2022/10/18

【展望】見据える移動の未来、世界一のプラットフォームの形

駐車場予約アプリ「akippa」の開発・運営を行うakippa株式会社は現在、会員数が計290万人(2022年10月時点)を超え、累計資金調達は35億円(2022年9月時点)と、駐車場予約サービスとしては国内最大規模となりました。そんなakippaは本気で大阪から世界を狙っています。彼らが見据える未来とは。代表取締役社長CEOの金谷元気さんに聞きました。(全4回の最終話)
INDEX
  • 大手競合にも「負けない自信がある」
  • “勝つ”ために徹底した2つの戦略
  • 情熱を一番保ち続けられる場所はどこか
  • 世界No.1の移動プラットフォームに
  • 「大好きだったサッカー」事業で関わる
金谷元気(かなや・げんき) akippa株式会社 代表取締役社長CEO。1984年、大阪府生まれ。高校卒業後はJリーガーをめざし関西リーグなどでプレー。引退後から2年間は上場企業で営業を経験し、2009年2月に24歳で創業。2011年、株式会社へ組織変更し代表取締役に就任

大手競合にも「負けない自信がある」

ーー駐車場予約アプリ「akippa」のサービス開始の翌年、社名を「akippa株式会社」へ変更しています。どういう意図があったのでしょうか?
akippa事業の成長性に確信を持っていて、会社の中心事業にしたかったからです。
実はakippaをリリースした当初、その1年前に立ち上げた出版事業の調子が良く、社内の営業担当者の多くは出版の方に注力したいという考えでした。そっちの方が稼げたからです。ただ私としてはakippaは今後間違いなく伸びる事業だと考えていて、当時すごいスピードで成長していた他のシェアリングサービスに負けないポテンシャルを持っていると考えていました。
そのことを証明する意味もあって、ビジネスコンテストやカンファレンスに参加していたこともあります。社員たちに事業の可能性をわかってもらえるのではと考えていました。ふたを開けてみると優勝で、それ以来、社員たちのakippaへの評価は大きく変わりました。その機運を最大限活用するため、社名変更に踏み切り、人も金も集中的に投資することにしたのです。
改名から1年ほどたった頃、大手企業が我々と同じ市場に参入してきました。資金力のある企業が参入してくるのは一般的には脅威だと思いますが、なにせ私はサッカーでも“ジャイアントキリング”が好きなタイプ。「いよいよ来たな」と逆にうれしくなって乾杯したのを覚えています。人生をかけてこのサービスに取り組んでいて、すでに多くの駐車場や会員を獲得していて、負けない自信がありました。
ただ、当時akippa事業に携わっていた従業員数は20名ほど。競争力を高めるために採用に力を入れ始めました。採用方針は「今の自分たちよりももっと優秀な人材を獲得する」こと。ただ、会社のカルチャーにフィットしているかどうかは同時に重視していました。とくにホスピタリティを持っているかどうかは大切で、それさえブレなければどんどん優秀な人材を獲得していきたいと考えていました。
採用に力を入れた結果、多くの優秀なビジネスパーソンに入社いただき、既存メンバーの上長になってもらえました。当時、プロパーの営業の執行役員が2名いましたが、彼らも「仕組みづくりにおいては自分たちよりも新しく入ってきた人の方が上手にできる」と自ら辞任し、一メンバーとして営業力を生かして頑張ってくれるようになりました。既存メンバーが新しい人をスムーズに受け入れ、スピーディーな組織変革に対応できたことは、会社を強くするうえで大きな転換点になったと思います。
akippaの東京オフィス

“勝つ”ために徹底した2つの戦略

ーー「akippa」は今や業界最大規模のプラットフォームへと成長しています。どのような戦略をとっていたのか教えてください。
さまざまな戦略を試しましたが、今振り返ってとくに大きかったなと思うのは2つです。
まず1つ目は「ドミナント戦略」。本社が大阪だったこともあり、まずは大阪環状線内のエリアの開拓を集中的に行い、類似サービスと比べて一番多くの駐車場がアプリ上に掲載されている状態をめざしました。ユーザーからすると駐車場を探す際、どれだけ候補となる場所があるのか次第でその使い勝手は全く変わります。他の何倍もの場所が掲載されていれば、我々のサービスを選んでくれると考えたのです。
予想通り駐車場の数が増えるほど、多くのユーザーに利用されるようになって、戦略の確かさを実感してからは、代理店をつくりながら他のエリアでも駐車場の数を増やしていきました。
2つ目の戦略はメディアへの露出量をとにかく増やすことです。類似サービスよりも自社サービスを選んでもらうには、「駐車場といえばakippa」と第一想起を獲得する必要があると思っていて、「駐車場シェア」というキーワードでの露出の9割がakippaになることをめざしていました。ユーザーの価値に訴求したPRを行うようにしたのです。
他にも細かいものも含めて複数の戦略を実行していますが、最近とくに力を入れたのが、ビルの駐車場を活用することでした。商業施設が入っている大きなビルにはたくさんの駐車場があり、時間次第では全く稼働せずそのままになっています。そこに我々は目をつけ、どの時間でも駐車場だけは利用できるというシステムを構築しました。
vichie81 / iStock
すでに一部のビルでは運用が始まっていて、そのためのデバイスの開発も資金を調達し、他社と共同で行いました。昔は資金繰りのためにお金を借りていましたが、今は明らかにフェーズが変わっていて、開発したいシステムに投資するために資金調達を行っています。

