2022/11/18

「誰でもコンサルを名乗れる」時代。最も必要とされる能力とは?

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10月24日・25日に丸の内エリアで開催された「CHANGE to HOPE」。初日にはコンサル業界をテーマにしたセッションが実施された。
セッション冒頭ではIBM Corporation(米国) Enterprise Strategyチーム パートナーで、NewsPicksエグゼクティブアドバイザーでもある大塚泰子氏と、経営共創基盤の塩野誠氏が対談。令和におけるコンサルタントの役割や女性コンサルタントの壁について語った。

令和コンサルキャリアの難しさ

セッション冒頭、まずは大塚氏から「コンサルティングに関する仕事はさまざまな境界線が溶けてきているのでは」と投げかけがあった。
「戦略系ファームと総合系ファームの境目がなくなってきていますし、デザイナーを筆頭に、異なる職種とコンサルタントが融合した働き方も増えています」(大塚氏)
大塚泰子氏
京都大学法学部卒業後、日系のコンサルティングファーム、グローバルの総合系コンサルティングファームを経て、現職。D&Iのイニシアティブを複数年に渡って現場でリードし、研修プログラムの企画やメンター制度など女性のキャリア支援も行ってきた経験から、女性が働きやすい社会をつくるための活動も行っている。
塩野氏も「言い換えると、誰でもコンサルを名乗れてしまう時代」とコメント。
「大量採用を行うファームでは『自分には何ができて、どう生きていけばいいのだろうか』と迷う人も少なくはないのでは」(塩野氏)
一方で、最近のコンサルでは専門性が問われるようになっているともいう。
「コンサル未経験だけどサプライチェーンに強い方であったり、専門性の優れた方が採用されていたり。自分のケイパビリティに横の広がりができるというよりは、縦に深く掘っていくキャリアに変わりつつあるのかなと思います」(大塚氏)
「時代の流れから考えて、専門性が付くことは基本的にポジティブです。ただ、総合ファームに入って最初にアサインされたプロジェクトで『デューデリジェンスの人ね』と専門分野を決められる形でキャリアがスタートして、本当に自分はこれでいいのかな? と迷う人が出ている感じはしています」(塩野氏)
塩野誠氏
経営共創基盤(IGPI)共同経営者・マネージングディレクター。慶大法卒。ワシントン大学ロースクール法学修士。シティバンク銀行、ゴールドマン・サックス証券、起業、ベイン&カンパニー、ライブドアを経て現職。現在は企業の全社戦略、事業開発、地政学リスク対応、M&Aアドバイザリー、ベンチャー投資等に従事している。
「例えばバリエーションやDDをやりたいのであれば、コンサルではなく公認会計士でいい。もっと言うと、『その仕事、AIにやってもらう時代がくるのでは?』とも思います。過去のM&Aに関連する情報をインプットして、この数字が異常値だとか、この経営資源であればトップラインはおおよそこれくらいだとか。そういうのは人間よりもAIの方が高い精度を出せる未来は、ほぼ必ず訪れますよね」(大塚氏)
「業界全体で専門性が求められる大きな流れができているからこそ、自分がどの領域で、どの程度のレベルに辿り着きたいのかはあらかじめ考えておくといいと思います」(塩野氏)

