2022/11/16

進み続ける恋愛離れ。マッチングアプリは「救世主」になるか

NewsPicks Brand Design Editor
「マッチングアプリでパートナーを見つけました」「私たち『アプリ婚』です」――そんな報告を聞くのは、もはや珍しいことではなくなった。
 1940年から厚生労働省が実施している「出生動向基本調査」の結果でも、「交際相手との出会いのきっかけ」の選択肢として「インターネット」が今年初めて追加されるなど、マッチングアプリを含む、インターネット上でのパートナー探しは、「当たり前」になりつつある。
 国内最大級のマッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」は、日本のマッチングアプリ市場を黎明期から切り開いてきた存在だ。
 2012年にローンチし、以降累計会員数は右肩あがりで成長。今年4月には2000万人を突破した。
 そんなPairsを運営するエウレカは、今年9月に約2年ぶりとなる「Pairs少子化・未婚化白書」を発表。
 結婚の一歩手前の段階、つまり「交際」をめぐる課題についてデータを用いて考察しつつ、そのソリューションとして、マッチングアプリの有用性を示した。
 本記事ではエウレカCEO・石橋準也氏へのインタビュー、および白書のリリースにあわせて実施されたセミナーの一部をダイジェストし、少子・未婚化問題の現在地と展望を探っていく。
オンラインセミナーの様子。左上から時計回りに、エウレカCEO・石橋準也氏、Public Meets Innovation代表・石山アンジュ氏、人口減少対策総合研究所 理事長・河合雅司氏、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授・治部れんげ氏。
INDEX
  • 若者の3分の1「交際望まない」
  • 人々が恋愛をしない「4原因」
  • 「解決策」としてのマッチングアプリ
  • リアル×テックで「出会い」の価値を最大化

若者の3分の1「交際望まない」

 20代男性の4割が恋愛経験なし――。
 そんな見出しがメディアを賑わせたのは今年6月のこと。内閣府が発表した「令和4年度版男女共同参画白書」の調査結果がきっかけだった。
 若者の「恋愛離れ」を悲観する声、恋愛は個人の自由だと叫ぶ声。SNS上でもさまざまな意見が飛び交った。
 事実、日本では少子・未婚化が加速している。
 同月に発表された厚生労働省の人口動態統計によれば、2021年度の出生数は81万1604人と、過去最低を更新。
 日本においては、ほとんどの子どもが婚姻関係にある男女の間に生まれているため、少子化の最大の要因は「未婚化」にあるとされている。
 なぜ少子・未婚化が深刻化しているのか。
 俯瞰的に考えるには、結婚の一歩手前のフェーズ、つまり「交際」にまつわる問題から整理していく必要がある。
photo: iStock/AlexLinch
 まず、「恋愛離れ」について、一般社団法人人口減少対策総合研究所の理事長を務める河合雅司氏は、「若者が突然恋愛をしなくなったわけではない」と指摘する。
 実は、恋愛経験がない20代男性の割合はここ40年の間、大きく変化していない。だが、異なるのはその先だ。
 今年9月に発表された最新の政府統計「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、恋人・婚約者と知り合ったきっかけのうち「職場での出会い」が減少。
 以前は職場での恋愛や、「お見合い」など家族・同僚を介した出会いも多くあったが、近年はそうした機会が少なくなってきている。
 そのため、「デート経験のない人々がそのまま年齢を重ね、出会いそのものが減り、自ずと結婚の減少にもつながっているのではないか」と河合氏は分析する。
 もう1つ変化している数字がある。それは、「特に交際を望んでいない人の割合」だ。
 前出の「出生動向基本調査」によると、男女ともに交際を望まない未婚者の割合は上昇傾向。
 調査対象である18〜34歳の未婚男女のうち、約3分の1が「交際を望んでいない」のだ。
出典データ:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生基本動向調査」(2022)をもとにエウレカ作成。
※「特に交際を望んでいない」の統計は2010年から開始
 内閣府が実施した「少子化社会に関する国際意識調査」でも、「結婚はするべきだ、した方がよい」とする回答の割合は年々減少。
 一方で、「恋愛や交際も特に必要ない」という回答の割合は増加している。
 同調査の結果を国際比較しても、日本は他国に比べて結婚意志を持つ人の割合は高いものの、「結婚・同棲・恋人はいずれも、必ずしも必要ではない」とする回答者も最も多い。
出典データ:内閣府「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」(2020)をもとにエウレカ作成

