2022/11/30

知られざる“保証”の世界。業界のパイオニアの勝ち筋とは

NewsPicks Brand Design editor
 住宅業界における保証サービスのパイオニアとして、数々の“業界初”のサービスを提供してきた日本リビング保証(以下、「JLW」)。
 2018年3月に東証マザーズ市場(現:東証グロース市場に再編)に上場して以降、わずか4年間で売上高は約3倍、経常利益は約10倍まで急成長を遂げている。
 そして現在、更なる成長に向けて、創業以来得意とする住宅業界の枠を飛び越え、新規分野へ保証ビジネス展開を加速するなど、新たなチャレンジを続けているJLW。
 同社は「保証」にどんなビジネスチャンスを見出しているのか。そして、その成長を支えるチャレンジの原動力は何か。
 代表の安達慶高氏に聞いた。

知られざる「保証ビジネス」のポテンシャル

──まず、「保険」と「保証」の違いについて教えてください。
安達 たしかに、わかりづらいですよね(笑)
 なかなか完璧かつ正確に説明するのは難しいのですが、あえてざっくりとお伝えするならば、実は保険と保証の実質的な役目は同じだと考えています。
 ただ、その提供形式や提供主体によって立ち位置が異なり、例えば自動車を購入する際、メーカーやディーラーが提供する初期「保証」と、損害保険会社が提供する自動車「保険」がありますよね。
 すなわち、製造者・販売者が製品・サービスに付随して提供するものが「保証」第三者が単独で提供するものが「保険」という形で理解してもらうのがよいかもしれません。
──ちなみに、保証の市場はどれくらいの規模なのでしょうか?
 リサーチ会社の調べによると、現状でも保証ビジネス全体の国内市場規模は1兆5,000億円超、別の統計では世界における保証ビジネスの市場規模はその10倍とも言われています。
 国内市場でいえば、例えばコンビニより数が多いとされる美容室業界に匹敵する市場規模と推定されており、プレーヤーの少なさを踏まえれば非常に魅力的なマーケットであると考えています。
 また1兆5,000億円という数字は、住宅設備保証のようにあくまで現時点で保証サービスが存在している領域の規模であり、まだ保証サービスが存在しない分野もあります。
 例えば蓄電池などは非常に保証サービスと相性がよく、将来的なニーズの高まりが期待されています。そのようなポテンシャルまで含めれば、今後市場はさらに大きくなる可能性もあります。
──なるほど。世界規模で10兆円を超えるとなるとかなり大きいですね。そんな保証領域にJLWが参入したのはどんなきっかけがあったのでしょうか。
 当社の立ち上げメンバーは保険業界での豊富な経験があるメンバーが多く、私と会長の荒川も、外資系保険ブローカーを経て、少額短期保険業者を立ち上げた経験があります。
 その中で身をもって感じたことは、やはり保険の持つ複雑さ、難解さでした。だからこそ、起業する際にも、「保険」をわかりやすい形に仕立てて、提供することができないか、ということを第一に考えました。
 そして最終的に辿り着いたのが、保険と製品・サービスの組み合わせにより顧客に最適なソリューションを提供する「イネーブラー」としての立ち位置で、住宅領域の保証に参入したのです。
──「イネーブラー」という言葉は初めて聞きました。もう少し詳しく教えてください。
 わかりやすく言い換えると「保険会社と事業者の間に立ち、黒子的なポジションで両者の関係を滑らかに繋ぐ役割」というイメージでしょうか。
 そもそも保証をサービスとして提供し、安定的に運用するには「適切な保険の組成」と「保証運用」の観点が欠かせません。
 現在、提供されている保証は、支払いが発生した際のリスクを損害保険でバックアップすることで、保証会社が単独で多額の支払いを行うリスクを回避するのが基本です。
 しかし、保証サービスを裏付けるための保険は、非常に特殊かつ複雑な金融商品です。製造者や販売者が個別に損害保険会社と交渉し、適切な保険を組成するにはノウハウが必要です。
 また、保証は保険とは違い「お金を払って終わり」ではなく、サービス提供、すなわち「対象物を現状復旧する」ことが中心となります。
 つまり、住宅設備が壊れたら「誰に依頼し、いつどのように工事を進めるか」というように、現状復旧のための修理ネットワークを含め、オペレーションも保証の運用には重要なのです。
 私たちはこの二つのポイントを黒子的立場で解決し、事業者を支える立場を取っています。
 こうした、黒子のポジションで事業者に保証制度を提供する「イネーブラー」という立ち位置を見出したことが、事業者からも支持されているポイントであると考えています。

適切な保証を“組み込み(エンベデッド)”で構築し運営する

──ちなみに保証が「サービス」として提供される際には、具体的にどのような形になるのでしょうか。
 当社の保証サービスが利用者に提供される際には、大きく二つの形があると考えています。
 一つは「初期保証」、もう一つは「延長保証」です。
「初期保証」は製造者・販売者と共同で保証サービスを組成し、お客様に販売する時点から製品・サービスに付随して提供されるもの。
 例えば、新築住宅業界では、住宅を建てた事業者は引き渡しから10年間は施工不良などによって雨漏り等が発生した場合には修理対応をする義務が法律で定められています。
 それを踏まえ、競合する住宅事業者との差別化を図るため、引き渡し時点から10年を超えて20年、30年と修理対応を保証する潮流が生まれています。
「初期保証」に対して「延長保証」は、製造者・販売者が提供する初期保証をさらに延長したい場合に消費者にご加入いただく、いわゆるオプションの保証サービスです。
 イメージしやすいものとしては、家電量販店などで加入することができる保証が延長保証ですね。
 事業者が、保証というサービスをどのように活用したいと考えているか、私たちはその点をきっちりとヒアリングした上で、適切な保証制度を“組み込み型(エンベデッド)”で構築・運営することを得意としています。
──イネーブラーとしての立ち位置で、「エンベデッドなサービス」すなわち、「必要な要素があらかじめ組み込まれた状態」で保証サービスを提供するということですね。
 そこが私たちの保証サービスの鍵だと思っています。もっとも、今でこそ「エンベデッド・ファイナンス」や「エンベデッド・インシュランス」といった呼び方をしますが、そのような言葉を知ったのは後のことです。
 B to Bではなく、B for Bの意識で、よりよい仕組みを提供してきたところ、「エンベデッドなサービス」になっていたというのが実際のところです。