撤廃すべき、女性コンサル3つの壁

「まだまだ旧態依然な部分は残っています」と大塚氏が話すのは、コンサルファームのジェンダーイシューについて。女性コンサルタントが直面する壁を3つに分けて議論した。1つめは「クライアントの壁」。
「男女関わらず、マネージャーまではロジカルシンキングに代表される左脳の強さやスキルで評価されるので、問題なくキャリアアップができます。一方で、シニアマネージャークラス以上になると売上での評価に変わります。
そうなった時に壁があって、相手企業によって、女性というだけで話を聞いてくれないことがあるんです。
ディレクター時代に、ある会社の課長の方と名刺交換をした時に『大塚さん大丈夫なの?上司の許可を得てここに来てるの?』と言われたこともあります。実際は私は彼より3段階ぐらい上の役職だったんですけどね(笑)」(大塚氏)
2つめは「スポンサーの壁」だ。
「パートナーになる上では、『ちゃんとあなたのことを引き上げるよ』という、社内でのスポンサーも重要です。その点でも、パートナーは男性が圧倒的多数なので、皆さん悪気なく、同一性バイアスによって男性を推薦してしまうんです」(大塚氏)
そして最後に「人数の壁」が挙げられた。
「そもそも女性役員の絶対数が足りていないんですよね。例えばパネルディスカッションにしても、まだまだ国内では男性が多数になりがちで、全員男性なんてこともまだまだあります。ジェンダーバランスを強く意識している欧州企業では『男性と女性の比率が半分じゃなければパネルを開催しない』という会社もあります」(塩野氏)
「数が重要というのはおっしゃる通りだと思います。京都大学の経営管理大学院で客員准教授として脳を研究しているのですが、脳は相手を見て0.5秒で『この人は自分と同じ属性か』『敵か味方か、距離を置いたほうがいいか否か』等を判断しちゃうんです。
つまり、現在男性が多くなってしまっているのは脳の反応。それ自体が悪いとか嫌いだとかではない前提で、普通にしていたら傾いてしまうのが人間の脳なので、半強制的に数を変えていくことは必要だと考えています」(大塚氏)
「おっしゃるように意図的に実行しないとバイアスに引っ張られてしまいますからね」(塩野氏)

女性コンサルは「協働」でこそ生きる

大塚 セッション1では、コンサルタントのキャリアの考え方をベースにお話しました。セッション2では、女性コンサルタントのみなさんが具体的にどう「自分なりのバリュー」を提供しているのかをお聞きしたいと思います。
梶木 これまではザ・コンサルタント的な、独力で課題解決できる能力の高い方が求められていたと思いますが、現在は個人の力や思考力以上に、クライアントを含む多様な人の力を結集させて価値提供を行えるかどうかが評価を左右すると思います。
こういった環境の変化を踏まえると、相対的に女性の方が「共感力が高い」ということもあり、ポジティブですよね。
クライアントの課題、メンバーの持つ課題に共感し、共感を起点に分析できることは、提供できる価値の一つだと考えています。
梶木香氏
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー。2010年4月、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社後、一貫してクライアントの組織・人事領域の変革に尽力。日々子育てにも奮闘しつつ、従業員エンゲージメントの向上、組織再編を起点とした組織・風土改革の2つのサービスを主軸に、人材マネジメント構築支援やチェンジマネジメント等、組織・人事領域について幅広くプロジェクトを手がける。
