2022/11/25

ビジネスを即キャッシュ化。「事業買い取りビジネス」がおもしろい

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 中小企業の廃業がとまらない。
 中小企業庁の「中小企業白書」(2021年版)によると、2020年に休廃業及び解散した企業は4万4377件あり、過去最高となった2020年の4万9698件と比較すると減少したものの、依然として高水準となっている。
 現状を放置してしまうと、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある。
 歯止めをかけるために官民一体となって様々な施策を打っており、その代表格といえるのが「M&A(企業の合併と買収)」の推進だろう。
 中小企業庁によれば、127万人の経営者が後継者不在で、約半数の60万件のM&Aニーズがあるとされている。
 現在、中小企業庁がM&A支援機関の登録制度を創設したり、税制支援などで事業継承を後押ししたりているが、必要とされるM&Aの件数は膨大で、まだ道半ばといえる。
 その“起爆剤”となり得るのが「事業の買い取りサービス」だ。 まるで服や家具、パソコンを売るような感覚で企業から「事業」を買い取り、それを必要としている別の企業に売却する。
 同サービスを使えば、最短3日、平均1週間というスピード感で自社の事業を売却し、キャッシュ化できるという。
 この世にも稀なビジネスが、なぜ成立するのか。買収する企業と、売却する企業に、どんなベネフィットがもたらさせるのか。
「事業買い取りサービス」を手掛けるPINCH HITTER JAPANグループの代表・吉岡拓哉氏に話を聞いた。

これが「事業買い取り」のビジネスモデルだ

──まずは「事業買い取りサービス」がどんなものかを教えてください。
 シンプルにお伝えするならば、企業が手掛けている事業を当社が買い取り、それを他の企業さまに売却するビジネスです。
──企業や事業の買収や売却をするM&Aとの違いは何でしょうか?
 M&Aだと多くの場合、専門の仲介業者やファイナンシャルプランナー、金融機関といった「仲介」が入り、売却するまでには「ヒアリング」「資料作成」「募集・応募」「交渉」「トップ面談」といった工程を要します。
 結果、売却を依頼し、実際に売れて入金されるまで、短くても1年程度かかってしまうことがよくあります。
 売り手側の企業には、そうした手間や長いリードタイムが、大きな負担となる。
 そうしている間に、注力したい新しい事業や市場のモメンタム(勢い)が、損なわれてしまいかねません。
 また、日本の中小企業の40%が売上高1000万円以下と言われており、小規模ビジネスの場合、そもそもM&A仲介業者が扱ってくれず、売ろうにも売れないケースが少なくない。
 さらには買い手側としても、買収した事業はすぐに自社のリソースにしたいわけですから、リードタイムが長いといいことはありません。
 そもそも仲介が入る場合だと、他にも手を挙げる企業が現れる可能性があり、必ず買えるとも限らないですから。
 一方、事業買い取りサービスでは、そうしたM&Aのデメリットをまとめて払拭できます。売却までのリードタイムも、最短で1週間、長くても1ヶ月程度にまで縮められます。
──なぜそこまでリードタイムを縮められるのでしょう?
 大きく2つの理由があります。
 まず1つ目は、売りに出された事業は、当社でいったん買い取るため、交渉がスピーディになること。
 事業を売り手から買い取った時点で該当事業は我々が所有するため、そこから買い手と直接やりとりします。だから、事業内容の確認や査定をスムーズに行えるんです。
 そして2つ目のポイントが、売買する事業規模が比較的小さい点です。
 買取価格のレンジは200万〜1000万円が中心で、綿密なデューデリジェンス(投資先の価値やリスクなどの調査)をせずとも、買い取れる場合が多い。
 つまり、売り手側は資料作成などの手間を抑えて事業を速やかにキャッシュ化し、次の重点領域に注力できる。また、通常のM&Aでは売りづらい小規模事業でも、キャッシュ化できます。
 また買い手側も、スムーズに新事業を自社のアセットにできるんです。
──ちなみに、デメリットはあるんでしょうか?
 売りたい価格が明確で、かつリードタイムがかかってもOKであれば、M&A仲介を活用した方がベターだと思います。
 というのも、M&A仲介を通して事業を売却する場合は、基本的には売り手側が“売りたい価格”でオファーできるのに対し、「R.E BROTHERS」を利用する場合は、当社の査定額で売っていただきます。
 したがって売り手側が希望の価格で売りたい思いが強い場合は、M&A仲介を選択するのがいいでしょうね。