人々が恋愛をしない「4原因」

 では、なぜここまで日本で「恋愛離れ」が進んでいるのか。
 エウレカCEO石橋準也氏は、これまでPairsが外部有識者らと実施した調査結果や、Pairs主催の有識者会議「少子化・未婚化の改善について考えるアドバイザリーボード」での議論を分析すると、大きく4つの要因があると語る。
恋愛離れ要因① 恋愛における負のループ 
 1つ目の要因は、恋愛における「負のループ」の存在だ。
 2019年、Pairsは「婚活」という言葉の生みの親としても知られる中央大学の山田昌弘教授と共同で「日本の恋愛・結婚意識」に関する共同調査を実施。
 調査で20代から30代の独身で交際経験を持たない男女に「交際相手が欲しいのに、活動をしない理由」を聞いたところ、「どうしたらいいのかわからないから」が最も多い回答だった。
 この回答は同じ独身であっても「交際経験がある」人よりも、「交際経験なし」の人の方が高かったという。
 ここから考察できるのは、交際経験がない→どう行動すべきかがわからない→積極的に行動できない→交際経験が得られず、ますます行動できない、という「負のループ」だ。
photo: iStock/kamisoka
 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院・准教授治部れんげ氏も、石橋氏の発言に同調してこう語った。
「あるとき、学生から『先生、恋愛というのはどのように始まるのでしょうか?』と聞かれて、驚いたことがあります。
 勉強や日常生活などに関するさまざまな話をする中で、最後に聞かれたのがこの質問で、実はこれが一番聞きたかったことなのだろうな、と感じました。
 ただ、話しぶりから、その学生自身、恋愛に対する意欲がないわけではないのだな、とも。
 コロナ禍の最中だったこともあり、対面で人と会うことが極端に減っていたので、特に『どうしたらいいかわからない』状態だったのだろう、と思いました」(治部氏)
恋愛離れ要因② 「リスク回避傾向」の高まり
 2つ目のポイントは、「リスク回避傾向」の高まりだ。
 石橋氏によると、先述の有識者アドバイザリーボードでも、「恋愛において、日々顔を合わせるような身近な出会いの場合に発生するリスクを回避したい」と考える人が増加しているという指摘があったという。
 直接顔と顔を合わせる中で、気まずい空気になってしまったり、自分の発言や行動を拒否されたりすることに対して心理的抵抗を感じる人は少なくない。
「交際を申し込んだ際に断られるリスクを考えると、なかなか行動できない」といった意見もあるだろう。
「Pairs 少子化・未婚化白書」で紹介されている外部の調査によると、「身近なコミュニティ内での恋愛は気が引けるか」という問いに対して「非常にあてはまる」「ややあてはまる」と回答した人の割合は、20代の男性が約30%、女性が40%ほど。
 「これは、男女ともに30代・40代よりも高い数値です。
 若い世代ほど、対面、特に身近なコミュニティでの出会いを避ける傾向にあります」(石橋氏)
恋愛離れ要因③ 価値観の多様化と「型にハマりたくない」という意識
  3つ目のポイントは、価値観の多様化と「型にハマりたくない」という意識だ。
 ライフスタイルが多様化し、人それぞれの価値観が確立されていく中で、「自分らしくありたい」という欲求を持つ人は増えている。
 それにともない、型にハマった恋愛や結婚に「堅苦しさ」を感じている人がいるのも事実だ。
 エウレカの調査の中でも、交際相手に求める条件として「人柄」に次いで、「自分を大切にしてくれること」「ありのままの自分を受け入れてくれること」などの回答が上位にあがった。
出典データ:株式会社エウレカ「日本の恋愛と結婚に関する全国意識調査」(2019)
 一般社団法人Public Meets Innovation代表石山アンジュ氏も、そんな「多様化した価値観」を体現する一人だ。
 石山氏は、2017年から血縁関係によらない新しい家族のかたちとしての「拡張家族」を提唱・実践し、自身もその一員として生活してきた。
 渋谷にある一棟のマンションで共に暮らし始めた38人の“家族”は次第に規模を拡大し、現在は0歳から60代までが参加する、約110人のコミュニティになっている。
 そんな石山氏は、自身の運営するシンクタンクで、2021年に「家族」と題した政策提言ペーパーを発表。
 若者を中心にヒアリングを重ねる中で、「先が見えない時代だからこそ、人とつながりたい」一方で、「『ありのまま』をさらすのは怖い」という葛藤を感じたという。
photo: iStock/Orbon Alija
「他者と深いつながりを持ちたいと思っても、『ありのまま』の自分に自信が持てないがために、行動を起こせない人は少なくありません。
 また、SNSなどで『自分』を見せているようで、『本当の自分』は見せられていないという感覚を持っている方も実は多いんです。
 そして、その感覚が次第に『本当の自分は、誰にも見せられないのでは』という不安になり、若者たちにプレッシャーを与えていると感じます」(石山氏)
 ライフスタイルや価値観が多様化するなかで、型にハマった恋愛や結婚は、「自分らしくいられない」「自分にはハードルが高い」と、敬遠される傾向にあるようだ。
若者の恋愛離れ要因④ 「一人でいる」という選択肢があること 
  最後の要因として石橋氏が指摘したのは、「一人でいる」という選択肢があること
「独身を主体的に選択している人が増加している」とした上で、その要因として「結婚に対する社会的なプレッシャーの低下」や「SNSなどの普及によるさみしさの希薄化」、「恋愛で得られる高揚感を演出・代替するサービスの増加」といった理由を挙げた。
 内閣府が実施した調査でも、「独身の理由」について「適当な相手にまだ巡り会わないから」に次いで、「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」という回答が多かったという。