涌島 おっしゃる通りです。ただ、個人の力を結集することは難易度の高い取り組みだとも感じています。
アクセンチュア ソングの前身組織が立ち上がった際、多様な方々と協働したのですが、経験したことのない状況がたくさんありました。
ブランディング専門の方や、トラディショナルなコンサルの方、デザイナー、合併などをした会社の方……お互い譲れない部分や主張がありますし、言葉のプロトコルが合わないこともあります。
結果的に、そこで大切だったのは「さまざまな角度から相手のことを知ること」でした。
「自分に合わせてもらう」ではなく、相手の考えていることを隅から隅まで知った上で一緒に働くことが大切。そういった意味で、梶木さんのおっしゃる通り、共感して推進する力はこれからのコンサルが発揮できるバリューの一つだと感じています。
涌島愛子氏
アクセンチュアソング本部マネジング・ディレクター。ライフサイエンスチームリード。慶応大学環境情報学部卒業後、米国IT企業を経て第二新卒でアクセンチュア経営コンサルティング本部入社。現在は製薬企業向けの患者向け新サービス立ち上げ、医師向けのオムニチャネルマーケティング支援等、ヘルスケアマーケットにおける患者起点でのイノベーション創出支援に従事。社内でCross-Cutureの取り組みのファカルティも担当。
丸山 私が考えていることは二つありまして、一つは「プロジェクトはロジックで動くけど、人は感情で動く」
ロジックを詰めていかないとプロジェクトは前進しないので、当然、ロジックはコンサルにとって必要不可欠なバリューです。ただ、人はやっぱりロジックじゃないんですよね。感情で動くので、皆さんがおっしゃっている「共感」は大事だなというのが一つ。
一方で、「女性だからこれは得意だよね」と押し付けるのは違うとも考えています。
バタバタとマルチに動いていた時に、クライアントから「さすが『母は強し』だね。俺は男だからできないよ」と言われたことがあるんです。
でも、母だからできるわけではないし、母になった瞬間にできたわけじゃないですよ。全てやらなくちゃいけなくて、だから歯を食いしばって、時には悔しくて涙して、それでも踏ん張った経験を通して身に付けたこと。
自分ができていることでも、「女性だからできるよね」と当たり前に押し付けるのは違う。
なので、いま私たちがお話した「共感力」や「推進力」も、誰もが得意とする必要はありません。他に自分だけの武器があるはずなので、自分が培ってきた経験から、それぞれのバリューを見つけて共に働けたらいいなと思います。
丸山怜萌氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーコンサルティング シニアマネージャー。新卒で投資銀行に入社し、グローバルマーケッツ業務に5年超従事した後、コンサルに転職。グローバルの総合系ファーム、戦略系ファームを経て、現職。新規事業策定、DX構想や組織再編などのテクノロジー×ストラテジー案件におけるプロジェクトマネージャーとして現場をリード、Women in TechのJapanリードを務める。

