2022/11/24

【橋下徹×南壮一郎×安田大佑】変数多き時代、「ソートリーダーシップ」の育て方、生かし方

NewsPicks, Inc Brand Design Head of Creative
不安定な世界情勢、円安、少子高齢化、SDGsなど、経営を取り巻く“変数”が多い時代。新たな環境に対応し、価値を生み出していくには、チームを率いるリーダーシップだけでは物足りなくなっている。業界や社会全体に影響を与えるような革新的な行動を取るソートリーダーシップが必要なのではないか――。

この仮説のもと、2022年10月24日〜25日に開催した大型ビジネスフェス「CHANGE to HOPE 2022」で行った複数のセッションの一つとして、政界や経済界でソートリーダーシップを発揮する3人を招き、リーダーシップの本質についてクロストークを実施した。ソートリーダーシップの発揮の仕方とは。1時間のトークセッションの中から主なトピックをお届けする。
川口 はじめに「ソートリーダー」の定義についてお話をさせてください。
 諸説ありますが、このセッションでは、いわゆる組織をリードする役割だけでなく、自身の発言や行動が会社の枠を超えて、業界や経済界全体、社会に影響を及ぼすようなリーダーシップを発揮する人物と定義して、話を進めさせてください。
 あまり聞き慣れない言葉かと思いますが、まずみなさんはソートリーダーと聞いてどんなイメージを持ちますか。
 社会の課題に着眼しているリーダーかどうか、なのかもしれません。
 私が事業をつくるうえで大事にしているのがまさしくこの「社会の課題」です。世の中にはさまざまな社会の課題がありますが、どの課題を解決すれば、社会に大きなインパクトを与えることができるかを見定めて、それを事業化しています。
 ビズリーチの創業で言えば、一つ目に自分自身の転職活動を通して感じた転職市場の透明性の低さへの違和感。そして二つ目に、ビジネスパーソンのキャリアは本来多くの選択肢や可能性があるはずなのに、自分のキャリアを主体的に決めない、決められない日本のビジネスパーソンが多いことが、大きな課題だと思いました。
 海外の友人たちは「自分のキャリアプラン」を熱く語るのが当たり前だけど、日本で語る人はほとんどいなかった。日本には、豊富なスキルや経験、知識を持ち、成長意欲が高い人がたくさんいるのに、それを生かしていない印象があり、日本人のキャリアの選択肢と可能性を広げたかったのです。
 今はVisionalの代表として、ビズリーチのほかにさまざまな会社を通じて事業を展開していますが、全てに共通する着眼点は「世の中の課題は何か。それをどう解決するか。それによってどう世の中に大きなインパクトを与えるか」。私はそういう視点で事業をづくりをしてきましたから、私がソートリーダーかどうかはわかりませんが、私の考えるリーダーには必要なことだと思います。
橋下 私は、リーダーには二つの役割があると思っています。それは「組織(人)を導く役割」と「組織(人)をまとめる役割」これを1人で兼務するのは相当の至難の技です。
 私は人をまとめるのは苦手だったので、私が政党の代表だった頃、組織のまとめ役は現・大阪市長の松井一郎さんに全部委ねていました。
 私の役割は、今大阪でやらなければいけないことを見極めて、世間の風潮に流されず、批判に屈することなく、突き進むこと。そして、それを周囲にしっかりと伝えて人をやる気にさせる、魂を揺さぶること。それが、僕が意識していたリーダー像で、ソートリーダーとはそのイメージに近いのではないでしょうか。
安田 とても共感します。批判に屈しないということは、摩擦を恐れないとも言えると思うんです。人との摩擦は、一見すると悪いことのように思う人もいますが、私は全くそう思っていません。
 摩擦が起きるということは、議論を健全に交わし合え、新たな変化を生み出すためのステップだと思うので、むしろ必要だと思います。リーダーには「適切な摩擦」を促す力が必要でしょう。
安田 私から橋下さんと南さんにお聞きしたいことがあります。
 お二人は強いリーダーシップでいろんな変化を起こしてきたので、当然たくさんの抵抗や批判を受けてきたと思います。どんなメンタリティで乗り越えたのでしょうか。
 自分の空想や机上の空論で導き出した青写真ではなく、実際に見に行き直接触れて、徹底的に収集した一次情報をもとに確信を得たうえでの決断は、いくら批判を受けても流されません。
 たとえば、私は日本の高校からアメリカの大学に行こうか迷っていた時、学校の先生からは反対されたんです。でも、その時に背中を押してくれたのは、父親からの「1人で実際に見に行ってこい」という言葉でした。
 1人で渡米し、スタンフォード大学のキャンパスを見た瞬間に「僕は選択は間違っていない」と確信しました。だから、帰国してもその決断を誰に反対されても、揺らぐことはありませんでした。
 楽天イーグルスの立ち上げ時に、日本一のボールパークスタジアムを目指した際にも、アメリカのスタジアムでその素晴らしさを肌で感じていたし、絶対に東北でも実現したいと思っていたから、反発されても流されなかったですね。
 批判や反対勢力に負けないためには、揺るがない信念を持つこと。そのためには、決して人から聞いた話やネットの情報を鵜呑みにするのではなく、一次情報を取りに行くことだと思います。
川口 橋下さんも政界に身を置いていた時は、さまざまな厳しい声を受け止めてきたと思いますが、いかがですか。
橋下 先ほど話したように、私の役割は魂を揺さぶること、変化を起こすことだから、批判が出るのはある意味当たり前。むしろ、批判が出てくるくらいじゃないとダメだと思っています。なので、私にとって反対意見や批判は、“快感”なんですよね(笑)。