「解決策」としてのマッチングアプリ

 若者の恋愛離れの要因を語った上で、「もちろん、恋愛や結婚は個人の自由」と石橋氏。
 だが、恋愛や結婚に意欲はあるものの、なかなか行動を起こせていない人がいるのも事実だ。
 そして、「そうした方々の行動をいかに支援していくかが、今後のポイントになる」とし、「マッチングアプリは、前述の『恋愛離れ』の4要因それぞれの解決に貢献できるはず」と、力を込める。
 たとえば、マッチングアプリでは、「出会い」から「デート」に至るまでの道筋が、ある程度アプリ内で提示される。
 アプリによるアシストに則ってコミュニケーションを進められるので、恋愛経験が少ないために「どうしたらいいかわからない」と戸惑う人にとっても、行動のハードルが低いといえるだろう。
 日常的には出会えない人との出会いを演出してくれるため、身近なコミュニティで恋愛をする「リスク」も回避することも可能だ。
 また、マッチングアプリではプロフィール等で、相手と出会う前に互いの価値観を確認できる。
 理想のライフスタイルや、人生におけるプライオリティなど、日常の出会いではなかなか深く語るのが難しいような価値観でも、事前に共有してから出会えるのだ。
Pairsのプロフィール欄には、結婚や子どもをもうけることに対する希望度など、自らの価値観を示すための20以上の項目が用意されている。
 また、アプリがなければひょっとすると成立し得なかったかもしれない、新しい恋愛のモデルケースも生まれ始めている。
 Pairsでは、「幸せレポート」というサイトで、カップル一組一組の幸せのかたちを紹介し、「1人よりも2人でいることの良さ」を伝えるコンテンツも発信しているという。
 インターネット、およびマッチングアプリでの出会いは、すでに社会に浸透しつつある。
 冒頭で述べた通り、今年発表の出生動向基本調査では、1940年の調査開始以来、「恋人や配偶者との出会い」の選択肢として初めて「インターネット」が採用された。
 また、結婚相手と知り合ったきっかけについて「友人の紹介で」「職場で」とする回答の割合が減る一方、「SNSやマッチングアプリなど、インターネットサービスを介して知り合った」という回答が、全体の13.6%を占める結果に。
 エウレカと日本総合研究所が共同で実施した調査データをもとにエウレカが分析した結果でも、2020年6月からの1年間で結婚した人のうち、約19%がマッチングアプリを活用して交際相手を探していたとのこと。
 そのうち、約7%がPairsの利用者だったという。
出典データ:株式会社エウレカ・株式会社日本総合研究所共同実施「アフターコロナを見据えた少子化等対策のための未婚者の実態調査」をもとにエウレカが分析
 マッチングアプリのメリットは、交際相手探しのハードルが下がることだけではない。
 石橋氏によれば「マッチングアプリを介して出会い、結婚した夫婦ほど結婚後の満足度が高い」という調査結果も出ているそうだ。
 マッチングアプリで結婚したメリットとして、「精神的な安らぎが得られた」といったメンタルへの作用を挙げる人も多く、「理想の相手」との出会いにつながっていることもうかがえる。
 先述の河合氏も、「マッチングアプリの重要性は、今後より増していくだろう」と予想を示した。

リアル×テックで「出会い」の価値を最大化

 言わずもがな、時代が変化すれば、出会い方も当然変化する。
 石橋氏は「マッチングアプリであれば、恋愛・結婚を望む現代の方々のニーズに合った機能が提供できる」と信じ、サービスの改善と発展に努めていきたいと意気込む。
 今年10月24日には、Pairs内で新サービス「Pairsコンシェルジュ」をリリース。
「どのように自分の価値観を伝えるべきか」「最初のデートではどこに、どういった服装で行けばいいのか」といった不安を抱えるユーザーからの相談を聞き、恋活に伴走し続けるための体制を整えていく。
「Pairsコンシェルジュ」の様子。
「人対人」の手厚いハイタッチなアプローチとともに、チャットやビデオデートの活用など、テックタッチなアプローチも拡充。
 将来的にはアバターやバーチャル空間などの活用を視野に入れ、さらなる機能のアップデートに意欲を示す。
 また、「未婚化・少子化といった課題への貢献を続けていきたい」と石橋氏。
「私たちはかねてより、マッチングアプリが恋愛離れや未婚化・少子化といった課題の解決にアプローチできると考えており、マッチングアプリが出生動向に及ぼす影響などについて提言をまとめたり、政府関係者の方々への勉強会などを実施したりといった活動をしてきました。
 そして、その成果が、徐々にかたちになり始めていると感じています。
『かけがえのない人との出会いを生み出し、日本、アジアにデーティングサービス文化を定着させる』というビジョンのもと、これからもユーザーに寄り添いながら、社会課題の解決にも貢献できればと考えています」(石橋氏)
 少子化をめぐっては、官民問わず多くのプレイヤーが課題の解決に向けた策を講じてきた。しかし、いまだ解決の突破口が見えていない。
「マッチングアプリが切り札となる」と断じるには時期尚早かもしれない。
 だが、大きな可能性を持っていることもまた、データが示す「事実」だと言えそうだ。