情熱を一番保ち続けられる場所はどこか

ーーピンチの瞬間はなかったのでしょうか?
もちろんありましたよ。とくに新型コロナウイルス感染症の流行で、移動そのものが少なくなってしまうと収益は前年比4割減まで落ち込み、赤字が毎月数千万円出るほどでした。
どうやって挽回しようかとデータを見ながら考えた結果、これまで収入の柱になっていた旅行やイベントの駐車場利用から、通勤通学での駐車場利用に絞って、開拓を行う方針に切り替えました。その作戦はうまくいき、へこんだ分の売り上げを挽回できたのに加え、コロナが落ち着いてくると元々あった需要も戻ってきました。
ーー東京でもサービスを展開している一方、本社はずっと大阪に残し続けているのには何か狙いがあるのでしょうか?
やっぱり好きな町や友達や知人が多くいる町で戦う方が、勝てる気がするというのが本音ですね。
個人的には経営はマラソンだと思っていて、高い目標の実現のためには、まず経営者の情熱が続かなければと思っています。その点で、一番高い情熱を保ち続けられる場所が大阪だったのです。
モチベーション面だけでなく、ビジネスの面でも大阪を拠点にするメリットはたくさんあります。東京に比べると家賃が安く抑えられますし、投資してくださる方々がたくさんいて資金が集まりやすい。
akippa大阪本社が入るなんばパークスタワー(南海電鉄提供)
また、関西から世界と戦えるスタートアップ企業を輩出したいと思っている人材にも、たくさん出会うことができます。ただ、東京の場合は情報が流通するスピードが速いので、そこだけは追いつけるよう東京にも本社を設立し、私自身も何度も出張に行き、密に連携するようにしています。
生まれ育った大阪から、世界で戦えるようなスタートアップ企業を生み出していければと本気で思っています。

世界No.1の移動プラットフォームに

ーー改めて最近の提供サービスについて教えてください。
駐車場予約アプリ「akippa」から派生して、困りごとを抱える業界、企業と連携しながらさまざまな取り組みを仕掛けているところです。
ーー今後の展望を教えてください。
akippa株式会社がミッションに掲げている「“なくてはならぬ”をつくる」にのっとって、まずは駐車場について困る人がいなくなるよう、世界中にakippaを展開したいと考えています。
また、EV車の普及に伴って必要になる「充電できる駐車場」も展開していく予定です。EV車の充電は今、場所が限られていて、気軽に充電できないため、電池の残量に気をつけながら走る必要があります。それが駐車場に備え付けてあれば、車を止めるのと同時に充電ができて手間もかからず、常に残りの電池に気を配る必要もなくなり、安心してあちこちに行けるようになります。
さらに、ドライバーの高齢化とそれに伴う交通インフラの断絶を解決する一つの方法として新しいサービスを始めたいとも考えています。具体的には、自動運転のEV車を配置し、それにみんなが乗り合わせて目的地まで行く新しい形の交通インフラがつくれると良いなと思っています。
全ての構想はミッションに根ざしていて、多くの人の困りごとを解決し、必要とされるサービスをつくれれば世界一の企業は決して夢ではないと考えています。
akippaの東京オフィス

「大好きだったサッカー」事業で関わる

ーープロサッカーチームと提携して駐車場の提供という取り組みもされています。やはりサッカーには思いがあるのでしょうか?
思いがあるから始めたというよりは、偶然だったという方が正しいですね。
akippaの提供を始めてからたまたま、プロサッカーチームのスタッフをしていたジュニアユース時代の後輩に会いました。彼によると、試合当日サポーターの方々は、公共交通機関で来てくれる人も多い一方、車で来る人も多く、それゆえ渋滞が起こってしまうという話でした。
そこでまとまった数の駐車場を確保し、それを試合当日に提供しました。すると渋滞がなくなり、クラブチームのスタッフにもサポーターの方々にも喜んでもらえました。
このサービスは非常に社会の役に立ったと感じていて、今では他の複数のプロサッカークラブや野球などの別のスポーツチームとも提携し、駐車場を提供するサービスを行っています。選手としてフィールドに立つことはなくなりましたが、当時の自分では思いもよらなかったような形で大好きだったサッカーと関われるのは、個人的には感慨深いものがありますね。
これからも、移動にまつわるさまざまな課題を解決し、ビジョンである「あなたの“あいたい”をつなぐ」をかなえる価値提供をし続けていきたいです。そして日本を越え、いつの日か大阪ミナミから「世界No.1の移動プラットフォーム」へと成長できればと考えています。
(完)