2022/10/18

【秘話】電気止められ気づく。“なくてはならぬ”サービスとは

駐車場シェアサービスを展開するakippa株式会社は2009年に営業代行会社として誕生しました。5年後の2014年に駐車場予約アプリ「あきっぱ!」をリリースするまで、どのように事業戦略が変遷し、そしてなぜ大きな事業転換に至ったのか。代表取締役社長CEOの金谷元気さんに聞きました。(全4回の第3話)
INDEX
  • 資本金5万円、給料8.4万円で始めた営業代行
  • 自転車操業、サービスの磨き込みできず
  • 誰の、何のために働くのか
  • 社内公募で集めた200の課題から生まれた
  • たどり着いた“シェアリングエコノミーど真ん中”
金谷元気(かなや・げんき) akippa株式会社 代表取締役社長CEO。1984年、大阪府生まれ。高校卒業後はJリーガーをめざし関西リーグなどでプレー。引退後から2年間は上場企業で営業を経験し、2009年2月に24歳で創業。2011年、株式会社へ組織変更し代表取締役に就任

資本金5万円、給料8.4万円で始めた営業代行

ーー起業してどんなサービスを始めたのか教えてください。
営業代行の会社としてサービスを開始し、商材は法人向けの携帯電話回線やウォーターサーバーでした。営業代行を選んだのは、過去の実績から自分の営業力にある程度自信があったからで、商材の選定基準は仕入れに原価がかからず、在庫を抱えなくてもよいことでした。
とにかくお金がなく、ギリギリまで切り詰め、給料が8.4万円で家賃4万円台の家に住むという生活をしました。
でも、自分としてはあまり苦労していると感じなかったです。むしろゼロから新しいものをつくる工程そのものが楽しくてしょうがなかったですね。自社の電話回線を引いたり、会社名の入ったプレートを作ったりと、何をするにもワクワクが止まらなかったです。
高校サッカー部時代、決して強くはなかったチームでどうやって全国大会まで勝ち上がろうかと考えていた、あのときのワクワクに似ていたのかもしれません。チームを自分がリードして強くするのと同じように、生まれて間もないこの会社を大きくしたいと夢中でした。
Sushiman / iStock

自転車操業、サービスの磨き込みできず

ーー事業は順調に拡大していったのでしょうか?
決してそんなことはありませんでした。思うように売り上げが立たず、営業一本では難しいと考え、求人サイトをつくって掲載企業を募る、新しい事業を始めました。それでも業績は伸びず、次第に資金繰りが厳しくなっていきました。
大変な状況ではありましたが、解雇や給料の遅配という選択肢は考えませんでした。私自身が頑張るのは当たり前ですが、その過程で人に対して良くないことをしてはいけないと思っていたのです。自分の暮らしが困窮するより、他の人に嫌な思いをさせることの方が耐えられませんでした。
銀行口座は何十カ月も残高がほぼゼロで、給料日前日になんとかお金を借りて社員に払うことを続けていました。お金を借りるために大阪から東京へ行き、その帰りの新幹線代が払えなくて、親に新大阪駅までお金を持って迎えに来てもらったこともあります。
なんとか給料を渡し続けることはできましたが、お金を借りることにリソースを取られて、サービスを伸ばす方に全然力を入れられませんでした。お金を借りるために走り回り、売り上げが上がらないのでまたお金を借りるために奔走し、という悪循環にはまってしまいました。
whitebalance.oatt / iStock
このままではずっとこの負のスパイラルから抜けられない――。サービスづくりに注力するためにも資金が必要だと思い、融資も検討しました。ただ、債務超過が数千万円あるなかで銀行からお金を借りるのは難しく、途方に暮れた私は本屋さんに寄って、資金調達に関連する本を読みあさりました。
何冊か読むうちにベンチャーキャピタル(VC)は会社の将来性に投資をしてくれる、という内容を見つけました。「僕らは今お金を持ってはいないけど、将来性ならある」と思い、すぐにオフィスへ戻り「ベンチャーキャピタル 日本」で検索。ヒットした会社に片っ端から電話をかけていきました。
当時は2012年でリーマンショックの影響がまだ強く残っている時期でした。なんとか3社だけアポイントメントが取れて、会社の決算書を持って直接会いに行きました。
最初の2社は決算書に目を通すと驚いた様子で、それからはあまり話を聞いてもらえませんでした。いちるの望みをかけて最後のVCとの打ち合わせに臨みました。最大手だったこともあり、やっぱり厳しいのかなと弱気になっていましたが、我々の説明を聞いた担当の人がいきなり「この会社、なんかすごいことやりそうですね」と言ってくれました。
私は思わず「そうなんですよ! わかってくれます?」と大きな声を出しましたね。自分以外にも会社の可能性を信じてくれる人がいて、うれしかったですね。そこからは、本当にお世話になって、事業計画を一緒につくっていただいたうえ、6500万円の出資をいただきました。
Boogich / iStock

