2022/10/31

TikTokが“生きづらさ”を感じる人に本気で寄り添う理由

NewsPicks Brand Design editor
 日本における20〜30歳代の死因トップは自殺。令和3年度も2万人を超え(※1)、2022年10月には厚生労働省が「自殺総合対策大綱」の見直しを行うなど、継続的な対策が求められている。この社会課題に対して積極的なアクションを起こす企業がある。それが、エンターテイメントプラットフォームのTikTokだ。
 生きづらさを感じている若者をいかにサポートするか。TikTokではこれまでも自殺予防やメンタルヘルス(※2)に関するさまざまな啓発活動に力を入れてきた。2022年には「自殺予防週間」および10月10日の「世界メンタルヘルスデー」にあわせて、動画投稿キャンペーン「#大切なひとを守ろう」を実施。
 なぜTikTokが人々のメンタルヘルスの支援に取り組むのか。そして、クリエイターやユーザーにとってTikTokとはどのような存在なのか。TikTok Japanが開催したクリエイター向けメンタルヘルス講習会に参加し、プラットフォームとしてのTikTokの可能性を考えた。
※1 出典: 厚生労働省, 人口動態統計:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
※2 メンタルヘルスとは、精神面における健康のこと。

SNSは使い方次第で心に悪い影響も、良い影響も与える

 日本人の約4〜5人に1人。これは、一生のうちに1回、何らかの精神疾患を経験する人の数だ(※3)。
※3 出典:世界精神保健日本調査セカンドhttp://wmhj2.jp/report/
 クリエイター向け講習会に登壇した国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所の小塩靖崇氏は、次のように話す。
「精神疾患というと、“壁を越えた向こう側”に行ってしまったような病気と思われることもありますが、自分自身、あるいは家族や友人がかかるかもしれない、誰もが関係する身近なものです。
 健康な状態から専門家のケアが必要な状態まではひと続きになっています。0か1ではなく、0から100まで目盛りがあり、その中にさまざまな状態があるというイメージです」(小塩氏)
 特にメンタルに不調をきたしやすい時期が思春期だ。いじめを受けたとき、誰にも言えない悩みや生きづらさを抱えたときなどに、自傷行為や自殺という選択肢を選んでしまう人も少なくない。
 その背景には、少なからずSNSの存在があるという。
「今はSNSで危険な情報に簡単に触れられる時代。一度見てしまうと次から次へと情報が入ってくるため、自分の中で大きく受け取られてしまいやすい。
 また、偏った情報を信じてしまったり、批判や攻撃的なコメントが寄せられたりすることで、メンタルのバランスを崩してしまうことがあります」(小塩氏)
 とはいえ、TikTokのようなプラットフォームやSNSは特に若者にとってはもはやインフラであり、生活に欠かせないツール。なくすことができない中で、どう付き合っていけばいいのだろうか。
「メンタルヘルスとSNSの関係の論文を見ていると、『SNSの使用時間が長いほどうつ傾向がある』という研究もあれば、『SNSの使用時間が長くてもメンタルウェルビーイングが良い』という研究もあります。
 両者の結果を分けているのは、『SNSをどのように使っているか』と言えるかもしれません。
 例えば、やりたいことを実現するために活用する人、目標があって情報収集のために活用する人、仲間とのコミュニケーションを楽しんでいる人などはウェルビーイングが高い傾向があると考えられます。
 つまり、『主体的にどう使うか』という意識を持つことがポイント。
 どうしても弊害ばかりが注目されやすいですが、素晴らしいツールだからこそ、メリットを理解してバランス良く付き合っていくことが必要だと思います。
 そのためにも、メンタルヘルスの知識、SNSとの付き合い方を学校教育や若者にとって身近な場所で伝えていくことが大切です」(小塩氏)