「ストック収益」と「フロー収益」を組み合わせた、ハイブリッド経営

──近年は、得意とする住宅領域の保証サービスに加え、新たな領域にも保証サービスを展開されていますね。
 住宅領域で保証ビジネスを展開する中で、住宅に関連する太陽光パネルなどの保証をメーカー・販売店から打診されるなど、住宅と地続きの領域でまずは展開を進めていきました。
 直近では、太陽光発電とセットで設置される蓄電池の保証ニーズの高まりが業績を牽引するほどになっています。
 そして、今期からは住宅領域を主戦場とする「HomeworthTech事業」に加え、非住宅の新領域を主戦場とする「ExtendTech事業」を主要2事業として再編し、新たな領域への展開をさらに加速させたいと考えています。
──直近では非住宅領域であるExtendTech事業が伸びていますね。
 はい。直近の業績では、HomeworthTech事業が着実に伸びる一方で、ExtendTech事業が大きく伸びています。こうした特性の異なる2つの事業を展開することは経営の側面でも強みになっています。
 HomeworthTech事業は「ストック収益型」、ExtendTech事業は「フロー収益型」の分類となり、この2つのビジネスモデルをハイブリッドに運営することで、安定的な業績と強固な財務基盤が生まれます。
 HomeworthTech事業の長期保証契約においては、売上・原価が保証期間に応じて按分して損益計算書に計上される形となっており、売上未計上分はバランスシート上の前受収益に計上されます。
 これは将来にわたっての確定売上となり、潤沢な手元キャッシュが発生することが大きな特長です。
 強い財務基盤があるからこそ、新たな領域にチャレンジすることができる。JLWのカルチャーである「チャレンジ」というエンジンに、財務基盤が燃料を供給しているイメージです。
 この財務基盤を活かし、直近では各種サービスのデジタル化や技術・人材の確保、テクノロジースタートアップ企業への出資を積極的に推進しています。

変化を恐れない人と一緒に成長していきたい

──開拓の余地がかなりある保証領域の中で、新たな事業・サービスを考える際に大切にしていることは何ですか?
 最も大切にしていることは、「私たちが楽しくてワクワクできるか」という点です。自分たちが楽しくワクワクしないサービスで、“継続的に”他人を喜ばせることはできませんから。
 そしてやはり上場する事業会社である以上、売り上げを立て、成長していくことは必須条件であるとも考えています。
 ただ、新たな事業・サービスと言っても範囲が広いため、当社ミッションである「独創的なリアルとデジタルのサービスで、暮らしの資財価値を最大化する」という点に必ず立ち返ります。
──具体的にはどのように事業の“芽”を見つけているのでしょうか?
 頭の中だけで考えるよりも実際に現場の声を聞くほうがはるかに良い発想が生まれますよね。私もいつも寝る前に30分ほど事業のアイデアを考えてみるのですが、正直何も思い浮かばないですから(笑)。
 その点で、現場でサービスを利用してくださる方々と接する営業活動が重要ですし、実際にかしこまった打ち合わせで出てくる話よりも、他愛のない雑談の中で出てきた課題などがきっかけになって新しいサービスにつながることが多いんです。
 ここは重要なポイントで、「喜ばれるサービス」というのはつまるところ、「いかに事業者や消費者のニーズを発見し、満たせるか」以外にありません
 また、アイデアから実際の事業・サービス開発に至る場合には、各部門の企画担当チームと専門性を持つスタッフが協力して主体となって進めていきます。こちらもまたチームで取り組むことを非常に大切にしています。
──新しい企画を育てていくには、どのようなことが重要となりますか?
 将来を見据えると、人材の質・量こそが企業の価値を左右する最も重要な要素だと考えており、そのためには積極的な投資を継続していきます。
 優秀な人材への投資を通じて、社会的ニーズに迅速に対応できるしなやかな組織構築、そしてその人材ひとりひとりが最大のパフォーマンスを発揮できる環境作りについては、私が先頭に立って進めていきたいと考えています。
──どういう人材を求めていますか?
 我々は「WorthTech Company」として、暮らしの資財価値の最大化を目指しています。
 その観点ではデジタルやIT分野の知見・ノウハウを持つ方は大変魅力的ですし、即戦力として活躍していただくことを期待しています。
 社内でもデジタルやIT分野の研修に非常に力を入れており、自分にとって未知の領域に何歳からでもチャレンジできる環境を整えています。
 そのため、人や時代や環境が常に変わっていくものだと理解し、適応していけるフレキシビリティがある人にとって、可能性を広げられる場所ではないでしょうか。
 不確実性の高いこんな時代ですから、5、10年先の未来がどうなっているか誰にも予想できません。JLWも5年後には新たな事業が主軸になり、10年後には全く別の会社になっていてもおかしくないのが今の社会だと思っています。
 そのような変化に対して前向きに挑戦でき、自分で考えて自分で行動できる人が多いほど会社も社員も成長できると思っています。
 ユニークな自社サービスと安定した財政基盤で、保証領域の“未踏”を切り拓いていく。この価値観に共感いただける方、お待ちしております。