個性を生かす、チーミングの価値観

大塚 非常にポジティブなことですが、コンサルファームは就労時間を含め、どんどんホワイトになっています。
コロナ禍を経て、働く場所も解放されました。現場で働くみなさんは、どんな変化を感じましたか?
涌島 先ほどの話にもありましたが、「人を知ること」の重要性が増していると感じています。
以前は、「ロールにマッチしたスキルを持ったスタッフが入ればプロジェクトは回るし、そうでなければ自分が頑張らないといけない」と、極端な認識がありました。
働き方は安定せず、メンバーの活躍できる場も限られていたのではないでしょうか。
現在は働く場所や時間さえも選択可能になったこともあり、「役職問わず、みんなスタート地点が違う」ことを前提にチーミングするようになっています。
例えば、自分の頭の中で一緒に働くメンバーのスキルマップみたいなものを作っていて。何がどのレベルでできるのか。プロジェクトにおいてどんな役割を果たし、どう伴走するといいのだろうかと。
メンバーの個性から逆算して、チーミングを行うようになったんです。
大塚 日本はよく平均点を作ろうとしますよね。評価会議でも「この子はここをもうちょっと伸ばさないと駄目だよね」みたいな。
そうではなく、「この人のこの強みをもっと尖らせて、それぞれをチーミングすれば最強のチームになるよね」と、パズルのような考え方に変わりつつあると。
涌島 おっしゃる通りです。まさに、メンバーの能力の「ここがすごいぞ」という点を見つけて生かすことが、自分の中での勝ちパターンになっています。
丸山 すごく分かります。
強みと近い表現ですが、高いパフォーマンスの源泉は、「楽しさ」の一言に尽きると思っています。楽しいことって、頭に残るし、身に付くスピードも早い。結果的にアウトプットの質も高まるので、クライアントへ提供する価値も高まる。
なので、私が最も努力していることは、メンバーの「楽しさ」を追求することです。
もちろん楽しさも「今この瞬間の楽しさ」だけではなくて、「将来に向けた楽しさ」も同時に持ってもらうようにしています。今苦手なことも、将来の夢のための苦労なら楽しいじゃないですか。
今の楽しさと将来に向けた楽しさの、ちょうどいいバランスをメンバー自身に選んでもらえるよう心掛けています。「将来に向けた楽しさ」の割合が増えるほど、プロジェクトマネジメントのリスクは高まりますが、そのリスクをどれだけ内包しつつ円滑で高品質なプロジェクト推進ができるかが、チーミングにおける管理職の力の見せ所なのかなと思っています。
大塚 最後に、一言ずつ若手の女性コンサルタントの皆さまにエールをお願いします。
梶木 この職業は、ゴールが決まればその中で考えられる余地が広く、働き方の選択肢が非常に多いですよね。いろいろな方の個性を生かす余地がたくさんある。
そして、個性や提供価値は、挑戦の中で見つかることだと思っています。なので、みなさんにはぜひいろいろなことに挑戦して、自分なりのコンサル像を見つけていっていただきたいなと思います。
涌島 「自分は何者なのか」と悩んでいる方も多いと思いますが、培ってきたいろいろな経験が組み合わさって、一人一人が唯一無二のコンサルです。
その経験が一つずつ全て無駄ではないので、積み重ねている自分を認めてあげて、前向きにコンサルを続けていってほしいなと思っています。
丸山 2人がすごくポジティブで良いことを言ってくれたので、少し厳しいことも言いたいと思います。
私は、コンサルタントはすごく怖い職業だなと常日頃思っています。
極端なことを言いますが、私は「コンサルは、人々の命にすら大きな影響を及ぼしうる仕事」だと肝に銘じながら業務をしています。
間違った経営判断のサポートをしてしまえば、会社を危機にさらします。そうすると、人員削減が行われる。従業員とその家族は生活に困窮するかもしれない。もしかしたら、自殺する人が出るかもしれません。
そのくらい怖い仕事だと思います。私たちは結果主義。結果が求められるんです。
でも、その結果は頑張って頑張って無理して無理して培わないといけないものではなくて、私たちが生きてきた過程とかバックグラウンドで構成されている。それこそ女性であることも、全てが武器になります。だから怖いけど、すごく楽しいんですよ。
自分自身を商品として、自分が生きてきた過程がお客様の役に立つ。こんなにやりがいのある仕事はないと思います。
ワークライフバランスに関連した悩みも徐々に解決されてきていると思いますので、チャレンジする方が増えてくれたらうれしいなと思います。
当日のセッションの様子をまとめたグラレコ

CHANGE to HOPE 2022 オンラインチケット無料申込み受付中

本セッションも好評を博した大型ビジネスフェス『CHANGE to HOPE 2022』。当日は多くの方にご来場いただき、リアルならではの非常に熱気に溢れたイベントとなりました。参加者事後アンケートではメインセッションにおいて、セッション満足度90%の回答がありました。
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※「10月25日(火) 12:15-13:15 東京會舘 | 変数多き時代、チームを導く「ソートリーダー」の育て方、生かし方」は、11月24日(木)〜12月7日(水)が配信期間となります
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逆境を乗り越える「リーダーの思考法」〜レジリエンスを高める〜
星野 佳路氏(星野リゾート 代表)
山岡 朝子氏(株式会社ハルメクホールディングス 取締役/株式会社ハルメクハルメク編集部編集長)
谷口 健(NewsPicks 記者・編集者)

「理性の力」で希望ある未来を創る
Rationality: Why It Matters for Building a Hopeful Future
スティーブン・ピンカー氏(ハーバード大学教授 心理学教授)※オンラインご登壇
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伊藤 穰一氏(起業家/デジタルガレージ 取締役共同創業者 チーフアーキテクト/千葉工業大学 変革センター長)
草野 絵美氏(株式会社Fictionera 代表/アーティスト/Satellite Young 主宰)
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CHANGE to HOPE事務局
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