2022/9/30

「中小企業×女性リーダー」は最大の強みである

エディター/ライター
“『働く人』のミカタ”をテーマに社内の働き方改革を推進してきたオカモトヤ。2022年からはさらに視野を広げて、女性の働き方に悩む企業をサポートする新規事業をスタートします。

新しいことを始めることができるのは、既存事業の安定が見えたからこそ。「中小企業×女性リーダー」というオカモトヤの強みを最大限に生かします。
INDEX
  • 新たに取り組む“フェムアクション”とは
  • 実はニーズあり、女性向け防災キットに着目
  • 働き方改革も新規事業も「自分ごと化」から生まれる
鈴木美樹子・オカモトヤ代表取締役社長

新たに取り組む“フェムアクション”とは

世界経済フォーラム(WEF)が2022年7月13日公表した「ジェンダーギャップ(男女格差)リポート」で、日本は146カ国中116位。働き方改革や女性活躍推進など政府が掲げるものの、なかなか性別による溝が埋まらないのが日本社会の現状です。
老舗企業の跡取り娘で、女性ならではのライフスタイルの変化を経験し、働き方改革の舵取りをしてきた鈴木さんならではの視点で、オカモトヤは新規事業を立ち上げました。
鈴木:日本のジェンダーギャップ指数は依然として低いままです。けれども、日本の労働人口はこのままいけば必ず減ります。女性が働くことができなければ日本の経済は沈没してしまうでしょう。
私は婚活して、結婚して、不妊治療も経験しました。今振り返れば、自分で情報を得て行動できる、余力があったからひと通りできたんだと思います。ですが、多くの働く女性はどうでしょうか。女性は冷静に先を見据えがちなので、不安を解決しないと先には進めません。
働く上での不安をなるべく取り除いて、ライフスタイルの変化によって起きることを勉強する環境を企業は整える必要があると感じています。
近年、フェムテックがよく取り上げられるようになりましたが、女性のヘルスケア市場が広がりを見せています。働く女性をサポートしていくことは、当社の領域からずれるものではありませんし、必ずニーズがあるはずです。
そこで、オカモトヤは“フェムアクション”というキーワードを作り、商標を取得しました。そのもとで女性活躍推進、女性のQOL向上につながる具体的なアクションの提案を始め、みんなで使いながら選択肢を増やし、ハードルを下げることを目指しています。

実はニーズあり、女性向け防災キットに着目

“フェムアクション”の一環として、オカモトヤは「フェルネ」という新規事業を立ち上げました。この事業部では、既存の仕事と兼務しながら新規事業に取り組みたいという社員を公募。鈴木さんを含め、女性6人男性1人の合計7人のメンバーが集まります。月経や更年期にまつわる関連製品やサービスの仕入販売や、製品・サービス・空間の企画、何から取り組むべきか悩む企業のハードルを下げるための導入サポートなどを開始しました。
生理用品などをセットにした女性向け防災キットのプロデュースも、「フェルネ」で手がけた企画の1つです。
鈴木:オカモトヤでは、年間1億円ほどの防災アイテムを販売しています。備蓄食料の交換や買い増しなど東日本大震災以降、力を入れている企業は多いです。一方で女性向け防災キットへのニーズに着目している企業は少ないのではないでしょうか。
かつて、女性向けの防災キットの要望を受けて担当の男性社員が女性社員に相談しながら内容を決めて受注に至った事例があり、それが記憶に残っていました。そこで、震災などの事態の下で生理になっても安心できるように、3日分の生理用品や衛生アイテムをセットにした「災害用レディースキット」を発売することにしました。
新たに発売する「災害用レディースキット」。生理用ナプキンやリフレッシュシート、使い捨てビデなどをセットにして、3日間はオフィスで待機になっても困らないようにアイテムをセレクトしている =提供写真
また、PMSに悩む女性が生理中でも健やかに働くことができるオフィス空間づくりを目指して、セルフメンテナンススペースも企画しています。
鈴木:セルフメンテナンススペースは、従来のトイレよりも個室一つ一つのスペースを広く取り、さまざまな需要を満たす性別問わず使用できる多目的トイレです。多様性が求められる現代社会において、搾乳や尿パッドの付け替え、月経カップの出し入れ、インシュリンの注射など、狭いトイレ空間ではしにくい事をできる空間を目指しています。トイレもオフィス空間の一部であり、どんな体調・事情であっても快適に過ごしてほしいという思いを込めています。
セルフメンテナンススペースのイメージ =提供写真
他にも導入サポートでは、人事や総務向けにクローズドの専用Webプラットフォームで情報をシェアしていきます。ここでは働き方改革を推進し、「くるみんマーク」を取得し女性の働きやすさに力を入れるオカモトヤの取り組みを発信するほか、フェムテック関連商品の販売も行っています。

働き方改革も新規事業も「自分ごと化」から生まれる

新たな人材採用が進まず、離職が進めば、社員の高齢化や人材の固定化によって、新陳代謝が上がらずに事業がマンネリ化する。働き方改革に着手した10年ほど前、そんな危機感を抱いていたと、鈴木さんは振り返ります。
鈴木:新規事業の立ち上げは、オカモトヤにとってかなり久しぶりです。女性でありながらビジネスパーソンとして家業を継ぎ、出産や子育てを経験しながら、働き方改革を進めてきたことがヒントになりました。
フェルネは、働く人が求めるサービスや商品を提供するというオカモトヤの事業内容から逸脱していないという点もポイントです。社長が替わったからといって、今までとガラッと変えるというわけではありません。
コロナ禍で世の中との接点が減る中で、既存のビジネスに対して、深く取り組めるように軌道修正しながらバランスが取れてきたからこそ、今事業領域を広げて新しいビジネスに着手することができます。
かつての自分だったら持てなかった視点だと思います。育児休暇で仕事から離れて、人に任せることができたのは、会社にとっても、自分にとってもよかったことです。
オカモトヤの働き方改革と新規事業フェルネの立ち上げは、鈴木さんの「自分ごと化」からスタートしました。「女性が働く中で直面するまで分からない・知らないことがありすぎると思います。経験値や知識があれば解決できるわけで、知らないまま働き続けることは罪のように感じています」と鈴木さんは話します。
労働人口が減る中で、これからますます鈴木さんのような跡取り娘による事業承継も増えていくでしょう。老舗企業が事業を継承しながら、ビジネスを拡大させる1つのモデルケースとしてオカモトヤの価値は高まっていくのではないでしょうか。
鈴木美樹子(すずき・みきこ) 1976年生まれ。成蹊大学卒業後、ファッションブランド・繊維メーカーのエドウィンに入社。営業や営業企画、スタッフ教育・店舗運営などを担当する。2006年、オカモトヤに入社。コクヨマーケティングにてオフィス構築の研修を経験し、営業本部長、取締役、常務、専務を経て、22年8月社長に就任。2度の育児休暇を取得し、2人の娘を育てながら仕事にも全力で取り組む。
(完)