 批判や反対意見に心が負けてしまうのは、まだそれだけの耐性が備わっていないからで、その耐性を身につける術は、批判を受け続けるしかない。若い頃からほどほどの批判を受けていくと、いずれ強烈な批判も恐れなくなります。批判を受けるとますます批判に強くなっていきますから
 橋下さんにとって批判は快感なんですね(笑)。
「批判を受け続けると強くなる」は、よくわかります。環境を変えると、批判を受けやすくなるので、耐性を得るために、そして自分自身変わり続けるためにも、仕事でもプライベートでも普段自分がやらないことや行かない場所にどんどん飛び込むこともいいかもしれませんね。
安田 批判が快感になっていない私はまだ未熟ですね(笑)。
 批判を受ける環境は多様性に富む環境だと思いますが、日本で多様性というと「同じ箱に違う色がある状態」を指すことが多い気がします。そうではなくて、それが混ざった時に生まれる新しい力が多様性。
「同じ箱に違う色がある状態」では、結局調和を大事にしてしまうから、批判されることイコール“悪”になりがちです。
 健全な心理的安全性とは、みんな仲良くではなくて、批判はあっても自分の意見を言える環境のことなので、この環境をつくるのもリーダーの仕事だと思いました。
橋下 おっしゃるとおりですね。ダメなのは、違う意見を言わせない空気が漂っていて、調和を求める組織。これからは、どんな意見も言える会社じゃないと世界で戦えないでしょう。
川口 少し視点を変えた質問で、リーダーシップを磨くために日々どんなルーティンワークを取り入れているのでしょうか。
 逆説的な話になるかもしれませんが、日々の「ルーティンを壊すためのルーティン」を意識しています。日常のルーティンの中で生きていると、どうしても新しい視点や課題に気づきにくい。なので、必要不可欠なルーティンを続けながらも日常とは異なった行動をする。
 たとえば、帰宅時にいつもとは違う駅で降りて歩いてみるとか。こんな些細なことでも、普段とは違う景色に刺激を受けることがきっとある。
 冒頭に話したように、ビジネスの根源は課題の発見と解決。その課題を見つけるには違和感が大事で、その違和感を見つけ出すためにも新たな刺激はとても大事だと思っています。
 あとは、先ほども話しましたが、一次情報を取ること。リーダーの最も重要な仕事は決断すること。その決断を支えるのは正確な情報で、それを得るために最も有効なのは直接自分の目で見て、聞くこと。手間はかかりますが、これは常々大事にしています。
橋下 私も情報収集は欠かせないルーティンになっています。私はNewsPicksの会員ですが、実はアナログメディアも大事にしています。信頼できる新聞も貴重な情報収集源で、毎日五紙の新聞に目を通して、気になる記事を切り取り、そこに自分の意見を書き込むのを学生の頃からずっと続けています。
 南さんの言うとおり、リーダーの仕事は決断すること。私の判断基準は、現状維持になるか、それとも前に進む可能性があるか。この軸で決めていますが、少ない時間で判断するためには、日々の知識と思考が欠かせません。それを支えるは情報ですから。
安田 お二人のご意見にとても共感します。ルーティンという観点とは違うかもしれませんが、私はリーダーとは「リーダーになる」ために何かをするというよりも、気づいたらリーダーになっているというものだと思っています。
 経営学者の野田智義氏と金井壽宏氏の共著である『リーダーシップの旅。見えないものを見る』に、「リーダーは初めからフォロワーがいるわけではなく、自らの行動の結果、フォロワーがつきリーダーになる」といったことが書かれていて、それがとても印象的で私の心に残っています。
 何か特別なことをするというよりも、ビジョンを示してメンバーにそれを伝えて愚直に行動する。それが日々肝に命じていることです。
川口 チームビルディングの観点では、組織やメンバーをどのように導いているのか、教えてください。
 僕は組織を運営するのが得意かといえば、それはちょっと違う。僕よりも得意で長けた人が世の中にはたくさんいます。だから、むしろそれが得意な人とチームを組んで13年間経営してきました。
 自分は何ができて、何ができないかを明確にして、「できない」ことをきちんと言うことが、周りの育成につながるのではないかと思います。
 いろんな国や業界、いろんな人たちとお会いしてきた原体験を通じて、この人はこれに向いているというのを感じる能力を潜在的に養ってきたのかもしれません。
安田 私は、メンバーのやりたいことと得意分野を混同せずに、分けるよう導くのが必要だと思っています。
 すると、自分が貢献できるのは何かを考えられるようになるので、自分の役割やキャリアなど、選ぶ道が広がると思います。
橋下 私は人材の流動性を高めて、次世代を担う若い人たちにいろんな経験をさせるのが大事だと思っています。
 政治家は政治グループで権力を持ったら地位に居座り続けるから、次の新しい人材がそこになかなか入れない。どの党も古い人たちが残ったままですよね。
 自分の地位が脅かされると考えるトップは若い人になかなか経験させない、権限を与えないのですが、そうじゃなくて若い人にしっかり経験してもらって、時期が来たらリーダーを任せるのが大切。
 日本で次のリーダーを生むためには、若い人たちがもっと経験できるよう新陳代謝を促す必要があると思っています。それは政界でも経済界でも同じだと思っていますので、若い人たちをもっと応援していきたいと思います。
※本記事は2022年10月24日〜25日に開催されたイベント「CHANGE to HOPE 2022」でのセッションをもとに構成しました。全25セッションの動画は公式サイトよりご覧いただけます(配信期間:2022年12月31日まで。要登録)。