ここでなら打ち明けられる。若者がTikTokで見せる本音

 では、メンタルヘルスの不調を予防し、「その人にとって、その人の心が心地良い状態」である“メンタルウェルビーイング”を実現するためには何が必要なのか。
「まずは、自分のストレス許容度を理解することが大事です。それから、身近な人に相談すること。日本では一人で解決して乗り越えることが美徳とされてきた部分もありますが、解決すべき不安や悩みを言葉にして周囲と共有するという価値観が広がるといいですね。
 とはいえ、困ったときに誰かに相談するのはすごくパワーを使う行動で、難しいもの。だからこそ、周りにいる人がそっと声をかけてあげたり、相談しやすい環境を整えたりすることが大切です」(小塩氏)
 誰かに相談したほうがいいとわかっていても、相談できる存在が身近にいない、周囲の反応が気になってしまうなどの理由から、一人で抱え込んでしまう人も少なくない。
 こうした中で、若者たちが悩みを打ち明け、アドバイスを求める場として存在感を高めているのがTikTokだ。
 TikTok Japanでコンテンツエコシステムオペレーションマネージャーを務める石谷祐真氏は、TikTokの中で悩み相談をする人が増えている現状を次のように話す。
「TikTokは現代社会の縮図だと感じています。『誰にも言えないけれど、悩んでいます』『ここでなら言えます』といった投稿やコメントがたくさんあり、ユーザー同士が共感しあったり、励ましあったりしている。
 エンターテイメントプラットフォームとしてコンテンツを見て楽しい気持ちになるだけでなく、その真逆の、心の最後の拠り所になっている部分があるんです」(石谷氏)
 こうした中、TikTok Japanではこれまでもメンタルヘルス対策や安全にTikTokを活用するための啓発キャンペーンに取り組んできた。
 2022年10月にはメンタルヘルス啓発キャンペーンとして「#大切なひとを守ろう」をテーマにしたハッシュタグチャレンジを実施。ユーザーがテーマにあわせた動画を公開し、さまざまなメッセージや相談窓口の情報を発信している。
 TikTok Japanで公共政策マネージャーを務める金子陽子氏は、今回のキャンペーンについてこう語る。
「これまでは主に生きづらさを感じる方々をご支援することを念頭に、相談窓口を紹介したり、また専門機関に直接相談することを呼びかけるなど啓発を行ってきました。
 その過程で専門家の方々から、悩む本人だけでなく『周囲の方々の関わり・サポート』や、『希死念慮を抱くような極限状態になる手前で、自分自身のストレスをコントロールすること』も、自殺予防のための重要な要素であるとアドバイスをいただきました。
 そこで今年は新しい取り組みとして、『身近に悩んでいる人がいたら、どのような対応をするのが適切か』『簡単で効果の高いストレスコントロールの手法』などを多くの方に知っていただくための啓発活動を行いました。
 悩みを抱える方だけでなく、例えば『友人が悩んでいるけれど、どのように声をかけたら良いのかわからない』と心を痛めているユーザーの皆さんをサポートできたら嬉しいですね」(金子氏)

TikTokなら「正しい情報」を届けられる

 ユーザーに情報を伝えるうえで、重要になるのが「発信力」と「正しい情報」だ。いくら正しい情報を公開しても、見てもらえなければ意味がない。
 そこで、TikTok Japanでは発信力のあるクリエイターとコラボレーションして情報拡散のハブとなってもらうことで、ユーザーに啓発メッセージを届ける取り組みを行ってきた。
「悩み相談に答えたり、自分なりのメッセージを発信したりするクリエイターも多いのですが、『正しい知識がないのが不安』という声も寄せられています。
 そこに対して、専門家やNPO、行政としっかりと連携して、正しい知識をクリエイターさんにも知っていただきながら、啓発活動を進めていくことが重要だと考えました。
 一方で、NPOや行政の場合、『他のプラットフォームで情報発信しても、フォローしてもらえない、検索されない』とサービスを周知させることに課題を感じていた方も多くいます。
 その点、TikTokの場合は、フォローの有無に関係なく情報を届けることができる「おすすめフィード」機能があるので、情報拡散しやすい特性があります。実際に、クリエイターが投稿した動画を見てNPOに相談に行ってくれた方もいました。
 普段はなかなか興味関心を持たれないけれど、本当は誰もが知っておくべき大切な情報を必要なターゲット層に届けるために、TikTokは有効なプラットフォームだと考えています」(石谷氏)
 またTikTok Japanでは、クリエイターが安心して活動できる取り組みにも力を入れている。
「クリエイターはメンタルが強いと思われやすいですが、どんな人でもメンタルの不調をきたすことはあります。なので、クリエイターの方が思う存分に自己表現できるように、TikTokを安心安全な場所にしていくことが重要だと考えています。今回のクリエイター向けメンタルヘルス講習会も、そのための取り組みのひとつです。
 また、コミュニティガイドラインをクリエイターの方にも知っていただけるように周知しているほか、機能面でも工夫しています。
 例えば、リスクの高いコメントを投稿しようとしたときにシステムで検出し、『本当にこのコメントを投稿しますか?』とメッセージを出すRethink(再考)機能や、『死にたい』などと検索したときに『お困りですか?』と、相談窓口の情報を表示する機能なども設けています。
 まだあまり知られていない機能なので、今後も周知に取り組んでいきたいと考えています」(石谷氏)

