2022/10/5

【NTT東日本】最年少営業トップが挫折から学んだ営業で勝つ秘訣

NTT東日本約2000人の中で、最年少で営業成績1位に輝いた太谷成秀氏。新人時代に学んだ「3つの意識と行動」を胸に努力を続け、今では営業ノウハウを周囲に伝える講習を開いている。
そして太谷氏は、営業のスキルを磨きながら、それ以外のことにも精力的に取り組んでいる。「ワクワク楽しく働く人を増やしたい」という思いから、組織の内外を縦横無尽に行き来し、人材育成や新規事業でも挑戦を続けているのだ。
転職や独立を勧められることもあるが、それでも太谷氏は「大企業だからこそできることがある」と断言する。その理由に迫った。
ずっと周りに流されてきた人生でした。3歳から大学卒業まで続けていたサッカーは、皆に合わせて続けていただけです。競争で勝ちたいという気持ちはありましたが、途中からはやる気を失っていました。
そのまま大学に入学し、2年生の時にアルバイトをしていた飲食店の常連客から、「太谷くんは、将来何をやりたいの?」と聞かれたんです。そこで、何も答えられなくて。
とにかく何かしなきゃいけないという危機感から、在学中に英語を勉強しカナダに短期留学に行ったのですが、それでも自分がやりたいことはわかりませんでした。結局、不安と焦りを抱いたまま大学3年生になり、就職活動が始まったんです。
太谷 成秀(おおたに・なるひで)新卒でNTT東日本に入社し、新潟支店に配属。入社3年目に「営業成績年間ランキングで東日本約2000人中1位」を最年少で獲得。現在は教育機関や自治体へのDXコンサルティングを行うほか、新規事業、若手キャリア育成支援プロジェクトなどを推進。また、NTTグループ有志団体O-Den代表、社外有志団体ONE JAPAN、つながるキャンパスの活動も実施
そんな状態だったので、やりたいことも夢もないまま、ただいろいろな企業を受けていました。ただぼんやりと、「どうせ働くなら社会に大きな影響を与えられるといいな」と考えていて。大企業を中心に受けて、社員がいきいきと働いている姿が印象的だったNTT東日本に入社しました。
最初に配属されたのは新潟支店のコンサルティング営業でした。もともと入社した時から営業職を志望していたんです。
その理由は、もともとサービスを売る仕事に興味があったことだけでなく、経営層の人たちと接点を持つことに魅力を感じていたから。明確な夢がない以上、社会的に成功している経営層の人たちと話をすることで、自分の目指す像が見えてくるという期待を持っていたんです。
しかし、いざ働き始めてみると営業成績が全然伸びなくて。悩んでいた時に相談に乗ってくれたのが、当時社内でもトップクラスの営業成績を誇っていた先輩でした。
快く相談に乗ってくれた先輩は、「まずは自分の真似をしてみろ」と言い、模擬商談をしてくれました。
先輩に営業同行してもらった時、「元気がなさすぎる。そして一方的に話し過ぎ、話し方もダメ。どんな良いサービスを提案しても絶対成果はでないよ」と言われ、心から反省したことを今でも鮮明に覚えています。
それからというもの、模擬商談の録音を仕事の隙間時間や通勤時間などにひたすら聞くことにしました。
その後、話し方や声のトーンなどを真似て商談に臨むようになり、少しずつ営業成績が上がっていったんです。
新潟支店時代の太谷さん
当時、先輩が教えてくれた営業の極意は3つあります。
①必ず目標を達成する意志を持つこと
②熱心で元気な営業パーソンであること
③顧客が今この瞬間に何を考えているか意識すること
私が特に重要だと思っているのは3つ目の極意です。顧客に商談している時だけではなく、メールや電話をしている時、連絡を取っていない瞬間に至るまで、顧客が何を考え、何をしているか想像しました。
それを続けていると、だんだん顧客が考えていることが分かるようになってきたのです。
しかし、営業をしているうちに売り上げがこれ以上伸びないという壁にぶつかりました。そこから、自分なりの工夫を加えて営業活動に励んだのです。先輩のコピーをするだけでなく、自分の強みが活かされるように営業手法を変えたり、他の支店の成功事例を学んだりして積極的に取り入れました。それにより、さらに営業成績が向上していきました。
そして、入社3年目は私にとって特別な年でした。1番つらい年だったとも言えると思います。とにかく客先に通い、常に顧客が何に悩んでいるか想像し、顧客の悩みに合わせた提案を繰り返す。毎日がむしゃらに取り組み、夢の中でも営業や事務処理をするような日々が続きました。その結果、約2000人中1位の営業成績を収めることができたのです。
1位を取れた原点になったのは、先ほどご紹介した「3つの極意」だと思います。先輩は、私にとって師匠です。
この頃、人生を変えるきっかけとなった出会いがもう1つありました。それはNTTグループ33万人をつなぐ「NTTグループ有志団体O-Den(オデン)」を立ち上げた先輩との出会いでした。O-Denはグループ内外の人脈を作る場や、有識者から世の中のトレンドを学ぶ場、ビジネスコンテスト等の挑戦の場を提供しています。
先輩の誘いでO-Denのイベントに参加した私は、強い衝撃を受けました。それは濱松 誠さん(ONE JAPAN共同代表)が壇上で語った、「ワクワク楽しく仕事をしないと人生もったいない」という言葉。
それまで義務感で仕事をしていた私にとって、そうではない働き方があると知り、ワクワク楽しく働きたいと思うようになりました。
O-Denイベントの集合写真
ワクワク楽しく働くために、まず1歩を踏み出してみよう。そして、1歩を踏み出す習慣がつけば、今後の社会人人生でも挑戦し続けられるかもしれない。そう思い、O-Denのメンバーになることを決めました。