誰の、何のために働くのか

ーー資金調達後、事業は順調に拡大していったのでしょうか?
実はそこまで順調というわけではありませんでした。
投資していただいた直後は、会社設立以来初めて、資金に余裕がある状態に。そのぶん私自身のリソースを営業に集中でき、比較的順調に会社が回っていくようになりました。
ただ、資金を減らさないよう売り上げに気を配るあまり、お客さまからクレームをもらう機会が多くなったのです。その対応に疲弊する仲間の姿を見て、何とも言えない気持ちになりました。自社が本当に世の中に対して何かを生み出しているのか、代理店業務がメインのなか、お客さまから怒られてまでものを売る必要があるのか、わからなくなってきました。
サッカーを一生懸命やっていたときは、仲間と目標に向かって練習を重ね、点を取れたときはうれしくて抱きあって喜びました。そのときのピュアさが失われていっているような危機感を覚えました。本当に自分がめざした会社の姿になっているのかと疑問に感じるようになりました。
そんなとき共同創業者から「この会社のミッションってなんですか?」と改めて問われました。これまで私はミッションや経営理念をどこかうさんくさいものだと思っていて「そんなものなくても、頑張るだけだろ」くらいにしか考えていませんでした。
それゆえ、ちゃんと決めていなかったのですが、共同創業者からは「ミッションがなければ会社を辞めます」と言われてしまったのです。
そこまで言われてハッとしました。昔は何に対しても意味を考えて行動していたはずなのに、自分たちが何のために必死で働いているのか、その意味についてちゃんと向き合ってこなかったなと反省したのです。それからは、何のために働くのかを考え続けました。
そんななか、電気代を払い忘れて家に帰ると電気がつかなくなったことがありました。お金がなかったので引き落としにせず、コンビニ払いにしていたのですが、その支払いが期限に間に合わなかったのです。当然テレビも見られないし、PCやスマホの充電もできません。これまで当たり前だった電気のありがたさを身に染みて感じたのと同時に、単純に「電気ってすごいな」と感じました。
そして「これだ!」と思いました。僕らがめざすのは、社会のインフラとしてあらゆる人の生活を支える電気のようなサービスだと思ったのです。
その原体験をベースに作ったミッションが、今もなお掲げ続けている「“なくてはならぬ”をつくる」でした。ほぼ一人で考えて創業メンバー含め社員に発表しました。当時はまだ実体の伴わない言葉でしかないと私も社員もみんな思っていて、早くこのミッションに沿ったサービスをつくり、価値を提供をしなければと気が引き締まりました。
scyther5 / iStock

社内公募で集めた200の課題から生まれた

ーー現在事業の柱となっている駐車場シェアリングサービスはどのようにして生まれたのでしょうか?
ミッション策定後すぐ、社会にとって必要不可欠なサービスをつくるには、世の中に存在する課題から考える必要があると思いました。そこで、全社員を集めて模造紙を広げて「ここにみんなの困りごとを貼ってくれ」とお願いしました。当時はまだアルバイトも含めて30名ぐらいの規模でしたが、全部で200個ほどの課題が挙がってきました。
どの課題も日常の課題から立脚した、ビジネスのタネになり得るものでしたが、その中で目にとまったのが「駐車場は現地に行ってから満車と知るから困る」でした。運転をする人なら一度は経験したことがあるであろうこの悩みに共感をするメンバーも多く、私自身も「確かにな」と思いました。
ではこの課題はどうすれば解決するのだろうか? 議論を重ねるなかで「実は空いてる駐車場って結構多いよね、家の前の月極駐車場もずっと空きっぱなし。もっと有効に使えないのかな」というアイデアが出ました。
駐車場を探している人がいる一方、借り手がいなくて有効活用できていない場所もある。ならば両者をマッチングさせるサービスがあれば、一挙にどちらの課題も解決できるのではないだろうか。そこで初めて「akippa」の原型となる構想が生まれました。
ビジネスコンテストの一つで入賞して獲得したトロフィー

たどり着いた“シェアリングエコノミーど真ん中”

他にも、模造紙に貼られたアイデアの中から2つの事業構想が生まれ、どれが当たるかわからないからと、その全てに着手しました。
サービスをつくりながら、さまざまなビジネスコンテストやカンファレンスに出場し、経営者の方々にアイデアをプレゼンしました。
最初は駐車場マッチングサービスとは全然違う事業に力を入れていましたが、カンファレンスで駐車場ビジネスの話をしたところ、先輩経営者の方々から大絶賛を受けたのです。「シェアリングエコノミーど真ん中じゃないか」と。
会社設立以来、初めて「認められた」と感じました。もちろん売り上げを上げたり、お客さまに価値を提供してきたりしてきた実感はあったのですが、なんだか初めて世の中から評価されたような気がしたのです。
客観的に評価されたことに加え、ビジネスモデルの構築難易度が他の事業と比べて高くないこともあり、駐車場シェアリングサービスにリソースを絞ることにしました。カンファレンスで「立ち上げ期はリソースを一本に絞った方が良い」とアドバイスいただいたことも参考になりました。
そして2014年の4月、無事に駐車場予約アプリ「あきっぱ!」の提供を開始し、サービス提供開始から半年後「akippa」へ名称を変更しました。
Vol.4に続く