どんな事業が売られ、どんな企業が買うのか

──なるほど、M&Aとの違いがよくわかりました。実際、事業買い取りサービスで売買されるのは、どんな事業が多いんですか?
 メインはネット通販サイトや買取サイトなど。その他にも美容室、飲食店、製造業、教育関連施設、宿泊施設など、買い取らせていただく事業は多岐にわたります。
 最も多いのはインターネット上で成立する事業ですね。場所に左右されないので、ゼロから副業や起業を始めたい方など、エントリーでも買っていただきやすい。
 実際に、一般企業に勤めるビジネスパーソンが購入されることも多いんです。
 最近だと、コロナ禍で既存事業が不振に見舞われた飲食店が、ECサイト事業を買い取るケースもありました。
 本業の調子が深刻化する前に、新たに事業の柱を設けるのは、賢いやり方だなと感じましたね。
──現状、事業買い取りビジネスの規模は、どのくらいですか。
 R.E BROTHERSを2021年9月に設立し、これまでに買い取り事業数56件、累計買い取り金額約5億円、成約率約90%となっています。
 当社はもともと、在庫買い取り事業を主幹とする「PINCH HITTER JAPAN」から派生した企業ですが、2期目で早くも事業利益がPINCH HITTER JAPANを上回っており、大きな手応えを感じていますね。

地方だからこそ、買い取りビジネスの価値に気づけた

──そもそも、この事業買い取りサービスというユニークなビジネスは、どんな経緯で生まれたのでしょう?
 ベースになっているのは、親会社となるPINCH HITTER JAPANで行ってきた在庫買い取り事業です。
 現在、PINCH HITTER JAPANではアパレルから自転車、工具、日用品、食品まで、幅広い不動在庫の全量一括買い取りを行い、ブランド毀損にならない販路に売却しています。
 ただ、もともとはスポーツ用品店にある型落ちの野球グローブやバットの買い取りサービスを行っていたんです。
──野球グローブとバット。ニッチな領域ですね。
 そうですよね(笑)。実は当社の創業当時、LED照明などを売っていて、その飛び込み営業で街のスポーツ用品店に入ったんですね。
 ふと売り場を見ると、私たちが中学生の頃に使っていたような型落ちになった野球のグローブやバットが、50%オフで売られている。
iStock / bernie_photo
 オーナーに話を聞くと、大型商業施設のスポーツコーナーやECに押され、商品がなかなか売れなくなっている。在庫が売れないから、新しい商品も仕入れられないと。
 それを聞いて、もし当社が全部まとめて買い取れば、別の場所で求めている子どもや大人に安価で提供できるかもしれない。
 そうすれば、スポーツ用品店も新しい商品を仕入れられる。まさに売り手よし、買い手よし、我々もよしの「三方よし」なわけです。
 きっと、同じ悩みを抱えるスポーツ用品店は、全国にあるはずだと考えました。
 そう思い立ち、在庫商品をすべて買い取らせていただき、販路を変えて売ってみたところ、利益を乗せた価格で売れたんです。
 すぐに中古のバンを買い、東北から九州までのスポーツ用品店を巡り、同じように在庫を一括買い取りしていきました。
iStock / RomanBabakin
 1年ほどで、買い取らせていただいた会社は3000社ほどになり、スポーツ用品の買い取り事業は急成長していきました。
 都会ですと大型のスポーツ店舗が多いと思いますが、地方だと昔ながらの商いをしている方も、まだまだ多い。オーナーとも顔を合わせて話すことがほとんどです。
 大きなビジネスの文脈で語られることが少ない、地方の小さなビジネスの課題に気づけたからこそ、このソリューションで価値創出ができた。
 まさに地方にいたからこそ、生まれたビジネスなのかな、と考えています。