TikTokは自然で楽しい雰囲気が生まれる場

 TikTok Japanが行っているさまざまな取り組みに対して、クリエイターたちはどのように捉えているのだろうか。メンタルヘルス講習会に参加したクリエイターに話を聞いた。
 アニソン歌手になる夢を叶えるために1年半前からTikTokで投稿しはじめた「モフモフモー」の2人は、5.8万人以上のフォロワーがいる今でも、頻繁にコメントを確認して、いいねを押しているという。
「応援メッセージをもらえるのはすごく嬉しいですね。中には批判的な内容もありますが、『そういう受け止め方もあるんだな』と捉えています。
 リアルでイベントをしても集められる人数には限りがあるし、来てくれる方って好意的で応援してくれる方だけですよね。TikTokの場合は、1回の投稿で何十万回も見てもらえて否定的な方からもコメントが届く。
 ときには『なんでこんなこと言うんだろう』と思うこともありますが、どんなメッセージも自分たちの成長の糧にしていこうという気持ちが強いですね」(モフモフモーさん)
 2人のもとには、フォロワーからのコメントで「学校でいじめられてつらい」「誰にも相談できる人がいない」といった悩みが寄せられることも多いという。
「DMだとハートを返すことで『見てるよ』と伝えられますが、配信中だと返事ができなくて傷つけてしまうかもしれない。私たちも専門知識があるわけではないので、どんな対応が適切なのかわからない部分があります。
 とはいえ、TikTokが共有する専門窓口に相談するのって最初はハードルが高いと思うので、私たちが悩んでいる人と専門窓口をつなぐ役割ができたらいいなと思います」(モフモフモーさん)
 自分らしい表現をTikTokに投稿し、「電気、ガス、水道、TikTok。インフラとして絶対に欠かせない」と語る「ロイ」さんも、夢を叶えるツールとしてTikTokを活用している一人。
「批判的なコメントが寄せられることがあっても、何も反応がないよりは嬉しい。ネガティブなコメントは基本無視。しばらくしたらほとぼりが冷めるし、よっぽどのときは友達に『こんなコメントがあったよ』と話すなどして、常にポジティブでいられるようにしています」(ロイさん)
 当初は周囲に相談しながら動画を投稿していたというロイさん。TikTokを活用する中で気付いたのは、「楽しい場が生まれるTikTokならではの雰囲気」だという。
「コメントの投稿欄に『すてきなコメントを書く』って書いてあるんですよね。それを見てからコメントをする仕組みになっているので、ネガティブなコメントは減っているんじゃないかなと感じています。『トイレをキレイに使ってくれてありがとうございます』の張り紙みたいな(笑)。この機能はすごくいいなと思います。
 ライブ配信中も、リスクの高いコメントが表示されない仕組みになっているみたいで。クリエイターを守ってくれて、みんなが楽しめる雰囲気がつくられているなと感じています」(ロイさん)
 今やコミュニケーションの「インフラ」として欠かせないプラットフォームとなっているTikTok。新しいトレンドを生み出すだけでなく、声を上げられずに悩んでいた人と支援できる専門家をつなぐ場としても、まだまだ大きな可能性を秘めている。
「TikTokは多様性を重視しているプラットフォームです。インフルエンサーも、ユーザーも、すべてのクリエイターが自分らしさ、クリエイティビティを表現できる場であり続けるために、啓発活動やセーフティ機能の拡充、安心安全な環境づくりを含めて今後も多角的に取り組んでいきたいですね」(石谷氏)