の変動により、当ファンドの基準価額は影響を受けます。これらにより生じた利益および損失は、全て当ファンドの投資者(受益者)の皆さまに帰属することとなります。また、元本および利息の保証はなく、預金保険の対象ではありません。したがって、投資者(受益者)の皆さまの投資された元本は、基準価額の下落により、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。その損失に耐えうる以上に当ファンドに対して投資することはご遠慮ください。投資信託は預貯金とは異なります。
購入手数料:ありません。
信託報酬:当ファンドの純資産総額に対して1.10%(税込み・年率)です。
信託財産留保額:ありません。
その他費用・手数料:当ファンドに組入れる有価証券等の売買の際に発生する売買委託手数料、売買委託手数料に対する消費税等相当額、先物取引・オプション取引等に要する費用、一部解約金の支払資金の手当を目的とした借入金の利息は、信託財産中から支弁します。
(注) これらの費用については、運用状況等により変動するものであり、事前に料率、上限額等を示すことができません。
投資に当たっては、必ず「投資信託説明書(交付目論見書)」をよくご覧いただき、ご自身で判断してください。「投資信託説明書(交付目論見書)」のご請求は「ご縁の窓口」(TEL: 03-6706-4789)までお申し込みください。
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