シリーズ この先生に会いたい!! 松本 俊彦氏に聞く 依存症に潜む苦痛と向き合う(松本俊彦,古賀公基)
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注目のコメント
依存症の世界は非常に奥が深く、「治す」という枠組みにほとんど意味がない世界です。人は何故薬物や嗜癖行動、自傷行為などに依存するのかというと、それは自分の苦しさを一人で抱えてなんとか解決しようとするからです。意志の問題ではありません。
したがって、例えばアルコールを飲むのをやめさせることだけをしようとしても、実は依存症治療になりません。アルコールを飲まないといけない状況から当事者が回復していくことを支援する、しかも一筋縄で進まず、何度も再使用をしてしまう過程であるにも関わらず、その過程をも互いに理解しながら進まなければなりません。
そして、それをしないと、場合によっては死んでしまうということもあり、慢性疾患でありながらも命の危険も伴う難しい世界です。
その中で医師はどう患者と関わるのか、ということを考えることは、治療行為そのものの枠組みを捉え直さざるを得なくなるのです。ダメ絶対と言っているだけではちっとも状況は変わらない。患者を叱って来なくなってしまえば元も子もない。でも、薬物使用は減らしていかないと、命にも危険が及ぶ可能性もある。そういうギリギリの難しい領域が依存症治療なのだなと理解しています。
これは企業変革を研究している自分にとって、組織の複雑さととても類似するものを感じます。所々自分の文章に依存症治療の話が出てくるのですが、相通じるのは、目の前にある課題をそのまま解こうとしても何も解決にならない、という複雑性です。世の中、データドリブンだということは言われますし、それは良いことですが、しかし、それの示す意味をどう構築していくかという過程が同時に必要で、だから、意味の構築過程である対話に関心を持っています。
なお、この松本俊彦さんの書いた『誰がために医師はいる』は、エッセイストクラブ賞も受賞するなど、読み物としても引き込まれる本でした。お勧めします。