今でも、この決断は間違っていなかったと感じています。
O-Denでの社外活動をしていくうちに身についたのは、常にWill・Can・Mustに分けて考え、行動することです。
私の定義では、
・Will:自分がありたい姿、やりたいこと
・Can:スキル・ナレッジ・マインド・人脈の4つの引き出し
・Must:使命・本業
を指します。
この3つの幅を広げると、「やりたいこと」が「できること」になったり、「やらなければいけないこと」が「やりたいこと」になったりと、重なる部分が増えていきます。それが仕事のやりがいや生きがいにつながり、Mustの領域にある本業の質が向上し、そしてワクワク楽しく働けるようになると考えました。
私のWillは「何かを始めようと1歩踏み出したけど、うまくいかず苦しんでいる人を、ワクワク楽しい状態にすること」です。
私にとって「ワクワク楽しい状態」とは、仲間がいて、やりたいことに取り組めていて、成長実感がある状態です。そのために人がつながり、Willの発見とCanの開発ができる場を創出できれば良いなと考えています。
いろいろ社内外を動き回った結果わかってきたのが、Willを見つけ、Canを広げていくために有効なのが「越境」だということでした。毎日本業だけをやり、同じ人たちと同じ仕事をしていては、目の前の景色の延長線上でしか「自分のやりたいこと」「できること」は見えてきません。
ですが、他の部署と一緒に仕事をする、社外の多様な価値観の人と接するなど、部署や会社の境目を越えて活動すると景色が変わります。その結果、思いもよらないところでやりたいことが見つかるものです。
2019年にO-Denの代表に就任した後、あるO-Denイベント申込者約1800人のメンバーに、アンケートを取ったことがあります(回答数405)。そのうち、約90%のメンバーが「越境活動は本業に良い影響を与える」と回答していました。さらに、離職を考えたことがあるメンバーのうち、55%が「越境活動が離職の抑止力になった」と回答したのです。
すなわち、越境活動は越境した先での活動だけでなく、本業にも生きてくることがデータでわかったわけです。この結果を見て、WillとCanの幅を広げることが、Mustにも生きてくるのだと確信につながりました。
本業である営業と、O-Denの活動。2足の草鞋(わらじ)を履くようになってから本業の幅も広がっていきました。今では教育機関や自治体向けにコンサルティングをしながら、産学連携による新規事業の創出、そして社員のキャリア育成に関わる部署横断プロジェクトにも参加しています。
最近力を入れているのが部署横断プロジェクトです。自分がこれまで培ってきた営業のノウハウを社員に伝えたり、全国の若手社員のメンタリングを通してキャリアを支援したりしています。これは自分のWillである「ワクワク楽しく働く」に通じるものです。
ありがたいことに、いろいろな活動をしていても職場の人から「もっと本業に専念しろ」と言われたことはありません。なぜなら、全ての経験を本業に返しているから。
外部で得た知見を本業の仲間に伝え、有志活動などでの経験を日々の業務に生かし、日頃から自分を応援してくれる人たちへの感謝を欠かさないようにしています。応援してくれる仲間が多い方が、「ワクワク楽しく働く」という自分のWillを継続的に実現できると思っています。
よく「なぜ起業しないのか」「なぜ転職しないのか」と聞かれます。今の私には会社に残る理由があります。大企業は共に挑戦できる人が多いし、お金もある。大企業でしか実現できないこともあります。今取り組んでいる新規事業も1000万円以上の予算を充ててもらい、成功するかわからないことに挑戦しています。こんなに可能性があり、恵まれた環境はなかなかありません。
また、複業制度で無料のオンラインキャンパスの支援をしたり、ONE JAPANという会社を超えた若手中堅社員の団体で活動したりもしています。大企業の中にいても、越境の機会を作ろうと思えば意外と作れるものなんです。
やりたいことをやらせてもらっている手応えをしっかりと感じています。今が1番楽しく、常に人生のピークを更新している実感があります。これからも、顧客に近いコンサルティング営業という立場で現場に立ち続けながら、他の人の「ワクワク楽しい」を応援する仕事がしたい。そして自分自身もワクワク楽しく働ければと思っています。
<連載:大・企業人>
大企業は日本企業の中でわずか1%ほどですが、その企業によって国内の売上高の半分以上を占めています(資本金1億円以上の企業を大企業と定義しています)。
日経平均株価が回復基調にある中、日本経済を大きく後押しする力を秘めている大企業のチャレンジャーに焦点を当て、インタビューを連載します。
これは、学びとつながりを生むNewsPicksの法人向けソリューション「NewsPicks Enterprise」編集部による連載です。
本連載は、学びとつながりを生むNewsPicksの法人向けソリューションNewsPicks Enterprise編集部による連載です。AlphaDrive/NewsPicks VISION BOOK『Ambitions』にも掲載しています。
AlphaDrive/NewsPicksは、2022年5月にすべての企業人・組織人に捧げる新レーベル『Ambitions』を創刊しました。個人が輝ける時代に、組織で働く醍醐味とは何なのか。企業変革や組織づくり、ビジネスパーソンに新たな選択肢をもたらす1冊を目指しています。