大成功した「在庫一括買い取り」を応用

 そして買い取り事業を進めていくと、グローブやバット以上に、スポーツウェアの売却ニーズが高いことに気づいたんですよね。
──なぜウェアのニーズが高かったのでしょうか。
 ファッションアパレルもそうだと思うのですが、スポーツウェアも古い型や旧ロゴの服は売れ残って在庫になりがちなんです。
 そこで、今度はスポーツウェアも一括買い取りを行い、当社で選定した販路で様々な工夫をして販売したところ、売り切ることができました。
 この事業をアパレル業界全般でやったら、かなりスケールするんじゃないか。そう思い調べてみると、国内では年間50万トン近くの衣服が廃棄されていることがわかりました。
 サスティナブルの観点でも、ビジネスの視点でもスケールするチャンスはあるはずだと思い、グローブ・バットから、アパレル用品の在庫買い取り事業にシフトしていきました。
 アパレルメーカーや小売店の在庫をまとめて買い取り、それを卸会社やディスカウントショップ、リサイクルショップ、EC企業などに売却する。
 査定についても、これまで販売してきた膨大なデータを蓄積し、すぐに現在の流通金額を出せるように仕組み化して、スピードを上げていきました。
 このビジネスモデルを確立したことで、他の様々な商品にも応用できるようになり、今ではアパレルだけでなく家電、日用品、食品、楽器など、商品ジャンルは多岐にわたっています。
 在庫を買い取らせていただく取引会社は5000社を超え、年間取扱高は262億円にのぼります。
 そして、 R.E BROTHERSでの事業買い取りサービスも、まさにこのビジネスモデルを応用した事業になっています。

“アナログ”こそがビジネスに差別化を生む

──これまで、野球グローブやバットなど比較的低価格帯の商材にフォーカスしてきたなかで、なぜ「事業」に目をつけたのでしょう?
 実は、我々がアパレル買い取り事業にシフトする際、スポーツ用品買い取り事業を売却しているんですね。
 それだけでなく、小規模の自社事業を10以上も売却してきた経験があります。その中で実感したのが、事業売却はキャッシュ化のスピードが何より重要だということでした。
 もちろん大規模なM&Aであれば、M&A仲介業者を通して、時間をかけ、適切な金額で売るのも良いかもしれません。
 でも小規模事業の場合だと、1年間もヒアリングや交渉をしている間に、廃業しかねない。次のビジネスチャンスも掴み損ねてしまう。
iStock / pinstock
 当社の場合は、事業を進めていくなかで築いた繋がりがあったため、仲介を通さずに事業を売却してこられました。
 しかし、世の中には小規模事業を売りたいのに、売れない企業がたくさんあるはずだと思いました。
 それなら在庫買い取りと同じように、当社が速やかに事業を買い取ってキャッシュをお支払いすれば、助かる企業が数多くあるだろうと。
 そんな考えのもと、事業買い取りサービスを行うR.E BROTHERSを、別会社として新たに立ち上げたんです。
──買い取りビジネスを連続起業するなかで、事業自体の買い取りビジネスへと繋がった。とはいえ事業を一度買い取るとなると、当然、売れ残るリスクが発生します。買い取った事業は、どのように売却するのでしょうか。
 事業を買いたい企業は、当社のウェブサイトの登録フォームより、希望する事業ジャンルや地域、売上規模などを選んでご登録いただけます。
 当社が事業を買い取りしたら、まずはそちらのご登録企業さまを優先し、ご案内差し上げる形です。
 他にはM&A仲介業のプラットフォームを使って買取先企業を探す場合もありますし、事業の種類別に買い取っていただけそうな企業さまのリストを作り、その中からご提案していくケースもあります。
 また、これまでM&Aが行われた取引金額を収集し、査定が簡単にできるシステムを構築しているのも強みですね。
 いずれにしても、売却先をみつけることは非常に重要なポイントだと考えています。
取材は長崎本社にいる吉岡氏とオンラインで行った。
 というのも在庫買い取り事業を進めてきたなかで、重点を置いてきたのは販路をしっかりと確保すること。その上で、買い取りを行っていく。
 そんなビジネスを地道に確立させてきた、という自負があります。
 売れる先が把握できているからこそ、自信をもって仕入れができる。そうした、販路の開拓力やセールス力、交渉力、提案力といった「アナログ」の部分をコツコツ鍛え、ノウハウ化してきたのが当社の一番の強みです。
 それによって安定的に買い手をみつけ、事業を売却できていますし、ビジネスの差別化を生み出せているのかなと思います。
──今後このビジネスモデルを活用し、世にどんな価値をもたらしていきたいですか。
 在庫品や事業以外にも、このビジネスモデルを応用できる分野はたくさんあると思います。
 どんなモノでも、売れる場所は必ずある。ただ、どこかに渇望する人がいるにもかかわらず、廃棄や廃業が多数行われてしまっているのが現状です。
 そうした“もったいない機会損失”を解消し、そのマーケットのポテンシャルを最大化する取り組みを、この先も突き詰めていきたいですね。