2022/11/24

【山口】地元高校の卒業生を、未来のIT人材へ育成

編集オフィスPLUGGED
日本海と瀬戸内海の美しい海に面し、ワーケーション誘致にも力を入れている山口県。近年では、首都圏の企業のサテライトオフィスや新しい拠点としても選ばれています。

日本海側、瀬戸内海側、空港の近い街とそうでない街、市街地と過疎地、それぞれのエリアで、地元の良さを生かしたスタイルで、そうした企業を誘致し、地方創生へと生かす動きが起こっています。

首都圏の企業の地方拠点づくり、ワーケーション、そして受け入れる自治体側の工夫や地元コミュニティとの協働・連携、地域貢献を4回でお届けします。(全4回)
INDEX
  • 歴史を最大限に活用した企業誘致
  • サテライトオフィスとして選ばれる町に
  • お試し施設とワーケーション施設を整備
  • 地元高校の卒業生はIT業界には人材の原石

歴史を最大限に活用した企業誘致

山口県の萩市は、明治維新胎動の地です。
町の中心地、萩市役所のすぐそばにある萩・明倫学舎は、萩藩の藩校跡地に建つ日本最大級の木造校舎で、2014年まで明倫小学校として授業が行われていました。本館は観光インフォメーションセンターやショップ、レストラン、藩校から小学校まで、300年の歴史に触れる展示室に、2号館には世界遺産ビジターセンターや幕末ミュージアムなどがあり、観光の名所になっています。
萩・明倫学舎本館
2022年3月には4号館がオープンし、コワーキングスペースを設置。ワーケーションで訪れた人やテレワーカーが使えるように整備されました。
さらに、教室を企業向けに開放し、入居事業者を募集し、企業を誘致しました。首都圏のIT会社らがサテライトオフィスを開設し、新たな産業と人の交流拠点が誕生しました。萩市商工観光部企業誘致推進課の大平憲二さんと長山達哉さんにお話を聞きました。
萩市商工観光部企業誘致推進課の大平憲二さん(左)と長山達哉さん(右)
長山 「旧明倫小学校3号棟・4号棟の再活用を考えたときにどんな場になってほしいのか、市民の皆さんと検討を重ね、4号館を産業、ひとづくり、交流の拠点として、企業のオフィスやコワーキングスペース、移住定住相談窓口として活用することになりました。3号館は、市観光課や観光協会などの事務所を集約したほか、貸しスペースや市民ギャラリーとして2022年9月にオープンしています」
そうして、この学び舎が県内の企業だけでなく、都心や他の県などからの企業を誘致する拠点になりました。

サテライトオフィスとして選ばれる町に

萩市の企業誘致プロジェクトの発端は、現在では地方創生の聖地とも言われる徳島県神山に視察に行ったことだったそうです。
大平 「今でこそ地方に首都圏のサテライトオフィスを作るのが地方創生のスタンダードになっていますが、伺った10年前は画期的な試みでした。町全体に光ファイバーが敷設され、古民家にいくつものITベンチャーが入居していました。移住者は増え、地元の雇用も進んでいました」
首都圏企業らがサテライトオフィスとして入居する4号館
神山サテライトオフィスプロジェクトを参考に、市内の情報通信環境を活用して、2015年に「萩サテライトオフィスプロジェクト」が発足しました。東京に本社のある株式会社ダンクソフトに実証実験を依頼し、企業と人材の流入と雇用の創出、空き家と空き施設の解消と移住者の誘致が本格的にはじまりました。

お試し施設とワーケーション施設を整備

現在、萩市では、首都圏の企業がサテライトオフィスの設置を検討できるよう、中長期滞在による実証が可能なお試し暮らし住宅を用意しています。コワーキングスペースの活用と併せて、企業誘致だけでなく、ワーケーションでの利用や移住を検討する人にも広く門戸を開いています。
小学校として使われていた木造の校舎の一部が、コワーキングスペースになっている
大平 「古民家を改修してお試し住宅を作りました。同時に、通信環境も整備して、実際に萩でオフィスを持つことが可能かどうかを暮らしながら検討していただけるようになっています」
すでにIT関連の企業が進出し、自治体と一緒になって、萩エリアならではのデジタル活用法や人材の育成、関連企業へのアプローチなどの取り組みが進んでいます。
大平 「Iターンや地元が萩であるという人が首都圏との2拠点生活をするパターンも出てきました。首都圏の人気美容師さんが月に何日かだけ萩でオープンされたり、首都圏でのスキルや経験を生かして萩で活動していたりするフリーランスの人もいます」
同時に、萩市に縁のない企業や人の流入も増えてきているのだそうです。

地元高校の卒業生はIT業界には人材の原石

萩市がサテライトオフィスプロジェクトと並行して力を入れているのが、地元の高校を卒業する人たちの雇用促進です。
大平 「明倫学舎にサテライトオフィスを構えるIT会社さんの中には、地元の高校を卒業した人を毎年3〜5人くらい新入社員として雇用してくださっているところもあります。首都圏では今IT人材が足りていません。スキルの高いIT人材は給与も高く、引く手あまたで転職も激しいので確保が大変だと聞いています。しかし、地方の優秀な高卒人材を雇用し、4年かけて世界に通用するエンジニアに育てていけば、一般の大学卒業時期の新卒人材が入社するような時期には既に立派なスキルが身につくのです」
さらに萩市は2020年に、産官学連携による協議会を立ち上げ、地元の高校生等を対象としたITの基礎技術をeラーニングで学ぶ基礎講座「IT松下村塾」をスタートさせました。IT業界の先駆者たちの特別講座、IT企業を目指す塾生の興味に合わせた専門コース、ITパスポートの資格取得に向けたカリキュラムも無料で提供しています。
大平 「これまで地元に残りたくても就職先がないから都会へ行くという若者も多かったのですが、IT関連企業のサテライトオフィスの誘致によって地元に残りたい子たちに雇用が生まれ、地域の活性化につながっています」
自分自身が卒業した学校の校舎がオフィスになる地元の雇用者も
いずれは、現代版松下村塾の卒業生らが地元でITベンチャーを立ち上げて町を盛り立て、首都圏や世界とつながっていく未来も見えてきそうです。
Vol.2に続く